第23話
「最悪、俺の手を切り落とすか」
もう一つのスキルを使用すれば腕の修理は簡単に終わる。
しかしそれをしなかったのは俺のスキルにはデメリットがあるのと、協会にまだスキル登録をしていない為に、使用してしまえば、重罪になる可能性が高い。
俺が怖いと思っているのは、どちらかと言えば前者だ。
だから、あの時の俺はこのスキルを使用する事を拒んでしまったのだから。
「駄目、お兄ちゃん。それは使わせないから」
俺の手首を強く握り締めて、天吏が真剣な表情を浮かべて言う。
「?…お前」
俺は不思議に思った。
コイツに、俺のスキルの全貌を教えただろうか。
迷宮に居た時は、スキルを使用する寸前で止めてしまった。
だから、コイツが知っているとすれば、俺が肉体を修理出来る能力と言う情報だけだろう。
「取り合えず…処理をする所から始めないと」
天吏が立ち上がると、棚の中を弄る。
棚の中にはポケットティッシュが入っていた。
「はいお兄ちゃん、取り合えずこれで耳栓と鼻に詰めて」
「え、なんでだよ」
「お兄ちゃん、トイレに行くって事は、個室に三人一緒になってトイレで用を足すか、それかトイレの扉を半開きにしたまま、扉で遮って個室に一人入るかのどっちしか手段がないの。どちらにしても、耳と鼻と目は塞がないと」
「だから、なんでだよ」
別に、トイレをしたいのならばすれば良い。
目を隠すのは分かるけど、耳と鼻に詰め物をすると言う用途が分からない。
「だから…普通に考えて、女の子がしてる音なんて聞かれたく無いし、臭いも嗅がれたくないの、分かる?…もう、自分で言って恥ずかしくなるんだけど」
…あぁ、そういうことか。
これは、こればかりは、さすがに俺の理解力が追い付いていなかったな。
「そうだな…、迷宮に居た時の基準とは全然違うもんな」
何せ迷宮の中はこの病室とは違って安全な場所が少なかった。
トイレに行くにしても、一人にしてしまえば襲われる可能性もあるし、ならば二人で行って一人が様子を伺う二人一組で行動してたからな。
「いや、悪かった。で、これとこれを耳と鼻に詰めれば良いんだな?」
「ついでにこれ」
渡されて来たのはタオルだった。
これで目隠しをしろということらしい。
「…倫理観くらい持ち合わせてる、目を瞑れば良いだけの話だろ?」
「着けるのと着けないとじゃ安心感が違うの、いいからお兄ちゃんは大人しくこれを着けてっ」
半ば無理やりタオルで目を覆われる。
これで完全に真っ暗になってしまう。
こりゃ厄日なことだ。
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