第42話「渦巻く」
ウィル視点--------------
ウィンザードから歴史の経緯を聞いた
信じるつもりは無かったが
ムーはずっと頷いている
まとめると
人間が魔族の大陸に移り住み
どんどん勢力を伸ばしている
ウィンザード達は人間を滅ぼし
元の魔族が住んでた
世界に戻そうとしているのだそうだ
「そんな話信じられるわけない」
「いいえ あなたは信じるわ
あなたも不思議に思ったでしょう?
ムーの他に奇数目の悪魔はいた?」
「…」
「じゃあ何でどこの種族も
奇数目の悪魔を特に嫌っているの?」
「…」
「ムーは私の娘で世界で初めての悪魔なの」
ムーは頷く
これまで考えたことはあった
ムーがウィンザードの娘と…
「ムーが生まれてから世界がおかしくなった
それが奇数目の悪魔が嫌われる所以」
一応ちゃんと筋が通っている
「それで僕に何をしろと?」
「あなたにして欲しい
と思っていることなんてないわ」
「僕に人間を滅ぼせというのかい?」
「…ええ
人間はこの先も魔族を圧迫し
いずれ滅ぼすことになる」
「僕がそれに同意するとでも?」
「今は思わないわ
でも、元来の人間の国で歴史を知れば
そう思うはず」
「元来の人間の国?」
「ええ
沈んだとされている人間の大陸だけど
沈まなかった処もあるのよ」
歴史、この世界の事
僕の一番の興味
箱舟なんて嘘だと思っていたんだけれどまさか…
「君たちが侵略しないのなら
僕はオーグン達に会いたいんだけど」
「オーグン達もあなたを探していたわ
いずれここにも辿りつくと思う
彼らが来て望むのなら彼らも送るわ
お願い出来るわね?…藍」
「う、ウィンザード様が望むのなら」
藍は涙でグチョグチョになっている
本当にウィンザードは消えるのだろう
「分かった 行くよ」
ムーがすり寄ってくる
「君も行くかい そうか」
「ウィル、君が望むよう成しなさい
あなたの決定を尊重するわ」
「…」
そこで僕の意識が一瞬途絶えた
次に気が付いた時は建物の中に居た
木造の古い…
よく見ると細かな技術と
装飾が詰まった建物だ
このようなものを生み出せるものなのか
光の射す方…入口から誰かが近づいてくる
「来たか…
もしやと思ったが私の代になるとはな」
「君は?」
「私の名は一宮
数千年前のウィンザードとの契りを守る一族
…なるほど
人間にして凄まじい「氣」
勘も悪くない
お前が来るのも納得だな
だが、まだ青いな」
「なに?喧嘩でも売っているの?」
全く、ウィンザードといいこいつといい
僕に何かさせようとばかり…
「まあ、そん…」
女が言い切る前に魔法を放った
普通の人間なら反応も出来ず即死だろう
少し出来るからって
調子に乗っているから死ぬんだ
と思っていたら僕の放った魔法は
変な魔道具に吸収された
「不思議な魔道具を使うんだね」
もう一発距離を取って放とう
と思ったら真正面から距離をつめてきた
オーグンの時と同じだ
刺し違えて僕は回復しよう
トン
彼女は僕の攻撃をひらりとかわし
僕の身体に触れ軽い衝撃が走ると
同時に臓器に痛みが走った
「うっぐっ」
ぼ、僕の魔法で回復できない
呼吸も出来ない
「おや、やりすぎてしまったか…」
彼女がもう一度
今度は強くショックすると
身体がもとに戻った
「ぐっ…魔道具か…?」
初めて死を直感した
彼女が本気で僕を殺す気なら
簡単に殺せるのか
「『魔』道具か…そっちの文化も面白そうだな
だが道具を使ったのは
お前の攻撃に対してだけだ
私の攻撃は手で急所を軽く打っただけだ」
シュと音を立てた手は
僕の目には捉えられなかった
油断していた…
彼女は僕より明らかに強い
「では本題…といきたいが
私も人生に退屈していたところだ
私に勝つことが出来たら
何でも知りたいことを教えてやろう」
「この状態で勝てると思うほど傲慢じゃないけど」
「思ったより犬だな
お前の考えをすべて話せ
