第32話「ウィンディ」


ウィンディ編



私は何のために生きているのだろうか

お兄様が次期国王となるのは周知の事実


私はついでに生まれてしまったのではないのか

もしくはお兄様に何かあった時のための

いわば予備


だがそのことに不満はない

理由なんてないが国王になんてなりたくない


私はこの生活に満足していた

庶民たちは食べるのに困るが私は困らない

奴隷たちは寝るのにも困るが私は困らない


たとえお兄様が国王になっても生活は変わらないだろう


おじ様は食べたら寝るだけの生活でブクブクに太り早死にした

私はそれでも良かった



けれど、お兄様に何かあったら次は私が担ぎ上げられる


だからお兄様をを探しに行った


私にだってウィンザードの教えがある

そこら辺の魔物位にだったらやられるはずがない


と思っていた

私が初めて会った他種族はまさかのオーガ

教えでは見えない境界線よりずっと奥に住んでいるらしいのだが…

戦闘能力が高い要注意魔族


動物だか魔物だか人間なのか曖昧…

言葉も通じるのだろうか…?

魔族なんて何を考えているのか分からない連中だ


だが、強さだけなら対面しただけで分かる

私を潰すくらいの存在感が彼の強さを物語っている


体中の細胞がすぐにこの場から離れろと言っている


まさかとは思うがお兄様はこの薄汚い魔族に食べられたのでは


私の精一杯の問いかけにも答えない

オーガが体勢を整える


その瞬間私はその場から声を上げ

全力で逃げ出していた

とにかく全力で


オーガが何か言っていたような気がする


でも今はそんなことどうでも良い


何のために生きているか分からない私でも

自分の命は大事だった



オーガは私を追っては来ず

何とか国の敷地まで帰ってこれた


私を見ると門番の衛兵たちはすぐ背筋を整え礼をする


門を入ると庶民たちが道を空け

跪き

「ウィンザード様 我らに加護を…」

とか言っている人までる


盲心だ

あのオーガを目の当たりにして確信した

ウィンザード教の教えなど糞ほどの役に立たない


奴らを「フン」と一瞥してやった


そんな私の態度を見てか遠くの方で

「兄妹揃って好き勝手してこの国は大丈夫なのかしら」

と誰が言ったか陰口が聞こえた

周りの連中が誰が言ったのか

自分にとばっちりが来ないかと焦っている


私は聞こえていないふりをした

全くその通り

だが、その言葉は私にでなくお兄様に言いなさい


王宮に帰ってもすることは同じ

ウィンザード教えの通り

全く意味のなかった型をやり

後は食っちゃ寝生活


退屈ではある


お兄様みたいに自由に外で生きてみたいとも思う


でも私にそれは出来ないだろう

今日痛感させられた


私はこうして今日も退屈な生活を送っている



そんなある日王宮内が大荒れに


悪魔軍が本格的に人間の王国に攻めてくる

そしてウィルお兄様がオーガと生活しているらしい


兵士の一部はお兄様を探索に行き連れ戻すのだそうだ


お兄様とオーガが生活している…?

少し前にお父様がウィルも誘惑には勝てないか…

と言っていた

まさかこの事だったのか…?


お兄様があのオーガと…

ありえない…

私はしたことが無いが異性とでしかあれは成り立たないはず…


でも、そうしたらこの国の王にはならないという事なのか?



