第6話 「潜入作戦」


 「いってぇ…


 あのクソ鬼畜王子


 何が良い案だ…」


 一時間前 -----


 「君は今から傷負いの戦士だ


 村から出ていったアキナが危機にてオーグンに出会い


 アキナを庇ったオーグンが重傷を負う


このストーリーなら村に潜入できるだろう


 ああ一…方的にオーグンを痛めつける日が来るとは


 あ、気付かれるから声を出さないでね」


 ウィルの楽しそうに俺を痛めつける顔が…


「……っ‼」


 そして現在 -----


 二周り以上小さいアキナに肩を借りながら村へ向かう


 「オーグン…大丈夫…?」


 『止まれ‼』


 勇ましい声で呼びかけられた


 横を振り向くと見回りしているゴブリン兵が小刀を構えている


 『お前アキナだな 出ていったくせに今更帰ってきてどうゆうつもりだ』


 『パージ… 外で生きていたんだけど強い敵に見つかって…


 この方が助けてくれたんです


 お願いします…


 回復するまで村で療養したいんです


 この方が回復したらすぐ出ていきますから』


 見回りのゴブリンは俺を観た


 俺は言葉が全く会話に付いていけて無いのでとりあえず辛そうなアピールをしてみた


 上から下へとなめるように見られ下でぎょっとした顔をした


 こんなにアキナに接触してたら反応がない方がおかしいんだ…


 そのあと俺の目を見てきた


 目が合うと彼が本能的に震えた


 『とと、とにかくこんなのに暴れられたら俺らの村はひとたまりもねぇから村長の所で話しをつけてくれ』


 ゴブリンは踵を返した


 村の滞在は許してくれたのか?


 『アキナ…お前の両親ずっと泣いていたぞ 顔を見せてやれ』


 見回り兵が何かいうと


 アキナは少し複雑そうな顔をした


 ウィルとアキナの言ったとおりだ


 この村では俺の事はしられていない


 村の男たちは俺を見ると怯えた表情…はいつものことだ


 だが、女たちは青ざめた表情で見てくる


 まだ何もしていないのにその反応は少し傷付く…


 俺の盛り上がった部分を見ているからなのか


 ごめんよ…生理反応なんだ…


 ここでの黒幕が人間の可能性がある以上ウィルがおとりになるわけにもいかない


 人間がゴブリンの村におとりとして行ったらこれ幸いとゴブリンが襲うだろう


 そこで戦いになったら元も子もない


 俺の事は誰でも一目で強いということは分かるらしい


ゴブリンがあの洞窟の風習を何とかしたいと思っているならゴブリン側から話しが来るだろうとのこと


 確かに分かる


 でも、ウィルのあの楽しそうな顔…


 いつか絶対にやり返してやる



 村長の家に連れていかれた


 村長も俺を見た瞬間は青ざめた表情をしたが


 長という立場なのだろう、すぐに表情を引き締め、考えるようなしぐさをしながら


 アキナからの事の経緯を聞いていた


 アキナは村から出ていった裏切者ということで一悶着あるかと思っていたが


 割とあっさり滞在を許してくれた


 アキナもお咎め無しで滞在していいそうだ


 空き家一軒を使っていいとのこと


 夫婦だと思われたのだろうか…


 少し過ぎる待遇に思える


 それにアキナと一つ屋根の下は俺がまずい…


 いくら最近は「抑制」を覚えているとはいえだ


 いや、俺の反応はむしろ通常のはず


 アキナは実家に顔を出すと言って行ってしまった


 オーケーなのか?


 このまま両親への挨拶というやつなのか?


 頭では仲良くしたいだけだと思っている


 でも身体は正直だ


 ウィルの野郎は俺がアキナと結ばれることをどう思ってるんだ


 テンはあんなにアキナと仲良かったのに


 俺がアキナを襲ってしまっていいと思っているのか?


 試しているのか…?


 それとも、襲うことを前提に考えているのか


 いや、俺を信じているのか…?


 高みの見物で楽しんでるだけか?


 考えても考えても分からない


 ぐちゃぐちゃ考えているうちに夕方になりアキナが帰ってきた


 アキナの目は真っ赤に充血していた


 「アキナ‼どうした?何かされたのか⁉」


 アキナはハッとした表情で目をごしごし拭った


 「誰にやられた‼」


 「ちがう‼」


 俺が家の外に出ていこうとするのを小さな手を握りしめて止めた


 「お父さん…お母さん…私…心配してた…出て行ってごめんなさい…みんな…泣いた」


 アキナは可愛い目に涙を一杯にためて言った


 そうか…俺は親の立場になったことないから分からなかった


 アキナは家族に愛されていたんだ


 俺の親もこんな風に心配してくれているのかな…?


