第26話「異変」


変態ジジイが人間の国に瞬間移動させてくれることとなった

なんだかんだ言ってもここのやつらは命の恩人だ

行き倒れていたのを助けてもらい

移動までサポートしてくれる

この上ない厚意だ


「お主等人間の国に着いた後どうするにょ?」

「ウィルと合流し、もう一度ウィンザードを探し出して止める」

「………そうかにょ」

妖精王は少し考え込み頷いた


「よいかにょ?

一度送ったら向こうで何が起ころうが知らないにょ」

俺らは頷く


「じゃあいくにょ お主等手をつなぐにょ」

俺はテンとメルサと手を繋いだ

自然と頬が赤らむ


ここで思考が別方向に向く

いや、待てよ

以前送られたときは湯浴み場だったな…

突然すぎて全く目に入らなかったが人間の裸がいっぱいだった


もしかすると今回も…?


俺は目を見開いた

一切の見逃しがないように

今回こそはあの花園を脳裏に焼き付けてやる


テンとメルサは俺の顔を見ると苦行の表情を見せた


そんなに俺は分かりやすいだろうか…


「いくにょ」

と俺の肩にしっぽを乗せた

俺はそこから一切の瞬きを制した


目をあけろ

全ての景色を脳裏に焼き付けるんだ


時空が歪む感覚

ウィンザードが移動したのを味わっている感じだろう

目の前の光景が歪み、虹色に彩られる

そしてまた目の前の光景が歪んで

視界が整うと湯浴み場に居た


目の前には… 

いちもつ?

周囲の視線が一気にメルサに集まった


周りを見渡すと裸の人間…


の男…


俺は絶望感に打ちのめされた


「うおおおお! なんだ?」

「魔族がいきなり現れたぞ」

「て、敵襲か!?」


嫌なものが脳裏に焼き付いた

毎日散々見ては使いどころが無く落ち込んでいた毎日を思い出す

いや、今もそうだが…


「あ、悪魔の女もいるぞ」

「なんなんだ…みるなぁ」


パニック状態になった湯浴み場をすぐに出る


外に出ると何度も憧れた人間の国の内部だった


きらびやかな建造物

活気のある商店



そして美しい女性たち



夢にまで見た光景はまさに夢のようだった


外に出た俺らを人間は見るとギョッとするも意外と騒ぎにならなかった


俺らを見て手を合わせ頭を下げている者さえいる


「あれ…何かおかしい?」

「どうしたオーグン?

人間の国が平和ってことはウィンザードがまだせめてないってことだろう?」

「いや、俺が前来た時は門の前にいるだけで大騒ぎだったんだが」


テンは少し顔を歪め過去を思い出す


「…確かにそうだね… 僕を見ても誰も襲おうとしてこない

何か違うね…」



湯浴み場から一人半裸の傷だらけの男が出てきた

テンが身構える

そいつは知った顔だった

嫌な思い出が蘇る


「よぉ オーガ久しいぶりだな

いきなり風呂に現れた時はおしっこ漏れるかと思ったぜ」


こいつは、いつかのテンを襲ったチンピラ兵士

でも、国には戻らなかったはず

人間の掟は違うとはいえ そうそう許される者なのか?


「そう警戒すんなよ ってか必要ねぇだろ」

「…前の人間の国と大分雰囲気が違うな」

「ああ、そうだろう 

あれから戦争とクーデターがあったんだ

トップが変われば中身も変わる」

「戦争?クーデター?

もしかしてウィルに間に合わなかったのかしら?」

「ウィル…様…?

悪魔の可愛いねぇちゃん あんたは初めましてだが

ウィル様はあんたらと一緒に行動していたんじゃなかったのか?

まあいい

ここじゃなんだ旧王宮で話でもすっか

あいつもあんたらには興味があるだろう」


状況が全く分からない…

戦争があったってことはウィンザード達は攻めてきたのか?

ウィルが間に合わなかったってことは人間の力だけで悪魔軍を追い払ったのか?

いや、流石に前回の苦戦を知る身としては考えられない


それいクーデターとは?


チンピラ兵士も前回と違って敵意はなさそうだ


とりあえずついていこう




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