悪魔軍は帰ってきたお兄様とオーガの活躍ですぐに追い返したらしい


このままだとお兄様は一生帰ってこない

私の為にもオーガは消さなくてはならないと思った

王宮に呼び込みさえすればどうにでも出来ると思っていた


だが警戒してなのか、オーガは私の招待を受けるでもなく

またお兄様と旅に出かけてしまったそうだ


それから私は不安な日々を過ごした


特にお父様から跡目の話をされることは無かったが

いつされるのか

断れるのか


そのような事をずっと考えていた



しばらくしてまた悪魔軍が攻めてきた

今回はお兄様がどこにいるのか掴めなかった

悪魔と人間の差は歴然だったらしい

門はすぐに破られ


この国も終わりなのかと誰しもが思っていた時


救世主が現れた


彼女らはこの国で奴隷として扱ってきた肌の色をしていた

この国の秩序に矛盾が生じた


民衆は救世主が悪魔たちを切り倒していく姿に沸いた

この国のあり方に民衆が一気に疑問視した


そこに現場にいたほぼすべての兵士が救世主側に加わった

彼らもウィンザードの教えは意味をなさないと気付いた


他種族と戦い、人間を守るためのウィンザード教

その教えを守ってきた国王一家は国の危機でも一切戦いに加わらなかった


教えを作り長年民衆から甘い汁だけ吸い取っていただけと知らしめることになった


民衆は憤怒し救世主を持ち上げた

そして王宮に侵攻してきた


お父様とお母様は私を王宮の隠し通路から逃がした

後はどうなったのか知らないがもうこの世にはいないだろう


隠し通路の先に一軒の小屋があった

私たちが今までしてきた生活とは180°変わってしまった

明日飲む水、食べる食糧の不安

夜は魔物に襲われないか不安で寝れなかった


一人の生活は苦痛でしかなかった


こんな目に合わせたのは誰だろうか…

元凶はオーガだ


オーガとお兄様が出会わなければ

お兄様が出ていくことは無かった

お兄様が出ていかなければ薄汚い悪魔どもに簡単に侵略されなかった


オーガに対する憎しみでいっぱいになった



そうして数日たった

あろうことか

彼らは突然目の前に現れた


私の目の前が真っ暗になり悪魔とオーガしか見えなくなった


ようやく復讐できる

このオーガを殺せば少しは気が晴れるだろう


剣を抜き切りかかろうとした瞬間


オーガは平伏した


!?


私は状況が理解できなかった

オーガが私に命乞いをしてくる


強さで言ったら私なんてすぐやられてしまうのに…

悪いと思っているのだろうか…


だが、その程度で私の恨みが晴れる事は無かった

オーガの頭を踏みつけ首を切ろうとした


悪魔の女は私の忠告を一切聞かず私に侵攻してきた

薄汚い悪魔族の事だオーガの事などどうでも良いのだろう

私はとにかくオーガを殺せば死んでも恨みが晴れると思っていた


だから躊躇なく切った


はずだった…

が、弾かれた


オーガの皮膚に私の剣は一切通用しなかった


悪魔がどんどん私に迫ってくる

血の気が引き全身の水分という水分が抜けていってる


恨みも晴らせず 何も出来ず私は殺される


恐怖と怒りの震えで立ち上がれなくなった


後ずさりする

この悪魔から遠ざかろうとしてもなぜか後ろに進まない

怖い…憎い…

私はもう死ぬのだ


ここで私の走馬灯が思い返された


薄っぺらい私の人生

オーガを恨み、兄を妬み、悪魔を僻み

自分の事しか考えてこなかった


今になって後悔ばかり浮かんでくる

他人とばかり比べ

他人を使う事ばかり考え

私自身が何かしてこなかった


死にたくない…

と思うも目の前には涙で何重にもなった悪魔の顔があった


私は殺された



と思ったら目覚めると数日過ごした小屋に居た


目の前にはオーガと私を殺したはずの悪魔


でもそれ以上に私の眼に飛び込んできたのはそこら中に干してある私の衣服や生活の跡だった

オーガが物珍しそうにあたりを物色する

恥ずかしくなり叫んだ


ら悪魔がオーガの視線を遮った


私はやはり理解できなかった

こんな悪魔が私の心を汲んでくれるはずがない


そしてあろうことか私の無事を確認すると

私を気遣ってオーガを外へ連れ出した


いや、もうよそう

彼女はいや、悪魔や魔族は薄汚いんじゃない

私たちと同じなんだと

そしてメルサさんも私を自分と同じように扱っているのだと


片腕を無くし熱でうなされている悪魔を見ると

とても愛おしく思えた


グチョグチョの衣服を取り換え奥にしまうと

メルサさんたちを招き入れた


様々な話を聞いた


そして私もメルサさんたちについていきたいと思った


今までやりたかったけど出来なかった事

兄と再会すること


彼女たちと一緒なら叶うと思った


けれどメルサさんの返事はNOだった

私とオーグンの仲を気にしての事…


オーグンの事は色々聞いたがやっぱり嫌いだ

オーグンのせいで兄が出ていったのには変わりはないからだ

私が兄を追いかけていたのも

跡目どうこうの話は建前で

単純に強い兄と同じ景色を見てみたかったからなのかもしれない

兄を妬んでいたが好きであったんだ


それにオーグンは私を性対象としてみている

流石に正面切って言われると気持ちが悪い



メルサさんは私の事を気遣ってくれる

そしておそらくオーグンに私が襲われるのも危惧しているのだろう


だったら私も覚悟を決めなきゃならない


私はオーグンに抱き付いてその覚悟を示した


メルサさんは渋々OKしてくれた


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