第5話 「小鬼の幼女」

目が覚めた


 俺はいつの間に眠っていたのだろうか?


???


 目の前には傷だらけの幼い女の子が横たわっている


 浅黒い肌…


 みすぼらしい服


 頭頂からは小さい角


 やんちゃそうな八重歯


 俺はこの種族を知っている


 ゴブリン……


 おい待て!


 流石に俺は未成年には手をださんぞ‼


 ここはいつものウィルと過ごしている草原…


 ついさっきまで人間の国の王宮に招かれるような話しをしていた気が…


 いや、もっと重要な…


 俺は眠らされていた?


 なんだ?この状況は…


 「やあオーグン起きたかい?」


 近くにいたのは天狐だった


 「俺は…寝てたのか?」


 「おう‼おいらの幻術はあのオーグンにすら効くんだぜ」


 どうやら天狐の幻術で眠らされていたらしい


 どこぞやにサキュバスという妖艶な夢を見させてくれるという魔物がいるというが


 おそらく俺には効かないのであろうと思っていたのに…


  うぐっ ひぐっ


 「どうしたのオーグン?」


 「天狐お前の幻術は夢を操れるのか?」


 「ま、まあ出来なくもないけど、気が狂う奴も多いから…その…


 友達には使わないよ」


 俺の脳内に稲妻が走った


 なんて素晴らしい魔法……


 いや危うい魔法だろう


 夢の中のでは俺の望むような光景……


 いや眠らされて幻術をかけられたら確かに現実と幻術の狭間が分からなくなるだろう

 「起きた?テンの幻術は凄いね君ですら意識を失うのが一瞬だったよ」


 「テン?」


 「あ…あ、おいらの愛称さ」


 そこにはいつも通りのウィルがいた


 ウィルと天狐が仲良くなってくれた


 なんだか感慨深い


 いや、幻術の話しはおいおい聞かせてもらおう


 俺は涙を拭った


 色々脱線してしまったが今はその話じゃない


 「この子は?」


 この可愛いゴブリンだ


 少しはだけた傷だらけの幼子に反応しつつある俺の性欲の高さに流石にうんざりする


 聞けば帰り道この近くで倒れていたから面倒を見ているのだそうだ


 ここは人間の領域と魔族の領域の中間地点らへん


 魔族には数えられない魔物と呼ばれる知能の高くなく弱い者の住みかになっている。


 なぜ魔法で治さないのかと聞いてみたら


 回復魔法は己の治癒能力を呼び覚ますもの


 ゴブリンのような生命力が乏しい者に使うと寿命を縮めることになるのだそうだ


 500年も生きてて初耳である


 兎も角、俺らはこの子の回復を待ち、この子の村に届ける事にした。


 基本的には俺もテンも寿命が長い分暇だからな


 たまには人助けもいいだろう


 てか、耐えてくれよ俺の性欲……


 数日後、ゴブリンはなんとか立ち上がれるまで回復した。


 女の子のゴブリンは名をアキナと言うらしい


 ゴブリンは知能はあるものの魔族として数えられない魔物であり


 『他種族不干渉条約』に数えられていない種族である


 つまり、人間と魔族両方の冒険者(略奪者)から討伐される虐げられている存在


 俺もゴブリンには初めて会ったが言語は違えど


 身振り手振りで普通にコミュニケーションが取れる


 何より可愛……やめておこう…


 アキナの村はゴブリンの村の中でも森の奥に住む種族で人知れずひっそり暮らしていたらしい


 しかし、最近は新たな風習とやらで成人前に女子は数日洞窟に連れていかれ


 帰ってきた女子は今までのそれとは別物のようになっているんだそうだ


 アキナはそれが怖くなって村から出てきたものの


 他の魔物や冒険者に襲われ倒れていたそうだ


 それを聞いて俺は安心した


 ちゃんと大人一歩手前の子なら発情して訳ないと…


 むしろこの状況に発情しないのはアキナに失礼だと


 うん


 わかっている


 そうゆう問題ではない


 とはいっても村から出てきたアキナを村にそのまま帰すのはアキナを殺すようなものである


 アキナも帰りたがったいる訳ではなさそうだ


 「新しい風習とやらが気になるね」


 ウィル…何故かこいつの言うことは当たる


 「最近悪魔軍が活性化してきている…何か関係があるのかもしれない」


 「そうだな…そのまま送り返して死なれても悪い気するし、放っておいても死ぬだろう


 この子の村についていくか」


 そう、言葉通り…


 別にやましい気持ちがあるわけではない


 顔にも出ていないはずだ


女の子たちが不幸になる村をほっとけない


 「テンはどうする?」


 「おいらだって行ってやるよ


 どうせこの先ずーっと暇だしな」


 こんな風に言っているがアキナの面倒を一番見ていたのはテンだ。


 俺は抑制が効かなくなるためNG


 ウィルは必要最低限しか構わない


 そのためテンと二人で遊んでたり言葉を教えていた


 テンも面倒見がよく、アキナもよく懐いていた。


 それにしても俺は「抑制」と言うものが出きるようになってきたんだな


 一人で生きているときには考えもしなかった


 誰かとの関わりと言うものは心地よいものなのだな




 草原から林へそして森の中へ


 アキナの故郷は簡単には見つからないところにある


 ゴブリンは戦闘力も高くない


 だから生き残るためには集落が見つからない事が重要だそうだ


 方角が分からないような森の中歩くこと数日


 そこは山の中腹に木が生い茂る中にぽつぽつと平らなところにだけ家が建っている


 「へぇーここに家を建てているんだ


 これだと遠くから見ても気付かれないし規模も分からないね」


 「どれどれ」


俺が身を乗り出そうとするのをウィルが制す


 「そこから先は若干魔力が変わっている


 害はないだろうけど今は近づかない方が良い


 アキナ…家は全部でいくつある?」


 「あそこ…あそこ…あそこ…20………あるよ」


 アキナはここ数週間でボディランゲージだけでなく単語が伝わるくらい言語を覚えた


 聞き取りもまあまあ出来る


 ゴブリンには俺らと違う独自の言語がある


 でも、不思議なことにウィルや人間と魔族の言語は共通だ


 ……知能ならオーガよりゴブリンのほうが高くねぇか?