 そう思うと少し胸が締め付けられるような感じがした


 俺もアキナと同じ、故郷から出てきた身だ


 そして数百年帰っていない


 「そうか…でもそれなら実家に泊まってくれば良かったのに」


 アキナと同じ身なら一日くらい家に止まりたいと思うだろう


 たとえ出ていってから一年と経っていなくとも


 アキナはブンブンと首を横に振った


 その目は決意を決めた目をした


 「家族…大事…だから…わたし…みんな守る…オーグン…協力して」


 俺はごちゃごちゃ考えているのが馬鹿らしくなった


アキナの手を握りしめ


 「ああ、任せろ」


 俺の決意も固まった



 アキナは床に枯草を敷いただけの簡素な寝床に横になるとすぐ寝てしまった


 縁を切った村に帰ってきたこと


 家族に何か言われるんじゃないかと不安だったこと


 風習を調べるために色々アキナなりに考えたていたこと


 皆を守るために俺に協力してといったこと


 まだ十年ほどしか生きていない可愛い子が色々背負っていたんだ


 一番大変だったのはウィルでもなく俺でもなくアキナだったのだ


 アキナの事を一人の個体として好きになった


 そして、不思議なことにその晩は一切性的に興奮することがなかった


 ウィルの野郎は俺がアキナを襲わないって確信して送り出したんだろうか…


 本当食えない奴だ…



 ウィルから受けた傷は一日で塞がった


 朝目を覚ますとちょうどアキナがどこからか帰ってくるところだった


 「オーグン…怪我…治ったね 早い…治ったら 村長呼んでる…付いてきてもいいか」


 「ああ」


 問題はここからだ


 傷の治りが早くすぎて一日では、状況を掴めてないが俺の決意も固まっている


 少し強引に脅してもこの村で何が起こっているのか聞き出してやる


 そんな決意のもと村長の前に行く


 村長は昨日と同じような恰好、態度であった


 「ワタシ タスケタ ナカマ テヲヒケ」


 と村長はアキナよりたどたどしい言葉を話してきた


 うん?


 このじじい言葉を話せたのか?


 じじいといっても年齢は俺と比べると桁が違うだろうが


 アキナが教えたのか


 アキナを見ると「村長別の言葉知っていたんだ…」みたいな顔をしている


 元から言語を知っていたんだ


 やはり人間とかかわりがあるのか?


 この地は魔族の集落からは遠く離れているが


 割と人間の国からは近い


 それに俺らの仲間?


 ウィルと行動しているのがバレているのか?


 そういえば、ウィルがここから先は近づくなとか言ってたけど、何かしらの方法で俺たちの潜伏がバレていたのか


 テン…には他に仲間いないだろう


 無論俺もそうだ


 俺みたいなのがいくら考えても何もわからない


 でもゴブリンから話しをふってくれるってことは良い方向に転がっている


 一日で勝手に治ったのに恩を売ってくるってことはゴブリンも相当困っているのだろう


 「分かった 案内しろ」


 ちゃんと予定通り事は進んでいる


 俺らは例の洞窟の前まで連れていかれた


 俺と村長、アキナ、


 そしてゴブリンの中で一番強い戦士長パージ


 他の物は木の繊維を編み込んだだけのみすぼらしい恰好の中


 パージは金属の鎧に身を包んでいた


 洞窟の前の二人の監視兵は俺の顔をみて一瞬怪訝そうな顔をするも


 村長とパージを見て諦めたかのように道を空けた


 洞窟の中は薄暗く少し冷える


 アキナは震えているも目の色は変わらず勇ましい


 俺とパージはアキナに待ってろといったんだが


 「私…頼んだ…行く…当たり前」


 なんてかっこいいんだ


 足場の悪い洞窟の中アキナが転びそうになるのを支えながら歩いていくと


 開けた空間に出た


 光は遠くの入り口から射してくる太陽の光のみのくらい空間


 そこには寝床があり


 装飾された小物がおいてあり


 木で出来た棚がおいてあり


 生活臭がただよっている


 先がいくつも枝分かれになっており部屋になっているのであろう


 しかも生活しているのは一人ではなさそうだ


 しかし今は誰もいない…


 留守なのだろうか…


 人間をここで匿っていたのだろうか…?


 村長が震えながら口を開いた


 「主よ…ナカマ…ツレテキマシタ…ワレラヲ…カイホウシテクダサレ」


 中から返事は無かった


 「主よ…」


 中を捜索してみた


 枝分かれの先には鍾乳洞のような水が垂れている所が合ったり


 肥溜め部屋のようなところがあったり


 確かにこの中だけでも生活が出来そうだ


 一瞬の油断


 アキナと十数メートル離れた時


 アキナの後ろの何もなかった壁から大きな手が出てきてアキナの頭を鷲頭神にした


「アキナぁア」


 「黙れぇ」


 そこにいたのは人間では無かった



 まさかのオーガだった


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