第3話 「狐の恩返し」

「おらぁウィル 飲みやがれぇえええ」


 俺はウィルに神のしずく(お酒)の入ったコップを渡す。


 ウィルは静かにそれを一口で飲み干すと


 そのコップにお酒を注ぎ俺に渡す


 「おおおお、オーガの族長の俺に酒で勝負を挑むとはなぁ」


 コップに入ったお酒を一気に口の中へ流し込み


 コップに並々注いでウィルに渡した


 この酒は人間が作った物らしいんだが中々美味い


 ”イネ”と呼ばれる人間の主食の穀物を樽の中で長期熟成させた物らしいが


穀物の甘さと発酵された芳醇な香りが飲んだ時に口の中に広がる


 ツマミも”ウシ”と呼ばれるどうぶつの肉を干したつまみは絶品だ


 魔族は魔物を食べるがそれとは比較にならない


 青空テラス…といえば聞こえは良いが


 だだっ広いのどかな草原地帯の真ん中で地べたに座り晩酌をしている


 人は建物の中で飲み食いをするらしい


 物は人間流、場所は魔族流だ


 手元を見るとなみなみと注がれた酒が手元にあった


 俺はそれを一気に口に注ぎ込みまたなみなみ注いでウィルに渡す


 「ウィル 俺に酒でなら勝てると思っているのか?」


 その一言にウィルは火が付いたようだ


 外から見ていると温和で和やかな、悪く言えば感情が無いと思われるような印象だったが、


 実際はこいつ、俺より短気だ


 周りには道化を演じているのだろうか


 ウィルも酒を一気に飲み干し注いで俺に渡してくる


 「オーグンこそ酒以外で僕に勝てる事あるの?」

 俺は大人だ…


 こんな挑発乗るはずない


 酒を飲んでまたウィルに渡した…


 頭の中がぐわんぐわん回り草原で横になる


 まさか俺が先にダウンするとは…


 戦闘は互角だが今のところ酒は完敗だ…


 いや、待てよ…


 なにか引っかかることがあるが酔って思考が出来ない…


 空は数えきれないほどの星と満月がきれいに光っていた。


 「なぁウィル 夜っていいよなぁ」


 「…君って案外根暗だよね?」


 ムーも飛んできて寝ころび同じように空を見ている


 三人で空を見上げる


 「昼間は太陽だけ、一人で寂しく光ってるけど夜は、月に星、みんなが助け合って夜を照らしている」


 酔っぱらってセンチメンタルなことを言っている気がするが明日には覚えていまい


 「うん? 俺って根暗なのか…?」


 「…… 君がそれをいうと気持ち悪いね 」


 怒る気力はなく


 そのまま眠りに落ちてしまった。



 朝、目を覚ます。


 身体を起こすと目の前が三重に見えた。


 よく見ると目の前に白い二本足で立つ小さな魔物?が立っていた


 初めて見る魔物だった


 白銀の綺麗な毛並みに


 赤い目


 緩いワンピースのようなどこかで見たような服装だ


 だが俺にはそんなこと考える余裕がない


 うぼぉおおおえ


 昨日のツケが回ってきている


  盛大に吐いた


 その者は声を震わせながら


 「お、おいらは天狐 オーグン‼お、お前の弟子になってやっていいぞ」


 気分が…俺は機嫌が悪い…


 ともすると、林の中から木の実を持ったムーとウィルが出てきた


 この野郎…あんだけ飲んで全く残ってないなんて…


 「やめときなオーグン そいつ妖狐だよ」


 俺は敗北感に苛まれているなかウィルが何か説明しだした。


 天狐はウィルを睨んでいる気がする


 そんな天狐の目を気にせず魔法で薪に火をつけるウィル


 ここまで来ると俺はどうでもよくなっていた


 ウィルは取ってきた木の実を調理しながら話しを続けている


 「騙し、奪い、喰うがこいつらの専売特許だよ


 こいつらは魔物じゃない。狐の中の突然変異である妖狐は約千年に1匹しか生まれず寿命もないため魔力が強い」


 ウィルは鍋を用意し


 魔法で鍋の中に大気中から集めた水を入れ


 鍋で木の実を煮込む。


 俺は朦朧とする意識の中ウィルの無駄のない動作を眺めていた


 本当にこいつは何でも出来る


 ただのそこらへんに生えている木の実ですら美味いというのは衝撃だった


 最初は気にくわない奴だと思っていたが世の中こうゆうやつもいるんだな


 とはいっても俺には女の子オンリーだ安心してほしい


