第56話  赫の皇女

 マナは赤い結晶の通路で1人歩いている。

都庁内に入ってからメンバー達はそれぞれ行くべき

区画へ分かれて対応するために進む。

理由は自身と因果のある塊が在るから。

赤、緑、青、白と4つに彩られた通路で自分は赤に向かい、

奥にある応接間らしき部屋に入った。

ドアは塞がれずに、法力なしでも普通に開けられる。

あたかも入ってくださいとばかり、通路や部屋だけは

普通の人間でも通れる範囲が空けられていた。

覚えはある。

都庁に来るのは初めてだが、頭に既視感を覚えるのは

自分と近しい者がここに居ると理解していたからだ。











「姉さん」

「やっぱり来ると思ってた♪」


ジネヴラ・アヴィリオス。

姉もオリハルコンオーダーズの一員として、

赤き結晶の管轄で待ち伏せていた。

彼女に疑いをもち始めたのはヘヴンズツリーの時、

あるはずのないマリアライトが頂上部に設置されていた。

それはヨーロッパ本部の宝物の1つで、

ロストフも所持していなかった物が晃京にある事で

姉に疑心が湧いてしまった。

皮肉にも結果が黒で、今ここにいるのが

何よりの証明となるのが運命に雷を打ちたくなる。

しかし、紛れもない事実。

人々を恐怖させ、聖なる組織のすぐ裏側に

悪魔を召喚し続けていた者がすぐ身近にいた。


「やっぱりじゃない、いつも同じ世界で一緒にいただけに

 あっさりと裏返しにされた気分。

 こんな現実をどうやって受け入れろと?」

「まあ、確かにこんな変わり様なら拒否したくなるわ。

 あたしだってあんたをこっちに入れるのは一考したわよ。

 まさか、図書館跡に単独潜入しにくるなんて

 私も予測できなかったわ」

「光一さんは始めから私をオリハルコンオーダーズに

 加入させたがっていた。素直に従っていれば

 いずれは姉さんと接触できると分かっていたから」

「あんたもちゃっかりしてるわね。

 いつも、見よう見まねにあたしに付いていたから

 行動パターンも似てきたのかしら?」

「私だって、性格に観えない手口の1つくらいする。

 姉さんの手法も取り入れてきたから」

「でも、お生憎あいにく様。

 こっちはコッチで、また改めて変わってゆくわ。

 あたしは今までとは違うの・・・分かる?」

「先程から、何気なく思っていた。

 姉さんの体からも異常な紅の濃度を感じる」

「ここまで近づいたら直感で分かるものなのね。

 長年願い続けたルビーの適性に成功したわ!」

「AC最高峰・・・ルビーを!?」

「アッハハハ!」


口を開けて笑う姉。

世界四大ACとされる内の1つ、ルビーを身に宿した。

何かしらの術を用いて再適合したと思われる。

姉が赤い性質に特化しているのは理解できるが、

硬度の高い適性があるとは考えられなかった。


「でも、姉さんは事前の計測では高くなかったはず。

 何かを媒介しない限り、肉体に結晶の影響なんて

 そう簡単に適性向上など合致できない!」

「そうよ、かんさわる言い方だけど、

 確かにあたし単体じゃ、ルビーに馴染めなかった。

 ACの性質を借りる方法で変われたの」

「鉄分・・・いや、相当なミオグロビンの量を

 用いている気がする。姉さんはもしかして――」

「そーね、ボスと協力してこの都庁にアブソルートを

 張ったけど、色々と面白いものがゴロゴロ出てきて

 新しい世界の扉を見つけた。

 そこで、私は追求し続ける事を決めたの」

「既存のAC、日本にある物で再適性できるはずは。

 何を媒介に?」

「これよ、シンナバー。

 あいつらが隠し持っていた逸物を拝借させてもらった。」

「それは・・・ヨーロッパ本部の家宝!?」


赤黒い結晶をACの内から取り出して見せた。

和名では辰砂しんしゃとよばれる結晶は

古来の偉人が残した潜在的物。

性質として地下から発掘された物ではなく、

