第12話
「…あっれぇ?旭さん、居たんですね、全然気が付きませんでした、今は、お兄ちゃんとお話してますので、間に入らないでくれますか?」
にこりと笑みを浮かべる。
容姿端麗な彼女の笑顔は単純な人間ならばその笑顔の裏を意図も知らずに了承するだろう。
「なんできょうだいじゃないのにお兄ちゃんなんて言うの?変だよ、おかしいよ?」
不思議に思った事を、違和感を感じる事を、統道旭は空気も読まずにそれを正直に答える。
どの言葉を口にすれば争いになってしまうのか、そう言った空気の読めない発言は、人生と言う経験から得る事が出来る。
けれど、今の彼女にはその経験が欠如している。故に、彼女の笑顔を暗闇に変えてしまうような言葉を堂々と口にする。
「げんくんは、あきと一緒なの、かんけいない人はどっか行って!」
俺の腕を掴んで強く抱き締める。彼女の肉質的な胸元が腕に押し付けられる。
「…お兄ちゃん、何してるのかな?今日は、尊と一緒に居てくれるんでしょ?ほら、旭さんなんか手を振り解いて、尊の手を取って欲しいなぁ」
手を伸ばす、甘えた口調で、可愛らしい妹を演じている様子だが、明らかな苛立ちによる額の青筋が、彼女の『完璧な妹像』からかけ離れている。
「…悪いけど、天吏」
「尊って呼んで」
「…尊、悪いけど、お前よりも、旭の方が重症なんだ」
俺の腕に両手を絡める旭の頭を撫でる。
旭は嬉しそうにその手を受け入れて気持ち良さそうな表情を浮かべる。
「…ふぅん、そうなんだ、お兄ちゃん。尊よりも旭さんを取るんだ。そうなんだ」
ジッと。
俺の顔を見詰める天吏尊。
その目は深淵だ。
見詰められて、見つめ続ければ、その目の奥に意識を飲み込まれてしまいそうだ。
だから俺は視線を逸らす、彼女の目から逃れる。
視線を切った事で、天吏尊は瞼を下ろして、笑みを浮かべた。
「分かったよ、お兄ちゃん。今日は旭さんに貸してあげる、でも、明日からはどうなるかなぁ」
人差し指で自らの頬を添えて考える素振りをする天吏。
その姿は俺に取っては悪魔な言動でしかない。
「…あ、そうだ。今度、退院許可が出たら、一緒にデートしようね、お兄ちゃん」
天吏が勝手にそう決めて来る。
俺が声を発するよりも前に、彼女が声をかぶせて来る。
「…兄さんなら絶対に頷くけど」
「ッ…分かった、退院許可が出たら、な」
「ほんと?やった、嬉しいなぁ…じゃあ、お兄ちゃん」
扉の前で両手を広げて、俺の方を見詰めて来る天吏。
「尊は今日は退散するから、だから、何時もの様にさよならのハグをしてね」
最後の最後で、何を言い出すんだ、この女は。
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