第31話

『大人になったら何になりたい?』


小学生の頃、俺は迷わずこう言った。


『迷宮探索師になりたいです』


迷いは無かった。

生まれた時、ふとした瞬間。

迷宮探索師を見て、俺もそれになりたいと思った。


『高校への進学先は何処が良い?』


中学の教師が進路相談をした時、俺は迷わず答えれた。


『迷宮専門学校を希望します』


高校に入り、迷宮探索科の希望抽選が行われると聞いて。


『絶対に、迷宮探索師になってやる』


俺は諦めなかった。

諦めずに、努力をしてきた。



そして、俺は抽選枠として転入試験に選ばれた。

試験会場である体育館へと向かい、唐突に迷宮化が起きても。


『乗り越える事が出来れば、迷宮探索師になれる』


そう思った。

…憧れを止める事は出来ない。

俺の人生の全ては、迷宮探索師になる為に費やして来た。


迷宮へと入り、迷宮迷子としてスキルを発現した時も。

最初、俺はそのスキルを捨てスキルだと思った。

その能力名から、限定的な処置を行うスキルだと。


俺の思考回路は、全ては迷宮探索師になる為に備えられてきた。

だから、此処で有望なスキルに目覚めていなければ、俺の評価と価値は下がり、迷宮探索師になる確率が低下していくと思った。


どうにかして、俺のスキルが活用出来ないか、と。

ある日、迷宮を移動している際、ちょっとしたハプニングが起きた。

罠に引っかかった仲間の一人が、統道旭を危険な目に遭わせてしまった。

その罠は、隠した罠に触れると、上空からギロチンの刃が落ちると言うもの。

咄嗟に、俺は統道旭を突き飛ばした、そのおかげで彼女は助かったが、俺の手首は見事に切断されてしまった。

痛みに悶絶する最中、俺は自らの手にスキルが使えないかどうか試してみた。

すると、俺の手首は引っ付いて、傷も綺麗さっぱりとなくなっていく。

その時俺は、このスキルが『治癒大系』のスキルなのだと確信してしまった。


それが間違いだった。

俺は『治癒能力者』として重宝された。

ある日。

金鹿冥慈が大怪我を負ってしまった。

その迷宮には、迷宮内部を徘徊する中ボスがいたのだ。

攻撃を受けて瀕死になっている彼女に、俺はスキルを使用してしまった。

何とか、彼女を治したい一心で、だ。

深手の傷は一瞬で治った、けれど、彼女の容態は安定しない。

血は止まり、傷は塞がり、怪我は消えた。

なのに、彼女の体は治らない。

そして彼女の心臓は止まり、脳死が確認された。

だけど、彼女はまるで生きているかの様に動き、活動している。


俺の能力は、『治癒大系』では無かったとその時理解した。

既に死んでいるのに動いている、これは、『支配大系』の力であると。

そして…俺のスキルは、人を治すスキルじゃなかった。


スキル名『死体造型師』。

その能力は、『死体を修理する』スキル。

死者でも生者でも使えるスキルだと思っていた。

けれど違う。このスキルはスキルとして使用すればそれは必然的に『死者』となる、逆説的スキルとしても使えたんだ。

生死の比率、怪我が致死に近ければ近い程、修理をすれば、死者になる。


金鹿冥慈がもしも俺のスキルじゃなくて、他の人間のスキルを使えば、助かる可能性があった。

いや、医術と技術を使えば、延命して、生きたまま脱出出来た可能性だってあった。

俺が、彼女の傷を治してしまったから。

彼女の傷を修理してしまったから…。

だから、彼女は死んでしまったのだ。



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