第13話 「溶岩遊泳」



数百メートル離れた所に竜巻が出来ている


オーガの女戦士たちがなすすべなく

黒龍の一羽ばたきごとに宙を舞っていく


ウィルが魔法を打とうとする

俺は手でウィルを制した


俺は肚いっぱいに息を吸い込み叫んだ


「イルゥゥゥス!!」

暴風で俺の大声がかき消される

イルスまで届かなかった


その辺に風でコロコロと転がっていたサッカーボール大の石をとり

振りかぶり

イルスに全力で投げた


石は唸りをあげ暴風を切り裂き

イルスの頭に直撃した

頭を少し揺らし


暴風が止まった


石が飛んできた方向ににらみを効かせた

額には少しの血がにじんでいる


「イルゥゥスてめぇ!嘘つきやがったなぁ」

俺を視たイルスはそれまでが遊びだったかのように

怒りの表情を表した


「オーグン…貴様…我との契りを忘れたのか」

そういうと頭を仰け反らせ

口から白い炎を吐いた


あ、ヤバイ…


と思ったら目の前に金属の盾が現れた

ウィルだ


「むっ?」


金属の盾は縁を溶かすも

イルスの炎を防ぎきった


「この金属は1000度を越さないと溶け出さないのになんて炎だ…温度が高すぎて白光するのか」


「はっはは!我の炎を防ぎきるとはやる…」

イルスが話をしている途中で止まった


メルサだ


メルサも硬直しの目の色が紫色に変わっている

手の魔法陣が赤く発動し痛々しそうにメルサの身体を縛り痛めつける


がそれも一秒経たずで解けた


「はぁ…はぁ…ウィルちゃん…魔法が発動出来ないんじゃなくて

発動すると術者を痛めつけるって

ホントいい趣味しているわね…」


「我が話している時に止めるとは何たることか!むっ?」


その間にテンがイルスの前に立ち印を結ぶと

イルスの瞼がウトウトと落ちかかっていた


しかし首を振りテンとメルサを一羽ばたきで吹き飛ばす


ウィルがテンを

俺がメルサをキャッチし


その場に寝かせた


「百年寝てた我をまた眠らそうとするなんてなかなか強力な術を使うじゃねぇか」


俺ににらみを利かせてきた


「よぉ オーグン貴様我との約束忘れておろうか

滅ぼしてやろう」


「イルス、てめぇには恨みがあんだ

ぶっ飛ばしてやる」


となりで聞いていたウィルは下らないとため息一つついて

我関せずとばかりにテンとメルサのところまで下がっていった


いやいや、お前は知ってるだろう?

下らぬ事では無かっただろう…?