 「しかも白い妖狐の名が天狐なんて歴史上聞いたことが無い」


 やべっ ウィルの話なんも聞いてなかったけど


 歴史とか…俺の1/25くらいしか生きてないのに博識なんだな


 「そ、そうだぞ おいらは強いんだぞ とっとと弟子にしやがれ」


 俺に弟子か…


 オーガの里にいる時はこんなやつばかりだったな…


 『押忍 オーグンさん一生あんたについていきます』


 『俺らは硬派に生きていくんですよね オーグンさんは俺らの鏡です』


 むさくるしかったな…


 俺は嫌な過去に区切りを付け、天狐とやらの目を見て答える


 「やだ」


 「な、なんでだぁああ」


 「女の子がいい… 」


 言葉は自然と出た…


 そうだ女の子 女の子ならありだな


 『オーグンさんかっこいいです』


 『オーグンさんと結ばれたいんです』


 『オーグンさんの子を…』


 「馬鹿野郎 俺は自分の弟子には手を出さねぇんだ」


 とか言っちゃったりしてなぁ…


 ムフフフフ


 今の気持ちで寝たらそうゆう夢見られるかな


 俺は寝転がり


 「おやすみ」


 そうゆうとまた目を閉じた


 「もういい加減起きてよ… 」


 ウィルはそんなこと言っていたがこいつには俺の気持ちは分かるまい…


 せめて夢で…



 「ま、待て 連れて行ったら友達の女の子紹介する… 」


 天狐の手には俺が破った布の切れ端があった



 俺は寝床から飛び出てきていた


 満面のにやけた笑みで


 俺の顔を見て二人はドン引きをしていた…



 俺の顔はそんなに…だろうか…


 ウィルはすぐさま俺のパンツと切れ端を魔法で繋いだ…


 「うまいっっ」


 ウィルが作った木の実のスープ


 ブナ科の木の実は基本的に食べれるらしい


 ウィルは冬に向けて食べ物を貯蓄する為、たくさんの木の実を取ってきては魔法で作った壺に入れ魔法で堀った地中の穴に入れていた


 オーガにはそのような習慣はない


 冬には冬の魔物を食べ、夏には夏の魔物を食べる


 分厚い皮膚で気温差をそこまで感じないオーガにとっては季節はあまり関係ないのだ


 「ごちそうさまでした」


 皿を片付けに行く


 ちなみに“皿”を使うという習慣もない


 ウィルが離れていく野をちらっと見た天狐が小声で


 「なぁ オーグン なんで人間なんかといるんだ 違う種族って交わっちゃいけないんだろ?」


 「知るかそんな規則 俺は俺が好きな奴と一緒にいるんだ はっはは」


 ウィルが帰ってくる


 バンっとウィルの肩を叩く


 「いて」


 「フーン」


 天狐がウィルを警戒した目で見る


 ウィルは相変わらず目を合わせない


 俺は二人に流れる微妙な空気を変えるためウィルのフレンドリーさをアピールしようと肩を数回叩いた


 今思えば多少強くし過ぎたのかもしれない


 とはいっても…


 あそこまで…



 「がははは こいつはいい奴だからなぁ」


 ブチっ


 何かがはじけた音がした



 「いてぇっつってんだろ」


 「うん?」


 ウィルは俺の目の前に突風を作ると俺を弾き飛ばし距離を取った


 ウィルが空に手をかざすとどす黒い暗雲が集まり空を覆った


 バリバリバリッ


 一瞬にして空は雷が発生し


 「神のいかづち」


 ウィルはそう言いながら俺に手をかざすと


 目の前は真っ白になりすさまじい衝撃が走った


 熱い…


 頑丈なはずの皮膚はめくれ上がり


 身体は骨の髄までしびれ相当なダメージが与えられている


 真っ白な中で一瞬人影が見えた気がした…


 俺はその人影に向かい相棒を一心不乱に投げた

 と同時に人影に向かい突進した


 初めの相棒は魔盾で弾かれたものの突進を防ぐことは出来なかった


 ドガァァアアン


 仕留めた


 俺の突進を受けて立ち上がった奴はいない


 肩から生えている角がウィルを貫き突進の威力でウィルは血しぶきをあげながら吹き飛んだ


 瞬間俺の背筋が凍り付くように冷えたのを感じた


 とっさに身を半身ずらす


 瞼が切れた


 危なかった…


 もう少し遅かったら片目を潰されるところだった…