 俺よりアキナが賢いだけかもしれないけど


 ウィルが言うに何につけても偵察、状況確認が一番らしい


 ウィルはアキナに家の場所、見張りの位置、見回りの範囲から風習、生活観等、事細かに聞いていた


 基本的に不自然な所はない


 小さな魔物を狩って食糧にしたり、洗濯は川でしたり、家も木の枝と枯れ葉の質素なもの


 だが、問題の洞窟は常に見張りが二人以上


 入り口は縄を締めたり器があったり装飾が施されている


 不自然だ


 「まさか…人間が関わっているのか…?」


 「なぜだウィル?」


 「神や絶対的な何かを信仰して一族の連帯感を高めるのは人間のやり方だ


 オーガには信仰などの概念分からないだろう?」


 ウィルは人間の宗教について語りだした


 「楽園追放、箱舟など前の物語があるんだが今一番信仰されているのはウィンザード教


 2000年以上前人間と魔族は互いの領域を争っていた


 魔族に対し戦闘力が明らかに劣った人間、捕食対象であった


 人間は逃げ回り生きながらえていた


 しかし、ある時、強い人間が生まれた 


 彼の名はウィンザード


 ウィンザードは剣を駆使し襲い来る魔族をすべてはねのけ今のオルミナ王国を作った


 彼の死後も人間が安心して生きられるように魔族と『相互不干渉条約』を結び今に至る


 今はウィンザード歴2002年つまり人間が魔族から権利を獲得し安全を手に入れた年からそれだけ経っている



 信者は武神の残した剣の振り方を教わることが出来る


ウィンザード教を信仰することによって万が一魔族が襲って来ても対抗出来るのだと


 その武神ウィンザードの子孫とされているのが僕ら国王一族


 彼の死後何百代と王は変わっているのに信仰は変わらない


 生まれた時から守り神の末裔、武神の生まれ変わりとのことで国民から崇められる


 ウィンザードは実在したかもしれないが


 君たちもわかる通り


 この神話は都合の良い嘘だ


 その嘘を国民は信仰している」


 分からない


 オーガは歴史が無い


 生きている今がすべてだから


 オーガにとって重要な事は強さだ


 誰から生まれたかなんて意味を成さない


 死んだら弱かった者として親しき者以外には忘れられる


 生まれ変わりの世界なんて考えたことない


 俺は俺なのだから


 死者を弔う事もしない


 「人間は優れているから死後の世界を知っている


 国ではそう教わるがそんな馬鹿げた話はないだろう?


 生きとしいけるもの全て死んだら身体は土に還り魂は万物の魔力となる


 生まれ変わりなんてバカバカしい…僕は僕だ


 まあ、つまり宗教は人間の都合の良いように人間を団結させる道具 


 それが外と交流の無いゴブリンの集落にあるとなると…」


 ウィルの表情が険しくなっていく


 ウィルは種族間交流は賛成なはずだ


 そのウィルが人間が作り出したものがゴブリンの村に持ち込まれていると感じた時のこの表情


 それほど宗教は恐ろしいものなのだろうか

 テンも黙って聞いていた


 テンの場合は宗教ではなく英雄伝の被害者だが似たようなものらしい


 思うところがあるのだろう


 村には活気が無かった


 隠れて過ごしいるからではなさそうだ


 女の人の顔に表情がなく


 男は男の威厳を全て削がれたような顔をしている


 ただ子供だけは元気だ


 そしておとなのゴブリンに比べて大差ないほどデカイ


 無邪気に泣き暴れるのを母親が宥めるだけで母親の身が心配になる程


 力が有り余ってるのだろうか


 子供とはそうゆうものなのだろうか


 「異様だね…」


 ウィルの表情が優れない


 俺でもその異様さは感じ取れた


 ただ、衣食住不自然なところはない


 聞いてて感じたが、オーガの集落と大差ない


 「むかし…違う…洞窟…入るな…みんな…元気ない…」


 やはり全ての元凶は洞窟にある気がする


 俺でも分かる


 行けば分かる


 立ち上がったところをウィルが土魔法で制した


 「なんだ!


 あの洞窟の中に入れば分かるだろうが‼


 ウィル!お前女の子たちがこんな顔をしてる村を放っておくのか!!」


 「まってオーグン…作戦を立てよう


 あの見張りも好きで見張っている訳じゃなさそうだ


 戦いになるのは避けよう」


 見張りを注意深く見てみると確かに目に光がない


 中になにがあるのか知っているのか分からないが絶望している


 「それに襲って解決したとして アキナはこの村にかえれるのか?」


 一考した…


 確かにそうだ


 うまくいけば元凶を取り除いた良い奴


 でも、下手すれば村を壊滅させた悪い奴


 しかしそれでは何も解決できない


 「じゃあどうすんだ?」


 「いい考えがある」


 ウィルが珍しく気味の悪い笑みを浮かべた


 俺はとても悪い予感がした…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る