第7話 「強さ」


 そこにいたのはオーガ…


 見覚えはあるような無いようなその程度の顔である


 「オーガ…何でてめぇがここにいる」


 「オーグン…あんたがここにくるとは…思いもしなかった


 だが、何でここにいるのかはあんたには言われたくねぇぜ」


 「てめぇが誰かなんか知らねぇ


 何を企んでたのかも興味がねぇ


 だがその子に手を出したら


 殺すぞ」


 本気の怒り


 昨日アキナが言っていた決意が耳に残っている


 アキナが泣いていた姿が目に浮かぶ


 俺を支えてくれたアキナの感触が肌に残っている


 アキナと過ごした部屋の匂いが鼻に残っている


 その原因はこの同族のオーガだったのだ


 オーガは震え怯えた表情を見せるも


 「はっ やっぱりこいつを捕まえて正解だったな」


 「あ?」


 「今までのあんただったら凄む前に俺を殺しにかかっていただろう


 だが、万が一にもこいつは傷つけたくない


 だから脅すしか出来ない」


 「ちっ」


 そうだ、アキナじゃなければあの瞬間とびかかっただろう


 だが、この子はか弱すぎる


 心は強くても身体は弱い


 オーガの頭を握る力加減を間違えたら果実のように潰されるだろう


 「だからオーグンここから手を引いてくれ…


 俺はあんたと違って里から追い出された身


 こうでもしなきゃ生きていけねぇんだ」


 「それは出来ない


 アキナと約束したんだ」


 「そうか…


 なら取引をしよう」


 オーガはそういうと液体が入ったビンを取り出しその場に置き距離を取った


 「その毒を飲みきったら俺はここから手を引く」


 「お前卑怯だぞ」


 そういったのはパージだった


 彼は弱いと言われているゴブリン中の最強の戦士


 彼なりの戦士道みたいなものがあった


 ここに来るまでの少しの時間であったがアキナを通し


 彼は目を輝かせながら俺に戦士とは何ぞやと聞いてきた


 もちろん俺にそんなものはない


 そういうと少し残念そうな顔をしていた


 「うるせぇええ‼」


 オーガはアキナを掴んでいる手とは逆の手で腰に掛けてあったこん棒をパージに向かって投げた


 パージは想像より速いこん棒に回避不能と判断し顔を守るように手を組んだ


 だがパージよりこん棒の方が遥かに重くパージの身体に当たると一切の減速をせず壁にこん棒が激突した


 こん棒は血だらけだった


 俺の顔も血だらけになった


 数メートル先のパージを見ると上半身は無かった


 下半身だけの身体は痙攣しながら地に伏せた


 死んだ…


 助けられた…?


 無理だ数メートル先とはいえ届かなかった


 俺は強い…


 あのこん棒を俺に向かって投げられ直撃したところで傷一つつかないだろう


 でも守れなかった


 強さは万能じゃないんだ


 『ぱ、パージィイ‼』


 アキナの声が狭い洞窟に響き渡る


 「うるせぇ騒ぐな小娘


 なぁオーグン…あんたがここに来てると知ってから散々考えたさ


 オーグンに勝つ方法…殺す方法


 暗殺、罠、毒殺、


 でも見つからねぇ


 俺が何をしてもあんたの皮膚は傷付かねぇ


 どんなに知恵を絞ろうと強さとは絶対的なもの…


 自分よりけた外れに強い奴は殺すことも出来ねぇんだ


 だから自分で自分を殺させるしかねぇ


 身体に無理やり入れた毒なら効くだろう」


 オーガは先ほど置いたビンを指さし


 「もう一度言う それを飲み切ればこいつを解放し、ここから手を引いてやる」


 『そんな馬鹿なことがあるか オーグン殿が死んだら今までと変わらずじゃろ‼』


 村長が何か言ってる…


 でも内容は分かるそんなことしてもこいつが守る保証はない


 クソ…どうする…


 アキナを見捨ててこいつを殺すか…?


 いや、アキナはもう俺らの他人じゃねぇ見捨てるられるわけがねぇ


 毒が効かないのに賭けるか…?