 ウィルを見ると傷はふさがり立ち上がっていた


 ウィルは突進された瞬間身を守るよりも俺の片目を潰すことに高密度の魔力を使い


 吹き飛ばされた瞬間から治癒魔法を自分にかけていた


 とんでもない奴だ…


 ウィルが切れた事による冷静さを失った特大魔法


 その直撃をギリギリ耐え、出来た隙で致命傷を与えたかに思えたが


 逆に急所に一発貰いかねないカウンター


 自分は致命傷を塞ぐ


 「うぉおお 今日こそぶっ倒してやる」


 「この自己中がぁ いい加減やられろぉおお」


 「今のでキレるとかどんだけ短気なんだクソ王子」


 お互い同程度の消費


 お互いの間合いの中


 お互い同程度の精神状態


 ここからはいつもの通りの互角の戦いであった


 お互い体力を使い果たすと以前の草原地帯が荒地となっていた




ーーー天狐視点ーーーー




 強烈な匂いにうなされて目が覚めると身体に布が掛けられていた


 見覚えがある…


 これは三大魔族のオーガのだ


 やはりおいらの罠に吸い寄せられて来たのはあのオーガであった…


 いや、待てよ、オーガと仲良くなっておけばおいらの身は安全じゃあないのか?


 わざわざ布をおいておいてくれるってことは邪険に扱われないのでは…?


 オーガを探し朝方ようやくオーガを見つけた


 とりあえず下手に出て弟子にでもなっておこうとしたが断られた


 まあ当然か


 みよあの…凛々し… うん?欲望にまみれた姿……


 この顔はもしやと思った


 とはいえ、昨日狩りの為長い間変身してしまったおいらは今変身出来ない


 とりあえずオーガの布…はパンツだったが…を見せてあの娘の友達という風にしとこうと


 背後から近づく匂いがある…


 おいらの中に憎悪の感情が湧き上がる


 振り向くとそこにいたのはやはり、に、人間だった…


 おいらの育ての親はおいらの目の前で狩られた


 許せるはずがない


 人間は敵だ…


 でもここで取り乱してはいけない…




 何故ならあのオーガがいる…


 オーガとこの人間がどうゆう人間だか知らないがおいらが暴れたとこでオーガにやられて終わるだろう


 しかも族長のオーグンだという


 おいらはぐっと感情を飲み込んだ


 この人間は博識だった


 おいらの事を知っている


 だが、それだけだ…


 おいらの敵意も気付いているはずだが特に何もしてこない


 しばらく観察しているとオーグンがバシバシ人間を叩いている


 ”なぜか”一つ目の妖精を連れているがこいつはパシリなんだろう


 こいつがパシリなら後でどうにでもなる…


 だが、おいらの思考は完全に間違いだった


 そのパシリだと思っていたウィルという人間は凄まじい魔法をオーグンに叩き込んだ


 それはあのオーグンですら消滅してもおかしくない程の魔法だった

 おいらだったら確実に消滅していた


 だがオーグンは生きていた


 オーグンは反撃をかます


 おいらは目で追えなかった


 人間が血しぶきを上げながら宙を舞っている


 それはオーグンの突進した事後だった


 人間は死んだ


 いや、この世の生物のほとんどが今ので死に絶えるだろう


 頭の中が混乱した


 今まで少なくともおいらの眼には和気あいあいとまではいかなくとも普通に話していた二人が殺し合いをしている


この二人はなんなんだ

 と思ったら人間の傷が塞がり立ち上がった


 ???


 確実に死んでいた…


 魔族より弱い人間が今のを食らって立ち上がれるはずはない…


 すると二人はお互いの愚痴を言い合い激突した


 おいらは理解した


 これは内輪の喧嘩なんだと…


 その”ただの”喧嘩の規模がこれなんだと…


 この二人と喧嘩をしてはいけない

 そう結論付け地形が変わるほどの喧嘩を震えながら遠い目で二人を眺めていた



●キャラクター紹介


 名前:ウィル


 種族名:人間


 魔魂:S 


 魔躰:C


 寿命:約80年


 能力:万物の魔力を魔魂として使える


 一言:「僕は何のために生きているんだろうか」




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