第55話
迷宮遺物保管庫施設。
天吏尊はパトカーに乗って移動、別の施設にて保護される事になった。
その道中である。助手席から鏡で後部座席に座る彼女を見ている飴村。
大人しく乗っている彼女を確認して、運転席の方を見た。
「安全運転で頼むぞ」
運転手の肩を叩いて軽く揉んだ。
其処で飴村柔は背凭れに体重を預けてリラックスする。
飴村柔は、所持している写真を確認して、その写真の変化が無い事に溜息を吐く。
「(変化が無いって事は、殺害に失敗したって事だ)」
処分を任せた人間からの連絡が来てないから、今、現状どうなっているのかが分からない。
「(いや、『死者の王』のスキルは死体を操る。死後、自分自身を操っている可能性もあるな)」
冷静に判断しようとする飴村、そこでようやく、現状報告として携帯電話からの連絡が来る。
携帯電話を通話状態にして、連絡内容を確認する事にした。
「…ん?あぁ。そうか。え?統道…って、理事長の?」
加咬弦の処分を手助けした統道旭の話を聞く。
統道旭の言葉が出た事で、反応する天吏尊。
「……(統道、あの、人が、何をしたの?)」
連絡を終えて、携帯電話を切る。
深く溜息を吐いて、飴村柔は片手で顔面を上下にしごいた。
「(あー…また、考え直さないと、加咬弦を連れて、何処に逃げたんだ、アイツ…)」
飴村柔は仕事が増えた事に苛立ちを覚えていた。
「…統道さんが、どうかしたんですか?」
飴村柔に話を伺う天吏尊。
彼は、天吏尊を鏡越しから確認する。
「いや、なんでもない」
「なんでもないワケ、ないじゃないですか…お兄ちゃんが、何があったんですか?」
飴村柔はどうするべきか考える。
煙草でも吸っておきたい気分だったが、今は未成年がいる手前、それを吸う事も出来ない。
代わりに、ポケットからスティックキャンディーを取り出して、それを口に咥える。
橙色に照り輝く飴玉が、濃厚なオレンジの甘味を発生させて、脳に蕩ける様な感覚を与えた。
「統道…あの女…お兄ちゃんに、何をしたの?…本当だったら、私が、尊が、お兄ちゃんを助けるつもりだったのに…お兄ちゃんに好かれようと必死になって…私が、尊がッ…お兄ちゃんの所へ駆け寄る筈だったのに、本当は、本当はッ…」
ぶつぶつを闇を放出しつつある天吏尊。
飴村柔は彼女に警戒して、懐に忍ばせた拳銃に手を伸ばす。
「大丈夫か?」
飴村柔はそう聞いた。
顔を上げる天吏尊。
その表情は笑っていた。
天使の様な微笑みで、彼女は頷くと。
「大丈夫な筈無いじゃないですか」
その言葉と共に、パトカーが反転した。
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