 前に腐った肉を食ったときに下痢をした


 口から体の内部に入った毒は効くだろう


 俺は馬鹿だそれ以上の選択肢がねぇ…


 俺が迷ってると


 アキナが股に隠していた小刀を取り出し自分の喉をかっ切ろうとした


 しかし気付いたオーガがそれを止め小刀を奪い取るも間に合わず


 致命傷とはいかないまでも喉から血が少量流れ出した


 「なんてことしやがる…


 お前が死んだら俺が殺されんだよ」


「オーグン‼…わたし死ぬ…皆助けて‼」


 アキナは切れたのどで小さくかすれた声だけど強い声で叫んだ


 俺は覚悟した


 毒を一気に飲み干した


 「な、何で…」


 アキナは絶望した顔をしている


 「や、やった」


 オーガはほっとしたような嬉しそうな表情を浮かべている


 視界が回り


 全身が徐々に動かなくなっていく


 ごぼぉ


 「吐くなぁ‼‼


 ちゃんと飲み込め‼」


 俺は身体が拒絶しているのを無理にこらえた


 足が動かなくなり


 その場に倒れこんだ


 体中に毒が回り


 身体の内部の機能が麻痺して


 呼吸が苦しくなり


 心臓の鼓動が小さくなっていくのを感じながら


 「オーグン‼ だめぇ‼」


 「オーグンドノ…」


 「はははは、あのオーグンが死んだ」


 徐々に耳が聞こえなくなっていく…


 大丈夫…


 俺が死んでもウィルがアキナたちを救ってくれる…


 仲間を信じて


 苦しみが消え


 思考が途切れた



 オーガ(オーズ)視点-----




 ははは‼


 やった‼


 やったぞ‼


 あのオーグンを殺した‼


 絶対に敵わないと思っていた憧れのオーグンを


 憎き恋敵を奪ったオーグンを


 奴がここに来た時から震えて眠れなかった恐怖がもうないのだ


 俺がオーグンを殺した


 もう邪魔するものはいない


 ゴブリンの雑魚どもはメルサに任せよう


 あいつは俺らオーガと違って頭が良い


 ここにいる奴らは処分するだろうがうまく回してくれるだろう


 「動くな」


そういうと一人残った村長はびくっと身体を震わせ動かず立っていた


 それにしてもこいつは良い


 アキナと言っていたな


 小さいのに勇敢だ

 俺はゴブリンよりオーガのほうが好きだ


 でもオーガにはモテなかった


 オーガは強いものに惹かれる


 その強さの絶対的なものはオーグンだった


 こいつのような強い目見ていると身体がうずく


 殺す前に…


 心を沈めるためにこいつを犯そう


 それくらいメルサは許してくれるだろう


 俺は小娘の服を引きちぎった


 しかし小娘の殺意の籠った目は変わらない


 ああ、良い


 犯される運命でありながら一切屈服していない女を屈服させる優越感


 俺は小娘の下の下着に手をかけ引きちぎった


 と思ったが下着に手がかかったままだ


 おかしい俺の肩から先を上に上げたはずなのに


 頭から生暖かいものが降ってくる


 ふと振り向くとそこに二人と一匹が立っていた


 いつ来たんだろう…


 注意深く見るとそのうちの一人は知った顔メルサだった


 ということは周りのやつらは悪魔軍の奴らか…


 「やあメルサ この通り襲撃があったけど ここは無事さ」


 メルサに反応がない


 人間がオーグンに近づき魔法をかけている


 何しているんだ


 せっかく殺したのに


 いや、死んでいるんだ人間ごときがどうにか出来るはずがないだろう


 小娘は人間たちを見ると下着にかかった俺の手を放り投げ


 泣きながらオーグンの死体の元へ走っていった


 見ると俺の右手の手首から先が無かった


 降りそいだ暖かいものは俺の血だった


 「ななななな…」


 俺が慌てているとようやくメルサが口を開いた


 「小娘ちゃん オーグンちゃんが私の毒を飲んだのはどれくらい前?」


 「10分…くらい…だれ?」


 「そう…ウィルちゃん 私の右乳の下に解毒薬があるからの口から流し込みなさい


まだ間に合うでしょう」


 「なぜオーグンを助ける」


 人間は訝し気に問いただす


 俺も同時に思っていたことを人間が口に出してくれた


 「あらぁーあなた達には恩を売っておいた方が良いと思ったのよ」


 「…」


 人間、ウィルとかいうやつは乱暴にメルサの右乳をまさぐり取り出した薬を


 魔法で出した水で飲ませた


 その手でおそらく回復魔法と解毒魔法をかけ続けた


 こう詠唱も魔法陣もなく流れるように魔法をつかう人間に見入ってしまった


 黙って数十秒ほど見ているとオーグンは血の気を取り戻し呼吸を始めた


 そこで気付いた


 生き返らせてはならないと…


 右手は…ない


 左手でゴブリンを殺したこん棒を拾い


 人間に殴り掛かった


 俺はこん棒を振りぬいたはずだったがこん棒が人間に届いていない


 見ると左手の先もなかった


 訳が分からない…


 右足元に小さなつむじ風が起きるとともにバランスを崩した




       一閃




 風が通ると右足首下が切り離されていた

 「うわあああ……」


 なんだ…


 まさかこの人間がやっているのか…


 メルサも何か理解しえない芸術を見るような恍惚な目をして俺を見てくる


 尻もちを付きながら後ずさりをしていると


 全身を洞窟に絡めとられた


 動けない…


 オーガの俺が全く身動きが出来ない…

 「ふぅ」


 人間はひと段落付いたかのような息を吐き出すと


つかつか俺に近づいてきた


    死


 俺は死ぬ


 オーグンに匹敵する程の恐怖をこの人間に抱いた時


 目の前が転がった


 クルクルッと


 俺の最後の光景は首から上がない自分の身体だった


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