第22話 「目無し」


目を覚ますと

俺は泉にうかべられてる


「ここはどこだ?

メルサ!?テン!?」


「めーざめたかにょーん」

どこからかとてつもなくふざけた声が聞こえてくる


「誰だ!?」


目の前に無数の光がホワホワと浮かび

中心がパッと光るとそこに現れたのはムーでもクーでもない

ふた回り位小さく

目も見当たらない

手足も無い

彼らより長いしっぽを靡かせている

そもそもあいつらは喋ることが出来なかったしな


ふざけた話し方しなけりゃ

優雅という言葉が似合うだろう


良く分からないこいつは

しっぽを靡かせながらくるくる回りだし

「わーしはーあ

ババババーン

妖精王!!」

決めポーズなんだろうか

顔をを空へ向け

目が無く表情が無くても分かる

自分に酔っている


「他の仲間はどこ行った?」

こんなふざけたやつを相手にしてる暇はない


「さぁーにょーん」

「なに!?」

「そ、そんなに睨むなにょん

良く回りをみるにょん」

周りを見てみると俺がうかべられていたような泉が数個あり

その中の一つ、裸のメルサがうかべられているのを見てしまった

すぐに視線を外したが脳裏に焼き付いて離れない

もっと見たい衝動に駆られるもなんとか抑える


俺も裸の一貫だった

さすがに裸で興奮するのは恥じらいがある


静まれ俺の魂…

今はそれどころじゃない

ウィルがピンチなんだ…


うぐぐぐ…

ダメだ、反応するな俺の身体…

こんな時は逆の事を考えるんだ…

一番萎えた事…

親父が風呂上りに裸で腹踊りをしながら母さんに迫った時の事…


「ふ、ふぅ…

おさまったか…

あんたが助けてくれたのか?」


「そ、そうだにょん

なに葛藤してるのか知らないけど

森の入口で倒れていたのをここまで運んできたにょ

睨まれる筋合いなんてないにょん!」


裸のメルサを視界に入れないように他の泉を見ると

遠くの方でテンも泉に浮かんでいた


「そうか、ありがとう」

「素直なやつはすきだにょ」

「何で俺は裸なんだ」


妖精王は呆れるように

「はぁ…お前はやはりバカだにょ

少しは話が分かるやつだと思ったがやはりバカだにょ

服は沈むにょ」


なんだこいつは…

バカバカ言いやがって…

「ここは妖精の泉

バカでも分かるように言えば

身体が治る泉だにょ

まあ、バカは身体が強いからすぐ目が覚めたが

こいつらはまだ無理にょ」


「なっ

俺らは早く人間の国に行かなきゃ行けないのに」


「だから無理にょ

そもそもバカとこいつらが一緒に倒れた時点で

こいつらが生きてたのが不思議にょ」


「うっ…」

言われてみればそうだ

俺とテンとメルサだと体力が違う

俺ですらきつかったのだから二人はギリギリだったのだろう


「まあバカの中じゃ賢い方だにょ」

「さっきからバカバカって

お前もしかして俺らの事何か知ってるんだろうな?」

「ドキン

しししししらないじょん

わわーしは賢いから見ただけでそいつが馬鹿かどうかわかるのだじょ…」

妖精王が動揺すると同時に

周りの小さな妖精たちもわらわらと庇うように動き出す


「ドキンって…お前嘘つけないんだな」

「無礼だにょ!」

こいつらは以前の悪魔との戦争のとき

魔法使いの人間が使役していたのと同じ感じがする

一体どうなっているんだ…?


「バカはバカなりにここらでなにも考えずゆっくりしてるんだにょ

こいつらもそのうち起きるにょ

それまで余計な詮索をするなにょ」


そう言うとぶん!

と消えていってしまった


と同時に空からバサッと火の鳥が現れた

こいつは見たことがある

ウィルと居るところを注意してきた鳥だ


火の鳥は俺の前に来るとプイっとそっぽを向いた

前、石をぶつけて気絶させた事を根に持っているらしい

バサッと飛び立っていった


何しに来たんだろうと思っていたら

プイッとこっちを向いてきた

「何をしている

お前はここで過ごすつもりか

客用の場所があるからついてこい 馬鹿」

なんともとげのあるような言い方

まあ、あんときは俺も悪かったからな


「前、小石をぶつけて気絶させた事は悪かったな

すまん…」


火の鳥の顔が余計に歪んだ

あ、めちゃくちゃ根にもってらっしゃる…


俺はメルサの方を見ないように火の鳥についていった


ウィルの事は心配だ

でもテンやメルサのことも大事だ


俺はウィルの事で頭がいっぱいいっぱいになっていたようだ

危うく全てを失うところだった


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