俺はイルスにはだまされていたんだ


イルスに向かって石を全力で投げ続けた

空中から遠距離で攻撃されたら分が悪すぎる


イルスは石をうざったく感じ巨体で突進してきた

イルスの突進に合わせ俺も突進した


俺の肩の角がイルスの頭に刺さる


が、身体の大きさはイルスの方が格段に上


イルスの突進が止まること無くそのまま空中に舞い上がり

頭をブンっと振る


イルスの血飛沫が舞うとともに

俺は角が抜け地面に叩きつけられた


イルスは頭を大きく反らした

まずい、白炎が来る


俺は的を絞らせないように走り出した


イルスは俺が走った後を追うように白炎の軌道を変えていく


気がついたら周囲を白炎で岩を溶かした溶岩で閉じ込められていた

しまった……


「ウィルちゃん、オーグンちゃんを助けなくていいの?」


「ウィル!!オーグンが絶体絶命だよ!」

とウィルのローブの裾を引っ張っている

「言ったでしょ?下らない事だってメルサもやられたことあるやつだよ」

ウィルは傍観者を決め込んで楽しんでいた


それを聞いてメルサは安心したのか

「あら、どれの事かしら?」

と少し前の心配がなかったかのように落ち着きだした


いや、今まで嫌悪だった二人が楽しそうに会話してるのは良いよ…

でも、自分で言うのもなんだけどかなりの境地だよ…


イルスは再び大きく首を仰け反らせた


来る


俺は決死の覚悟で溶岩の中に飛び込んだ

「あら…」

飛び込む瞬間 傍観してた奴らは目を丸くしてるのが目に入った


熱い

熱すぎる


溶岩が溶けた砂糖のように身体にまとわりつき

遊泳などとても出来たものじゃない


しかし、まだ熱いと感じれる余裕がある


死ぬほどではない


溶岩の底のまだ岩を保っているところを足場に地表に出れた


地表に出ると身体にまとわりついてた溶岩が皮膚にくっつきながら固まった

熱い岩と焦げた皮膚を剥がすのは激痛だった

が、剥がさなくては重りをつけているようなもの

耐えながらべリべリと剥がす


イルスとは距離を取られてしまった

しかも重力が作用する真上に

石を投げたところで風を使われたら

前ほどの効果は無いだろう


落ちかけの太陽を背に攻撃されたら反応が鈍るだろう


絶体絶命だ

何も策がない


ふとウィルたちをみた

そこにはテンがいた


そうだ

別に何かルールがある戦いじゃないんだ

何も真っ正面からイルスを引きずり降ろす必要は無いんだ


俺は岩を剥がしながら少し乱れた呼吸をわざと余分に乱し

片膝ついてうつむいた


イルスも白炎を連発し

空中に飛び続けていた

大分消費していたのだろう


次の一撃


なるべく自分の消費が少なく相手にダメージを与えるべく真っ正面から突っ込んできた

太陽を背にすること無く


俺はゆっくり顔を上げた

狙いどおりというのを悟られないように


イルスは自分の射程圏内に入るとグルンと一回転し全体重と落下エネルギーと縦回転エネルギーを全て尻尾に乗せた一撃を放ってきた


俺は一歩横にずれるだけでかわせた


見えていた?


否、来る場所さえ分かればかわせる

しかもわざわざ威力を高めるために一回転したんだ

その瞬間に動けば見えなくともかわせた


尻尾は凄まじい威力で地面にめり込み大地を揺らせた

が止まってしまえばただの尻尾である

尻尾を捕まえた


「貴様、図ったな!

ただのバカはだった貴様がいつの間にそのような知恵を身に付けやがったのだ」


イルスはじたばたするも突進のような体重差を使わせない単純な力なら俺の方が上である


「人間と妖狐…悪魔か……

我は人間も悪魔も好かん!

オーグン貴様我との契りを忘れて良くものうのうと生きておるな」


契り…

忘れた事はない

親と友と性器は大事にしろ

なんだかんだイルスには大切なものを教わった


だが、俺のイルスへの怒りもその事だ



ゾクッと背筋に寒気がした気がした


「貴様 我が百年前に目覚めた時には貴様の祖父は健在だったのだろう?

だが、今回目覚めた時には貴様の祖父の気配が無くなっておった

我と貴様の祖父が親友と知ってて危機をなぜ我に知らせぬ?

家族と友は大事にしろと言ったろうが!?」


「それはあなたが眠っていたからですよ」

振り返るといつの間にか母がそこにいた


プラスして太った父が遠くで走ってくるのがみえる


「貴様は?」


「オーグンの母です、あなたの友オーガスタは義理の父にあたります

あなたの事は伝承、そして父の話から伺っておりました」


「そうか、では何故ゆえ我に知らせないのだ」


「だから何度も何度も仰っていますでしょう

あなたは眠っておられたのです

起きてすぐ使徒を送っても話も聞かず

挙げ句の果てにはこの村に襲ってくるなんて」

母の怒りの気迫が膨れ上がる


「お、おお…左様であったか…

我が眠っている間に死んだのか」

イルスがたじろぐなんて…

母は一体何者なのだろうか?


「そうか、でそなたがオーガスタの跡継ぎか?

名はなんと言うオーガスタの話を聞かせてくれぬか?」


「ええ、もちろんです……が

私はただの妻、義父の跡継ぎなんて大層なものではございません

それにその姿では村に入れませんので」


「おーそうであったな」


大きかった身体がドンドン凝縮し1mくらいの可愛い龍になった

お前、そんな事も出来たのか…


「あなたたちもいらっしゃい

息子の帰還ですもの宴としましょう」


ここでようやく父がきた

「はぁ‥はぁ……どうなった?」

親父…せめて少し腹ひっこめてくれよ…




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