第20話

「お前、何処からこんなモン」


手錠の鎖を握り締めて、俺は強く引っ張る。

玩具の手錠ならば、鎖はプラスチックだ、簡単に砕く事が出来る。

だが、手錠の硬質さは通常のソレとは違う。

迷宮迷子専用の手錠だ。普通の力では破壊する事は出来ない。


「まだあるんだぁ…お兄ちゃん、これで尊とずっと一緒だね?」


ふふ、と妖しい笑みを浮かべる天吏の人差し指には、三つ程の手錠がぶらぶらと揺れている。


「お前、スキルを使ったのか、これがバレたら」


「更生施設行きなんでしょ?分かってるよそんな事、私は許されてるの、だって全部、お兄ちゃんの為なんだもん」


横暴過ぎる。

もしもこれが、他の人間に知られてしまったら、一発で重罪判定なんだぞ。

俺は周囲を見渡す、売店の店員に見つかって無いか確認する。


「それに、他の人にバレる様なヘマはしないもん」


「へぇ、これが最先端の流行ファッションって奴ぅ?時代はもう囚人スタイルが流行ってんのかぁ」


かちゃん。

と、もう片方の、俺の手に手錠が掛けられた。

天吏が持っていた手錠を知らず内に抜き取って、そして、もう片方の俺の手に手錠をしたのは、双蛇羅刹だった。


「お、おい、オマエェ!何してんだ、これッ!!」


両手を上げる。

天吏尊の手が挙がって、同時に、双蛇羅刹の腕も上がる。


「はあ?知らねぇのか?遅れてんなぁ、これは流行りって言うんだぜ?」


「流行りじゃねぇよ!!これ、おい!!」


俺が手を動かせば片方の手首に繋がる天吏や双蛇の腕が動く。


「え、あ?えぇ?」


あの天吏ですら理解が追い付かずに困惑の表情を浮かべている。

そりゃそうだろ、今まで優勢だと思っていた事が、一瞬で崩されてしまったんだから。


「おい天吏、手錠の鍵、寄越せ」


「え、あの」


「おいおい、仲良しの証をそう簡単に外すんじゃねぇよ。ほら、手錠って丈夫だぜ?」


「駄洒落を言うなよ、キレるぞ」


「え?…あぁ、手錠っ『て丈』夫だぜってか?いや、全然知らなかったぜ、知らぬままに行っちまった、えへへ」


恥ずかしそうに後頭部を撫ぜる双蛇羅刹。

クソ、変な時に天然かよ。

もう喋るのも時間の無駄と判断したので「あたしちゃんと喋るのは無駄だって言ってんのかテメェ」…無駄なので、俺は天吏の方に顔を向ける。


「早く天吏、手錠の鍵」


手錠の鍵を要求する。

脂汗を掻く天吏の視線は珍しく渦を巻いている。


「えっと…ちょっと、取りに行くの、時間が掛かるかなぁ?」


「…三十分か?一時間?」


「…一日、かも」


「お前…手錠するんなら、鍵もちゃんと用意しておけよ」


用意するのが下手か。


「まあまあ、あたしちゃんはこのままでもいいと思うぜ、ほら、サンドイッチ将軍ごっこやろうぜ」


そう言ってテーブル席へと引っ張る。

だからやらねぇって言ってるだろ。

しかもサンドイッチ将軍じゃなくて、伯爵だろ。


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