外伝 第4話 エドワードの手記
人という生物は金属を宿す塊である。
生きとし生ける命はあらゆる外界にも意思と共に、
念を伝い通じて心共に常に交じり合う繋がりに、
互いの結晶を見据えて存在しているのだ。
有機物と無機物の複合体として現存。
というのは永きに渡り、私の人生観を通じて
付かず離れず地球という星の産物にあやかり、
また要素を吸収して今を生きる。
人と結晶は無関係ではない。
誕生より自然の恩恵と原理を共に宿して数千年の時を
星の下より送って均衡を保ち生きてきた。
性質は違えど類似点や共通点がいくつか含まれていて、
同じ星の下より条件を通して誕生した塊より、
医学の
御大層な言い分も老人
手書きでこれを残そうとする理由は誰かに見つけて
読んでもらいたいのもある、他において結晶への理解を
もってもらえる者への訴求としてそうしてゆく。
順を追って当時の状況を振り返る様に書いていこう。
私自身も人体の仕組みから結晶への接点を視始めてから
ここまで追求してゆくとは思いもよらなかった。
ただの好奇心、興味本位の部類なのかもしれないが、
星の産物と他世界との繋がりに真理を見出して今に
そんな鉱物との付き合いは幾つもの時代を経て
出会いの運命が決まっていった。
1932年、イギリスで生まれた私は森林のある
地元の名家として比較的裕福な環境で生まれた。
当時、ちょうどオタワ会議を行っていた時代で
自由貿易が形骸化しかけていた中でも資産は残り、
父が医者なので必然的に私も同じ道を歩かされ、
大変気品のある学校に行くことができた。
経過はこれといった変化はない、他と差も大きくなく
時代情勢は多少の波があった事を除けば
ごく普通にありがちな人間そのもので、
この時までは結晶との関わりなど
なんら変哲もない人生を送る。
20歳になる前まではこれといった内容も書かず、
ACと接触した出来事はやはりそれにまつわる者との
付き合いで始まったようなものだ。
ある日、付き合いが深くなった友人の1人である
ロストフに家を招かれた。
彼は教会の重役の息子で、気を許してくれたようで
そこで見せられたある鉱石が目に留まる。
聞けば、ただの宝石ではなく特殊な文字を刻んだ
アンジェラス・クリスタルという。
ACと略称する結晶は何者かによって再形成された
物でただの宝石とも異なる代物。
黄色い球状のそれは神に選ばれた形質とされ、
異界との交信や力を受ける性質だという。
手に取るとオラクル(
彼らは何者かと質問すると、他星の従者と答えた。
正体はもちろん、どこに居るのかすら判明していない。
内部は単なる金属、ミネラル結晶体のそれで、
外界と通信できる性質など見当たらず。
まさに種明かしもできない手品のそれとばかり錯覚した。
君にも適性があると彼に言われたが、
当時の私は何の意図か理解できずにいた。
以来、度々他の種類もいくつか見せられてゆく内に、
興味が湧いて自身、関心をもつようになる。
ある日、発掘場で掘り起こした物に刻印痕跡があり、
由来が判明するのではと彼について行く事にした。
しかし、家は地質調査に行くのを許さなかった。
危険だからと、アヴィリオス家との関わりを禁じ、
引き続き医学の道へと進まされる。
自治植民地も様々な改革の連続で統廃合を繰り返し、
世間への荒波がまだ治まりきれずにいる。
親同士の因縁でもあるのか、私も彼と会う機会も減り
付き合いが薄れて疎遠になってしまった。
1952年、時を少し進めて20年の歳月。
成人になっても周囲とほぼ等しい生活の様に、
これといった大きな変化も起こらずに過ごす。
社会での生活そのものも優遇措置を受けた立場で、
世界大戦も収束しつつ身を置いていた。
大学を終えて医師免許も難なく取得。
まだ常勤医だったが、急がされながらも
一人娘、リリアも生まれて順風満帆な生活を送る。
20で子どもを作った理由を書くのは少々恥ずかしい、
当時の私は俗に言うモテモテで
女性までたどり着けただけだ。
どれほどの日を繰り返してきたか、
ある出来事を機にACとの再会が訪れる。
同僚の1人が有機体について関心をもっており、
治療とはまた異なる分野について話し始めた。
一概には培養の事で受精卵移植ではない別の技術で
人体の構成を施すと語っていた。
もちろん、当時からして到底信じるのも難しく
半信半疑が頭をよぎるだろう。
私も何をしているのかうかがう。
それは人工生命体の生成についてで、特殊なミネラル
有機体を応用して人を生み出すらしい。
医療機関繋がりの組織にも足を運んでいるという。
他とは異なる所のそこは特殊ながらも、
守秘義務と真理への追求を共に条件として
勧誘を受けて入れさせてもらえた。
ここで再び結晶との付き合いが始まってゆく。
まず知ったのは再生機構を名乗る組織で、
施設に入るや、目には透明のアクリルポッドと機材が
複数置かれていた。目的としては培養のためだと分かる。
彼はある政治家の資本でここを任されているらしく、
同じ志をもつ者を必要としていた。
意識としてはやはり同じ医学、
当時は興味本位があった事を否定しない。
思えば、若さゆえの未知なる探求でそうしたのだろう。
ホムンクルスとよばれるものは結晶の力で
人と同化する存在をヨーロッパよりつくろうという。
目的は優秀な者を育成させるため、主に知能指数が
170を上回るよう調整して将来の繁栄のために
過度な劣性遺伝者を増やさないようにするらしい。
1990年になるまでは試行錯誤の連続だった。
成功したのは3体、一応一定以上の読み書きができる
成人並みの情報吸収力をもつ子ができた。
パライバトルマリンは1987年という近年に発見され、
電気石の一種が決め手で異界吸引に成功できた。
肉体は培養で能力や意識はどこかの世界、
出身、出生の出元すら不明な中でAC性質をままに
どうにか1人の人間を保てた。
もちろん、私とて最初は理解できなかった。
しかし、今こうしてカロリーナを培養器から誕生させ、
日本の一角で書き
資格としては守秘義務と医学の知識があれば参加可能で、
経歴重ねに私も研究を許可された。
そこからはしばらく2つの道を行き来。
職も板についてきたところで娘に仕事を任せながら
少しずつ自由時間を費やしてACを調査。
着々と知識と技術を習得していった。
さらに幸運な巡りか、ある事実も判明。
この時代より、AC内部に刻まれた文字の正体が
最新科学で次第に明らかにされた。
それはエノク文字。
別名:天使文字とよばれるそれは異世界から教わった
言語を用いて伝達し合っていたという。
外見はアルファベットで元はフェニキア文字、
紀元前1700年前から作られたものと等しい。
時代からしてそこから通信し合ってきたと推測するが、
元の創始者が不明ゆえに確証が得られていない。
そんな不確定要素の多い存在はやはり惹き寄せられる。
目的はもちろん未知との発見に心が離れなかったから、
再会という言葉で表現しておく。
ともかく、私はもう一度刻印と人との接点を追求し、
また新たな発見を得ようとした。
そして、しばらくの時の刻みは続く。
医者として忙しい身でありながら人目を忍ぶように、
わずかな隙間を作りつつ結晶について学ぶ。
改めて図鑑など閲覧している内に外観のバリエーション、
色とりどりの鮮やかさにも興味をもってゆく。
学者にとっては単なる色、金属の質であろう。
私もかつて教会で見せられた当時は宝石としてだが、
中身を調べる度に複雑かつ奥深い仕組みに
追求したい気持ちを膨らませている。
エノク文字の通信技術も目覚ましい進歩を遂げた。
人生にも限りがあるため、個人的観点から詳細を
ここに書き記していこうと思う。
人がACに触れて悪魔と共通する根拠について、
分かった点をいくつか述べる。
最低限判明した事は人間が結晶に触れた瞬間、
神経電位が文字に反応した点。
当然、脳は手の先まで感覚神経が伝わっているので、
皮膚から神経電位を読み取って気持ちや欲求は
電気的特性の様な状態で伝えていると推測。
心というものは物質内においては+-の相互作用であり、
金属への伝達経路周囲だけは理解できた。
ただ、電位系統が心との共通も解明されてないゆえ、
シナプス電位から精神論まで結べる点が理解できず、
それが放射線かプラズマか学会でも意見が分かれた。
当時、特任教授だった私は放射線技師の資格ももち、
何か得られないかと思考する。
自身でACを手にしながらどこで通信しているのか
直にプラグを体に突き刺して確認。
しかし、失敗。
放射率の低いものでは無反応のようだ。
とはいえ、
容易に従者達との接点に手繰れず。
従来で得た医学の知識ですら参考にできる分野は少ない。
だからとはいえ、仕事も重なり熟考する機会がなく
結晶と縁があったのは尿路結石くらいで、
鉱物と向き合う機会は多くなかった。
金属性としてはカルシウムも人体に多く関わるが、
これは後に書くとする。
また、しばらくの時を送り他の者によって解明。
後に
結晶と異界の従者との接点が特定。
より鮮明に字が視えて科学との共通点が一歩とどき、
意外にもアメリカから痕跡方法が辿れた。
戦争による亀裂は時代の流れで少しずつ埋められ、
ドイツに従事していた学者もACの存在を察知してから
アメリカの組織で反応を発見できたらしい。
しかし、まだ根本原因が見いだせずにいた。
結晶も種類が多くまばらで、人側も体質や性格など
何を理由に適性とみなされるのかが不明。
モース硬度も関係があるとすでに推測はしていて、
特にダイアモンドのような硬度の高い適性者は
そうそう現れない。
同様にルビー、エメラルド、サファイアなど鉱石の中で
優れた物は人に当てはめられるにも限定的だ。
電位を介した金属の通信までは理解できる。
最初は人と金属に共通点はあるのかと疑問したが、
やはりあるようだ。
理由は水。
飲用として体内に取り込む金属類は密接し、
ミネラルは人にとっても当然無関係ではなく、
カルシウム同様肉体維持に収めてゆく。
起源を辿れば海の誕生よりミトコンドリアが生成した
原初からすでに金属質を摂取していた。
今では当たり前のようにミネラルウォーターも販売し、
適性の大小を考慮せずとも当然のごとく摂取。
人間の7割は水分で構成されているので、
液体を媒介とした可能性も考慮する。
人は金属を宿す塊も
柔和な性質といえど、実はこの点も新たな答えに辿り着く。
それは人そのものが悪魔化する現象について。
ACも種類によって別の姿に変化する性質がある。
調べによると、細胞質が直接変化するわけでなく
人体の外側に従者の肉体を重ね合わせ、神経を融合する。
さすがに私自身では試さなかったが、白峰君の供述で
メタモルフォーゼスの原理を考察。
電位で伝えた部分が接続するのは結晶の結合力ゆえか、
人が異界の力を利用し、変身するのは
金属質を通じた膜だったのだ。
悪魔とよぶ呼称は正確な言い方とはいえない。
遥か遠くにあるどこかの星に住む生物、
または結晶と同化した従者が人の水分を浸食して
姿を変える方法もある。この仕組みは割と早く解明。
人側も感覚神経と運動神経を同調させて自在に動かし、
乗り物と一体化した様な状態となるようだ。
3Dプリンターの様な側の生成よりも中身まで
再現するのはSFのワープそのもの、次元をも超える様。
水分召喚膜と呼称しておく。
ただ、性質としてはあまりにも分野を超え過ぎている。
何故、離れた間隔から瞬く間に状態を変えられるのか?
