第40話「仲間」

オーグン視点------------



あれから数日が過ぎた


モヤモヤが膨れ上がったまま

何も進展がない


御子も何も言ってこない

ただ座るだけの修行が

行われていただけだった

 


「ちょっといつまでここにいるのよ

もう飽きたわよ」

「まあまあウィンディ落ち着いて」

「メルサさんも最近顔を出さないし…

お兄様も帰ったと言うし

ここにいる意味あるの?」

「…まあそうだよね…

ウィルも何も言わずに帰っちゃうなんて…」


メルサとの出来事を

テン達にまだ言えないでいる

何て言ったら良いか分からないし

反応も分からない


言ったら皆との関係が崩れてしまうのではないのか


そんなことばかり考えてしまう


修行も全く成果がない…

人間関係もぐちゃぐちゃだ…

ここからも出ていけない…

出ていける見込みすらない…


八方塞がり…


俺のせいで…


俺がいない方が良いのだろうか


その方が皆が幸せになれるのだろうか


俺がいなくなれば

テンとウィンディは元の大陸に戻れるし

メルサも帰ってこれるかもしれない


3人で今帰れれば

ウィルにも皆は会えるかもしれない


でも居なくなるってどうやって…?


夜逃げしたところで

テンや御子からこんな狭い島

見つからないはずがない…




…俺は生きている意味なんてあるのだろうか


俺は散々皆に迷惑ばかりかけてきた

女の子に発情しては怖がられ

仲間を守る力も無く

世界の秩序を変えると喚いているだけ

大事な仲間に自分の失態を隠している情けない奴


死んだ方がみんなが幸せになれるのかもしれない


辛い…


俺も疲れた…


死ぬ…


それが自分も皆も楽になれ

幸せになれるのかもしれない


どうやって死のうか…


ボコっ

自分で自分の顔面を思い切り殴ってみる


痛い…


少しスカッとするけどそれだけ…

すぐ自分を責める気持ちがすぐに湧き上がってくる


辛い…


もう一度殴ってみた


スカッともしない…


痛みもあまり感じない


こんなんじゃ駄目だ


俺が死にかけた毒物なんてここにはない

作り方も分からない


首が急所…

自分の首を何かで締めれば

死ねるかもしれない


そう思いその辺にあった布をかき集め

ぐるぐると輪っか状に巻いていった




こんこん



扉を叩かれた



俺の緊張感が一気に膨れ上がる

作っていた輪っかをとっさにしまう


メルサか…

気難しさと少しの嬉しさ…

二つの感情が入り組む


死ぬことを考えいる最中

メルサが来て嬉しさの感情が浮かぶなんて…

だが、メルサに対して

どうゆう対応をしていいか分からない


ノックは一回だけ

そのまま扉が開かれることがない


恐る恐る扉に近づき

ドアノブに手を掛けた


何て言おう…

ごめん…も違うし


ゆっくり扉を開く


そこにいたのはテンだった


俺は安堵で気が抜けた

「どうしたテン?

わざわざノックするなんて珍しいな」

「ま、まあね!

オーグンと話ししたいことがあったし!」

「なんだテン!

俺の恋愛相手は女なの知ってるだろ ははは…」

「まあ、それにも関係があることだ」

「は…」


な、なに?

メルサとのことテンにバレていたのか?


俺がメルサを追い出してしまったようなものだし

なんていわれるんだろう…


それともテンも告白していなくなるのか…


「お、おう…」

とりあえず冷静になるため俺は座り

テンも少し離れたところに

同じ向きで座った


………


気まずい沈黙が場を制す


「なぁオーグン…」

テンが口を開く

「おいらたちって友達…だよな?」

「ああ」

やっぱりテンもメルサみたいに

告白していなくなるのか…


それは避けなくてはならない…


「い、イルスは元気にしているのかな?

