第9話 「幕引き 世界の真実」


 朝になった




 もう俺らがここにいる理由は無くなった




 この洞窟に住み着いたとてまたゴブリン達を不安にさせるだけだろう




 そして新しい旅の理由が出来た


 この村に不幸を振り撒いた悪魔王をぶん殴りに行く




 心残りはある




 アキナとは折角少しだけ仲良くなれたんだ


 もう少し一緒にいたい気持ちもある




 しかし、彼女は愛すべき両親がいるこの村で生きるべきだ




 それにメルサに鼻の下を伸ばしていた俺の事は嫌いな様子だった




 でも、あわよくば……




 「オーグン、そんなに頭掻きむしって痛くないの?」


 「あっ……」


 気づいたら俺の頭は鋭い爪で血だらけになっていた




 「メルサの事もあるしここには長居出来ないんだからちゃんとアキナにお別れするんだよ


 テン、君もだよ」


 テンは尻尾をビクッとさせてからシュンとした




 ウィルは俺の頭に回復魔法をかけてくれた




 「あらあら、私抜きでなんの相談かしら?」


 洞窟の奥から旅支度を済ませたメルサが出てきた




 「………君を始末する方法を相談してたんだよ」


 うおっ…ウィル怖い




 「あらやだ、物騒な相談だこと


 レディの寝床を襲うのだけは勘弁してくださいな」


 「君のような人は寝床を襲われたら歓迎するんだろ」


 「ふふっ あなた以外でしたら歓迎致しますわよ」


 なっ 俺の顔が赤くなる




 俺は良くてウィルはだめなのか


 案外ウィルもモテないのか




 「冗談はさておき


 これからの相談でしたわよね」




 冗談…なのか…?


 てか、メルサは話聞いてたんだな


 感覚器官が敏感って言ってたからな


 感覚器官が敏感…?はっ!!!




 「ウィルちゃん


 あなたオーグンちゃんに隠していることがあるわね


 私の説明で省いてましたもんね


 オーグンちゃんが傷付くから隠しているんだろうけどいずれは知ること」




 「ウィルなんか隠していたのか?」


 「……」




 「はぁ…私から言った方がよさそうね 


 オーグンちゃん、悪魔ってどんな人?」


 「奇数目じゃないのか?


 いや、でもメルサは違うのか?


 そういえばパズズ軍の中には偶数目もいたな」


 「目の数は比喩なのよ


 昔、不干渉を誓った種族に奇数目がいなかったから」


 「…どうゆうことだ?」




 「おはよー!!みんな…ご飯…あれ?」


 アキナが朝ご飯を持ってきたが重い雰囲気に戸惑う




 「ちょうど良いわ あなたも聞いてくださいな


 悪魔とは種族に数えられないもの


 私がここでオーガを使ってやっていたのは


 ウィルちゃんが言っていた統治実験ではくて悪魔軍を増やす実験




 つまり、オーガとゴブリンのハーフ(悪魔)の量産


 わかる?




 他種族が結ばれれば生まれるのはこの世界では悪魔と言われる者




 オーグンちゃんとそこの小娘が結ばれたとて生まれるのは悪魔ってことよ


 まあ、妊娠の可能性は低いけどね」




 俺は金槌で脳を直接殴られたような衝撃を受けた




 悪魔のこの世界でのひどい扱われようは俺でも分かる


 自分ならまだしも自分の子があんな目に合わされると分かってなお子を持とうと思えるのか




 俺はオーガとしか結ばれられないのか……?


 今までの俺の行動は


 気持ちは無駄だったのか…?