この点も後に記してゆく。
結晶という硬質は星そのものの性質。
もちろん重力によって固められた分子が時を送り、生成。
先を想像しきれぬ
人も星も異界も共に塊という接点から
医学としては然程業績を残せなかった自分に、
塊へ余生を捧げようと決意する。
自然界において一様な理を診てきたが、
生物以外の無機質な存在に気が向いていたのだ。
もしかすればこちら側に魂の証明があるのではと
考慮したが、まだ憶測の段階。
いつかはダイアモンドの適合者も現れるだろう。
残りの人生において未発見の領域は学者の追求枠。
私は一から結晶の性質について学び、
自己的思想と研究を求めてゆく。
結晶とは空間並進対称性をもつ原子や分子が配列する
分類では共有結晶、イオン結晶、金属結晶、分子結晶、
ファンデルワールス結晶、水素結合結晶と
結合力では左順から強いものがある。
分子構造も当然組み合わせが異なるものの、
いずれの種類でも異界との交流が可能とされ、
そして、X線による回折格子の反応で内部が上に挙げた
いずれかのものなら結晶とみなされる。
意外な性質なのはX線が金属質の内部にまで透過できない
にもかかわらず、AC反応が表れる事だ。
理由は電子偏移が刻印部分と一致できた事で、
異界の従者はそれぞれの分子構造を用いて
我々の世界へ裏から介入していた。
もう1つ重要な要素がエノク文字だ。
16世紀よりイギリスから生まれたという言語は
目に見えぬ程、繊細に書かれたこれは結晶内部に刻み、
エネルギーや状態変化を引き起こさせる。
生物が鉱物を介してエネルギーを発せられるのは何故か?
まず、自然発生の射出条件に注目。
実際、この世界にもエネルギーを放出する生物はいる。
デンキウナギ、デンキナマズなど電気のみであるが、
確かにエネルギーの分野として現存。
放電もれっきとした肉体内から生成させて発生し、
生体エネルギーの界隈なら考えられる話だ。
しかし、ACは火であれ氷であれあらゆる属性が
種類豊富で身体構造だけで説明しきれるはずもない。
結晶奥より異界の力をここで素直に認めている。
私は脳内電気として発生する脳電位から仮定し、
結晶では内部にいるという魔物へ念じ、呼びかけ、
力を分け与えたり何かと媒介する。
ただ、全ての者が言葉を投げかけるわけでもなく、
直接意識に侵入する者もいると書かれている。
利用した私も声を聴いた事がない。
聴診器を用いたところで届くのは直接脳内、
耳からでなくシナプスを通して海馬に侵入するのか、
個人的見解なら、ミネラルの器質操作で可能と推測。
従者に気持ちを読み取られるなら、相手の意思も
逆に伝えられるはずだろう。
根拠はまだ理解できないので置いておく。
話を戻そう、エノク文字を結晶に張り付かせて
向かいからいずれのエネルギーを放出する言語翻訳を
自身で発声して独自で少々解析してみた。
文字一覧をAからZまで以下に記す。
A=Un
B=Pa
C=Veh
D=Gal
E=Graph
F=Or
G=Ged
H=Na
I=Gon
J=Ged
K=Veh
L=Ur
M=Tal
N=Drux
O=Med
P=Mals
Q=Ger
R=Don
S=Fam
T=Gisg
U=Van
V=Van
W=Gon
X=Pal
Y=Gon
Z=Ceph
シンプルな直訳であるが、詠唱を英語に直すとこうなる。
異なるアルファベットも共通する文字があり、
神より伝わる
文字の構造の根拠は不明、先に述べたように
外見はアルファベットそのもので英語に変換し、
異界へ呼びかける。
魔物もどういう所以かこれらの意味を理解しており、
数千年前から交流が始まっていた。
いつから刻まれたのかまでは定かではないが、
ホールマーク制度が誕生する以前から世界中の
有権者達よりずっと扱われ続けてきた。
しかし、一般には浸透せずに一部の界隈のみで利用。
元からエノク文字はまったく信じられておらず、
これらは人工的言語として複数の派閥から
かつて非難を浴びていた。
「神の構築した文字などではない」と否定。
パターン化した形跡から共通した字体があるゆえに、
人の作りし造語のものだと認定された。
だが、
既得権益と異界との交流を
目で判断できぬ品質管理を利用して密かに
通常型と刻印型に分別して必要分だけ所持した。
外観はどちらも等しく輝く宝石。
たとえ普通に手に入れても適性が合わなければ、
通常の宝石と変わらず、人々にとって金銭的価値の
それとみなして世界に潜み続けてきた。
金の価値なら誰でもすんなりと受け入れる。
都合の悪い部分だけ隠し、表面の美しさで魅了させ、
一部の有権者が利用するためにカバーストーリーの
体裁をつくろうとしたとは恐れ入る。
よって、今まで世間に広まらずに裏で暗躍できたから
手口は見事というしかない。
教会も例外でなく、信仰と支配を常に維持しながら
現在まで立場を保ち続けてきた。
次は金属質にも注目する。
結晶からエネルギーや分子媒介がどのように発生するのか
調べる必要もあり、悪魔以外の点も調べてみた。
一般では属性とよばれ、創作世界でよく扱われる
自然現象の自由生成。そこを除いても現実的事象。
ミネラルを通じた力学的エネルギーをどうにか
少しでも追及するべく洗って検査。
しばらく観ると、色によって異なる性質をもつようだ。
赤は炎、青は水と氷、黄は雷、緑は風、紫は媒介。
白は光で黒は闇と、複合色で別の性質にも変化。
エネルギー生成はやはり異界の方による。
知る限り現時点ではここまでだが、
金属性の光反射で属性が分かれるのも珍しい。
異界の従者が対応している色だからなのか、
自然との色合いに相似しているからか、
定かではないものの、金属の反射で光沢が決まるはずの
性質で属性が分かたれている。
もちろん1人で全て調べられるはずもないので、
ジネヴラ君から借りたレッドスピネルで試してみるとする。
改めて内部を電子顕微鏡で観察すると、
酸化アルミニウムとマグネシウムで構成された
硬度8の結晶。硬さは高く、希少価値もある。
かつてルビーと間違われていたこれも高温を帯びた
火に関する力をもつという。
赤色ならば熱に関する魔物と交流できるという伝達は
先のエノク文字で内側に刻み、呼びかける。
例えばFireを変換するとorgondongraph。
配列はFからeまで同列で良い。
火に精通する魔物がこちらから望んでいると解釈し、
結晶の外部へ放出する。
教会で炎と雷は威厳のある現象で血統もそれとの事。
後の結果では適性が少々足りない場合は掛け声を出し、
一般で念じるという行為は脳内電気信号で伝え、
血液内の鉄分から指の皮膚へ発するようだ。
ルミノール反応で塩基性溶液と過酸化水素水の混合を
青白い光で示すのも
すると、外界の者によって信号がきたと判断され、
火の世界があろう向こうからエネルギーを供給される。
加減は手にする者の意思で増減、適性で変動するが、
確かに火は放出して内部からエネルギーは発生した。
ある者は詠唱しながら発動するが、
またある者は無詠唱で発動させている。
この違いはシナプス電位の影響で後に語る。
今回は幸い私にも適性があり、発現。
アクアマリンを手にして念じると水が放出した。
青に適性をもっていたのは昔から理解していたが、
共有結晶のような硬度の高いものは適合力無しに扱えない。
実際にルビーに触れても何も起こらない。
硬度が6~7より下回れば一般層でも利用できる。
人は誰しも金属を宿すゆえ、多少の差をもつものの
結合力の強弱は人への身体に絡む事が分かった。
ここで1つ疑問も浮かぶ。
電子顕微鏡もなかった昔はどうやって
エノク文字を刻んだのか?
