第14話 「親指の真実」
村では宴が催された
イルスと酒を飲みかわし
女どもの襲来をはねのけ
ウィルはテンとしっぽり飲んでるのかと思いきや
テンは女どもにわしゃわしゃ触られている
メルサは母に酌をし
ご機嫌を取っている
楽しくも、中々大変な宴であった
宴後両親に呼び出された
イルスが両親のとなりでおいおいと泣いている
先にじいちゃんの話をしてたのだろう
「それであなたたちはこれからどうするの?
身に染みて分かっていると思うけど
種族のコミュニティを離れて生きていくのは楽ではないわ」
「それでも俺は外で生きていく」
今まで色々あったけど、やっぱり俺は外が好きだ
もちろん夢をかなえるにはどうしたらいいかなんて分からないが…
「そう」
母は無表情に頷いた
隣にいたイルスが口を開いた
「人間…貴様を見ているとウィンザードを思い出す
無論やつは貴様ののように魔法は使えず、か弱く
お世辞にも強くは無かったがな」
「武神ウィンザードがか弱い?」
「武神か
やつはそんなやつでは無かったが
我とオーガスタ、ウィンザード、ティムはお前らのように世界を旅していたからな
ウィンザードが武神…はっはは
やっぱり人間が考えることはわからんのぉ」
イルスは懐かしむような、後悔するような複雑な表情を浮かべていた
色々と思うところがあるのだろう
「イルス様
歴史についてお話してくださいませんか?
我々オーガ族に伝わる歴史に相違があるかとも思いますので」
「か、母さん…
オーガ族にも伝わる物があんのかよ?」
初耳だ…
オーガにはそのようなものが無いと思っていた
「当たり前でしょ?
オーグン、あなたとこのデブ父さんが馬鹿過ぎて
かつ歴史に興味を全く示さないから
わたしが代わりにオーガスタ様から聞いていたのよ」
「あー納得!!」
周囲は満場一致で腑に落ちていた
「じゃねぇよ!皆して俺を馬鹿にしやがって、
そりゃぁ、俺も、多分……いやきっと」
心外だ…とも言い切れないのが悲しい
親父が隣に来てポンと肩を叩く
「お前は俺の息子だ」
俺の血の気が引いていくのを感じた
「イルス様は幾年から生まれているのですか?」
テンが聞く
「…覚えておらぬ
寿命とは種族によって決まるものではなく
個体の生命力
オーガスタもオーガでありながらかなり生きただろう
そうだな…我が卵から孵った時はまだこっちの大陸に人間はいなかったな……」
「方舟!?」
ウィルが目を見開いた
ウィルにとっては嘘と思っていた歴史だ
「人間ではそのように伝えられておるのか?
乗り物の事は知らぬが、その伝承はおそらく合っている
人間は沈んだ大陸から来た者だ」
「沈んだ大陸?」
「ああ、大昔は大海にもう一つ大陸があった
そこに人間が住んでいて、あるものの怒りに触れその大陸は沈んだ」
「大陸を沈めるほどのやつがいるのか?」
「さ、さあな我は知らねぇが」
なんだその反応…?
まさかお前がやったんじゃないだろうな?
「イルスは人間が嫌いなのか?」
テンが問いかける
今までのテンだったら自分より強い者にすぐ物怖じしていたが
イルス相手には積極的だな
イルスに戦いで認められたのが自信になったのか
「基本的にはな…
個の力は弱いくせに、どんな手を使ってでも相手を滅ぼそうとしてくる
厄介極まりない
一度滅んだのもそれが原因なのだろう」
「そうか…」
俺はなんだか残念な気持ちになった
「オーガの伝承にも人間族には気を付けろとあります
境界線の人間、魔族の棲み分け然り、過度な接触は避けるべきなのでしょう」
「あの……悪魔とは悪なのでしょうか?」
メルサはテンとは逆にいつもに比べ控えめだな
「そうか、お主は見慣れぬと同時に親近感があった
どこかで我ら龍族の血がはいってるのだろう
結論から言うと悪ではない
ただ、コミュニティでは変わり者は悪とされるのだろう
種の多様化とは自然の摂理
環境が変われば生き残るため種も変化していく
テン、お主のような突然変異も自然の摂理じゃ
じゃが、種を守り、生き残るためにその他を排除するのも自然の摂理
つまり争いとは必然
結局のところ何が正しいかではなく生き残った者が正しいんじゃよ」
メルサはそれを聞くと俺の陰に隠れるように下を向いた
「最後にイルスお前に聞きたいことがある」
「なんだ?」
「お前は俺に他種族の女の子と仲良くなるための挨拶には親指を仰け反らすって言ってたけどあれは嘘だったのか?」
「はっはは!!
貴様!本当にあれをやってたのか!!
はっはは!
やはり馬鹿だのぉー」
「てめぇ!!」
「そうか、そうか…
では、お主らはあの契りを無くそうとしてるのか…」
しばらくの沈黙が場を制す
「不干渉……
あれを作ったのは奴だ
世界で交流しようと言ったのも奴ら
世界で交流するなと決めたのも奴…
奴らに世界は振り回されてる」
イルスは続けた
「我が教えていたことは
半分は冗談だけど半分は本気だ
他種族の性器なんて分からんだろう?
ちゃんと見える形で表現しねぇと」
「うぐっ…」
俺は何も言えなかった
「で、お主ら次はどこに行くんだ?」
「悪魔王をぶん殴りに」
「はっはは、愉快!
是非、奴をぶん殴ってやってくれ
出来たらの話だがな
うむ、今回の目覚めも楽しかったのぉー
次回はこの中のどれだけの者が生きて会えるか分からんが是非会いたいのぉ
友よ」
「あらまだ2日目ではなくて?」
「オーグンとの戦いで使いすぎたし
そろそろ年かのぉ活動時間がだんだん短くなっとるわい
もう眠くなってきた」
「そうですか
次回はしっかり話を聞いてくれると助かりますが」
「はっは!
いかんせん寝起きは寝ぼけてるからのぉ!
それにそろそろ寿命かのぉ
はっはは」
「次回この村を襲ってくるのなら寿命の前に私が殺しますよ」
「おおお、怖いのー
ちゃんと起こしてくれのぉー」
そうして俺らは過去を懐かしむように
今を後悔しないように
未来に希望を見出すように
記憶をなくすほど飲んだ
この後一番の修羅場がまっているとも知らず
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