第11話

足をパタパタとさせながら、統道が鉛筆で絵を描いていた。

動物であろうライオンやパンダが檻の中に入った絵や、俺の似顔絵も描いてくれた。

正直な所、絵心がない統道の絵はお世辞にも上手いとは言えなかった。


「あー、げんくん、これぞうさん?」


旭が俺の絵を覗き込んで声をあげた。

そこに描かれた絵を見て、上手だと誉めて手を叩いてくれる。


「…あ、あぁ、そうだな」


本当はオオカミを描いたんだけど…、俺も人の事を言えない程に絵が下手らしい。

その後も、俺たちは絵を書いた。

他愛のない風景画や、幻想的な絵を描いた後、統道旭はご機嫌な絵を描いている。


「…なんだそれ」


彼女の絵の内容を求める。

人らしき人間がピラミッドを作っていて、その上に銀色で塗られた人間が立っていた。


「将来のゆめ、下が人間で、上があきなの。これが、あきのゆめ」


夢…統道旭が目指す、将来の自分。

何とも傲慢な夢なのだろうか。

人間を足蹴にして、その上に立つなんて。

彼女の夢はとてもではないが、応援する気概にはなれない。


「ねえねえっ!げんくんの将来の夢、なぁに?」


統道旭が唐突に聞いて来た。

その問いに俺は口を開く。

…まて、今、俺は何を言おうとした?

口を開いたまま、俺は声を出すのを諦めて首を横に振る。


「…夢、ないの?」


夢。

誰もが一度は見るであろう理想の将来。その幻想。

俺も、その夢を見た事がある、それの為に、俺は多くのものを犠牲にしてきた。


「…どうだろうな」


濁す様にそう呟いて、スケッチブックを閉ざす。


「今日は、これまでにしよう」


遊びは終わりだと彼女に告げる。

えー、と不満そうな声を漏らす統道旭。


「お昼時だからな。ごはんを食べたら、少し、眠ろう」


「んぅー……分かったぁ」


あどけない表情で、統道旭が素直に返事をした。

その時だった。

扉が開かれる、病室へと入って来るのは、白髪の女性だった。


「こんな所に居たんだ、お兄ちゃん」


天吏尊が病室に入ってきた。

その目は暗くて、闇を孕んでいる。

彼女の姿を認識して俺は喉を鳴らした。


「…おう、どうした?」


「酷いなぁ、お兄ちゃん。尊にあの人を嗾けるなんて」


ゆっくりと俺の方に近づいて来る。


「いや…知らなかったんだよ。お前と、日和丸が仲悪かったの」


「別に、悪いワケじゃないけど…」


けど。

と、天吏尊は言葉を添えて、俺の目前に迫る。


「尊はお兄ちゃんと一緒に居たかったの、だから、他の人間なんて、呼んで欲しくない」


憎悪にも似た嫉妬の感情が渦巻いている様に見える。


「ねえ、お兄ちゃん。もう一回やり直そ?手始めに朝食から、お昼、二人だけで」


天吏尊が近づく。

俺と彼女の間に、意外にも統道旭が割って入った。


「げんくん取らないでっ!」


そう叫んで、俺の前に彼女は立つ。





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