第56話
車がひっくり返る。
公道のアスファルトにザリザリと音を立て火花を散らしながら車の屋根が削れて行く。
車の中で上下反転してしまった飴村は首回りを飴状にして衝撃を受け流していた。
「痛てて…クソ、何をしたんだ」
ベルトを外す。
運転手は首が曲がって骨が折れていた。
ひゅぅひゅぅとか細い息を漏らしながら、首筋から垂れる血がポタポタを落ちている。
内心悪態を吐きながら硝子で後ろを見る。
既に、天吏尊の姿は確認出来なかった。
「お兄ちゃん…私以外の女と、そんなの、ありえない」
後部座席の扉は破壊されていて、其処から天吏尊は外へと繰り出していた。
公道なので、車が移動している。少女の姿を確認してブレーキを踏む運転手。
けれど、間に合わず彼女と衝突しそうになった最中、黒い粒子が舞って天吏尊の目の前で無理矢理止まる。
既にスキルを使役している。
彼女のスキルは加咬弦のみ有効だ。
だからこそ、それを一般社会に許可なく使用する事は禁止とされている。
「おい待て、このまま逃がすと思うか?」
頭を振りながら立ち上がると、懐に忍ばせた拳銃を取り出す。
「私が一番最初に、お兄ちゃんを救うの…それで、それでこそ、お兄ちゃんの心は永遠に私のモノにするのに…」
天吏尊は飴村柔の言葉などまるで無視しながら歩いていく。
その方角は、恐らく施設だ。加咬弦が収容されている施設に向かって歩き出していた。
「話を聞いてないな…確か精神鑑定だと灰だったか?」
銃口を向けて天吏尊を標準に定める。
ゆっくりと彼女に向けて引き金を引こうとして。
…手を留めた。
引き金を引かなかった、ワケではない。
携帯電話で連絡を入れて協会に繋げる。
そして、発砲許可を認可してもらうように口頭で申請。
「了解しました…では、射殺します」
電話を切ると同時に迷わず発砲した。
弾丸が天吏尊の元へと疾走する。
回転する弾丸は、彼女に触れる寸前で軌道を変えてしまった。
「あぁ、もどかしい、迷宮遺物も持ち合わせてないし…移動出来る手段、車、でも、免許証なんて持ってないのに…」
無意識に防御をしている。
弾丸を『虚飾掌握』で回収していたのだ。
まずは彼女のスキルである虚飾掌握をどうにかしなければならない。
「銃弾が効かないのは少し残念だ…俺のスキルを使用するしかないか」
拳銃を構えたまま、更に飴村はサバイバルナイフを取り出した。
拳銃とナイフを二つ構えた状態で、天吏尊の元へと駆け寄る。
「行くぞ…天吏ッ」
そして、天吏尊の行動を止めるべく、戦闘を開始した。
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