私が正してやろう」
彼女の話を聞き
僕は山に籠ることにした
彼女が教えてくれたこと
僕が思っていること
基本的には間違いではなかった
だがもっと深く壮大で合った
僕らの魔法
空間の魔素を使うもので間違いは無かったが
より厳密であった
魔素の流れを読めば
彼女みたいな占いみたいな能力や
メルサの感知能力になる
一番驚いたのは魔素は無機物的でない
接しかたによっては魔素は答えてくれる
僕は自分の力で魔素を操っていたが
限度がある
御子はこちらが操るのではなく
魔素側が彼女に協力している
彼女には勝てないわけだ
ここは魔素が強い
御子のようにとまではいかないが
多少なりとも意思を感じることが出来る
この中に身を置き感じることが
御子より強くなるために必要だ。
魔素が分かると
ムーともより密にコミュニケーションが
取れるようになってきた
そして、メルサに会った
彼女は本気でオーグンに恋をして破れたらしい
僕は彼女の気持ちを知らなかった
まさかメルサがこんなことになるとは思わなかった
彼女から人間の国の現状を聞いた
オーグンでも勝てない相手
人間の侵略
ウィンザードの言葉が現実になってきた
力を持った人間が今はその意思がなくとも
次の世代、何世代か先には
魔族を滅ぼしてしまう
僕たちの一族がそうであったように
人間は弱くその弱さを隠そうとする
先の世代に僕はおそらく生きていない
これが僕の使命なのだと感じた
強く生まれてしまった
僕の生まれた意味なんだと
ウィンザードの思い通りに動くのは癪だが
僕がやるしかない
しばらくすると御子がやってきた
「どうだウィル?また私と戦うか?」
「いや…」
以前は分からなかった御子の魔素の流れ
彼女の言う氣とやらが分かる
もう勝負にはならないだろう
「そうか 残念だ
私に聞きたいことがあるのだろう?」
僕はこの世界のすべてを知るために
歴史のすべてを問うた
彼女は僕の質問に淡々と答えていった
文化、宗教、金、歴史や兵器についてまで
そしてそれらの言葉が
僕の中の決心を
金づちで叩いたように固めていく
僕たちの国は確実に
同じ惨劇を繰り替えそうとしている
俺はムーが、オーグンがテンがメルサが好きだ
魔族や悪魔の友達が好きだ
彼らがいづれ辛い思いをするのが
目に見えているのなら
僕が片を付けるしかない
ウィンザードも同じ気持ちだったのだろう
魔族と恋し、娘を生み愛した
そしてそのせいで
家族が生き辛い世の中になってしまう
彼女は家族だけでなく
同胞からの信頼もかなり厚かった
彼女自身の愛の結果なのだろう
だが、彼女は身内を愛するあまり
周りの事をどうでもいいと思っていた
アキナのような者を作るのはいけない
僕だけでやろう
僕もこの目標を遂げようとしたら
オーグン達とも敵対するかもしれない
決心が鈍る
だからオーグン達には会いたくない
僕がオーグン達のため
魔族のためにもやらなくてはならない
分かっている
皆が幸せな未来を作れるのなら
僕は悪役にでもなろう
御子に頼んで
誰にも気づかれないように
元の大陸へ戻った
眼の前には悪魔の三人がいた
彼らは膝まずいていた
「我らウィンザード様の眷属です
藍よりウィンザード様の遺言を承っております
好きにお使いください」
「他の者に不幸な目を合わせたくない
僕たちで人間を滅ぼす」
眷属たちは深々と頭を下げた
「ウィル様こちらを
ウィンザード様より授かっています」
「これは…?」
それは見覚えがある物であった
人間の国で宗教の儀の時に使われていたもの…
だが、見た目が同じだけで全くの別物だと分かる
なるほど
ウィンザード達人間が
こっちの世界で生きていられたのはこの力か
「僕には必要ない
君たちのほうが上手く扱えるだろう」
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