第15話 「血の修羅場」

----メルサ視点----





オーガの里への道中


夜寝静まった頃

誰もいないところで連絡鳥が指令を持ってきた


指令は二つ

一つは幹部以上に通達されるもの

『人間への総攻撃の準備』

もう一つは悪魔王から直々にであった

『オーグン一行を我が領地へ案内せよ』


どうすべきだろうか?


オーグンは王をぶん殴ると言っている


私が連れていってぶん殴ってしまったら

私は悪魔軍の反逆者になるのではないだろうか


私は王の事をよく知らない

幹部ですら各拠点で魔道具からの指令を受ける程度の関係

姿形がどのような者なのか知らない


でも連れてこいと指令にある場所

ここは魔族側の奥深く…

私の知らない場所…


もしかすると王は悪魔ではないのだろうか…


いや、よそう

私にとって王は絶望から生き方を教えてくれた恩人

私達悪魔の味方であることは疑う余地もない


だが、私個人は別

最悪私が悪魔軍から反逆者となってもオーグン達に守って貰えるだけの関係は築かなくてはならない


もう一つも問題だ…

この事はウィルに隠すべき事

私が知っていることすら決して悟られてはならない

私がどっちの立場にも立てるように



オーガの里に着いた


魔族の村の典型的な感じの村だった

嫌な思い出が蘇る


だがそれでも少し変わったオーグンの親父が蹴落とされるまではまだ気楽なものだった


その女が現れた時私は全身から悪寒がした

絶対的強者の風格

そして私に向けられている殺気

足が震える

全感覚が逃走に意識が向いている


私は問われた

「息子との関係は?」と

彼女はオーグンと私が結ばれる事を危惧しているのだろう

私は悪魔 そうゆう扱いには慣れている


確かに一時期はオーグンに取り入ろうと思ったことはある

でもそれは、恋愛とかではなく完全に私利


ウィルと誓約を結び


なおさらこの母という強者に逆らってまで関係を築こうなんて思わない


私にとってマイナスなのだから


この場を乗り越える言葉がスラスラと出てきた


嘘に本当を混ぜ込む

嘘を本当と信じ込ませる時の常套手段だ


私の得意とするところ

今回は嘘ばかりになってしまったが初対面だし大丈夫だろう


その場はなんとか凌げた


母の計らいでオーグン大逃走劇が始まる


オーガの女の発情は激しかった

オーグンの身体に少し触れただけで感情が私が理解出来ないほど昂っている


私はそんなに男を求めたことがない…

男は比較的似たような事を求められた事があるのだが

女にはその様なことが決して無いのだと思っていた


少し羨ましかった

今まで自分が理性でしか行動してこなかったのだと痛感した


夜ようやくオーガの女達が静まったので

テンちゃんから居場所を聞きオーグンを迎えに行く


ウィルも私が母に怯えているのを知ってるからか珍しく承諾してくれた


私がオーグンの気を探っていると

小さな洞穴で踞りながら震えているオーグンがいた


かわいい……

あの魔族で最恐とまで言われたオーグンがこんなに小さくなって震えている


芸術的愛おしさだ


私はオーグンの手をとった

オーグンが私の手だけを頼りに歩いている


時々足場の悪い所でオーグンが躓くのを倒れないように身体で支える


気を付けていたがどうしても身体で支えるのには胸が当たってしまう


私もウィルと母が怖い


なにか間違いが起こってはいけない

だが、禁忌を意識するほどに意識は禁忌に向く

恐怖の鼓動と欲望の鼓動が麻痺して分からなくなっている


私の胸が当たりオーグンが少し発情したのを感じる


私も仙骨から背骨を通って刺激が脳に突き抜けるのを感じる…


私もオーグンと同じ気持ちになってしまっているのだろうか


女があんなに発情していたオーグンに触れ

普段はあんなに強いオーグンに頼られているからだろうか


この身体の反応はなんなんだろうか…


なんとか帰ると私はすぐ寝た

ウィルと顔を合わせて感情がバレてしまうのが怖かった



翌日オーグンが母を説得しにいく予定が


黒龍王イルスが襲来してきた


なぜだろう


最近はウィル、オーグン、オーグン母といい私が逆立ちしたとしても指一本で殺されるような者ばかり出会うのだろうか

そこまで弱い部類には入らないはずなのに


でも、やらなきゃいけない

私の使命を果たすには


この居場所を守る為には


生きるためには


ここでやられるわけにはいかない


私はありったけの魔力を込めイルスに放つ

『蛇睨み』

魔方陣が発動し身体中に締め付けられるような

痛みが襲ってくる


しかし私のありったけの魔法すらイルスには秒ももたなかった

テンちゃんも幻術を使うも効かず


イルスの羽ばたき一つで岩に激突したら即死な速度で飛ばされた


世界がゆっくり動き始めた


思考が過去へ遡っていく


思えば私の過去は辛いものばかりであった


両親を知らず

仲間も居ず


男に性欲の捌け口として使われ

いや、私も男を利用していたからお互い様か…


悪魔軍で同じような境遇の人たちに沢山合ったが

辛さの共有だけで楽しいものとは無縁だった


だからこの数ヵ月この子達と旅をしたのは

私が唯一楽しかったと言える思い出


ウィルを琴線に触れぬ程度にからかい

テンちゃんのオーグンへのいたずらを手伝い

オーグンが私に発情してるも我慢するのを微笑ましく思い

オーグンとウィルの喧嘩をBGMに酒を飲み


大分最近までの出来事まで出てきた

そろそろ固く無慈悲な無機物の岩に激突し身体は自然に還るんだ


私は目を瞑った

自分の死の瞬間をみたくなかった


身体に衝撃が走った

岩に激突したと思われたが

思ったほどの衝撃ではなかった


そうか死ぬ寸前身体の神経は閉ざされ快感を得ると言うが本当だったのか


私の身体はあったかく優しく頼もしいものに包まれた


私の身体が溶けていく

私の血が全身にまとわりついて温かいのだろうか…?


