第33話「境界線」
ウィルがいる場所…
心当たりはない
だが情報を得る場所の心当たりはある
以前行ったことのある悪魔軍の村だ
パズズ襲来の時も拠点になっていたところ
おそらくそこに今回の襲撃に参加した悪魔がいるだろう
ウィルもこっちに帰ってくるつもりなら悪魔の村にいくつか寄っているだろう
そしてあの鎧の兵士の謎
あの兵士はどんなやつなのだろうか…
道中、人間の国の門の近くを通った
中に居た時は分からなかったが壮絶なものだった
他種族の侵入を阻むための跳ね橋は壊され
塀はボロボロに崩れ落ちていた
そこら中に悪魔と人間の死体が転がっており
異臭を放っている
あの鎧の兵士が暴れた跡なんだろう
そこら中の地面や塀に切られたような跡があった
俺たちはそこであるものを見つける
「なぁ オーグン、この甲冑って見覚え無いか?」
テンが指さす死体の甲冑に確かに見覚えがあった
「ああ…ウィルを迎えに来ていた兵士のやつだ」
それは兵士長コウセイの物であった
顔はもう判別できない位腐っているが
覚えている
比較的友好的な奴だった
「知り合い?」
横からウィンディが話しかけてきた
この娘はこのような場所でも普段通りだ
いや、話しかけてくるのは初めてだ
少しは思うところがあるのだろう
と思っていたが足で砂を蹴りコウセイの遺体にかけた
「ああ!な、なんてことをする!?」
「何言ってるの?死んだ人は土に埋めて埋葬するのよ
人間では常識よ」
そうなのか…
人間には埋葬の風習があるというが
それにしても心が痛む気がするのはなぜだろう…
「ウィンディちゃんせめて手でかけてあげては?」
「だって、メルサさん
手でやると汚いじゃない…」
…段々ウィンディが本性を現してきた
メルサを相変わらず尊敬しているのは同じだが
振舞いや言葉にとげというか
素直というか
まあ、取り繕ったり欺こうとしてくるよりはましだが…
俺たちはコウセイを土に埋めその場を後にした
誰かが誰かを殺す戦争
分かってはいたけどやはり気持ちの良いものではないな…
メルサの案内で人間の国から一番近い村に到着した
思った通り
ボロボロの悪魔軍の兵士達のうめき声が聞こえている
「ちょっとそこどくなりぃ
次の怪我人が待ってるなりぃ…ん?」
そんな慌ただしい中
この子供のような声と言葉…
これまた聞き覚えがある
だがそれは最近の事だ
「お、お前はオーグン!!
何しに来たなりぃ!?
まさか置き去りにされたうらみか!?
?何でもうここにいるなりか?
今は頼むからやめてほしいなり!
身体目当てでも今は駄目なり!」
失礼な…
俺はそこまで幼い子に興奮はしない…
でも待てよ…ウィンディが10代でこの鳳凰が2000代以上
ウィンディにはバリバリで鳳凰はまだ…
俺の境界線はどこなんだ…?
っといかん…そんなことよりウィルだ
「やあ鳳凰ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「悪いなり…
今はそれどころじゃないなり
人間に想定外の強い奴がいてボロボロなり
頼むから暴れないでほしいなり
いづれ身体でも好きにするなり!」
「いつなら良い?」
「お前も好きなりな!
妾の身体を抱けるのなり
光栄に思うなり」
違う…
勘違いされているって
困るんだな…
俺も散々困らせてきたんだろう
申し訳ない気持ちでいっぱいだ
「お前の事じゃない
色々聞きたいことがあるんだが」
「あ、そっちなりか
けっ…!
後、瀕死なのは白だけなり
それが終われば少し落ち着くはずなり
あっ…黒ならもう起きてるはずなり
そっちと話してくれぬかなり?
オーグン暴れない、強姦しないなんて 中々いい奴なりな」
「そんなことしねぇよ
確かに置き去りにされたのは許せないが
この状態じゃな…」
「意外と良い奴なり
黒はそらへんにいるなり
ありがとうなり」
鳳凰に言われた方向を探すと
全身傷だらけ弱った玄武が横になっていた
玄武は俺らの方をチラッと見ると
また天井を見上げた
「儂はこれでも戦いには自信があったんじゃ
最もお前らと正面から戦ったら負けるだろうが
打たれ強さには自信があったんじゃ」
「おい、亀じじいあんたのことより…」
ウィンディちゃんをメルサが制した
確かにこの調子だとウィンディは何を言い出すか分からないが
確実に悪い方に転ぶだろう
ウィンディちゃんはぶすっとしている
ウィルより年下ってことはやっぱりほぼ子供だもんな
俺の境界線は…?
「あれは怪物じゃ
一撃じゃった
何をされたのかも分からん
たった一撃で儂の記憶は途絶えた」
「なぁ玄武、あいつは何者なんだい?」
テンが聞く
「お主らも戦ったか」
「ああ…俺よりも強かった」
「そうか…オーグンでも敵わぬか
やはり…そうか…」
「じじい、奴はなんだ?」
「三大魔族のオーガ族長オーグンで敵わぬということはウィルでもイルスでも敵わぬということ
つまりは生物ではない
正確には普通の生物ではないということ」
「だから何なんだって?」
「分からぬ…が
人間や魔族ではない
儂ら側の存在じゃ」
「結局わかんねぇのかよ…
まあいい別に戦う理由がないならそれでいいんだしな
それより俺らが聞きたいのはウィルを知らねぇか?」
「ウィルだと…知らん!」
強情爺のようにそっぽを向いた
嘘をついたり誤魔化したりは出来ないらしい
何を知っているのだろうか…
どうやったら情報を聞き出せる?
でもこの感じだと聞き出すのは不可能だろうか…
テンの技だと何とかなりそうだが無理やりも良くない気がする
悪魔とも人間とも争っているわけではないのだから
とここで鳳凰が治療を終えたのか入ってきた
「黒!良いなり!
こいつらはあんな仕打ちをしながら
今の状況を悟って手を出さないでくれたなり」
「朱ぁー
それはウィンザード様に対する裏切りじゃぞぉー?」
「頑固じじいめ
状況は変わったなり
妾達だけでは、いやウィンザード様が帰ってきた所で人間には手を出せなくなったなり!
この場でオーグン達と敵対したら妾達は終わるなり!
いいか、オーグン
ウィンザード様はウィルと会ってるなり」
「朱ぁー!!」
玄武が起き上がり叫んだところで鳳凰が羽に炎を集めた
「ブレイブウィング!」
ぐわあああ
くっ
「老害は黙ってるなり」
玄武は再び寝ていたところで気を失う
「台本に書いた芝居…ではないわよね」
メルサが冷静に問いただすも
「はぁ‥はぁ…そうとってもらっても構わないなり
妾達はお前らに何も出来ないなり」
「で、お兄様達はどこにいるの?」
「ウィルの妹かお前は普通の人間なりな
ここから北東に20キロ程の所にお前らを呼び寄せたあの三角があるなり
そこにいるなり」
「嘘じゃないわよね」
「嘘じゃないなり
20キロじゃ往復したところでまだ妾達はここから動けないなり
そのときは妾を煮るなり焼くなり好きにするなり」
俺らは鳳凰を信じ言われた方角へ向かった
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