第45話「世界を救うもの」


「なぁ また、人間の国まで、送ってくれよ…」


「いやじゃにょ。

この先数千年分の楽しみを、

お前らは奪ったんじゃにょ」


大袈裟かもしれないが、

こいつにとっちゃ一理ある。


じいちゃんの世代…

いや、もっと前から生きていた。

この場にはずっと、小さな精霊たちとフェニックスだけ。


いや、フェニックスが今、この場に居ないってことは、

基本的にあいつは、自身の責務(調停者)を果たしていて、

ここにはいない。


ここは景色は綺麗だが、それだけ。

他には何もない。

永遠の時間。


女の人の裸を観ることを、娯楽に生きている。

人間の湯浴みを覗くことや、

こうやって、お気に入りの子の裸の彫刻を掘る。


同じ立場で出来るなら、

俺も同じことをしてしまうだろう。


「どうしたら機嫌を直してくれる?」

テンが聞くと、妖精王はむくっと起き上がり。


「ウィンザードに似たお前の裸で、

同じものを作らせてくれたら許す」


「気持ち悪い!」

ウィンディの心からの拒絶。

そりゃそうだろうな。


「じゃあ無理にょ 歩いて帰るにょ」

再びふて寝のように、ゴロンとした。


「ウィンザードにも、そんなことしていたのか」


「バカ言っちゃいけないにょ、 

あの時はちゃんと愛があったにょ、

一人娘のムーもいたにょ、

だが、それももういいにょ…」


「はぁ?ムーがお前の娘?」


「なぁ精霊王、

ウィンザードはもういないけど、

ムーはまだウィルって人間と行動しているよ」


「そうかにょ」

テンが必死で説得するも、軽くあしらわれてしまった。


「もういいにょ。

これだけ生きていると、この先の長い長い生きがいは、

エロスという娯楽だけにょ。

お前らはそれを奪ったんだにょ。

もう生きている意味もないにょ」


外を覗くと、

妖精の森の一部が枯れ始めている。


この森が枯れてしまうと、

この大陸の大部分の水が枯れてしまう。


そうなったら、生き物は生きていけなくなる。


この世界はエロスで成り立っていたんだ。

っとそんなことに、感心している場合じゃない。


ここは俺の出番だ。

俺が世界を救うんだ。


「二人とも、ちょっと外に出ていてくれないか」


「何であんたに命令…」


「頼む…出ていてくれないか」


「何よ気持ち悪い…分かったわよ」


「助かる」


妖精王と二人きりになれた。

「なぁ、男二人で語り合おうじゃないか」


「儂はもう男じゃないにょ 朽ち果てて死ぬのだにょ」

これは相当来ている…


「エロスとは何なのか?

裸なのか?乳首なのか?お尻なのか?」


「…そうだにょ…

生まれたままの姿が美しく、その姿がエロ…」


「ちがぁぁあああう!」

俺の声が、狭い部屋に響き渡る。


「ごちそうを与えれられたのを、

うまいと言って食って満足か?」


「…何言ってるんだにょ…」


俺はこの長い旅で分かった。


女の子と仲良くなるって始めた旅だった。


未だに目標には程遠いが、

この旅を振り返ってみて後悔はない。


女の子との出会い

友達との出会い


自分を見失いそうになったこと。

友達が助けてくれたこと。


これまでの軌跡が大事なのだということ。


軌跡が大事とはいえ、

目標は諦めたわけではない。


目標を達成しようとすることが大事なのだ。


「女の子はその生まれた姿を羞恥心によって隠す。

その隠された姿を表れている肌、胸や尻など、

服が張り付くところと、

なびくところ、

そこから、生まれたままの姿を、

探っていくことが、エロスじゃないのか?」


我ながら決まったと思う。


だが、如何せん、

俺の娯楽

俺の価値観


精霊王に通じるか分からないが、


「……

儂は長い間、

忘れていたのかもしれないにょ…

童心を…

思えば、 

はじめは見ているだけで、良かったにょ…

話すようになり、

仲良くなり、

共に行動し、

ムーも生まれたにょ。

一度先を知ってしまうと、

次はそれまでの過程を、ないがしろにしてしまうのだにょ」


今のはカチンときたが…

冷静にこいつを説得しなきゃならない。


「ウィンディを呼んでくるか?」


「ああ、儂が間違っておったにょ」


外に待たせてある、ウィンディを呼びに行く。


「ウィンディ!服を着たままだったらいいよな?」


「はぁ?何言ってんの気持ちわ…」


「この世界の存続がかかっているんだ!