細針でわざわざ刻んで出来る代物ではなく、
ルーペで数ミリの字を書くのがやっとだ。
しかも刻まれているのは内側のみでどのように
刻印したのか痕跡がまったく無い。
外側から刻もうなら、そのまま文字が浮かび上がり、
通常の宝石とすぐに判別ができてしまう。
レーザー掘削もない時代では如何に細工したのか。
16世紀より誕生したはずの文字が何故数千年前より
交流していたのか出元が全くつかめずにいた。
当時、私は理解できずに研究は停滞する。
医療機関に身を置き直し、表世界へ戻る。
話は1990年、私は日本に入国。
一度故郷を離れ、極東へ足を移籍した。
というのは、自衛隊の医療に準ずる組織からの
参加を要請され、そのまま今に至るまで。
おそらく経済成長が頂点に立つ間で色々と吸収させようと
派遣させたかもしれない。
軍医派遣参加として何ら変わりない立場として勤め、
当時の日本は多くの業者達が宝石を求め、
こぞって海外多方から買い漁っていたのもある。
理由となる内の大半は他者への見栄だが、
ACの価値を識る者達もいるので、私にとっても
有利な点として研究するメリットもある。
よって気取られぬよう医療の仕事もこなし、
自身の刻がゆっくりと進んでゆく。
まだ個人情報保護法が緩かったおかげか、
保健の身体で適性者を少しずつ調査、
遠くから来日した
それに、宗教色が薄い側面もあった。
母国はヨーロッパに化学が通用しにくい時もあり、
ホムンクルス計画も難儀をしめす事もあった。
“信仰は理を盲目にさせる。”
日本習慣を味わってから私も現実主義に口を閉ざす。
他人と交流深いアヴィリオス家のような例外もあるが、
自由度はどちらかとこの国の方に分があった。
リリアも喜び、「東洋で良い男を探す」と意気込んでいる。
少々変わり者好きな性格が好転してゆけば良い。
いっその事、日本に籍をずっと置く決意も生まれて
日を追う度に意思は固まっていった。
そして、先に述べた例の硬度について
答えが判明できそうな要素も現れる。
かつて求めていた最高硬度たるACの素質をもつ者、
とうとうダイアモンドの適合者が見つかった。
蓮君だ。
1992年、晃京湾に数百人に及ぶテロリストが介入。
軍医として派遣された私が自衛隊のサポートをしたら、
縦浜区に生存者がいるとの報告で彼を手当てした時、
握りしめていた黒い結晶を発見した。
何故、所持していたのか定かではないが、
本人に問いだしても側にあっただけだと言う。
当時は彼も気絶したまま急患で運ばれ、
彼も自身で何をしたのか理解していないらしい。
これを手にした途端、黒いヒルの様な物が放射して溢れ
テロリストを後片もなく溶かして消滅させたようだ。
目撃者はあまり多くないようでも彼の供述など
信じられる者はそうそういるはずもないだろう。
当時の関係者も敵侵攻より動揺し、世間への弁解を
どう言いつくろうか迷っていた程だ。
私が彼との付き合いが始まったのはその時から、
言い方は不適切であるが、立場にあやかって検査すると
ブラックダイアモンドである事が判明。
性質は炭素でカーボナードを含む多結晶であるが、
驚く事に通常の質とはまったく異なるものだった。
大部分は質量計測器にもかからず、ただひたすらに暗く
闇で覆われた色としか言えず。金属表面の裏側に
やはりエノク文字が刻印されているのは見つかったが、
解明されている界隈の物質ではなかったのだ。
推測の先の先にゆく程の域であるが、
彼自身の体内にも異なるダイアモンドが備わっていた。
それは白い性質で黒と共にあると不安定さも生じて
先の現象に至ったと推測。直に手に触れるのも恐ろしく、
器材で慎重につかんでしまっておいた。
だが、ガタガタと容器が常に震えている。
さらに厄介な事に、保管方法も限定的でそこいらの
容器に収納しても再び暴発する危険性もつ。
詳細は追って記すとする。
以来、健康診断などで担当者として付き合うようになる。
体格もそこいらの議員と異なり、引き締まったもの。
身体がまさに金剛石と比喩させる様も理解できそうだ。
ある日、彼が妙な事を言い放つ。
平和とは何か、近況事情からそれが理解しにくくなり
診断の後でそれを口に出すようになっていた。
防衛省に籍を置いてから責任感も増し、
気苦労の連続で毎日を送っているのだろう。
少し休暇を取るように勧めたが、日常から逸脱するような
経験をしたとの事。自身の迷い、悩みの側から
そこで発言された言葉は「刻の停止」だと言う。
驚くべき内容で晃京を一時停止させ、
いっその事乱れた世界を正そうと考えていた。
当時は何を言っているのか理解できなかった。
彼もどこからか聴こえた言葉でそう決めたらしく、
信念を促されて決めようとしたようだ。
世界最高峰たる結晶から、宇宙の一法則を見出して
おそらくダイアモンドの性質に従って述べたのだろう。
私は内心戸惑う、これが実現するなら多大な被害も出るが
大きな発見もあり得る。彼も世界の腐敗に頭をうなだれ、
防衛義務の行き先に大きな不安が消えずにいると言う。
だが、私は首を縦に振り、承諾する。
断る理由はすでになく、追求者として彼に追従。
人が介入する静止した世界を認識。
上手に言葉で表しにくいが、塊と空間がどこまで通じるか
1つの永遠を視たかったからだ。
ここである転機が訪れる。
ヨーロッパ、EUが1993年に発足して
私が故郷へ戻れなくなった事。
正確には現地での機関の席を失ってしまった事だ。
隣国との同盟により組織再編成が起こされて
末端の機関見直しで不審ある所を抑えられた。
あのホムンクルス計画を進めていた組織が解体されて
AC研究ができる組織が無くなってしまう。
経済、文化、思想の統一化により得体の知れない末端は
徹底して排除にかかられ、施設も片付けられた。
カロリーナを実際生成させたのは私で、処分される前に
身柄も私が引き取って無事に国外退去できたのだ。
立場も向こうでは活かせる機会はもうないだろう。
蓮君の助力もある。
選択の余地など考えるまでもなく、あの子のために
少しでも安全な国を求めて暮らそうと思った。
時も2000年を迎え、ミレニアムセレクションの陰、
世代交代の念が脳内を横切り始めた。
周囲にも少しずつ同じ志をもつ者も表れ、
様々なACもさらに出会うようになる。
内の1人、都笠図書館に魔術に精通している者がいた。
白峰君は蓮君と由縁ある役員の息子で知り合い、
オリハルコンオーダーズの一員がてら接する。
彼は図書委員でもあり、古い歴史書も所持していて
父から譲られていた。いくつかは私も知らなかった話も
見聞きして興味深いと数冊読ませてもらう。
話によると役人が好景気時代に海外資本を巡って
様々な物を購入して日本に運んできたそうだ。
骨董品漁りも当時は相当な物で、金持ちの物色は
チラホラと耳にしていた。
昴峰学園も海外発注で建てられたそうだ。
中には東妙霊園にACを隠して保存していた者もいて、
不謹慎極まりない行為もあったらしい。
そんな中、ここ極東にまつわるエピソードも記載。
文献を読んで調べていくと、古来より伝わる霊媒者
エクソシストとよばれる者達が施したらしい。
結晶にエノク文字を刻印し、ACに変換していた始祖。
アブソルートからも刻みを与えられて自由に生成できる。
が、肝心な刻印法が書かれておらず、エノク文字と等しい
記述が書かれた由縁まではつかめず、
奇術はまったく見当がつかずに解を求められなかった。
読み進めていくと、ここ日本にも移住してきた者もいて
朝廷の関係者として身を置いていたとの事。
光と木、成長するための水分について書かれていた。
水という語ならミネラル酵素と結晶の接点がありそうで
気になるものの、続きは破れて読めなかった。実に惜しい。
と、いくつかの書物を読ませてもらい、理解も深まる。
白峰君は蓮君の理念に賛同してオリハルコンオーダーズに
参加、日本のレベルを向上させるためにACによって
必要な者を進化させたいとの事。
特に行き先も決めていなかった私は若者の見解を
聞くのも一興と思い、話し合いする事にした。
一説には念じる事で文字を形成するという。
傍から見れば、これこそ正真正銘のマジックと
述べる以外にない。手で触れもせずに内部のみを
ガリガリと掘削できるはずもなく、
歴史でも霊媒師の偽手品はありがちな程よくあった。
今回はハズレと思いきや、彼は不思議な事を述べる。
「僕は結晶と同化できる」と。
完全に同化すると取り込まれてしまうので一部のみ
指先だけオブシディアンを包み固めた。
先に語った水分召喚膜の1つだ。
これもシナプス電位の作用、念じる行動が結晶に影響し
肉体に付着させて目前で具現化したのである。
考えられるとすれば外側の我々ではなく中の者、
結晶の従者に依頼をして刻ませたくらいであろう。
今回はエクソシストと直接関連のない現象、
エノク文字の刻みでなく水分浸食の方。
流石に白峰君も奥底は理解していないようで、
我々オリハルコンオーダーズのメンバーも
塊の髄を知る者は誰もいないようだ。
肝心な部分は結局残されたまま終始。
古代の秘術の深層、近きに
エクソシストとは何か、未だに判明していない。
2011年、文明も着々と進化を遂げて塊の細分化を
さらに進めていった。
人と結晶、心は電気信号として格子内へ伝い、
異界の従者は受け入れて性質を提供する。
金属がキーワードに人体との接点を探してゆく内、
またある仮説より、1つの物質から異界との精通を
図れそうなものを発見した。
カルシウム、面心立方格子構造をもつこれは誰もが知る
肉体を支える骨でれっきとした金属の一種である。
理由は適合についてありえるのではと推測し、
可能性の一種として書き留めておく。
それはカルシウムシグナリングという現象で、
結晶の格子と相性を査定する仕組みがあるようだ。
この現象はカルシウムと接する細胞が何かの刺激などで
情報伝達を制御する作用があるという。
元から生物に備わる機能で、肉体を守るために
感覚から運動までの促しを補う。
AC適性はここにも反応し、従者にとって能力を
流しやすいか通信しやすいかなど判断されて
シナプス小胞による脱分極で異界の者から選ばれて
スムーズに交流する可能性がでてきた。
シナプス後電位ともいう。
電位依存性であるカルシウムチャネルより、
興奮などで細胞が活性化すると結晶の基本構造は
全種類に反応するわけでなく、気持ちの何かが読まれて
格子に流れる電位が相応しいか分別して決まる。
性格も適性の一部に関与する可能性もあるが根拠は示せず、
向こうも人の気持ちを読み取る習性があるようだ。
少しとどかなければ詠唱で促して発現。
声を出す行為は単なる意識の覚醒だろう、
先に書いた“念じる”という脳内血管の鉄分流動で
交わす結晶の反応の先の先。
ここの発達によっては場合で詠唱するまでもなく
無詠唱で能力を発動できる可能性もある。
しかし、気になる点もまたあり、生物とはよべない
骸系の従者も召喚できるのも疑問に湧く。
ならば、骨の悪魔ならどうなるのか?
