第16話 「決意の月に」

母は留まることない自然な流れで血まみれのメルサを連れていってしまった…


まずいことになった…

『月のもの』とはなんだ…?


おい!約束はどうした!?

イルスと話つけたら解放してくれるはずだろう?


とは言えず


よく考えたら

話をつけたのは母さんで


貞操どうこうとか言う前にオーガの女に追われている


でも、そうこうしているうちにメルサが母さんに消されたらどうしよう


「月のものってなんだ?」

とウィルとテンに聞くと横に首を振った

彼らも『月のもの』については知らないようだが

ウィルは母の反応を見て俺が悪いのではないと理解してくれた



メルサ救出&オーガの里脱出大作戦だ



居る場所はおそらく実家なのは間違いがない


そして以前作った地下通路はまだ生きている

手札だけは揃っている


だがどうやって母からメルサを奪い返し

母とオーガの女共をはねのけ里の外に出るか…


力ずく?

いや、誰かが傷付く戦いは避けるべきだ

それに母と戦ったところで勝てるのだろうか…


説得する?

あの母相手に話など通じるはずもない


ウィルも真剣な眼差しで考えている


「なぁ こうゆうのはどう?」

テンがおもむろに提案した


「テン 効くのか?」

この作戦はテンの腕にかかっている


「分からないけど 僕がやるしかない」

頼もしい

いまだに夜中一人で小便もできないビビりには変わらないが 

仲間のこととなるとここまで男らしくなるとは


いや、元来テンにはその頼られるだけの力があった


「よし、それで行こう

決行は陽が落ちる瞬間で」

ウィルがまとめた



――――メルサ視点----



私は女の身体について教えて貰った

恐れていた母オーガは意外にも口調は穏やかだった

母という安心感

恐怖は尊敬に変わっていた

あのオーグンを生んだのはこの人なんだと


私は今まで散々行為はしてきた

子が出来ないのが武器だと思っていたが

そうでは無かったのだ


でも、それが不思議に嬉しかった

私は武器を失ったのではない


女になったんだ


色々と生理の時何をすればいいか教わっている

次の子供をつくるための準備

身体はそのために忙しい

だから大人しくしてなくてはならない

とか


この方にそうゆうことを教わるなんて夢にも思っていなかった


私の聴覚が地下でゴソゴソと動いている音を感じた

と同時に母オーガもため息をついた



以前使った通路からオーグンがやってきた


「か、母さん、メルサを返してもらうぞ」

オーグンの声は少し震えている


以前、恋する乙女悪魔が

イケメン王子様が私を連れ去ってくれると夢見ていた

私は内心そんなことが夢なんてと馬鹿にしていたが

今なら彼女の気持ちがわかる


連れ去っていくのがイケメンではなく THE 強面だとしても

自分の事をしっかり見てくれる存在がいるのは悪くない


そもそも私が見た目をどうこう言うこともない


「あんた、オーガの娘たちよりこの娘がいいの?」

母オーガの怒気が膨れ上がる


それに応じるかのようにオーグンも身構える


「?」


空気の流れが変わった

おそらくこの空気の流れは大きな竜巻が出来たもの


「何?まさか…?またイルスが暴れたの?」

母オーガも気付きこ窓のほうから竜巻を見た


その窓枠に立っていたのはテンだ

片手には以前はぐれオーガが使っていた透明マント

ここに来るまでに作戦を立てていたのだろう


あの竜巻はイルスのではない


「しまった…」

母オーガがそういった瞬間眠りに落ちた


「メルサ!こっちだ!」

オーグンは私の手を強く引き連れ出す



私は今幸せなんだと実感した


イルスに殺されかけた時はこの居場所の楽しみを実感し

今は幸せを実感している


オーグンだけじゃない

テンちゃんも そしてウィルも私を悪魔とかはみ出し者とかではなく

メルサとしてみてくれている


今までそんなことはなかった


そしてもう疑うことはない


私はオーグンに恋をしてしまっている


認めよう


そして隠し通そう


私がこの場にいるためにも


だから、それ以外はすべて打ち明かそう


私の居場所はここなんだ

その結果私がウィルに殺されようとも


手にある母オーガが洗ってくれた下着

なぜか分厚く感じ開いてみると布の切れ端が下着に包まれている

文字が書かれていた


『お互いに好いているのなら認めます

しかし、オーグンには他にオーガの妻を娶ることを許しなさい


                     オルトナ』


私 生きたい

本能ではない 感情で初めてそう思えた

だから腹を括れた

「みんな 隠していたことがあるの…」





―――――父オーガ



オーグンが女の手を引き出ていった

俺は物陰から黙って見ていた

俺は悪魔とかオーガとかそんなことはどうでもいい

正確にはそこまで考える頭がねぇんだがな


「母さんいつまで寝たふりしているんだ?」


「ふふ

強くなったわね」

彼女はすっと起き上がる


「何いってんだオーグンは生まれたときからそこらの奴らと比べても桁違いに強かっただろう?」


「あんたはほんとバカね

強さとは力で相手を打ちのめす事じゃないのよ」


「それは母さんみたいに強さを極めたから出てくる精神論だろ」


「………

そうかも知れないわね…

力が強くない者の方が強いのかも知れないわね…

力弱き者が何度も打ちのめすされながら己を鍛える

力強き者が何故自分が生まれながら強き者になったのか、天命に苦悩する

結局は同じなのかも知れないわね


はぁ…

私はあんたみたいに中途半端に強くて

中途半端に悩みながら好きに生きているくらいのが羨ましいわ」


「だろー?」

俺にだって多少の悩みはある

だが、それもオーグンや母さん、爺さんに比べたら度合いは大したことはない


皆、強き者の宿命のようなものを背負わされている

考えただけで胃が痛くなるな


だがオーグンたちなら大丈夫だろう


俺より強く

母さんより仲間にも恵まれ

爺さんの時より時代が変わった


俺の旅もあんなんだったら良かったな…


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