第16話
それは彼女本体の正式な名称ではない。
彼女は常時開放型のスキルによってその肉体を支配されている。
『ジェミニの悪魔』。
彼女が迷宮内で発現させたスキルの名称だ。
スキルランクはC、系統は精神大系。
発現させたスキル所持者は自身とは別の人格を発現させる。
スキル所持者の正式名称は
尚、この情報はアーカイブより参照している。
「お前、目が覚めたのか」
迷宮から脱出した一週間程は活動していたが、ある日を境に昏睡状態になったと聞いている。
「アタシちゃんがそう簡単にくたばるかってんだ」
俺の肩に手を回して肩を組む。
なんとも軟派な性格である、この女は。
「刹那が精神的に参ってたからな、アタシちゃんが刹那を呼び戻す為に精神にダイブしてたんだよ」
「…刹那は無事なのか?」
「当たり前だろぉ?アタシちゃんを誰だと思ってんだよ…ノストラダムスの大予言と同じレベルの大魔王、悪魔な羅刹ちゃんだぜ?」
「なら大した事ないな…」
その大魔王、結局何かしたと聞いた事も無いしな。
「でぇ?お前なにしに来たんだよぅ、アタシちゃんの病室は反対だぜぇ?」
「別にお前に逢いに来たワケじゃないよ」
ツインテールが揺れる。
肉体が羅刹になると、彼女はツインテールにするのだ。
何故かと聞けば『悪魔の角みたいだろ?』との事らしい。
しかし、肉体的に見れば似合わないと言いざるを得ない。
俺の身長が百七十八センチに対して、彼女の身長は百八十センチもあるのだ。
巨体であり、肉質も体格も大人寄り。子供がしているツインテールとは相性が悪い。
「あぁ?そっか、じゃあ…アタシちゃんと遊びに来たんだな!」
「お前じゃないって」
「ええ!?嘘だろ…そうか、…あぁ、分かった!アタシちゃんにご飯を奢りに来たんだな!!」
良いぞ、と親指を立てて舌をぺろりと出す羅刹。
「まずお前じゃないって」
「いいじゃねぇかよぅ!なあ、構ってくれよぉ、てか遊べっ、病室にくまのぬいぐるみ置いてあっからさぁおままごとしようぜッ!クマ公が旦那さんで歯ブラシが母親でアタシが監督でお前が犬なっ!!」
「登場人物の大半が無機物だろ」
そんな楽しくないごっこ遊び、参加する筈ないだろ。
最早構うのも面倒なので、日和丸の病室へと向かっていく。
「ん?なんだよ、ピヨ丸の病室に行くのかお前」
「朝食でも誘おうと思ってな」
「アタシちゃんがいるだろぉ!?」
人差し指で自らの顔面を指さす羅刹。
喧しい女だな、コイツ。
病室の前で軽くノックする。
けれど、反応がない。
「何処かに行ってるのか?」
「おーし、遊ぶ相手がいないならアタシちゃんが代わりに遊んでやるよ、そんなワケで、おら飯食いにいくぞ飯ィ!!」
「ちょ、お前」
強引すぎるぞ。
俺を首を掴んで無理矢理エレベーターへと乗り込もうとする羅刹。
仕方が無く、俺は彼女と付き合う事にした。
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