肉質もない、まさに金属体のみのタイプはどう動くのか、
白峰君のACを借りて実験を試みた。
試しに低級の魔物、スケルトンを召喚。
彼でも簡単な召喚で様子を確かめてみる。
ずいぶんとフラフラしたモーションであるものの、
一応肉体をもたない物でも反応はあったようだ。
彼曰く、これは反応するというより外界から
膜ごと引っ張り出して操っている感じだと言う。
黒魔術は他と異なり、水分をタールに換えた様な
粘着性のある性質で空間の闇を彷彿とさせる。
蓮君が暴発させたケースもそれらしい状態で、
生物型とは異なる亜空の存在と推測。
黒いACを操る者もわずかで、歴史上においても
1000人いたかどうかの数だと聞いた。
この子は18歳で闇を操るとは才能を感じる。
しかし、5体ほど融通が利かないものがいて
制御も能わず、どこかへ勝手に飛んで行ってしまった。
追ってビ・エンド君が調査してくれたのも忍びなし。
後にジネヴラ君の報告では昴峰学園内にいた
聖夜君に起因されたとの事。白峰君は彼に対抗心を
もっていたようで、それも行き先に準じたのか。
私の適性では良い反応と制御は得られなかった。
まあ、単純に言うなら失敗だ。
ちなみに、後に自衛隊で用いるバリケードの効果、
ポリカーボネートのACをアブソルート補佐として利用。
蓮君の息子も本格的に始動するので、
結果オーライという言葉に甘んじるとする。
だが、大きな誤算もそこで生じてしまう。
蓮君の計画も1つ大きな失敗を起こしてしまった。
アブソルートで生成した多量のACを空輸していた際、
制御を怠った物が暴発して晃京各地へ散乱してしまった。
彼の知人で1人信仰していた人事委員会の者が生成した
ACを適性者に配布しようとした件が警察に察知され、
ヘリで晃京から離脱させようとした途端に制御を
誤って破裂してしまい、周辺に落下させてしまった。
ティファニーストーンと適性をもっていたその男は
異界の者に反感を買われてそうなったとか。
もちろん蓮君によってアブソルート内に投獄された。
都民に複数拾われて治まりが付かなくなり、
我々は四六時中都庁内には居られない、
メンバーを増やすために防衛省内で保管する予定が狂う。
表向きでは悪魔の襲撃と彼が処理させたが、
自衛隊も警察も全て信じきれる程アマチュアでもなく、
疑う者もいるだろう。内閣も指揮系統を変更するよう
要請を受けて宝石関連を取り締まるよう言われたそうだ。
実験に使う予定だったファルマカンシダラァトも
別働隊で運搬していたがやむを得ず一度湖へ沈めた。
宝石業も晃京内で全て閉店させられ、防衛省の隙間を
すり抜けられてゆく。彼に審議をかけられる前に、
私も細かなサポートを施さなければならない。
ただ、すでに計画を察知する者もいた。
彼女の話によると、ヨーロッパ教会の重役が
来日して解決
ロストフだ。
青年時代から別れた彼も晃京に来日して、
事態解決を図りに来る。立場も司教にまで登り詰め、
すっかりと“らしい風格”となっていた。
近親者のジネヴラ君も彼に手出しはできず、
正体に気付かれるまで教会側に居る必要があるだろう。
私としてはACの性質について知りたいところもある。
彼女もさすがに教会内の仕組みを理解しきれないとの事で、
聞きたい話をするべく手紙を出そうとするが、
エドワードの名では旧友と気取られてしまう。
よって、ペンネームとして別の名で接触を試みた。
名はドゥアルテ・クラーク。
かつて、ヨーロッパに存在した優秀な医学者を借りて、
匿名で試してみようと決めた。
通常の輸送ならすぐに住所が知られるので、
彼女の結晶移相力で届けてくれるようにする。
歴史の高名者と同じなど流石に怪しまれると思いきや、
無理を元に久しい出会いを胸に期待する。
なんと、返事がきた。
ジネヴラ君が宝石業の役員として文通したいと
頼んでいて拒否されずに応じてもらえた。
どう言い分が通ったのか、口八丁手八丁に感謝が湧く。
装飾品の付いた気品ある封筒を手に、
さっそく結晶の話題を諸々と書きつづってゆく。
どこの馬の骨とも知らぬ者と文通するなど、
気の利いた性格をありがたくやりとり。
こちらの気持ちはACの追求者とだけ明かし、
科学的見解から宗教への助力、参考にと届けた。
そして、彼はクォーツの性質について語る。
水晶とよばれる透明の鉱物は占いなどでもよく用いて
それらしく見せている結晶だ。
教会にとってはれっきとした性能で一定の範囲を
見通せる遠隔透視AC。
元は石英で構成され、カルセドニーという粒を主体とした
環境下で生成されている。それが探査範囲の目となり
内部の従者が水晶振動子の様に視界を拡大して映す。
さらに圧電体で電気を発生させるので、雷を生み出す
基本技術が古来から今に至ったのだろう。
別派生で熱に変換し、炎も生成して燃え盛る組織の
象徴とばかり宗教歴史の看板をせしめた。
これならクォーツの基本原理も理解できる。
丁度新たに発生した事件のために利用してみるとする。
国土交通省の何者かが地下に秘匿する物資を
ジネヴラ君の紅水晶を借りて瞬間移動も羨む程便利なもの。
アブソルートの可能性は無限に思える。
しかし、制御の道はそんなに甘くはなく
管理しきれずに高熱が発生してしまう。
再び失敗して蓮君の手を
科学とは万人が理解して利便性を向上させる要素。
ACに限らず文明開化も時には落とし穴も存在し、
人生の岐路に立たされる時もあるのだろう。
この年になってまで世界を知った気になっていたのか、
開き直りがどれほど楽になれるか想像の余地も許されず。
やはり、他者の生成物を安易に利用すると
ろくな事にならず。もう少々のデータが必要なのか、
次はどこまで自ら生成できるのか実験を交えて
どのようなパターンがあるのかも調べてみた。
塩化セシウム型構造に注目した。
白みを帯びたこの色は肉体が硬質化しやすい性質をもち、
他はこれといった大きな特徴がない。
アルカリ金属ハロゲン化物のACは加工が容易で、
刻印とのバランスも良い性質のようだ。
精神、心とは中心に位置付けできる設計ができない。
性格をニュートラルからどう相性バランスをもつか、
よく理解しづらいものであるが、こうした型を用いて
一から検証できるよう予めに固体から辿ってみる。
結晶も中立的な性質をもつ物から検証してゆく。
格子中心に位置するセシウムイオンによる型は
脳電位が伝わりやすく、適性が低めでも伝わりやすい。
いわゆる性格の一端となる気持ちがどう変化しやすいか、
そこから再確認しようとした。
しかし、決め手には少々欠ける。
全ての結晶がこの形ではなく、性格との接点があやふやで
分子構造の位置を断定しきれず踏み切れずにいる。
単なる中心に位置するだけでは異界への決め手にならず。
度々通信が途切れて無反応となってしまう。
私は元から格子を繋ぐ物質しか観ていないようで、
もう少し型取りの枠から考慮した方が良いかもしれず。
他の型に注目し直すとする。
人が加工して生成した物に刻印すると、反応が現れた。
それはフッ化ビスマス型構造。
近代より加工された金属は比較的形状を変えやすく
人工し易い物からエノク文字を刻んでうかがう。
多結晶は単結晶よりも強度は小さいが分別判定が
掘り下げやすく、電位が従者へどうとどくのか観やすい。
性格と格子はどちらも環境下で形作るのは同じだろう、
適性の根拠がどこかさらに調べてみたい。
エノク文字を刻むと外界との連携が生まれた。
ここから先は蓮君と白峰君の2人で性格の差を測ろうと
試してみた、納得いかなそうな顔をしているが実験のため。
正方系は物事をありのまま認めて認知する。
斜系は物事を歪めて観る傾向をもち、別の解釈をする。
断定はしきれないものの、物事の捉え方と格子配列が
従者へ伝わるケースとそうでないケースがここにある
類似点のような気がした。一応仮説の域として。
性格は脳電位として気の波、強弱の複合で作られると推測。
全て把握していないが、そこが格子の枠組みから選別され、
適性の一端がこういった性質から判定されているのだろう。
性格の差異はニューロンより伸ばされたシナプス小胞の
突起で決まる、結晶内部も異界の者とそれぞれの性格を
当てはめて成立しているのかもしれない。
非常に興味深い話もある。
異界の者が直に地球へ来訪してきたという出来事で、
かの昔、人と外見が等しい魔物も存在し、
すでに社会に紛れていたという。
なんと、彼らは人語をきちんと理解し、文字が無くとも
普通に会話もできる種類が意外に身近にいた。
後に合流したジネヴラ君が興味深い話をする。
教会にもかつてエクソシストの役職をもつ者がいて、
ロザリアとよばれる修道院長が驚く事に異界の者で、
本体まるごとこちらの現世に召喚したという。
ビスマス構造から伝達のしやすさと思いきや、
逆に向こうから身体をまるごと移して地球に移籍した。
私と同じ発見をした者がすでにいたようで、
400年も生き続けていたとの事。
この世界へ何のために? どこの世界から来た?
