第21話 「かいそう」
まずいことになった
俺ら3人はこの辺境地に置き去りにされ
ウィンザード達悪魔軍は人間の国へ侵攻の準備をしている
ウィルも心配だ
だが人の心配ばかりしてられない
まさかの目的地で何も得るものが無かった
旅の備蓄が切れそうだ
食糧はそこまで問題ではない
数日食わずでも死ぬことが無いことは以前の旅で身に染みて分かっている
しかし水はそうもいかない
ここには海はあるが水は無い
海の水は刺激が強すぎて飲めたもんじゃない
ウィルが居れば何とかしてくれるのだろうが俺らにはどうしようもない
ムーの所まで戻れば水はあるのだがそこまで数日
水の残りは魔物の膀胱を処理した袋の中にそれぞれ約一日分
そもそも持ち運ぶと腐りやすい水はそんなに大量には持ち運べない
どう考えても持たない
「お オーグンどうするよ…」
来た道は戻れない
メルサもテンも不安そうな顔をしている
それほどまでに水は貴重なのだ
「メルサ ここの場所は分かるか?」
「ええ…簡単な位置関係でしたら」
さらさらと地面に今まで通ってきたところの位置関係を書く
こう見ると思ったより直線で進んできていない
オーガの里に行くのに30°程道がズレている
「人間の国まで最短距離で行くしかないか…」
「そうですわね… 大森林を突っ切る形になりますね
何があるか分からないですけど」
「お、おいらソラから大森林には近づくなって教わってたんだけど…」
大森林
オーガでも近づくなと言われている
精霊たちの住処で他種族嫌いが他に比べても顕著らしい
下手したら足を踏み入れた瞬間に何をされるか分からないとのこと
「精霊と妖精って違うのか?」
「た、確かに! おいらたちが知っているのはムーとクー
もしくは人間たちに味方するもの
そんな排他的な感じはしないよね」
「そうですわね 私もどんなところかは分からないですけど
他に生き残る手段がないのなら向かうしかありませんわね」
水を求め歩き続けて数日
とうとう水が尽きた
木々が生い茂っているのに全く水源がない…
ここらは地下水脈なのだろうか
かといって地下を掘ろうにもハズレを引いたらそれこそ自殺行為
俺たちは動ける限り前に進むしかない
口の中はカピカピに乾き
身体の中の水分の動きが鈍くなっている
頭に血が行かずボーッとし
足が思うように動かず
木の根に気付かず躓き
何度もよろける
せめてもの救いはここが砂漠地帯では無いことだ
多少の湿気はあるもの
だが、明らかに失われる方が多い
「おいらも何回も死にかけた事はあるけれど…」
「あまり話さない方が良いですわよ 口のなかの水分がなくなって死にますわよ」
もうみんな限界が近い
特に小さいテンは一番キツそうだ
「だからこそさ 君らと死ぬのなら もっと君らの事知りたいじゃんか…」
「縁起でもねぇ…」
「人間らしい 思考になってきましたね」
「人間か…
ウィルに会って人間そのものへの憎悪みたいなのは無くなったかな…
そら…
おいらには同じ妖狐の姉ちゃんみたいな育ての親がいたんだ」
俺は黙って聞いていた
テンが人間の事好きじゃないのは分かっていたが詳しく話は聞いたこと無かった
「姉ちゃんって言っても生まれは違う
もちろんおいらたちは性別なんかない
妖狐は普通の狐から生まれた突然変異
生まれた瞬間から親に捨てられ
さ迷っているなか
そらと偶々出会ったんだ」
メルサも神妙な面持ちで聞いていた
共通する事が多いのか
その辛さが分かるのだろう
俺は何だかんだいって父もいて母もいる
かなり恵まれて育った
「この世に妖狐がどれだけ生まれたのか分からない
でもほとんどの妖狐はすぐに死ぬだろう
突然変異は生き方を知らず
生きる意味もなく死ぬ…
だがおいら達は違った
おいら達は二人になった
繋がりが出来ると生きる意欲が湧いてくる
それこそ生きる希望が生まれる
もう一人になりたくないし一人にさせたくないと思うようになる
おいら達は生き方を探った
言葉を知るために人の子供になりすまし
食べ物を得るために弱き者になりすまし
情報を得るために女になりました」
もう俺の頭はあまり働いていない
何を言っているか分からないが
テンの感情だけは伝わってくる
「そらはおいらと違って強かった
心も身体も頭も
だから強い魔物や魔族を狩っていた
逆においらは弱かった
だから自分より弱い人間を狩って生きていたんだ」
テンの目も虚ろになってきている
「でも、たまにお互いの戦利品を見せあうとおいらの方が良いものが多かった
結局二人して人間を狩る事となった
おいらたちは幸せだった
初めての信頼できる仲間との生活
血のつながりではない
この世に二人だけの種族…
絆は血のつながり以上の物だった
だが楽な事は続かなかった…
人間がおいら達の存在に気付き討伐隊を組んだ
おいらは簡単に捕まってしまった
おいらは殺されてしまうと思った
でも、違った…
人間の恐ろしさを知るのはここからだった
奴らはおいらを殺さずいたぶった
死なぬ程度の暴力
その時はそれに勝る苦痛はなかったが
それすら間違いだった
奴らはおいらを磔にしの血を四方八方にばらまいた
そんなことをされたらそらも気付く
そらは激怒しながら現れた
怒りに身を任せ魔獣と化しおいらの回りの人間を殺しまくった
おいらはそらに合わせる顔が無かった
自分の弱さゆえに捕まり
いつもおいらはそらに助けられてばかり
おいらは泣くことしか出来なかった
そらはそんなおいらを磔から降ろし抱き締めた
『テン…生きろ』と
おいらが顔をあげるとそらの頭に矢が刺さり
そらは絶命していた
矢の方向を見ると物陰に一人の兵士が隠れた
おいらは何が起こったのか分からなかった
頭の中が真っ白になった…
ただそらの最後の言葉だけはと思ったのか…
おいらはそらの遺体をそのまま置いてその場から逃げ帰ってしまった
数日普通に過ごした
寝床に帰り
保存していた食物を食べ
睡眠をしていた
他の時間は覚えていない
おそらくボーッとしていたのだろう
数日後保存していた食料が無くなり
狩りに行かなきゃと思ったところで我に返った
そらはもうこの世にいない
そらは人間に殺されたのだと理解した
おいらは使われ
罠に嵌められた
おいらは大好きだったそらを見殺しにした
おいらは自分に嫌悪を
人間に憎悪を抱くようになったんだ…」
俺たちは長い夢を
テンの壮絶な記憶を体感している感じだった
身体が乾き過ぎて涙など出ない
だが、得も言われぬ感情が湧き上がってくる
テンの後悔と虚しさが自分の事のように思える
いつからか知らぬが俺たち三人は地に伏していた
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