第27話「卑」

俺らは王宮とやらに連れていかれた


そこはこの世と思えぬほど装飾が施されている

手入れの整った庭から玄関

どこまで続くのかと思う位に長くきれいな通路


先には俺ですら大きいと思える扉

その扉をチンピラ兵士が開いた


玄関や通路以上にきらびやかな空間

中央には椅子があった


この中央に奉られる感じ…ウィンザードを思い出す


「キンジュ居るか?」

だだっ広い部屋の隅からうっすら物音が聞こえる

「なによう 今いいとこなのに…」


部屋の隅っこから褐色系の中年くらいの女がのそりのそり出てきた

この国に多い白い肌に明るい髪質ではなく

黒い髪質

初めて見る

人間と一括りにしていたがその中でも種類があるようだ


人種とは関係ないのだろう

彼女の雰囲気は地下室が似合うような感じだった


とはいえ外見は全く気にしていないだろうボロボロの服装に反し

空いた穴から時折見せる美しい身体は俺を興奮させるのには充分すぎる

むしろ熟れた果実のような彼女の暗く甘ったるい雰囲気が余計にそそる


そして根暗そうな雰囲気だが分かる


この女は人間の中ではずば抜けて強い


だが、それも人間

一人でウィンザード達を追い返したとは思えない


「ウッ…」

テンの顔が一瞬歪む

「どうしたテン?」

「いや…何でもないよ 気のせいさ」


キンジュはそれを見て友好的な笑みを浮かべてくる


「おや、

鬼さん狐さんと悪魔さんですか

これまた奇妙な組み合わせですねぇ

夜の行為はどのようになさっているのですか?

私は未だ相手がおらず 一人寂しく発散してます

羨ましいですね」


「し、なんも してねぇよ!」

俺らの声が揃った

この女の人はいきなり何を言い出すのだろうか

やはり女性でもそうゆうことを思ったりするのだろうか

てか、いきなり初対面でかましてくるなんて…

この思考が自分にこだました


「あら、オーガも意外と租チンなのですね」

その言葉にショックではなく興奮を覚えている自分がいた

この女の人 俺の相手をして…

と ここでメルサの踵落としが綺麗に俺の足の甲に決まった


痛すぎる…


最近俺が女性に反応するといの一番に畳みかけてくる

ウィルとの約束が効いているのだろうな…

俺を制してくれるのは良いことだ

おかげで冷静になれた


でも、偶には楽しみが欲しいな…


「お、お前ら、ふざけている場合じゃないぞ

人間の国にウィンザードが攻めてくるぞ」

そこから一番に声を発したのはテンだった


「おや?

貴方達正面の門から入ってきたのではないですか

それにウィンザードとは?

人間が崇めていたあのウィンザード様ですか

私もいつか彼に抱かれたいと夢に見ながら…」

ああ、俺の妄想って周りから見たらこんな感じなんだ

そりゃ引くわな

俺は彼女に興奮するが…


「おいらたちは他のやつの魔法で国の内部に飛ばされたんだ

それにウィンザードはそのウィンザードだ」

キンジュとやらは少し考え込む仕草をする


「おやおや

そうでしたか

私達はお互いの情報を共有したほうが利があるようですね」


こそっとメルサが俺に耳打ちする

感じる…

特にこの状況だからか余計に…


「オーグン、彼女の言う通りだけど出すべき情報と言葉には気をつけた方が良いわよ」


「ええと、

私はかつてウィンザード様に遣えていた騎士『黄』の末裔

ウィンザード様達が留守の間

人間の国は統治され

この国では私のような肌の色は奴隷として扱われていた

性奴隷は一度なってみたいものですが…


私達の積年の思いは奴隷解放、平等主義だった


私達は外からクーデターを企んでいる時に悪魔軍が攻めてきた

私が悪魔軍を追い返した

ざっとこんな感じですかね」


俺は衝撃を受けた

この国がウィンザードの攻撃を受けた後の国だと?

彼女がそこまで強いのか…?


「あんたが一人で追い返したのか?」


「正確には私の一族数名

このチンピラ含めたまに国から追放されるやつを匿っています

誰も私の相手をしてくれませんが…」

パッとチンピラ兵士を見ると

ブンブンブンと首を大きく横に振っていた

そんなに振ると首が取れるぞ


まあ…と言うことはウィルは間に合わなかったのか

俺らがウィルを追い越したのだろう


もう一つ疑問があった

「前に人間の国に来た時は除け者だったが

今は邪険にはされていない

何故だ?」


「言ったでしょう?