知りたかったが、これを記した時には遅く、
残念ながら、彼女が生まれる前の話なので
本人との接触は叶わなかった。
しかも討伐され、ジネヴラ君がイギリスで禁書目録を
読んで発覚した出来事ゆえにさすがに気付けず。
オリハルコンオーダーズに招く機会も失ってしまう。
教会の境界も隠れ蓑としてあまりにも心外。
ロストフが妻として迎え入れ、聖と魔の万象たる
立場を築いてきたのは宗教としては異端者極まりないが、
追及者としては有終の美だ。
ここまで来れば人も悪魔も性質を除いてそんな境界も
さして比較する意味を成さないものかもしれず。
電位の伝わり方、性格と格子の関係。
結晶の性質は実に面白く、探究しがいがある。
宇宙も何故、塊が存在し、エネルギーの集束地として
生成したのか、生命もミネラルを宿して生きている
所以も素を辿れば全ては等しい。
異種との接点、言わば会話がエノク文字であるのも
通信やコミュニケーションの一部で、伝え合う手段が
きちんと成立する。地球内ですら母国語が複数存在し、
全国共通ではないはずが、言語として各地より用いて
独自の囲いを築いてきた。そこで1つの事も考慮。
他の気になる点といえば、印と金属の関連について。
エノク文字の刻印は何故結晶内のみ適応されるのか?
文字を刻むのは硬い物は道理であるものの、
ACは全て金属製に限定されている。
だが、構造がまばらでも結晶のみなのは何故か、
仮定しようにも根拠すらまともにそろっておらず。
アブソルート内なら他の物質でも可能ではないかと
ジネヴラ君に相談してみたが無理だと言われる。
よって、液体に文字は刻めずに諦めかけていた。
が、可能性とは恐ろしくも新たに道を示される事も。
確固たる鉱物にのみ効果が発揮するものが存在した。
非晶質(アモルファス)で金属には自然界に存在しない。
しかし、近代文明の発展によって表向き技術より、
急冷によって金属にも軟質磁性体として成立できた。
準結晶とよばれる性質が2005年に発見され、
完全たる金属性とはいえない種類からも刻印が
可能となれそうなものを見出す。
生成方法を調べてさっそくアブソルートから試しに
一種であるゴムで刻印ができるか観てみた。
反応無し、エノク文字を表示しても内部からの
応答がなく、誰もいない状態のまま。
シナプス電位との接点は確認できたものの、
格子が外界まで伝わっていなかったようだ。
モース硬度は1以下で、当然結晶とは大きく離れる。
構造との決め手なく流石にこれ以上は進展できずにいた。
やはり、不規則な固体では応えてもらえないのか。
凝結したものでなければ通信が叶わないとあきらめかける。
しかし、己の半身がまさかフラグをよこすとは思わない。
意外にも身近な者によって知る事ができた。
リリアだ。
如何なる経緯か、娘はシンナバーを所持していた。
常人が扱うには危険な鉱石をいつの間にか取り入れていた。
どこで手に入れたのかと聞くと、
教会のジネヴラ君から借りたと言う。
アヴィリオスという名ですぐに理解できた。
後で確認して分かった事だが、イギリス本部からせしめて
計画に活かせると思い、持ってきたらしい。
さすがに私も賢者の石は伝説で架空の存在だと思っていた。
それがなんと、家宝である逸物を娘が手にしていたのだ。
ヨーロッパに秘匿していたACが身近にあるとは良い機会。
私も構わず、赤黒いこれを調べてみる。
まったくもって理解不能。
主となる硫化水銀からなる成分の他に、ヘモグロビンと
思わしき物が6割含まれている。
X線の反応から
解析できない。
彼女はこれでアブソルートを生成した。
都庁に七色結晶を張り巡らせたのは確かで、
娘もみるみるうちに若返り、アンチエイジングを遂げた。
彼女の話では内部には無数の女性達の血が含まれて、
原料に用いられているらしい。
男の血液と比較してミオグロビンは小さく、
ガス結合の反応が異なるくらいしか理解できずに、
防御性能の根拠はお手上げ状態となった。
わずかな仮説を挙げるが、希ガスのような単原子が
分子と等しいふるまいをするため、鉄分の分子が刻印と
接する際に原子と分子の判定が揺らぐゆえに、
転写因子が瞬時に凝固する可能性をもつかもしれない。
ミサイルでも破壊不可なのは強硬体だからなのは
容易く理解できる。が、これだけの成分が何故七色に
輝き不可侵域を生むのかまでが到達できないのだ。
女性はなお低く揺らぎへの影響も強いと思われるが、
これで何故、あの強度を誇るのか?
