第52話「終焉」

「ウィル俺は間違っていたんだ。

お前は強くて、

頭も良くて、

見た目も良くて、

お前に対して、一目置いていた…

お前は間違いなど起こさないと、

どこかで思っていた。

でも、間違えないやつなんていないんだ」


「僕は間違ってなどいない。

この大陸に人間など存在しなかった。

人間との交わりが、

この世界をおかしくした。

人間が世界をおかしくした」


「そうゆうところだウィル。

お前は何でもできるゆえに、

短気すぎるんだ。

世界が変わることは、

悪い事ばかりとはかぎらねぇ」


「バカ…

なんで分からない…

鎧の兵士は死んだけど、

人間の思想は必ず、世界を滅ぼす」


「ああ、俺はバカだ…

先のことなんて分からねぇ!

でも、俺らにとって、大事なのは今だろう?」


「…このまま話をしていても、埒が明かないね。

僕が人間を襲い、君が人間を守る。

僕らが最初に出会った時と、逆になったね。

君にその気はないと知った時、

打ち解けられたけど…」


ウィルの言葉が、俺の目の奥を熱くする。

ウィルは相変わらず、目を合わせようとしない。


初めは、御子との修行の成果、

俺の一挙動を、見逃さないようにするもの、だと思っていた。


ウィルの言葉…

目を合わせられないんだ…


「ウィル!俺がお前を幸せにしてやる!

だからぶっ飛ばして、こっちを見させてやる!」


俺は拳を握りしめ、ウィルに殴り掛かる。


ウィルは先ほどの、黒雷を凝縮したものを打ち込んできた。


が軌道が読める。


迷いがある攻撃が読める、ってこの事なのか。


「ウィル!今のお前じゃ、俺には敵わねぇぞ!」


俺は拳をウィルに叩き込む。


ウィルはすぐに魔法で盾を張った。


落ち着け…

相手を攻撃するんじゃない…

あの一瞬包まれた、

ふわっとした感覚。


ウィルをぶん殴るんじゃなくて、

抱きしめるような感覚…


相手に影響を及ぼす力。

腕の力じゃない。

腹の奥底の力。


「?」


ドォオオオオン


「くっ…」

拳が盾に当たり、

ウィルが片膝をついた。


力が通った!

でも、まだ100分の1程度…


ウィルの盾を破るのには、足りなさすぎる。


「忘れていた…

君もヒイヅル国に居たんだったね…

あのオーグンが、力任せ以外の事をするなんて…」


「俺にはもう迷いはない」


「…そうだね」



ここで…

ウィルとようやく目線があった。


「…僕も覚悟を決めたよ

オーグン、君を殺す」

その顔はいつも通りの顔だった。


オーガの里以来…

久々にウィルと顔を合わせた。


変わったと思ったウィルは、

何も変わっていなかった。



黒雷

疾風

爆炎…

ウィルからえげつない攻撃が降り注ぐ。


一歩間違えたら即死。


でも、楽しかった。

ちゃんと、ウィルと戦っている。

お互いの信念を守るために。


今までは、ウィルと戦っていながら、

違う人と戦っている感じだった。



ウィルも心なしか、楽しんでいるように見える。

お互い迷いはない。


ウィルの凝縮された魔法を躱し、

拳を叩き込む。


徐々に効いてはいるが、

なかなか力が通らない。


ウィルは俺の攻撃に対し、

必ずカウンターを入れてくる。


体力の限界が近い。



「オーグン…僕も限界だ…

全力で戦ってきたが、

残りの僕の力で、

君を殺すのは不可能になった…」


「ウィル…お前のことは分かっている。

俺の勝ちだ。

だから、もうやめよう。

昔のように、楽しく暮らそう」


「うん…

確かに、それは楽しそうだね…

でも、僕にはもう遅い。

僕たちは殺し過ぎた。

後戻りは、出来ないんだよ」


ウィルが残りの魔力を片手に集めている。


どう来る…


「あ、ちょっと」

メルサの声が聞こえた。


ウィルは最後の魔力を放出した。


キィイインと、金切声のような魔力が…


くそ…間に合え…

その魔力は、俺に向けられたものではない。


先にいるのは、瞬間移動をしたムー。

ムーも同じように魔力を放出していた。

交錯させるように…


死なせない…

お前らを絶対に死なせない…

死なせてたまるか…


ウィル達の目的、

人間を滅ぼし、自分たちも死ぬこと。


そんなことは分かっていた。


ウィルの目的を、阻むことが出来たとしても、

人間を殺したのには変わらない。

最後は死のうとしているのだと。


理解できる。


俺も大切な仲間を守りたいがために、

自分を犠牲にしようとしたことが、何度かあった。


でも、その度に、守りたいはずの仲間に救ってもらった。


だからこそ、

俺がそんなこと許さねぇ。

死ねば、何しても許される訳がねぇ。



これから先も、俺にはお前が必要なんだ。


二人の攻撃の間に飛び込む。




数年後----------


「ちょっと!いつまで待たせるの!

ここまで来るのにどれだけかかったと思ってるの!」


「ま、まあウィンディ様」


「キンジュ!

早くするように、あいつらに言いなさい!」


「ダメですわよ、 

ウィンディ様。

あなたも一国の王女。

あちらも今や一国の国王…

争いの火種になりますよ」


「あの、ヘタレバカに、争いなんて出来るわけないでしょ‼」


「ははは、ウィンディも相変わらずだね」


「テン!あんたでもいいわ!

