第7話
『剣豪師範代』
『剣豪』と呼ばれた迷宮探索師の弟子。
剣術を得意とし、刀剣類を使った戦闘では転入試験参加者の中で一二位を争う程の実力を持つ。
迷宮へ堕ちて以来、彼は呪いによって性別が反転してしまった。
肉体は女性であるが、その精神は男性である。
「少し、迷宮の事を思い出してな」
「あぁ…あれは良いものだった」
日和丸は爽やかな口調でそう言った。
コイツは迷宮で両目を欠損しておきながら、迷宮での事を嬉しそうに語っている。
幼い頃からの情操教育なんだろう。
なんて事を言うんだと思う反面、その晴れ晴れとした表情は羨ましく感じている。
「両目、喪ったのにな」
「試練の様なものさ。お陰で新しい技能に目覚めたよ」
それは恐らくスキルの事なのだろう。
それが芽生えてなければ、まさに目を覆いたくなる程の凄惨さだったろうに。
「まあいいや、ちょっと付き合えよ」
俺は日和丸を連れて売店へと向かう。
律儀にテーブルに座って待っていた天吏尊が俺と日和丸を交互に見てテーブルから立ち上がる。
「バイバイ、お兄ちゃん」
それだけ言って、天吏尊はその場から去っていった。
天吏は日和丸が苦手であるらしいのか、顔を合わせても会話はおろか挨拶すらせず、逃げる様に自らの病室へと戻っていった。
「今のは天吏の妹どのか、かたちが少し似ていたよ」
かたち、とは。
コイツは一体、どんな世界が見えているのか。
「お前さ、天吏に何をしたんだ?」
彼女の撤退ぶりは明らかに、何か因縁がありそうな様子だった。
「天吏が生きていた時の話だ」
覇締日和丸と天吏帝は同級生であると言う情報は聞いていた。
だから恐らくは、中学生時代の話なのだろう。
「やつがれの剣術を見たいと言ってな、抜刀術を披露して見せた」
「それで?」
「部屋の中での素振りでな、煩いと天吏の妹が出て来た際に、斬ったのだ」
いや待て。
素振りって部屋の中でしていたのかよ。
「…斬ったって、何をだ?」
「天吏の服をな、すぱりと。服一枚、我ながら美事な剣術でな。天吏の妹の服を切って素っ裸にしたのだ」
嬉々として喋る日和丸。
笑い話の様だが、一歩間違えれば殺傷沙汰になっていたかも知れない。
改めてだが、覇締日和丸と言う元男は危ない人間だと理解する事が出来た。
「…まあ、厄介払いが出来た点だけは感謝するよ」
俺はテーブルの上に置かれたサンドイッチを掴んで口に無理矢理突っ込んだ。
「はぁ…これから役員が来てスキルの登録をしないとならないんだ」
「ほぉ、それは大事な。ではまた、加咬どの」
挨拶を交わして俺たちは別れる。
スキル登録を行う為に、時間指定された場所まで歩いて行った。
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