第38話「分かれ道」


こんこん


誰かが扉の戸を叩く



誰だろう…?

テンなら「オーグン居るか?」とか

言って入ってきそうだ

ウィンディはわざわざ戸を叩く

なんてしないだろう

そもそも俺のとこに来るなんてないだろう


まさか御子が…

俺を慰めに来てくれたのか


あの子は俺に経験がないことを憐れんでいた


御子はそうゆうことに慣れているのか?

御子が初めてなんて

俺は初めの頃からしたら

考えもつかないだろう


ようやく夢が叶うのか…


「ど、どうぞ…」

声が震える…

落ち着け

男らしく振舞うんだ


きぃーっと扉が開く


そこに立っていたのは…


メルサだ


最近見なくなった少し派手な服を着ている


少し残念な気持ちになりつつ

メルサが帰ってきたことに安堵した

「メルサ!どこ行っていたんだ?

みんな心配していたぞ!」

「………」

「メルサ?」


メルサの様子がおかしい

なんだろう…

メルサは今まで綺麗な感じだったが

今日は可愛い


いや、待て!

仲間にそんな感情を抱いていいわけがないだろう

沈まれ俺の心


「オーグン…私…もう耐えられないの…」


俺を試しているのだろうか?


駄目だ…

反応するな息子よ


メルサは仲間だ


絶対にそうゆう関係になってはならない

ウィルやテン、ウィンディに気を使わせてしまう

皆の顔を思い浮かべるん…


「あう…」

メルサがいきなり抱き付いてきた


俺はすぐさま必死でメルサを放した

俺の身体に当たった柔らかい感触など知らない


「め、メルサ…いきなりどうしたんだ?

酒でも飲んでいるのか?」


以前酒を飲んだメルサが

俺のベッドに潜り込んできたことがあった

俺は寝ていたため未遂で終わったが

地獄のような空気を今でも覚えている


あの時万が一事を成してしまったとしたら…

冗談でなく

俺はこの世界で生きてはいけないだろう


だからこそ俺は俺を

絶対に制さなくてはならない


俺は気を静めるために

深く深呼吸をした


俺の決意がメルサに伝わったのか

メルサはさっと振り返ると

何も言わず

振り返らず部屋を出ていった


今回は惜しいことをした

とは思わなかった

俺の行動が正しかった


メルサは俺らと会うまでは

そうゆう行為を頻繁に行っていた

だが俺らと行動するようになってから

おそらくしていない


メルサの一瞬の気の迷いだろう


明日は今まで通り


緊張が解けると

押さえていた分

下半身一点に緊張が集まった


自分へのご褒美として

先ほどの抱き付かれた

胸の感触を思い出して抜いた

それくらいは許されるだろうと

優越感と罪悪感を噛みしめながら


この上ない快感で


成し終え ふぅと落ち着くと

明日普通にメルサに接せる気がした

メルサも自分で発散できたはずだ


俺は自分に成長を感じていた




それからメルサが俺らの前に現れることは無かった



あの出来事以来

メルサは俺らの前に顔を出さない


俺は普通に振舞う準備は出来ているのに

「メルサさんどこに言ったんだろう」

最近ウィンディが良くぼやくようになった


「この国に来てから見てないね

流石に心配になってくる

オーグン何か知らない?」

「い、いや知らないな」

テンが俺をのぞき込むようなしぐさをし

「そう…」と言った


やはり俺のせいなのか…?

いや、あの時の俺の対応は間違っちゃいない


メルサに会いたい…

会えないほどに会いたくなる

何なんだろうこの気持ちは…



ここ数日

メルサの事が気になり

全く身の入らない稽古だった


「オーグンよ

私らの国には色街というところがある

行ってみてはどうだ?」

「色街?」

「ああ、事を成すために人が集まる場所だ

お前も溜まっているのであろう?」


色街…

人間の女の子と事を成せる…

しかも変なしがらみがなく

なんてすばらしい

普段の俺なら絶対に飛びついていたはず


それを思うと

メルサの顔が

今まで楽しそうにしていた

メルサの顔が脳裏に浮かび

なぜかそうゆう気持ちが一気に失せた


「い、いややめとく…」

「な、何故だ!?

お前は私…興奮していたくせに!

あんな…お前にとって最高の場所ではないのか!?」

珍しく御子が熱く語っている


確かに今まで色街なんて概念は無かった

むしろあったなら

ここまで旅を続けてこなかっただろう


この国は番も無ければ

あの行為を本能より快感で考えている

俺にとってはこの上ない場所


「じ、実は…」

俺は姿勢を正しメルサの事をすべてを話した




御子は黙って話を聞き終えると

俺の方にゆっくり歩いて来た


水色の下着が見えたと思ったら

頭にとんでもない衝撃が走り


次の視界には

俺の目の前に御子の綺麗な足と床があった


「お前はそれでも男か!」

頭の上から御子の怒号が聞こえた

見上げようにも身体が動かない


「メルサが勇気を振り絞って伝えたことを

お前はないがしろにしたんだ」

「み、御子…でも俺は…」

「お前は自分の事すら全く分かっていないんだ

だから強い身体を持ちながら

私にすら勝てないんだよ」


俺の事…?

俺は皆と楽しく過ごせば良い…

ウィルと喧嘩し

テンが間に入って

ウィンディに罵られ

メルサとも…


そんな日々が送りたいんだ…

だからウィルと合流しなきゃ


「ちっ…見つけてやるから今すぐ謝って来い!」

精神集中をする御子

「なぁ御子…何でそんなに怒ってるんだ?」

「この国は番が禁止なわけじゃない!

むしろ色街に来ないで番で暮らしている人もいる

そうゆう人は色街にわざわざ来ない!」


メルサの声が一層高ぶっていた


「あの雰囲気…いた!おや?」

「な、なんかあったんか?」

「いたはいたんだが…」


今までの声色が一気に変わり静かに複雑になった


な、なにがあったんだ…?

これって俺がメルサを

ふったってことになるのか…?

メルサは傷付いて…自暴自棄になって

俺の中で最悪の想定が浮かんでくる

「ま、まさか」


「ああ…」


「そ、そんな…」


「…メルサはウィルといるぞ」


…!?

な、何で…?

なぜか胸が締め付けられる


最悪の想定では無かった

安堵すべきことなはずなのに

息が苦しくなる


「はっ 確かにこんな使えない男より

ウィルのほうがまだましだろうな

うん…とまあ…それはいいや

ウィルも頃合いか」

「ち、ちょっと待て」

「ウィルを元の場所に帰すんだ 

お前は駄目だ 

私は弟子を取ったら

徹底的に鍛え上げなくては気が済まん

ここを出て行こうものなら殺すぞ」


御子は行ってしまった

何が悪いのだろうか

しっかりと立ち振る舞ったはず

まさかメルサが俺の事を

本気で好いていたとは思わなかった


何でウィルとメルサが一緒にいるんだろうか…

ウィルを帰すって言っていたけど

メルサはどうするのだろうか…?



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