全身の力が抜けていく


数秒後身体に痛みが走った

おかしい神経は閉ざされ私は死んだはず

痛みなぞ感じるはずはない


恐る恐る目を開けるとオーグンの顔が目の前にあった

オーグンに抱え込められていたのだ


オーグンの少し高い体温

岩のようにごついけど優しい身体


私の顔が紅潮している


また私の心臓の鼓動が理解できないほど高まった

そうだ、これは死を間近に感じたからだ…


いや、よそう…

認めよう


これが噂に聞く恋なんだと

たとえ恐怖と恋が混ざってしまった

私を助け受け止めてくれたオーグンに恋をしてしまったのだと


オーグンは私を安全な岩陰に優しく寝かした

隣にはしてやったり顔のテンがいた


オーグンとウィルが組めば敵などいない

黒龍王イルスですら敵わないだろう


そう安心したのもつかの間

ウィルが呆れ顔で私達の岩陰へ帰ってきた


なぜ?

オーグンがやられてしまう…


オーグンはイルスのとてつもない白炎に追われている


ウィルを焚き付けてオーグンを助けに行かせたいけれど

取り乱す訳にはいかない


「オーグンを助けなくていいの?」

なんとか冷静さを保てたはず


ともしてるとオーグンの逃げ場がなくなって絶体絶命になっていた

叫びたい気持ちをなんとか抑える


オーグンは自ら溶岩の中へ入っていった


「あっ…」

思わず声が漏れてしまう…


時間にしてはそれこそ数秒

でも、その数秒がとても長く感じた


不安



数秒後オーグンが溶岩から出てきた


安堵


テンやウィルはおぉーとか

さすがオーグンとか

感嘆の声をあげていたが


私は「ほっ」と言う声が出た


そしてオーグンはイルスの桁違いの一撃をかわしてイルスを捕らえた


か、カッコいい……


心臓が高鳴った感じがしたが

悪寒を感じすぐに我にかえった


母がやってきて私の横を通り抜けた


バレてないわよね…


彼女は私に構うでもなく通りすぎていった


心臓に悪すぎる……


母はその場を収めた




夜、宴が行われた

私は飲んだ


恥ずかしさ

恐怖

安堵

心臓への負担


なんとオーガの女達と話が合った

彼女らは私の悩みを聞いてくれた

私も彼女らの悩みを聞いた

男の競争率が高すぎると愚痴を聞き

族長は私たちに興味を示さないと嘆き

私もウィルと母オーガへの恐怖とオーグンへの反応を暴露した

皆はそれを恋だといった

私はそんなことはないと言った


宴がピークを過ぎ、そこらでオーガたちが寝始め私も寝床に帰ろうとしたところ

呼び出された


母オーガ

イルス

ウィル


私にとっては常に身震いする空間だった

それまでは酔っていて記憶が虚ろだったが

ここの記憶は鮮明に覚えている

悪魔は悪ではない

でも今はそれどころではない


会合を終え

緊張の糸が解け

酔いもさめ


気がついたら

目の前にオーグンが寝ていた


私は無意識にオーグンの寝床に潜っていたのだ


「き、きゃ…」

しまった…声を出してしまった…


会合の先の全く記憶がない…


昨日あんな走馬灯を見て

オーグンに受け止められたから

オーガたちが言うように恋しくなってしまったのだろうか…


「どうした?」

ウィルが駆けつけてきた


まずい…

こんな状況で言い訳なんて思いつかない…


「おい、オーグン…」

なんとゆうタイミングか…


「そうですわ、オーグン…言い忘れたことが」

まさかのオーグン母も来てしまった


絶体絶命…ではない

もう終わりだ…

私はここで殺される…


いや、仕方ない

完全に私が悪いのだ…

私が契りを破ってしまったのだ…


「うーん…

わっ…

な、なんだ?」

オーグンが目を覚ます


「申し訳ございません…

何も言い訳はしません殺…」


私が言いかけた所でウィルがオーグンをぶん殴った

風の魔法を纏った拳はオーグンのこめかみを貫くとオーグンはぶっ飛んだ


「オーグン見損なったよ

宴だからって無理やり襲うなんて

相手がメルサだから良いとでも思ったの」


えっ…とオーグンは慌てながらキョロキョロと周りを見渡す


無理やり?


いや、それは無い

私が寝床に潜ったのだ


でも、下着は着けている

私のいつもの寝姿だ…


ふと視線を下に落とすと

寝ていたお尻の辺りが血でにじんでいる

「わっ

なに…この血…」


「オーグン…君は最低だ

裏切りの覚悟は出来てる?」

ウィルは完全にオーグンを殺す気だ


「ま、まて!ウィルご、誤解だ

ちゃんと話し合おう」


思いがけない血に動揺している私の方へ

ツカツカと母が近づいてきて血の付いた下着とお尻あたりを見つめて

「月のものね」


その場の時が止まった

私の魔法より強力な時を止める力…


「あなたいくつ?

その反応…初めてなのね」


「え、あの…

月のものって何ですか…?」


はぁ…と母オーガはため息をつくと

私を別室に連れていかれた



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