あいつが人間の大陸を沈めたなんて

今度会ったら叱らなきゃだな!」

「イルスはもう長い眠りについているし

もう目覚められないかもって

自分で言ってたじゃないか」

「あ、ああそうだな」

「イルスもオーグンにとっては友達だろ?」

「ま、まあそうなるのかな?」

「友達ってなんだろうね…」

まずい話題をそらさなきゃ…


考えれば考えるほど

何も思い浮かばない


話が出てこない…


「オーグン…ごめん、おいら黙っていたことがあるんだ」


聞きたくない

下を向く


「オーグン…」

テンの声色が変わった


見上げるとそこにいたのは

いつぞやのテンの彼女と言っていた人物だった


「ごめん

これはおいらが化けた姿だったんだ

オーグンに言わなきゃと思っていたんだけど

言わない方がおいらにとっても

オーグンにとっても都合が多い

と思ってしまう自分が居て…

ごめんね…

こんな考えじゃ友達失格だよね…」

テンは涙をこぼしながら話しした


俺の目にも涙が溢れてきた


正直テンが隠していた内容なんて

俺にとっては取るに足らない

大したことがない事だった


でもそれ以上にあのテンが

こんなことに悩んで

泣きながら言ってきてくれた


テンが俺の事に感づいていたから

話をしてきたという事もあるかもしれない

でもこの涙は本物だ

本当にテンが俺らと友達でいていいのか

悩んでいた涙だ


俺こそ友達失格だ…

皆のため…そう良い恰好を演じつつ

結局誰も失わないたくないっていう自分のエゴ

自分の事ばかりしか考えれてなかった


テンを信じれていなかった


俺も話さなくてはならない

「テン…ごめん

メルサが居なくなったのは俺のせいんだ…」


テンは俺の言葉は聞くだけ

何も言ってこなかった


でも、俺にはそれで良かった

テンが何を思っていたのかは分からない


テンにとってメルサも友達だ

どっちが悪いとか

どうすべきとか言われても

複雑になるだけ


ただ話せたのだけ良かった



俺らは一晩中泣き笑い語り合った


一番衝撃だったのは

「お前もメルサのようにいなくなる

覚悟で来たのかと思った」

と言ったら

テンはいきなり美しい顔で服を脱ぎだした

そこには御子を見た時と同じものが

ついているのかと思ったら

何もなかった


美しい…が


特に興奮もしない

「前も言ったかもしれないけど

おいら無性なんだよ

だから性欲が溜まったら

おいらが相手してやってもいいぞ」

俺の空いた口がふさがらなくなった

丁重にお断りさせて頂いた





俺のプライドが邪魔していたんだ


話すだけ…

それだけですごい楽になる


昨日死のうなんて思っていた

自分が馬鹿らしくなった


ウィンザードに一人で抱え込むのはいけない

と言っておきながら

自分が抱え込んでしまった…

一人で抱え込むと

こうまで追い詰めてしまうのか…


「そうか

以前お前らしくいて良いって言ったのも

お前だったのか」

「おいらも今の今まで

言えなかったんだけどね ははは」


初めてわかった

これが真の友

自分を隠して都合の良いこと

だけの付き合いでなく

良いも悪いひっくるめて

お互いを尊重しあえる


馴れ合いではない

嫌なことは嫌と言える関係

何かあったら何でも相談できる仲間



そうだ ウィルとはまだ

そうゆう関係に慣れていない

あいつに出来ないことなんてないと思っていた


でもそんな人はいない


誰しも万能なんてない

ウィルは今一人で抱え込んでいる


そしてメルサも


俺は帰らなくては


その前に強くならなくては


ウィルにメルサに顔向け出来ない



御子の所に行った

「顔が変わったな…どうだ?

私とまた一戦やるか?」


「別に強くなってないけど…」

そう答えつつ御子が袖に

手を引っ込めたのが見えた

俺は一歩下がると

御子が以前と同じように攻撃してきた

同じ攻撃…躱せる


「ちゃんと周りが見えているようだな」

と言いながら

俺の胸に手を当ててショックした


「うぐっ…」

内臓にしびれるよな刺激が突き刺さる

身体のバランスを乱され内臓が痙攣する

と同時に理解した


これはただの掌底なのだと



御子が俺をバシッと蹴ると

痙攣と痛みは消えた


ただ俺の攻撃との違いは

俺は力任せに殴っていた


だが彼女のは触れられた瞬間

何とも言えない

安心感みたいなのが全身に広がり

無意識に護る気すら無くさせ

無防備の内臓に衝撃が突き刺さる


そしてその安心感とは

昨夜テンと語り合ったときに感じた

それと同じものなのだと


『氣』とは…『魔素』とは

そうゆうものなのか

俺は一人で戦っていた…

でも戦う事は相手がいる


俺らは地面草木空気に至るまで

すべて密接に関わっているんだ


それこそテンが相手の心を読むから強いように


大昔イルスはその理を

私利私欲で壊そうとした人間を

滅ぼそうとしたのか

そしてウィルも…


「まだ、お前は弱い…

だが、まあ理解もしたようだし良いだろう

お前も帰るか?」


「ああ」

ようやくウィルと肩を並べられる

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