精一杯に因果を辿るも、根拠が途切れ途切れの連続。
まさに魔術と言うべき手法すぎて足元にも及べず、
遥か遠くへの道を歩く必要になりそうだ。
ただ、アモルファス状態の性質をもつこれは
まさに液体金属の刻印が可能性をもつと予測。
追究をどれだけ試みようとも、どうしても鉄分の
原子構造で留まってしまい、見つけられず。
思考力も数十年前と比べて劣りがちとなっている。
若い時に手にしていたら理解できていただろうか、
シナプスとの結合も次第に低下しつつある。
話題を変えて近代の様も語ろうと思う。
最近になってからメディアの発達も劣らずに、
情報速度も2乗するかの如く、速くなっていった。
というのは世界にはまだ多くの適性者も点在するはずで、
オリハルコンオーダーズの賛同者を集めるのも大事と、
メディアとの相性も少し考慮してみた。
最初に言い始めたのはジネヴラ君と白峰君の2人、
情報伝達として最も優れているインターネットを用いて
エノク文字適合実験を施したいと言う。
若者はこういったケースに理解が早く、私もどちらかと
任せっぱなしに話をうかがうだけとなる。
蓮君にはすでに一度話を通しており、施しは許可されて
実行したくも手段がまとまっていない。
手段は人体の目から体内の適性結晶を分別して、
賛同者がどれだけいるのか計測できる。
ただ、事情を納得できる事と適性は別だ。
本当に成功する見込みがあるのかと聞いてみる、
すると彼女は言った。
「現代人は“イベントを催す者が優れている”と
思い込む節がある」と。
どんなに
インターネットの注目力で補正。
画面を媒介とした液晶の表現は興奮性に拍車をかける。
他はTVというメディアの力でオリハルコンオーダーズの
支持者を集めるのも大事だと、
錬成したウレキサイトで何かを始めようとするらしい。
ホウ酸塩鉱物の一種で、平行に並列した結晶を特徴とした
テレビ石で空間に映像を映す能力がある。
適性は然程高くもなく、光ファイバーとしても使われる。
ACとしては光粒子を空間内に停滞させられる効果で、
人間の眼も確かに水晶体の役割をもつ。
それが光を脳内に通して適性の有無を判別できるらしく、
刻印の一文をネットの中で公開させるという。
おそらくは教会のクォーツ派生と思えるものの、
こんな方法もあるとは意外、私が思い付く前に案じるとは
さすが身なりを気にする女性ならではの案。
後世も楽しみだ。“観る”行為は意識を集中させ、
従者と伝達できる手法も視界より生まれるだろう。
ただ、映像の内容によっては部外者の介入もありえるが。
後、気になる出来事といえば文明について。
ACと直接的な関連性をもつわけではないが、
人の伝達を推し進めてきた存在もある。
主張も様々な枠をもち、網の目とばかり事業拡大してきた
インターネットの原理もACの後続だと、ふと思う。
人間の本音がまざまざと表れるこの世界で、
人前で真意を明かさず、顔も名前も分からぬ
匿名の中で推し通す事象こそ、結晶内での通信と
似通っている点に気が付く。
知能が低いものは高い流動性をもつ。
同類と集って今の場を
仕組み、手法は違えど金属へ通した電子を情報に
意思の疎通を図る。
エネルギーや能力擬態までは得られぬものの、
金属性の一片を介して文字として気持ちを伝えるのは
異界との付き合いとして似ている事象であろう。
ここで気になる事象も目に入る。
サイトにコメントを書き込む覧があるが、
さほど有益でもない情報にも一言を載せる理由が
私にはもの珍しく映った。
言語の主張で、自らはここに在るぞと干渉を求めるのは
ACとの通信と類似。
少々無関係な点を述べたが、塊を媒介とした訴求は
すでに新たに起こっていたと言えよう。
これはあくまで人間界での産物。
宇宙や異界どうこうの話ではないが、仕組みが類似して
似ている節があったので書いてみた。
インターネット、世界中で行われている情報の進化は
私にとって少々見物ではあるが、どうなるのやら。
試しに別の鉱物で検証も行おうとする。
2011年、例のアモルファスの可能性もまた追求。
刻印は金属性を必須とするのかをテーマとした。
ACはあくまでも鉱石を前提とした産物で、
こちらの世界で常識なのは言うまでもない。
しかし、万が一液状の物にも残せるとしたら?
そこをあえて可能にできるのか試みたくなったのだ。
そんな無謀にも思われる挑戦を題材にしたのは
液状化から刻印の変化を調べるに相応しい結晶、
アンタークチサイトだ。
ハロゲン化鉱物の一種である南極石と和名する、
25℃で融解する電子を奪う性質、この点に目をつけた。
きっかけは準結晶より見解を得る。
2000年を過ぎてから発見されたこの性質によって、
字の付着、残陰が浮上しかけてきた。
構造となる正十二面体は五角形の面が組まれる形で、
配列的には敷き詰められる安定性がない性質だ。
しかし、結晶としては成立可能であり、
X線で解析すると大きさが異なる五角形が並び、
1:T:T^2・・・と黄金比で五角形が倍数的に
配列を成して構成しているのだ。
硬質としては不安定であるが、エノク文字を崩さず
かつ液状にできる型はこれが最も相応しい。
様々な物質と照らし合わせてゆく内に、
液状化しても刻印を保持できそうな物が見つかった。
ハロゲンならば十二面体に組み替えて液体に変えても
刻印状態を保てられると予想したからだ。
何故なら、海水中にハロゲンは多く存在し、
ヨウ素は融点が高くて水に溶けにくく、
5種類のなかでは臭素が最も融点が0℃に近いので
フッ素と配合して臭いの出ない透明性を高めた
ヨーロッパ製のカット仕様にしてみた。
実験は成功、女性を模った氷の従者が認めたようで
ACとして認識させられたようだ。
これは私にとっても適合が高く、幸いシナプス電位の
通信が良好で素敵な相手とみなされている。
別に
応用してアンタークチサイトに刻印を精製。
さらに、肉体維持としても非常に応用的で、
体内に宿すことでミネラルが三大栄養素を補える。
アクアマリンも続けて生成し、先のメディア路線に
活用したいとの件でジネヴラ君に与えた。
ただ、人体への影響は未確認も多く、安定も人による。
むやみやたらと配布するのもあまり良くはない。
他人に実験させるわけにもいかず、自身で試すと
以来、何も食べずに水だけで20年過ごせてきた。
あのホムンクルス計画の一端で生まれた技術で、
パライバトルマリンは促進補正効果がある。
金属と非金属の狭間で生きるというものは
言葉に出しがたい気分だ。
食事という制限すら超えた理とは、
つくづく無機物の本懐を思い知らされる。
これは学会で発表できるような事象ではない。
個人的利用で扱うが、医者として少しでも誰かのために
活かす方法を模索したかった。
ある日、心療内科に1人の少女がやって来た。
透子君は学園生活でのストレスで体調を崩していたようで、
休校となっても心身を削られていた。
自己主張の低い者は相反する者から迫害を受けやすい。
泣きながら解決を乞う子に、同情されて見過ごせなく
さっそく先の物を差し出すのに時間はとらなかった。
女は直接的な暴力をあまり振るわない。
だから、間を空けられて少しの余裕を持てたのなら、
ほんの少しの冷風を浴びさせて驚かせてはと勧めた。
この子も氷に関する適性があるようで、加減をさせて
異能力をもたせる活路を与えれば解決できるだろう。
歯止めの利かせ方は危険人物と分からせる事。
情といえば否定しないが、どうにか解決させたいと
彼女に譲与して検証をうかがった。
ここでアンタークチサイトを手放そうとする。
ただ、カロリーナにこの件は話せない。
アモルファス刻印は未発見の産物で、元は
生成した逸物。
奪取されたところで関連付けられる恐れはないものの、
「どうやって造った?」と無理矢理迫られて発覚される。
あの子にオリハルコンオーダーズの事を今話せば、
直ぐに世間に知れ渡り、蓮君の計画も終わるだろう。
気付けば探偵に興味をもち始めたあの子は頭脳明晰。
ほんのわずかな形跡を辿って真実を見つけるはず。
よって、来るべき時までただただACを収集させておく。
しかし、意外な者が思いもよらぬ行動に打って出た。
娘、リリアが病院権限を利用して若い女性から
大量の血液を摂取、抜き取って横領していたのだ。
この件は私自身盲点とばかり本当に
管理を信じきっていたゆえに監督していなかった。
あのシンナバーを悪用して永遠の若さ欲しさに、
アルバイト偽装で過剰摂取を起こした。
ただ、テロメアの培養には膨大な量の血液が必要になる。
話によると、都庁占拠による怪我人多発に乗じて
献血に金銭報酬として釣り、女性をかき集めていた。
未使用とされていた部屋を面会謝絶と称して、
部下も立ち入る事を禁止し、遠ざけて隠蔽。
カルテの重症患者が同じ書き方ばかりを不審に思い、
止めるよう警告したが時すでに遅し。
蓮君の息子一行に阻止され、人生すら終えてしまう。
事実は知れ渡り、娘は絶命。
監督不行き届きとして責任を負わされ、
医学の道はここで潰えてしまった。
ニュースでも挙げられて取材陣に囲まれる中、
娘に代わって遺族の罵声を浴び、襲われかねない中退陣。
こんな立場の時はACの力すらも役立てる事ができない、
後は蓮君に保護され、別荘地にて身を潜めた。
カロリーナもヨーロッパへ帰ると言いだして、
愛想を尽いたのか国外へ行ってしまう。
無数の病原菌を診てきた私は、
娘の凶行までは見抜けなかったのだ。
ただ、シンナバーで大きな情報も得る。
これにより、単結晶程強大な精霊が宿る事を
より影響ある鉱石と巡り合う機会が中々ない。
彼と出会う事で新たな導きが垣間見える事になる。
もう1つ失態を犯してしまう。
あのロストフと文通していた時の件で
私が病院の関係者だった事も筒抜けだったようだ。
手紙を送付する包みに付いていた小さな塊、
これはただのつまみではなくACで後になって発覚。
教会の能力は炎や雷だけでなく、クォーツの透視で
目標を監視する事ができる。
机の上に置いてあったシーブルーカルセドニーも
陣痛柔和の効果があり、日本で一度も生成されてない
種類でヨーロッパからの移住者と判断されたようだ。
老化しても顔の名残りくらい覚えられているだろう、
もはやここで言い訳しようと無駄。
旧友との再会の言葉は行き場もなく筆が留まる。
最後に送られてきた手紙の内容は、
「今ならまだやり直せる」と書かれていた。
おそらく、私はオリハルコンオーダーズにいると
すでに理解してそう書いたのだろう。
