第37話 「ヒトを滅ぼし龍」

修行は俺が思っていること

とは全く違った


男女の仲…ではない

スパルタ…でもない


ただ動くな 座れ

と言われ放置…


御子は何かをひたすらに唱えている


人間が使って魔法を使う時

使っていた詠唱と似ているが

少し違うような気がする


俺は何をさせられているのだろうか


男女の仲になるまでの儀式なのだろうか

この儀式が終わったら御子が先ほどの所を…

ムフフフ…


バシィッ

そんなことを考えるたびに俺は叩かれた


人間の女性が叩いたとは思えないくらいに痛い…

俺の身体がこんなもので痛むはずないのだが痛い


しかも肩を叩かれている筈なのに

肩は痛まず

お腹の辺りが痛くなる


彼女は魔法とかも使わず

普通に叩いてるだけなはずなのだが


これが彼女の秘密なのだろうか…

秘密と言えば先ほどの秘密…今度は上も…


バシッ


そうして一日目の修行が終わった

何をしたのかも分からない


辛いがそれは肉体とは別の辛さだ


修行後は自由時間なのだそうだ


皆街に降りたのだそうなので

皆を探すことにした


街は言葉で表せないほど凄かった

何の鉱石か分からないが

綺麗に形作られた大きな建物

魔道具?で空飛ぶ乗り物

舗装された道

しかし木々などの緑が文明と喧嘩するでもなく

調和している


人間は人間だが

ウィルの国とは少し違う

何が違うと言われると分からないが

外見は服装が違うだけ


女の子たちが美しいのに変わりはない


人間の中で明らかに浮いているテンは

すぐに見つかった

メルサはいない

流石に目立ちすぎるからだろうか


ウィンディが騒いでいるところ

テンが宥めている


「ちょっと!

なんで売ってくれないの!?」

「ですから何度も言っているように

売れませんって」

「じゃあ、これ売るわ!」

と、身に着けていた指輪を差し出す


「何言ってるんですか?

勝手な売買は禁止ですよ

そんなことも知らないなんて

あなた達どこから来たんですか?

怪しい動物も連れていますし

いや…でもこの鉱石は…」

「何意味わかんない事言っているの?

私にたてつく気?」

「ちょっとウィンディ

やめようよ…

騒ぎはまずいって」

「な、」

俺が近づくと

店の店主は青ざめた顔をした


「な、なんだお前は!

俺の店を襲いに来たのか!」

そういうと

引き出しの中から取り出した何かを

俺らに向けた


「おい!

オーグンなんか嫌な感じがするぞ」

テンがそういうと


「やめろ! 

私の客人たちだ」

後ろから御子の声がした


「こ、これは一宮様…」

御子は俺らの間に入ると


「成り立ち歴史が違えば文化も違う

ウィルは街へ降りなかったから

失念していた」

と御子は頭を下げた


「一宮様の客人という事は…」

店主は失神しそうなくらい

より青ざめた顔をした

「ああ、迷惑かけたな」


そんなに俺が怖いか?

この子にすら

掌で踊らされている俺が…




陽が落ちてきたので

俺らは山の中の社に戻った

街はこの場所から見ても分かるくらい

煌びやかに光っている


相変わらずメルサはいない

どこ行ったのだろうか…

メルサの事だから

心配は無いのだが


御子から食事が出された

小さな川魚一匹と炊いた穀物

それだけだった


「ちょっとこれだけ?

あたしお腹空いてるんだけど」

こっちへ来てから

何も食べていない


ウィンディが文句を言いながらも

真っ先に手を付けようとしたら

御子がウィンディの手を叩いた


「痛い!なにすんのよ」


「まだ感謝の儀が終わっていない」

そういうと御子は手を合わせ

また何か唱え始めた

「我らを司さどりし……

恵みを与えて頂き

感謝いたします」


「修行の時から思っていたが

それはなんなんだ?

誰に言っている?

その料理を作ったのは御子だろう?」


「お前はそれが分からないから

私より弱いんだ」


「頂きます」

御子は食べ物に頭を下げるとゆっくり食べだした


テンも少しむくれたウィンディも

それに倣い食べ始めた

俺も見様見真似で頭を下げ

恐る恐る食べ始めた


「ウィルからそっちの事は聞いた

数千年前ウィンザードから聞いた話

この国に伝わる歴史を話そう」


「箱舟ね!」

ウィンディは得意げに答えた


「そうだ

お前はウィルの妹だってな

あの話は基本的に間違っていない」


「そうなのか?

ウィルは嘘っぱちだって言ってたぞ」

テンがそう言うと


「ああ、あいつは信じていなかったな

だが、お前らも感じただろう?

この国はお前らの国とは違う」


俺らは頷いた


俺らの大陸では姿形違う種族が

似た文化で生きている


しかし、ここは同じ人間が

姿なき者に祈りを捧げ

見たことのない家を建築し

知らない魔道具を使い

通貨が無い


違う文化…


「私たちはウィルの国と

同じような歴史を辿った

自分だけの利益を考え おごり

人間たちで争い

世界の秩序を変える兵器

お前らの言う魔道具を使いまくった

しかし

それは同じ星に住むものとして

許されるものではなかった

隣の大陸に住む

空を飛ぶ巨大なトカゲたちによって

大陸は海に沈められた

人間のほとんどはそれで死んだ

箱舟はその後の生き残った者の物語

一度箱舟はこの島に寄った」


「空を飛ぶ巨大なトカゲ?

オーグン

それってイルスの事じゃないの?」

「なんかはぐらかしていると思ったら

あいつがやったのか…」


「知り合いか?

あれは人間が愚かなだけだったのだ

小さなこの島は

たまたま彼らに目をつけられず

沈まなかった

それから私たち一宮を統率の要とし

万物平等を信念とし生きてきた

個人の利益になる行為を一切禁じた

今となっては風化しつつあるが…」


「あたしはこの国に関係ないから

普通に買い物したいんだけど」

ウィンディ…話を聞いていたのか…


「ああ、観光を提案したのは私だ」

と御子は懐の中を探ると数枚の紙を渡し


「これで服の一式は揃えられる

好きな食物も食べれるだろう」


「御子さんありがとう!」

ウィンディは満面の笑顔で感謝をした

これがこの子の武器だ…

そんな顔で言われたら

俺なら完全に僕と化す

彼女もそれが分かっているのだろう


「ああ」

御子すら悪い気はしていないのだから

末恐ろしい



俺らは社内に用意された部屋に

それぞれ案内された


前回危ない思いをしたから

まとまって寝た方が良いのか

と一瞬思ったけれど

今回はウィンディちゃんもいる

別々の部屋でよいだろう


あの時は無意識に

防衛本能が働いたのだろうか…?


無意識の防衛本能…?

戦いとかに使えるのか…?

気…?


御子にやられたのは

思考を読まれたからだと思っていたが

それ以前の問題だったのか…?

そもそもこうゆうのって鍛えられるものなのか?


御子はそれが分からないから弱いと言っていた

食べ物に感謝することと同じなのか


全く分からない


修行と言っても別段疲れることはしていない

あまり眠気が来ない


強くなるための事…

今まで考えたことが無かった


考えなくても普通に戦っていれば

負けることはほぼなかったからな


でも

テンの腕が切られ

皆が殺されそうになった

俺はあの時何も出来なかった


俺は強いと思っていたが

それ以上の力を持つものには敵わない


でも、俺よりはるかに弱いはずの御子は

俺よりも強い


やはり力の問題じゃあない


ここで御子に修行をつけてもらえることに感謝だ




こんこん


誰かが扉の戸を叩く…


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