第46話「幕引き 世界の真実」


精霊王に人間の国へ、転移させてもらった。


眼の前は、地獄だった…

以前訪れた、人間の国の湯浴み場。


原型がないほど破壊され、

周りにはたくさんの人間の死体が転がっている。


ある者は炭になり、

ある者はバラバラになっていた。


「おーオーグン来たかぁあ!」


「おう!いきなり表れるとは!」


「嫌な奴がきたのぉ」


聞き覚えのある声…

そこにいたのは、悪魔軍の3人の眷属だ。


彼らが人を燃やし、切り、

次々と殺していってた。


惨劇…


人間たちが逃げまどい、

逃げ場も無く死んでいく。


女、子供関係なく…

悲鳴、断末魔をあげながら…


以前は仲良くなれるのか、と思っていた…

それだけに、胸が苦しくなる。


「やめろぉ!」

俺は何とか言葉を発し、

彼らに殴り掛かった。


ガキィイイイン


それを玄武が防ぐ。


なんだこの力は…

ビクともしない…

ウィルの盾レベルだ…


「ほっほ…オーグンの力でも、壊れぬか…

いっそ儂があの憎き、

鎧の兵士に復讐しても、良かったんだが…」


「調子に乗ってんじゃねぇ!亀。

俺らはウィル様に付いていくと、

決めたんだろうが!

それに、てめぇのその力は、

てめぇのじゃねぇだろうが!」


白虎が玄武を戒める。」

彼らも戸惑いはあるようだ。


「オーグン!勝負じゃあぁあ」


鳳凰が以前のように、火の羽を放ってきた。

だが、以前とは威力の桁が違う…

どうなっているんだ…?


が、以前のように、攻撃は俺の横をすり抜けた。

「前といい、なんなんじゃ!

なぜオーグンに当たらぬ!」


テンがまた、鳳凰に術をかけていた。


「あんたたち、何てことしてくれんの!」


この、人間に対する惨劇。

ウィンディの心中は分からない。

俺なら耐えられないだろう。


「おまえがウィル様の妹か!

ウィル様と違って、ただの人間なんだな!」


白虎が一瞬で、ウィンディの目の前に現れ、

刀を引き抜こうとした、のを手で制す。


御子との修行が無ければ、確実にやられていた。


「お前らウィンディも殺すのか?」


「ああ、ウィル様はこの大陸から、

一人残らず、人間を駆逐しようとしている!」


やはりウィルは、変わってしまった…

あの、楽しく俺を痛めつけてたウィルは、もういない。。


俺は白虎の空いた腹を、蹴り飛ばした。


「う、うぐ…」


白虎に攻撃は効く。


白虎は剣が、

鳳凰は尾の形が、

玄武は甲羅の模様が、変わっている。


彼らが強くなった訳ではない…

この感じ…

店の店主に、向けられたものと同じ…

魔道具だ…


「テン!ウィンディを守れるか?」


「ああ、任せて!」


俺は悪魔の眷属たちに、殴り掛かった。


玄武が前に立ちふさがる。

普通に殴っても、

こいつの異常な硬さに敵わない。


御子の貫通技か、

玄武が盾を作る前に、打ち込むしかない。


玄武は盾を作るのに、何もモーションが無い。


それに対して、俺は殴るのに、

どんなに動きをそぎ落としても、モーションはいる。


作る前に攻撃は、不可能に近い。


御子の感覚を思い出せ…


玄武に振りかぶり、拳を落とす。


ガキィイイイン


「ほっほ、無理じゃ、無理じゃ」


駄目だ、全く効いていない。

御子のと、何が違うのだろうか…


「隙ありじゃー」

背後から、鳳凰が攻撃を打ってきた。


反応が遅れ、腹をかすめてしまった。

脇腹の肉がえぐられ、激痛が走る。


「うぐっ」


「当たる、当たるんじゃー!」


鳳凰が、無言で打ってきたら…

下手したら、死んでいたかもしれない…


白虎が剣を抜き、切りかかってくる。


この剣…

受けられない…


俺は間合いを取るために、一歩下がる。


ビュンと、


空気を裂く、嫌な音を纏った剣が、

目の前を通り抜ける。


白虎の剣も当たれば、致命傷になりかねない…

それくらい、危険な魔道具達だ…


白虎も剣を振り切った後、

すぐに間合いを取り、玄武の後ろへ。


俺の攻撃は当たりそうにない。


やはり、玄武の防御を破るしか、方法はない。


御子の技…原理は分かっても、

そう簡単に出来るものでもない。


遠くで雷鳴が轟いている。

ここで時間を食っている間、

ウィルはどんどん人を殺している。


早くあっちに行かなくては。


これしか…


情けか…真剣勝負か…

眷属は皆、俺の方を向いてくれている。


俺がすることは裏切りでもあり、

俺らにとっても、危険な行為。


でも一刻も早く、ウィルを止めなくては…


「テン!」

俺が殴り掛かる時に、テンに合図をした。


テンがすかさず、玄武に技を掛ける。


「ぬっ」

玄武がひるんだ。


「とどけぇ」

盾が遅れた、一瞬。

その瞬間に、拳を玄武に叩きこむ。


これで決めないと、

テンとウィンディに危害が及ぶ…


俺の拳は魔法の盾が張られる前に、

玄武の甲羅にヒットした。


甲羅がひび割れ、

玄武は気絶した。


玄武撃沈。


白虎と鳳凰が、テンとウィンディを襲う。

「貴様かぁ 童の技を邪魔していたのは」


当然、ターゲットはテンに行く…

そして、テンの所まで、俺からは距離がある…


失敗するわけにはいかない…

下手したら皆死んでしまう…


大丈夫…今の俺なら出来る!


玄武の甲羅をつかみ、

白虎と鳳凰が一直線になるのを待ち、

玄武をぶん投げる。


「なに!」

玄武は二人に当たった。


すかさず、白虎に駆け寄り、

危うい剣を奪い取り、

鳳凰の尾を踏んだ。


これらの魔道具からは、

禍々しい妖気のようなものを感じる。


「クソ!離すんじゃ!

童たちの数千年の悲願を!

ウィンザード様の悲願を、叶えるんじゃ!」

じたばたする鳳凰


「藍は…ウィルのとこにいるのか?」


「あいつはだめだ!

魔力は強いが心が弱い!

戦いには足手まといだから、この場にはいない!

もういい、早く俺らを殺せ!オーグン!」

白虎も泣きながら叫んでいる…


「そうか…テン頼む…」

テンは術で、彼らを眠らせた。


数千年の悲願…

彼らはこの数千年ずっと、

このために動いて来た。


何が正しいか、なんてわからない。


女の子と仲良くなる。


男に優しくする必要はないけど、

男が居なきゃ女の子は生まれない。


この惨劇を、見逃すことは出来ない。



「ウィルの元へ向かおう」


一時は、友達になれるかもしれないと思った。


彼らに後ろ髪を引かれながらも、

遠くの雷雲の方へ向かう。


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