離縁してもまだ友とみなしてくれているのか、
文字すら書く手を止めてしまう。
文通もこれで終わりにしようと返事を書かなかった。
とめどなく結晶に魅入られた歯止めを利かせるために
戻ってくるよう伝えたメッセージなのかもしれない。
だが、私はもう引き返せなかった。
ヨーロッパ組織解体より居場所は他になく、
事件発生からたちまち立場を失ってしまう。
医者でもなく、親でもなく、有権者の片隅のみで
居るのは塊をどこまで求められるか、
真理を見つけたい程度知らずな者。
続く、まだ続いて、原子の網を手繰り寄せ、続く。
知りたい、森羅万象の答えが何でどこに在るのか。
残るはただ、
そして、日をまたぎ、手が震えながら顕微鏡を眺める。
ある硫化物を検査すると刻印と非常に適性が良く、
通信過程を調べやすいACを発見した。
それはウルマナイト型構造。
立方晶カイラル構造であるこの種類はあるレリーフと
類似している事が分かった。
なんといっても極めつけは内部に宿す星だ。
六芒星が宿る様な形状をした構造は宗教で用いた
形状と類似して立方体の内部に2つの三角錐を重ねて
必然と言いたくなる様な構築をしている。
実はこの鉱物、手に持つとはっきり誰かの声が聴こえて
あたかも電話しているかの様に会話ができる。
もちろん、馴染める程日常会話ができるはずもないが、
先のエノク文字で最低限な意思疎通ができた。
相手はずいぶんと気前の良さそうな性格なのか、
好きなもの、嫌いなもの、地球人についてどんな所か
興味があると色々と話してくれた。
この鉱物自体近年から発見された物で、
これを用いた文献はほとんど見つかっていないものの、
かのエクソシストが利用していた可能性もある。
古代の者ならもっと円滑にコミュニケーションをとって
秘術も教えられていただろう。
やはり、地球外生命体は実在して格子を中継無線として
人の内側より
さらに理由をうかがうと、彼らも我々の気持ちに関心を
もっていて能力を送って反応をうかがっていた訳だ。
色々なものを失っただけあり、願わく世界の真理も取得。
本物の星という極論にも無理があるのはさておき、
放射線の検知もより向上してゆく間に、
彼らの意見をヒントに大いなる真実も発見。
ブラックダイアモンドの正体を突き止める事ができた。
ダークネスマター。
元語のダークマターとは宇宙を構成する暗黒物質で、
聞き間違えでない限り、そう言っていた。
耳に入った直後、私はすぐに認知できずにいた。
質量分析ですら未だ発見には至らない存在で、
宇宙の7~8割で構成されるとのみ知っていたくらいだ。
通常の放射線では確認は到底不可能だが、
ウルマナイト型を通したフェルミ面の分裂した
逆格子空間から観測する事ができた、と教えてもらった。
断定は難しいものの、自由粒子が球面状態の時に
分散関係が空間位相を極限まで定めやすいとの事。
さすがに今の私でも詳細が追い付かずに、
彼らの秘術の観点と述べるしかない。
元の元でいうなら、空間内部の+-。
宇宙誕生から真っ先に在ったであろうそれが、
破壊や崩壊の裏側で生成する性質とだけ認知するのみ。
生物にとっては生と死という極端なケースで発生するのか。
六芒星はオスとメスの交わりを意味すると
教会で教わったような気もする。ロストフの先祖など、
古来の関係者達が唱えていた逸話もそういったところから
伝わって曲解釈させてきたのかもしれない。
似て非なるモノはやはりエネルギーと揺らぎから
固へ生成してゆく線をどことなく気取った。
もう1つ興味深い事象を聞いた。
蓮君はダイアモンドからオラクルを聴いたと言う。
2012年、5月21日に訪れる金環日食に刻を統べる。
私は耳を疑った、要約すれば時間停止を引き起こして
崩壊が二度と訪れない真の平和を構築すると。
星そのものを結晶とみなし、地球全体に及ぶ範囲まで
ロンズデイライトとダークネスマターの力を合わせもって
時空を静止、腐敗した世界を一度止めて再構築する。
光と闇は空間をも制御できる事象で
物体の停止も可能だという。ウルマナイト型の従者より
これについて覚えがあるか問うと少し知っていると言う。
地球でも縦浜以外で発現しかけた話も知らされた。
詳しい場所を教えてもらい特定すると、
ヨーロッパの一角、スペインと分かった。
1990年に起きた事件、ミンクパンサーと名乗る
宝石強盗の者達とも交信した履歴があり、
そこからの形跡でダイアモンドの適性を知る。
現地でもエクソシストが存在していたらしく、
2種のACは相反して留まれない事実を聞かされた。
大事にならずに済んだのは心臓にACを収めていた事。
犯行グループの1人が結晶との同一化を望み、
まるで悪魔に捧げる儀式の如く、生命の重要箇所と
融合させる事のみ暴発を防げたというのだ。
盗んだ当時、わずか30秒での犯行と書かれていたが、
実際は時を止めて内部に侵入し、事を済ませたらしい。
規模はそれぞれで利用も人により異なるが、
ACは媒介なしに放置し続けると不安定な状態となる。
距離を空けても約50000kmまでと制御は不可能で、
海外に居住させても相反する効果が必ず引き起こして
いずれ黒いヒルが無数に溢れ出てしまう。
1人の人間が両方の属性をもつのは不可能で、
残念ながら蓮君でも暗黒物質など操れない。
白峰君は例外、適性が低すぎてすぐに死亡してしまう。
縦浜の件ではわずか手にしたおかげで彼の性質や念で
規模がそこだけに治まったようだが、また再発が起こる。
私も保管方法に悩み、どうすべきか大いに迷い
途方もない理だと信じていなかった。
なんと、存在したのだ。
彼の息子である聖夜と名付けた子がこんな身近に、
黒き逸物を抑える方法がそこに発見。
ダイアモンドという共通したものによるものなのか、
出産前に検査、恐ろしいまでにダークネスマターとの
適性力に目を疑った。
単純に云わば、光と闇の表裏一体の性質による事象は
親子という関係で対と成す。ありえそうな共通点として
DNA鑑定も施したが、アミノ酸配列の50%分別で
構成されているものではなく、核酸塩基からなる
炭素同素体を繋ぐ混成軌道の類似点くらいしか
共通要素が判明できない。
いずれにしろ管理方法は今のところこれしかなく、
あまりにも遠大な構造に喉から
すでに私自身すら理への追求を抑えきれずに
親子どうしでダイアモンド構想を打ち立てた。
この件を蓮君に持ちかける、他に方法がないとはいえ
私もまともに顔を合わせる余裕もない中で伝える。
彼の息子に移植する事を説得、同意してくれた。
が、反動も
移し替えたのは成功したものの、妻は失う。
器の側は耐えきれなかったようだ。
見聞きしただけの手術は大抵こうなってしまうもの。
本当に申し訳ないと幾度も謝罪をする。
蓮君も覚悟を決めていたので、私を咎めなかった。
以来でも私に対する態度は変わらずに接し、
オリハルコンオーダーズの一員として認めてくれている。
サンセットファイアオパールならまた違った結果が
出ていたのかもしれないだろう。
結局のところ、金環日食まで待たなければ答えが出ない。
頭脳明晰でも、実学が欠ける皮肉もどうすれば良いのか。
自身、他に道がない私も彼についてゆく。
1つの時代変革を観るのも一興と、内心へ存じた。
そして、また数年の時を生きる。
80年の歳月はある意味、悟りの境地でもあろう。
信仰は時に理を盲目にさせる、今まで思っていた事は
少し誤っていたかもしれない。
私自身が理を信仰し、目配りを全て仕組みへ捧げていた。
価値といった言葉へ変換すれば多少楽になれるだろう。
しかし、他人からの評価など大きな意味は見出せぬ。
時折夜空を仰ぎ、星に張り付く我々の存在理由に
森羅万象への答えにすがりつく。
ダイアモンド、ルビー、エメラルド、サファイア。
世界四大結晶と称されるそれらも解明がより近づく。
モース硬度が8を超える原石は意思の強さと比例する
可能性が濃厚となってきた。欲望もそれなりの強さが
あるものの、同時に弱さも内包するのでそこまでの
強度は保つ事ができないと推測。
蓮君、ジネヴラ君、無影君、そして私にそれぞれの
願いを抱えてオリハルコンオーダーズに集う。
これは本当に偶然としか言いようにないが、
もし、必然性があるのならそこから牽引されたのだ。
聖夜君も今不在であるが、いずれここに招集するだろう。
特に黒き結晶はまだ未知数な点もあって注目から離れず。
ブラックホールもダークマターの塊。
近況としてはその属性に関わる者にも変化が生じた。
白峰君は闇の力に魅せられ、研究に勤しむと言う。
彼が所持しているのはオブシディアン。
黒曜石のACを蓮君から譲り受け、
オリハルコンオーダーズに参加した。
人間を球状に集中させ、疑似的な重力の圧から
魔物を召喚するつもりだ。
しかし、この結晶は危険性も高い。
ダークネスマターには及ばないものの、
無理をするなと注意したが、
若者は優位に立ちたがる側面ももつ。
無論、私とは異なる。
金や名誉に執着はない、在るのは
紅い鉄分の如く、他星への解明と介入だ。
彼らとの協力で様々な事実も分かってきた。
先の話、星どうしでの連携が可能となった現象について
判明できた事がある。
それは星の配列。
星を原子に準えた宇宙空間を格子付けした構造として
ACが成り立つ可能性も推測した。
ダイアモンドの炭素を模る混成軌道を調べてゆくと、
脳電位は無限遠点として通じる。
これは物理学としては理想値と定めているが、
従者にとって距離など無関係とばかりに拾い上げる。
いかに巨大化しても局在化分子軌道は成り立つ事が分かり、
たとえ弱い性質であろうと星の間で結び付き、電位通信を
引き起こす事ができる。通常、電位は距離があると次第に
衰えてとどかなくなる。格子は変電設備の様に電位を
失わせず異界の助力によって収束。
思いそのものは物理的な力としては弱い。
しかし、空間内の+-を介して遠く及ばせる性質が
あるため、星間で結びつく。
そういった現象が最も強くなるのは地球において日食。
太陽と月は系列の1つである地球に強力な混成軌道を
もたらして空間すら制御しえるのである。
そこに基づくというのなら脳と宇宙は繋がりをもち、
世界の誕生からすでに接点を培ってきたかもしれないのだ。
確かに我々を含めた生物の起源は解明されてはいないが、
ミネラルより始まる金属性との構築はどこであろうと
共通として在るべき要素だった。
もはや想像を超えた所業。
この状態なら精神のみ結晶に宿して死という概念すら
覆せるのではないか?
