第17話
結局、双蛇羅刹に連れられて来たのは運動場だった。
「なんでだよ」
運動場でストレッチをする双蛇に対して、俺は不満にも似た声で呟く。
「あ?きまってんだろ、男と女が二人きりでやると言えば…運動だろ?」
「お前の知識は人として偏ってるぞ」
「悪魔ちゃんだから偏って当たり前だろ、バカだなぁお前」
ケラケラと笑う双蛇に、俺は溜め息を吐いた。
まあ、売店で食事を買って、飯を食った後は、どうせ読書とか、インドアな生活をしようとしていた所だ。
それに、体を動かせば、早く退院許可が出るかも知れないしな。
「で、運動って何をするんだ?」
「決まってんだろ?ラグビーだよ」
二人でする様なスポーツじゃないだろそれは。
「ボールは?」
「あたしちゃんの靴をボールに見立てる」
片方の運動シューズを脱いでそれを腕に抱く双蛇羅刹。
「…お前のシューズを奪い合うなんて嫌なんだけど」
「ケチつけんなよな、それじゃ行くぞっ!!」
唐突に、運動シューズを抱いた双蛇羅刹が俺に向かって突っ込んでくる。
思わず身構えるが、彼女の片方の足は靴下だった。
ずるりと床に滑って地面に倒れ、手から離れた運動シューズが彼女の後頭部に乗っかった。
狙って出来る芸当ではない。思わず脱帽する。
「…いてぇ、いてぇよぉ、擦りむいちまった…へへ、この勝負、お前の勝ちだな」
「勝負すらしてないぞ」
膝を抱えながら全てを出し切った様な表情をする双蛇に思わずツッコミをいれてしまう。
「しょうがねぇな…次の勝負はこれだな」
そう言ってポケットに手を突っ込む。
そして取り出されたのは…なんだこれ、卵の殻か?
「ピンポン玉だ、次は二人じゃないと寂しくなる卓球勝負だ」
「台とラケットは?」
くしゃり、と。
既に潰れているピンポン玉を強く握る双蛇羅刹。
「へへ、完敗だなこりゃ…、よくぞあたしちゃんを倒したな勇者カガミよ」
「自滅しただけだろ」
なんだろうか、運動すると聞いておいて、何もしていない。
なんだか不完全燃焼、いや、種に火すらついてないから、消化不良でしかない。
「あたしちゃんを倒したお前には何か商品をあげないとな…、と言うわけで」
大きな胸を張って羅刹が宣誓する様に叫ぶ。
「商品はあたしちゃんだっ!似るなり焼くなり抜くなり好きにしやがれっ!」
張り切った表情で、恥じらいもなく、羅刹が叫ぶと。
俺が何か言うよりも早く、彼女は背を丸めて。
「だ、ダメっ!!」
と、胸をすぼめるように、羅刹よりも声が高い声色が響く。
「今度は刹那か?」
ツインテールをほどいて、前髪を垂らすショートカットヘアーにする双蛇刹那。
「えと、あの…その」
オドオドとした顔をして、顔を真っ赤にして今にでも泣き出そうな彼女が、『ジェミニの悪魔』に支配されている、双蛇刹那であった。
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