頼む!」


「ま、まあ別に、私が彫刻になるだけだったらいいわよ。

メルサさんの彫刻も、

裸ってことを抜きにすれば、

よく出来ていたし…」


「ありがとう…じゃあ始めてくれ」


妖精王はクルクルと、ウィンディの周りを飛び回ると、

「同志、オーグン、

外にある石を持ってきてくれぬかにょ」


俺は外に出て、大きめの石を持っていくと、


「精巧さだけじゃなくて、

人間の中見…

それを表すポーズも大事なんだにょな?」


「ああ」

正直よくわからなかったが、

とりあえず、相槌を打っておく。


「ウィンディ、そこに横になってくれにょか?」


「こう?」


「腕はもう少しこっち…そうにょ

家に帰って、リラックスするようなつもりになって」


「…家はもうないわ」

そうだ、普段はお転婆だが、

ウィンディには、もう帰るところが無いんだ。


「そうかにょ、

悪かったにょ、

何のために、この変態たちと旅をしているのかにょ?」

お前が他人を変態という事があるんか…


「お兄様に会うために…

でも、そのあとは…分からない」


忘れていた…

ウィンディも、一人の女の子…

普段は明るいけど、不安なことは沢山あるんだ…


「綺麗だにょ…

辛いかもしれないが、

その雰囲気を、彫刻にしてもいいかにょ?」


「き、綺麗なら仕方ないわね…」


ウィンディは強い。


辛いことがあっても、

偶に不安になることがあっても、

それを隠して、明るく振舞うのではなく、

素で明るく生きていられる。


「ありがとうだにょ」

この変態の雰囲気も変わった。

懐かしむような、愛おしく思うような…


何を思い出しているのだろうか…?


精霊王は少しずつ、

俺を攻撃した玉を使い、

大きな石を削りだしていった。


丁寧に、

丹精込めて、

周りに俺らがいることも忘れて、

没頭していった。


俺らは何も言われなかったが、

ずっとその場にいて、

その作業に見入ってしまった。


どれくらいの時間が経っただろうか。


この部屋は、周りの精霊が光っていることもあり、

ずっと明るく、

時間の経過を忘れてしまっていた。


数時間経った。


「できたにょ」

そう言って完成した彫刻は、

まさしく、動かぬウィンディそのものだった。


ウィンディの素の明るさ、元気よさと、

どこか哀愁漂うような表情。


まるで生きているかのような、

動き出しそうな彫刻。


「やるじゃない!

私の可愛さちゃんと表現できているわね」


あれだけ、毛嫌いしていたウィンディも

すっかり機嫌がよくなった。


それだけ、素晴らしい作品が出来上がった。


「儂の中でも一品じゃ。

この流れのまま、メルサも作りたいんだが…

お前らと一緒に行動していないのか?」


「………」


妖精王はメルサに会っていない。

やはり、メルサもウィルと行動しているのか。


「ああ、今は別行動中だ」


「そうかにょ、

お主等は好きだにょ。

これからも、近くを通ったら寄っていけにょ。

今度はメルサもつれてこいにょ」


「ありがとう、

でももう、行かなきゃいけないんだ」


「もっとここに居ろ…

と言いたいところだけど、

この転移を使ってきたってことは、

大きな事件が起こってるんだろうにょ…

時間を使わせた、非礼ってわけでもにょいが、

送ってやるから、全て終わったら聞かせてくれにょ」

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