あくまでも仮定だが、アブソルートの様な結晶体を
宇宙内で生成し、宇宙船の中で脳電位だけ残して
暮らしている者もいるかもしれない。
いや、肉体は単なる電位の保管、管理室。
向こうの世界では我々の常識などどこまでも飛び越えて
塊を構成させているだろう。
中でも最も強大とされるダイアモンドは相当な思念を
宿す性質で、蓮君のような精神力をもつ者ならまだしも
18歳の息子が抱えるのも大きな負担をもたらすはず。
現に白峰君のトラップに掛かり、殺人を犯してしまった。
日食の接近で簡単に揺らぎ、肉体を支配する恐ろしさは
こういったケースで露になる。
1つ誤れば多大な影響を及ぼすのも強硬体さながらの
原理というべきか宿命というべきか断定に迷う。
我ながらここまで辿り着けたのも清々しいものの、
反動で犠牲も生む。人という犠牲を払ったからには
後戻りは許されず。
まだ私にも夢がある、宇宙の、森羅万象を見つけるまでは。
娘の後を継ぎ、犠牲を払っても答えを見つけてみせる。
若き有望者、ジネヴラ君、白峰君との期待も添えて
銀河の
そして、カロリーナ。
あの子も立派に成長を遂げて社会に順応できるまで至った。
できればオリハルコンオーダーズの一員となってほしいが、
ネコの様にひっそりといなくなったようで寂しい。
しかし、リリアと等しく娘の様に育ててきた。
子育てには確たる正解などない、意識だけは高かった
私でも紛わずに成長。わんぱくぶりは否めないものの、
悪魔になる事もなく人と変わらずに送り様を目にできた。
従者とは地球と他の星を隔てただけの間柄。
姿形以外の差や違いなどない、そこに生きているという
なんら人と
私に愛情があったのか本当に分からなかったが、
理学療法より性行為の他でも命を授かる方法で気付いた。
時と場は隔絶されているわけではない、塊とは結合の
縁でやはり宇宙は繋がっていると。
ここだけは本当に良かった。
2012年、いくつ年を取ったか平成とかたどった
脳電位が優位に立つ時代に生きる。
意識を代価に進んだ技術はより真理への接近を可能に、
文明も発達して光学による精査もより向上できて、
全容が見え始めてきた。
重力による基本構想と格子の成り立ちは金属を宿す
人間と異界の相性も浮き彫りになってゆく。
気持ち、欲求を伝える現象は電位として格子間を伝い、
それらの精神が結晶構造と重なり、
マッチングして異界の従者に反応される。
脳や心臓も構造、そして境遇で形成された人格子で
適性が決まり、互いの共通点を相互してゆく。
後、意思は脳だけでなく心臓も一端が関与している。
脳は基本、情報整理を行う分野で心臓は気持ち。
言わば、血液循環も金属性作用に一役買っているのだ。
これにて、人とのやりとりも一端収束を迎える。
ちょっとした
[[[鼓動の結晶]]]、一応そこで答えだけは留めておく。
これもある意味では結晶の成り立ちと類似であろう、
有機物ならではの塊の発生原理なのかもしれない。
人も結晶も空間内部にある+-の励起なのだ。
知識者は立ち位置を理解して、いつしかそこに気が付く。
だが、多数の者達にとっては塊にしか目を向けない。
実存主義、現物主義、いずれも個体が固体への
セッションを図ろうとする行為。
望みが叶わなければ排除も辞さなくなる。
ダークネスマターは戦争という極限状態の混沌において
発生する逸物だと思う。
そこを踏まえていれば、蓮君の理想も範疇に治まる。
平和の象徴たる天使の具現化も悪くはない。
とはいえ、善悪二元論のみで金属性の真理など
そう簡単に明かされるはずもないのだ。
ここで一度立ち止まって在り方を振り返ってみる。
では、私の結晶とは何か?
誰よりも塊と向き合ってきたつもりだが、
シンプルに個人的に問われると意外に答えられない。
もちろん、目的ももたずに気軽さをもちながら
今まで闇雲に研究してきたわけではない。
彼らとは異なる私自身の望み。
知識の固形化で情報や思念を結晶内に永久保存する。
ニューロン、シナプス電位を結晶に移植して
星の従者へ提供、貿易収支を試みたいのだ。
理由は彼の者達も人間に興味をもち、
反応をうかがっているのは理解できた。
だが、現代は物質的文化の偏りにより、
精神的成長の衰退が現れ始めている。
効率化、省略化、何でも無駄を省き、目的を果たしては
またすぐに次の行動を起こして繰り返して時を過ごす。
ろくに思わず、願わず、なんとなくといった無意識のみ。
ネットなど遠く離れた相手など意識はしているが、
思念はどことなく薄く、ボットを相手にする感覚。
メディアの発達は疎外感をも生み出してゆく。
そのような世の中に身を置くだけ人の事は言えずに、
私もずいぶんと先送りな行動ばかりしてきた気もする。
和は重んじる余り動きも鈍り、行動力も歪となる。
結晶も集合体であり、それ自体は動かない。
動けるのは個体とエネルギーをもつものだけである。
強い動機付けがなければ簡略化の渦に飲み込まれて、
この国もいずれ発展途上国と変わるだろう。
人口の減少より、知識の放棄で自律神経は
衰退と意識のみ高い混沌へと化し、
昭和のような時代へ戻る。
1つ云えるのは高度経済成長の発展性はなく、
動機もそれがしたいなどの短絡的な組織崩落。
誰もがその日暮らしを送りながら生き続け、
そして多数の者達が諦めの念に
彼の者らは自力で動く意志をもたぬゆえ、
誰かを、何かを頼る事だけしかできなくなる。
そして、ふと手にした結晶より自我がそのまま伝わり、
体内に宿す金属より異界の者からそっと
自身の欲よりAC性質に手を染めるだろう。
時には反射し、時には屈折して内と外のリアクトルを
無意識に覚えて目的を満たすと同時に支配。
柔らかな気持ちしかもたない中で願望だけ叶えようとも、
血を飲み続けてゆく様な渇きが延々と苦しむ。
私、及びオリハルコンオーダーズはそこを否定する。
無数の人間が各々の欲を果たしたところで終わりは無く、
更なる欲をもたらすのみ。資源、人材、いかなる種別で
あろうといずれは必ず限界を迎えるもの。
そこを理想に置き換えて努力する行為はまだ良い。
夢という語に置き換えていたものの、気持ちの強さは
この様な身であれど誰よりも強い方だ。
世界の進化で真理への追求を果たせると思っていた。
だが、世界には無駄も多すぎた。
高度経済成長による人口過多は不必要な数もまた出現。
人類の繁殖は跡目となれば優れるというわけでもなく、
無能ばかり増殖する事もありえる。
甘さなのか、ぬるさなのか、文明に浸りきった惰性は
退化に一歩を傾けてしまったのだろう。
残念ながら、この国、日本も戦後より該当して
発展性への見込みはこれ以上ない。
2次元と呼称されるキャラクターを好み、追求する様と
抽象的審美眼が現実からの逃避とまさに重なる。
並進対称性の如く整い、ダイアモンドによる
まったく歪まない位相の強硬さを空間へまるごと覆い、
閉ざされた安息の地を構築する。
異界との融合は果たせるのか、正直確定はない。
時の停止だけは異界の従者から根拠はうかがっている。
よって、私も賛同してここまできた。
ダイアモンドの啓示による金環日食で全てが判明する。
2012年、5月21日。時は来た。
蓮君率いるオリハルコンオーダーズは世界の変革を
大いなる信念を抱いて実行する。
成功の代償は計り知れぬ。
結
彼は
静止とは事象の連続停滞。
ある意味、永劫という地獄となろう。
永遠の平和とは
個の世界は固の世界。
あくまでも星の従者ですら、機械仕掛けの塊。
形無きスピリットは電気という+-までしか把握できず。
結局、魂の証明は成されていないが、
それでも私は追い求めてゆく。
二元論も2の存在がそこに在る時点で根拠が必ずどこかに
内包しているはず、電位とは伝わり。
異なる性質が双方に隔たり流れてゆく性質。
本当に目で見えないものかもしれない。
根拠のない極楽を、現実的な
宇宙という格子の生成場は必ず見つけなければならず。
跡継ぎがいない今において、決断は今のみ。
等しい理念をもつ者はいつ現れるのか定かでもない。
次世代の賢者を待つ程、私はもう長くないのだ。
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