平等主義だと

絶体絶命のところ悪魔を追い返した実績があれば

頭の硬い老人を除けば私たちの思考は簡単に受け入れられました

誰も私を対象とは見てくれませんが」

何だろうこの強者の卑屈具合

めちゃくちゃにしたいと思うのは

っとここで顔バレしたか メルサから再びお痛い制裁が下る



「ああそうさ

前回の戦争でもあんたらの活躍は密かにしれ渡ってたからな

そこまで邪険にされはしないだろう

まあ俺は私利に駆られて返り討ちにあったんだけどな

あっはは」

お前の卑屈はいらない


テンの機嫌が良くない

そりゃそうか

テンにとっては正にトラウマの存在だろうからな


ただ、今は悪意の様なものはあまり感じない


パッとメルサを見た


メルサは首をかしげた

隠してる情報も嘘もおそらくなさそう


黄と言っていた

クーのところにあった日誌に出てきた言葉だ


まさか悪魔ではなく人間だったとは


「ええと

他に質問がなければあなた方の事を聞きたいのですが」


「ウィルの家族が王族だったと聞きましたけど

クーデターってことは全員殺したのかしら?」

メルサが直球の質問をぶつけた

確かにここにはウィルに似た人間がいない

失念していた

ウィルの家族を殺したとあらば話は別…


「殺していないです

信じてもらえないかも知れないが

私達が前線で悪魔軍を追い払い

前線の人間軍を見方につけ奴隷の人を味方につけここに来た時には王と王妃が自害していました


市民もそれまではウィンザード教を信仰していたが

それも自分に降りかかる火の粉を払うため


今回のように教えが危機に何の意味を成さなければ信仰の意味もないです

おそらく王も王妃もそれを知っていたのでしょう

クーデターはあっさりと決着がついてしまいました

皆に私の事知られても誰も相手してくれませんがね…」


俺らは顔を見合せた

メルサとテンがいる二人が嘘だと認定しないってことは

おそらく真実


俺らは前回の戦争で王宮に招待を受けた事を話した


「行かなくて正解ですね

王らは自分を守る為に何癖つけて魔族は悪いやつだと印象付けたでしょう


それこそ強姦等に見せかけて…

私はされてみたいですが…


王らの恐ろしいところは欲を利用する所です

私たちにとって抗いようがないですよね」


俺は血の気が引いた

確かに女を用意すると言っていた

あそこで欲望のまま振る舞っていたら人間の魔族嫌いは取り返しのつかないことになっていたのではないか…


「あ、けど、あんたらと居ないってことはウィル様は行方不明、ウィル様の妹も見つかっていないぜ

一応気を付けときな

どんな形であれ俺らが追い出したのは事実

魔族へも恨みを持たれているだろうからな」


俺らは今までの経緯を全て話した



「おや…

そうですか…

ウィンザード様が悪魔王…

複雑ですが理解できます

闇落ちしたとはいえ代々受け継がれてきたウィンザード様の人物像ともつながります

ですが人間が永年信仰してきた人が黒幕とは

そして女性だったとは…

私の心中は複雑です


私たちが相手をしたのはかつての先祖の仲間 白い白虎と赤い鳳凰でしたが

貴重な外の魔族の状況感謝します」




「もう暗いですし今日はここで寝て行ってください

あなた達みたいなのが夜道に歩いてたら流石に怖いでしょう

ここはだだっ広くて部屋なら沢山あるから


オーグンさんは私のお相手してくださる?」

俺を誘う言葉…

正直この話のって襲いたい…

でも罠だ…これは見て分かるくらい単純な罠だ


俺の苦悩する表情をテンとメルサが蔑んだ顔で見てくる


「うっ……や、やめときます…」

「そう、残念…

また私は一人寂しく寝るとします」



こうしてすんなりと人間の国に入ることが出来た


正直この人がクーデターを起こしてくれたのが大きい

俺ら魔族への偏見が薄れつつある


後は明日からウィルを探しに行こう

流石に怒るだろうか…

いや、ウィルは俺らが止めなくては


ウィルが受け入れてくれたらようやく夢が叶う


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