第58話
『虚飾掌握』
使用者が望むものを自動で回収する事が出来る。
そのスキルを使用している間は、使用者はまったくの無防備となる。
上空から、飴村柔に向けて流される、液体。
「ぐ、これは…」
身体に染み込む液体。
鼻から肺に掛けてむせ返る様な臭いがツンと来る。
誰もが一度は嗅いだ事のある危険物。
液体が無くなった事で、からんと、赤いタンクが転がった。
「(不味い、これは)」
車の燃料でもあるガソリン。
更に、虚飾掌握が近くから百均ライターを持ってくる。
そして、そのライターを、飴村柔に近づけて、発火した。
瞬間、爆破にも近い業火が辺りを包み込んだ。
車道では車が急停止して、玉突き事故が発生している。
天吏尊は、燃え盛る火を見ながら衣服に付着した飴を熱で溶かして自由を得る。
「…これで、良し、と」
完全に解けた後、天吏尊は炎を背にしてその場から後にした。
向かう先は収容施設。
統道旭と加咬弦の元へ急ぐ。
………。
加咬弦はバスに乗っていた。
その隣には、彼の胸で眠る、統道旭の姿があった。
涙を流して、泣き疲れて、目的地に着くまで、統道旭がずっと傍に居る。
何処に行くのか。
聞けば、統道家が所有している別荘地に行くのだと言う。
その別荘地には、中々人が入れない様な仕掛けをしているらしい。
匿ってもらえば、かなりの時間、人の目、協会の目から逃れる事が出来るだろうと言う話だった。
バスが停車する。
車内に乗る人間が出ていく。
代わりに、別の人間がバスの中に入って来た。
「グスグス……」
涙を流して、泣きっ面を晒すツインテールの少女。
加咬弦を見て、あ、と声を漏らした。
「…双蛇じゃないか」
加咬弦は、その少女の名前を口にする。
「うわーん!加咬だぁ!!うわーん!!」
泣き叫びながら加咬弦に抱き着く。
「どうしたんだお前、そんな泣いて…あと苦しい」
「聞いてくれよぉ!天吏ちゃんの奴ぅ!あたしちゃんに酷い真似をしやがったんだぜぇ!?いたいけな少女と遊ぶのに、ウソつかれちまったんだよぉ!!」
双蛇羅刹は天吏尊とのゲームをすっぽかされたと泣いていた。
「酷くねぇか?ひどくねえか?悪魔ちゃんはゲーム大好きなのに、そのゲームすら普通にやってくれずに厄介払いされたんだよぉ!うわーん、天吏の馬鹿ぁ!」
「わか、分かった…から…」
「…なんだ、うるさい…おい、貴様、離せ、弦が息出来て無いだろう!?」
加咬弦の首を強く抱き締めていたので、加咬弦は息が出来ずに死にかけていた。
双蛇羅刹はそんな事知らず、延々と加咬弦の首を絞めていた。
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