第29話
「お兄ちゃんが…」
病室を飛び出して廊下を駆ける。
その道中に、天吏尊は協会役員と出会う。
「っ
迷宮探索協会の役員、十々記。
メガネを掛けたジーパンにワイシャツ、その上に白衣を着込んだ女性だ。
長い茶髪を纏めて、気怠そうな表情を浮かべながらタブレットを操作する。
「どうやら、失敗した様子ですね」
冷めた視線で天吏尊を見詰める十々記。
「退いて下さい、お兄ちゃんが」
「いいえ、もう無理です。彼はあちら側と報告します」
「まだ何もしてないッ!だから止めるんですッ」
「天吏さん、貴方の監視役もこれで終了」
「どうでもいいから、御託並べてないでッ其処を退いてッ!!」
背中から黒い粒子が舞う。
それはスキル『虚飾掌握』である。
「…天吏さん、貴方は迷宮迷子の
タブレットに手を突っ込む。
画面は水面の様に波紋を浮かべて、十々記は其処から、自動拳銃を取り出した。
「私は『加咬弦』じゃありませんよ?それを私に使えば、裁判なしの処罰…銃殺が確定していますが?」
「…じゃあ、勉強不足じゃない?」
地面を蹴る。
天吏尊は十々記に向けて疾走する。
無論、スキル『虚飾掌握』を発現させた状態でだ。
「敵対の意志を確認しました。射殺します」
一呼吸入れる事すら叶わず、簡単にトリガーを引き抜いて天吏尊に向けて発砲。
弾丸が彼女に向けられる、だが、彼女の額を撃ち抜く筈だった弾丸は消え去った。
二度、三度、発砲を行う、それでも、弾丸が彼女に当たる事なく…天吏尊は、十々記を通り過ぎて階段を目指す。
「私は違反をしてないからッ」
それだけを告げて階段を下りる。
彼女に取り巻く黒き五指が掌を広げる。
役目を終えた弾丸が、パラパラと零れ落ちた。
「止まりなさい」
十々記は天吏に向けて銃口を向けるが、当たらないと判断しては即座に態勢を解いた。
「『虚飾掌握』の使用条件は『加咬弦』に対してのみ、それと一般項目条、スキルランクCの場合は『自身に対する危害』のみスキル使用を許可される…と書いてありますが…それが罷り通るとでも思っているのでしょうか?」
自動拳銃を手から離す。
そして、タブレットに表示される画像を、消去した。
『立体現像』、画像を表示する媒介物を『門』として、現実世界とデータ上に存在する物質を取り出す事が出来るスキル。
それが十々記エリオのスキルである。
「十々記エリオです…脱走者三名の処罰許可をお願いします」
ポケットに入れた携帯電話から協会へと連絡をする十々記エリオ。
その間、天吏尊は外へ繰り出していた。
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