 アキナはきっと強い眼差しをメルサに向けた


 「私…村の子達…育てる」




 メルサは少し目を見開く


 「私が言いたかったことはそうゆうことでは無いのだけれど


 まあ、良いわ、私に責任があるもの」


 メルサはそういうときれいな宝石がついた首飾りをアキナに渡し


 「物に困ったらこれを東の山にいる炭鉱族にあげなさい


 東の山なら魔物も少なく


 彼らなら騙したりせず欲しいものと交換してくれるはずよ


 それから…」


 鞄から一枚の魔方陣の書かれた布を取り出しアキナに渡す


 「子供達が手に負えなくなったら鳥にこの布を巻き付けて飛ばしなさい


 悪魔軍の基地まで鳥が飛んで行き誰かが来るから子供達を引き渡しなさい


 野に放るよりは良い対応をしてるれるから」




 アキナは軽く頷くと布を受け取った




 「ありがとう」


 メルサはアキナにそう言った


 目は優しかった


 やはりメルサの事はどうしても悪いやつには思えない




 悪いのは悪魔王だ




 それにしてもアキナ


 彼女を見ていると自分が情けなく思えてくる…


 なんてしっかりとした女性だろう


 力は弱くとも心は強い




 ウィルは軽くアキナの頭を撫でて


 「元気でね」


 とそれだけ言った


 ウィルらしい挨拶だった




 テンはアキナ抱きつき涙を流しながらも嬉しそうだった


 「良かったな…村に戻れて」


 アキナは逆に寂しそうだった


 「テン…ありがとう…あなたは私の恩人」


 テンはそれを聞くとニコッと笑った


 テンには血の繋がらない育ての親がいたという


 色々と思うところがあるのだろう


 それにしてもテンの野郎堂々と抱きつくなんて…




 アキナは涙で濡れた顔のまま俺を見た


 「オーグン…その女にフラれたら私が相手してあげる」


 俺はこんな時にもアキナと暮らせたら幸せなのにとか思ってしまう


 メルサに無意識に求婚したのを見られているのに


 情けない…




 アキナは俺の気持ちを察したのか


 「ばーか…うそよ…私は…オーグンいなくても…幸せよ」


 そう言うと俺の股間を蹴りあげた




 軽い痛みだったが


 俺はうずくまって泣いた


 「アキナ…幸せになれよ…」


 そんな言葉しかかけられなかった




 アキナの事は好きだ


 アキナも拒絶はしないだろう


 だが、これからの事


 二人の子供の事を考えたら


 何も言えなかった


 強さなんてなんも役に立たない


 本当に情けない…




 そのまま動けないでいたら


 ウィルが魔法で立ち上がらせ歩きだした


 周りを見れなかった




 結局最後の最後までアキナの顔を見れなかった










50年後------




悪魔軍拠点に鳥を使役した手紙が届けられた


オーガとゴブリンのハーフの子供からだった




中々汚い字であったがかろうじて読めた。


『オーグン様とそのご一行に転送願います


先日、アキナ氏が崩御しました。




彼女は実の母親が投げ出しかけた私達のような者にも精一杯の愛情を注いでくれました。




お陰様で私達もこの村で幸せに過ごせております。




こうして筆を取ったのは


アキナ氏に一度だけ


何で私達みたいな者の世話をするのか


結婚をしないのかと聞いた事があります。




彼女は嬉しそうにあなた達の事を話すのです。




私は正直、良い気はしませんでした。


彼女はいつも幸せそうでしたが


独身でいるのはあなた様を待っている様に


私の目には映ったからです。




でも、それは間違いでした。




実際、自分の子を持った私なら分かります。




あなた様が現在どのような状況なのかは分かりかねますが、


もし、自分の子がいらっしゃられるのなら分かるかと思います。




自分の子は「特別」なのですね




アキナ氏もその事が分かっていたんだと思います。




あなたと子を成したとしたら


私達を平等に扱えず私達が村で生きていくことなど出来なかったでしょう。




彼女は楽しかった数日の思い出を胸にしまい


幸せな今を幸せに生きていたんだと思います。


そして幸せそうに逝きました。




私達は彼女に大恩があります。




そしてあなた方にも




その小さな恩返しになればと思い


頂いた宝石を対価に炭鉱族に言葉と文字を教えてもらいこの手紙を書きました。




長寿のオーガにとって50年というのはあっという間だったと思います。


あなた様方がこちらに足を運ばれないのは




彼女との数日は記憶に残らない程度の事だったのかもしれません。




あなた様との別れはアキナ氏から見ても情けない様子だったとの事だったので


顔を会わせづらいと言うこともあるのかもしれません。




ですが、もし、彼女の事を覚えていらっしゃいましたら村に足を運んで頂けたら歓迎致します




彼女を忘れないでいることがこの大恩を返すことになると信じて』




ゴブリン族兵士長パンタ

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