第27話

『協会より通達します。現在、三層より黒色シンが逃走中、病院内部に存在する患者及び病院関係者は廊下へ出ず、室内にて待機をお願いします』


…急に、そんな病院内アナウンスが流れて、起床する。

天吏尊も目を開いて、自らの手の内を見た。

手の中には、手錠用の鍵が握られている。


「あ…」


俺は天吏の手に鍵があるのを確認する。


「尊、鍵」


「ん、…うん」


俺の手首に付けられた手錠に鍵を突っ込んだ。

かちゃり、と音を立てて手錠が外れた為、俺は忌々しい手錠を投げ捨てる。


「これで自由になれたな…まあ、外に出るなって話だけど」


協会からの通達と聞く以上、何か危ない凶悪犯が病院の施設内に居るのだろう。

ならば、廊下に出る事は止めた方が良いだろうし、彼女たちを外に出すのも駄目な行いだ。


「鍵…」


俺は自由になった手で天吏尊の手から鍵を取ると、双蛇の手首に付けられた手錠を外す。

これで完全に俺は自由になった。


「はぁ…これで自由だ」


そう呟いて、俺はベッドから立ち上がる。

が、その寸で、俺の手に指を絡める細い指があった。


「あ?」


白くて柔らくて、冷たい手。

天吏が、無意識だろうか、俺の手を強く握っていた。


「…なんだよ?」


「…え?あ。…いや、あの…こ、怖いな、って思って」


あは、と笑みを浮かべる天吏。

そうだな、確かに、病院内に凶悪犯が居ると聞けば恐ろしいだろう。

命を奪われる可能性もあるからな。


「まあ、今の俺たちなら大丈夫だろうけど」


迷宮迷子となった俺たちはスキルを所持している。

そのスキルを使役すれば、大抵の凶悪犯は退治する事が出来るだろう。


きーん、と唐突に音が鳴って、其処から女性の様な声が響く。


『現在、黒色が人質を捕まえて施設から脱走しました。繰り返します、現在、黒色が人質を捕まえて施設から脱走しました』


わぁわぁ、と外から声が響いていた。

どうやら、丁度俺たちの窓から見える位置に凶悪犯が居たらしい。


「凶悪犯、外に出て行ったらしいな」


外を眺める。

生憎の雨で、脱走した凶悪犯にとっては好都合な雨だった。


『黒色が人質に取ったのは―――』


天吏が外を見る。

俺は下の方を見た。

丁度、敷地があり、壁側に近づく凶悪犯の姿があり。


「…は?」


包帯を巻く凶悪犯の近くに、金鹿が居た。

そして、その凶悪犯の腕の中に、見覚えのある銀色の少女が捕られている。


「金鹿…?」


「あれは…統道さん」


凶悪犯に捕まってしまったのだろう。

俺と天吏は、二人の姿を確認した。

身震いがする、そして同時に、一刻も早く、助けなければ、と言う焦りが生まれ出した。

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