あのバカに、早くするように言いなさい」


「はは、無茶な…

そういえばキンジュ、 

君の素行が悪い部下は?」


「え…あの…」


キンジュが言葉に詰まる。


「死んだわ」


「ちょっと、

ウィンディ様このような場で…」


「何よ 本当のことでしょ。

お兄ちゃんが襲ってきたときに、

国民を守るために、特攻したんでしょ」


「そ、そうですが…」


「…そうなんだ…本当に人間って変わるんだね」


ブン!っと、

精霊王がウィンディの真横に現れる。


「ウィンディちゃん、

本物は相変わらず可愛いにょー」


「うっさい変態じじい」

ウィンディは全く動じることも無く、

羽虫を払う様に、妖精王をひっぱたいた。


「にょ…手厳しいにょ…」


「皆さん。大変長らくお待たせいたしました。

これより、オーガ国国王オーグン様と、

メルサ様の婚姻の儀を、開催いたします」


派手にバァアアアンと扉が開かれると、

美しい装束を纏ったメルサと、

紳士?

見慣れない、着飾ったオーグンが立っている。


「おおおオーグン様、おめでとうございます」

「メルサさん!綺麗です!」

「オーグン!似合ってないよ」

とテンがいうと、笑いが場内で起こった。


オーグンは少し恥ずかしそうにする。


妖精王がすっと、

オーグンの母の元へ瞬間移動する。


「お前がよく許したにょ。

お前はメルサを殺してでも、

反対すると思っていたにょ」


「…私を尊敬してくれる子を、

無下に出来ないわ。

世界が変わった今、

純血とかそのようなこと、

気にしてられないわよ」


ほっほほ、

と愉快そうに、精霊王は自分の席に戻っていった。




あの後、世界は大きく変わった。

数千年ぶりに、他種族の交流が行われるようになった。

もちろん、皆が探り探りの中で行われてる。


言語や通貨など、

以前の下地があるとはいえ、

困難ばかりだ。


ウィンザードの時との違いは、

正しい歴史を他種族に伝え、

万国共通の法を作った。


正しい歴史…


思えば、方舟も事実の物語だったな…


人間は外の大陸から来た事。

ウィンザードが他種族交流を初め、混血を生み、

捨て子が大量に出てきてしまった事。

他種族の交流を禁止したこと。

ウィンザードの子孫ウィルが、

差別されていた一部の混血を率いて、

人間に復讐しようとし、

オーガ族族長オーグンによって、阻止されたこと。


これらの歴史が、残された。


法は一つだけ。

どんな種族であろうと、

子供であろうと、

他殺を禁じる。


もちろん、これに従えない一族もあった。

儀式で子供を供養として捧げる一族。

共食いが行われる一族。

他種族を食う一族。


とても難しかった。


特に他種族を食う一族は、食う側にも、

食われる側も加担は出来ない。


仕方なく、これらの国には人の食料と文献だけ渡した。


悪魔という言葉は差別用語として規制され、

混血という言葉が主流になった。


もちろん、問題は山積みである。

規制を行えば、必ず反発は生まれる。

徐々に落としどころを付けていくしかないだろう。


でも、皆比較的に幸せに生きている。

オーグンとメルサは結婚した。

オーグンの尻に敷かれる姿は目に見えるが、

それくらいがちょうど良いだろう。


ウィンディは国王になるのに大分渋っていた。

しかし、なったらなったで、好き勝手。

騎士のキンジュをいつも困らせている。

それでも、ちゃんとするとこは、ちゃんとしている。


テンは生きていた。

だが、力の大部分を失ったらしく、

「弱いってこの事なんだね、

おいら本当は強かったんだ。

もっと強い時に威張っときゃ良かったよ」

とか、冗談交じりに言っていた。


精霊王は…

文献作成に大分貢献してくれたらしい…

この秩序がどれほど続くか、

楽しみが増えたにょ。

って不気味なこと、言ってるとか。


懐かしんでいると、

大分時間が経ってしまったらしい。

再び魔道具を覗くと、

皆大分出来上がっていた。


「ウィルとのあの戦い。

美男と野獣の恋愛劇を見せられているようで、

とても不快だったわ…

ウィルに『俺がお前を幸せにしてやる!』

とか言い出した時、

私は選ぶ人、間違えたかと思ったわ」


「何言ってんだ!

俺にはメルサしかいねぇ!

俺がメルサを幸せにしてやる」


「ちょっと、やめてよ、うざいから」


「にょーん、

じゃあウィンディちゃん、

今夜どうかにょーん」


「ほんとに気持ち悪い」


「はいはいオーグン、

そうゆうのは帰ってから、

二人の時にやってね。

皆が嫉妬するから。

ウィル…元気かな…」


僕は魔道具をしまった。

遠くに小さく見える、オーガの国。

国中お祭り騒ぎなのを見ると、

自然と笑みがこぼれた。


「いこうかムー」

ムーが名残惜しそうにする。


僕らは許されざることをした。


オーグン達はそれでも、

どうにかしようとしたけれど、

人間側に受け入れられることは、決してないだろう。


人間が他の種族とうまくやっていくのに、

僕はいてはいけない。


僕は裏から皆の幸せを守る。


これからやることは沢山ある。


僕らも、もう行かなくてはならない。


あの場に居られない、後悔が生まれる前に…


オーグン達への、

せめてもの手向けとして、

手に魔力を込め、


上空に花火を放った。

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最恐オーガは他種族女子と仲良くなりたい【完結】 @aidanomo

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