第4話

明朝、目が覚める。

統道旭は良く眠っていたから、癇癪を起こす事は無かった。

俺は顔を上げて立ち上がる。

お腹が空いたから、売店で何か買おうと思った。

統道旭を起こす事無く、俺は病室から出ていく。


近くにエレベーターがある為に、俺はボタンを押してエレベーターを呼ぶ。

丁度、エレベーターが降りて来るのが、表示されている階層の光で分かったので、大した時間を待つ事なく降りる事が出来ると待機していた。


扉が開かれる。

エレベーターの中に居たのはショートカットヘアの少女だった。

白い髪を編んでいて、小柄な彼女の姿を見た時、俺は肝を冷やす。


「あ、お兄ちゃん」


満面の笑みを浮かべて、エレベーターから出て来る。

そして両手を広げて、俺の腹部に手を回すと、強く抱き締めて来る。


「あ、天吏」


彼女の名前は、天吏あまりみこと

生き残りの内の一人であり、『万能なる助手』と呼ばれるサポート能力に長けた少女だ。


「お兄ちゃん、元気だった?尊は少し痩せちゃったなぁ」


彼女は強く、俺を抱き締めている。

嬉しそうに笑みを浮かべて、ほんのりと紅潮した表情が可愛らしい。


「あ、あのな、天吏」


「あ、エレベーター行っちゃったね…売店行こうと思ってたのになぁ…お兄ちゃん、階段で行く?あ、でも、あんまり動くの駄目だって、お医者さんに言われてたしなぁ」


俺は、無言でエレベーターのボタンを押す。

閉じた扉はすぐに開いて、天吏は丁度良いと表情を明るくさせる。


「あ、エレベーター、丁度良いね、お兄ちゃんも売店に行く所だったの?」


俺の腕を引っ張って、天吏がエレベーターの中へと押してくる。

その手を振り解きたかった。出来る事ならば、彼女に逢いたくは無かった。


エレベーターが閉じる。二人きり。天吏は俺の腕に抱き着いて来る。


「ねえお兄ちゃん、尊ね?検査いっぱい頑張ったから、何か食べさせて欲しいなぁ」


甘える様な口調で、天吏が言う。

俺は、早く、一階へ行って欲しいと言う事だけを考えていた。


「ねえ、お兄ちゃん、聞いてる?」


兄と慕ってくれる天吏。

けれど、彼女とは血の繋がりはないし、彼女は、俺じゃなくて、別の兄が存在する。

エレベーターが止まる。一階へと扉が開く。

早く、外へ出ようとして。


「お兄ちゃん」


天吏が、俺の腕を引っ張って、『閉』のボタンを押した。

すぐさま、扉が閉まられると、天吏は屋上のボタンを押す。

エレベーターが動く、そして、病院には珍しい、『停』と言う緊急時用の停止ボタンを押す。

ガタン、と。エレベーターが停止する。

此処百年の間で、緊急停止ボタンは多くの建物に普及されてきた。

迷宮から出現する魔物が建物に侵入した際、エレベーターが動かない様にする為に付けられた。


これによって、エレベーター内部が避難所として活用する事も出来るし、魔物がエレベーターを使用する事も出来なくなる。

そんな避難用のボタンを、天吏は惜し気も無く押した。


「なんで尊を避けようとするの?」


暗い視線を向けて、天吏が密室の中で俺に詰め寄って来る。

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