未知の製法で生み出されたという産物で、

ロストフが来日した時を狙って持ち去っていた。

司教の関係者なら容易に持ち出せる。

いや、多少の強行突破で強奪していた。

理由は言うまでもなく、本部を奇襲したのは姉だったのだ。

たまに帰りが遅いと思っていたが、徘徊していたのは

晃京周囲だけでなくヨーロッパも同様。

格子間移動という悪魔がこちらの世界に介入するものと

同じ能力で時をかけずに動く。

当然、飛行機で日帰りできるはずもなく結晶の力で

地球の裏側に行っていたのだ。


「空間のどこにでも瞬時に回れる高度な術。

 悪魔の所業と等しくなれる研究に成功していたのね。

 姉さん、いや、オリハルコンオーダーズが」

「あたし達は最初から都庁にはいなかった。

 とりあえず晃京の中心地に張って、

 この日まで外周で機会を伺ってたってわけ」

「どうして、そこまでして?」

「女の道理に変革をもたらすためよ」

「おんなの?」

「そう、常に3歩後ろに下がって世を生きなさいとか

 カビ生えた因習を変えたいのがあたしの目標。

 まあ、世界は空間の理で二極化されてるから、

 片割れのあたし達はいつも不利な状況に回される。

 何故、男女という性別が世界に存在するか分かる?」

「生物の理だから」

「テキストに書いてある事、まんまね。

 星の表面に湧いて出た六芒星によるもともと

 他のメンバーと追求を続けた結果、

 一部の答えが見つかった。

 極細である空間そのものが+-の性質をもっている。

 動体を許される場そのものが糧だからよ」

「世界の中に?」

「そう、シンプルにいって男は+、女は-。

 だけど、動向としては-は劣勢の立場となる。

 つまり受け入れるだけの器。

 種なくして、実を形成する立場が成り立たせられない」

「・・・・・・」

「あたしはつくづく気に入らなかった。

 いつも一歩一歩遅らされる女は男の後追いばかりで、

 歴史を歩かされてゆく。

 女の身である者がもっと能力を向上できる術を探して

 その可能性を導かせたのがこれ、シンナバーよ」


姉が片手にかかげたのはヨーロッパ本部に展示された

赤黒い結晶だった。

用途不明のそれは現世代で扱える者などいないだろうと

推測される程の逸物で、古くから政府ですら目を退ける

用途不明な孤高のACだ。

自分も現地にいた当時はもちろん、今に至っても

何に使えるのかまったく理解できていない。


いにしえから伝わる賢者の石は潜在値不明、

 教会が組織として立ち続けられた根源がそういった

 類の物を長年保有してきたから相当なポテンシャルね」

「あたしでも手に持つだけでゾクゾクしちゃうわ。

 だいぶ前から目を付けてたけど、これなら世界の様を

 一からつくり直せるかもね」

「有り得ない・・・そんな代物を姉さんが扱うなんて、

 計り知れないACを扱う事は禁じられています!」

「教会としては・・・でしょ?

 オリハルコンオーダーズの力をもってしてなら、

 人体の構造も自由に変えられるわ。

 現世界のルビー最高適合者のあたしなら、

 もうなんだってできるのよ」

「赤の到達点・・・ルビーに到達できたっていうの!?」

「ついでに、協力者もいてね。

 若さに執着していた医者の老婆の協力で

 一斉に加速し始めた」

「リリア先生を利用して!?」

「シンナバーは理すら曲げられる。

 その根拠は昔に存在した者によってつくられたの」

「誰が?」

「エクソシスト、古来より異界の従者と接触して

 ACの発展に功績をもたらした存在」


レーザー掘削技術もなかった時代。

結晶内部に文字を刻み、精製していたという

謎に包まれた者達はエクソシストと呼ばれ、

人類誕生より見えぬ陰からACを生成し続けてきた。

出生、生成理由はもとよりどの様に結晶内部に

施作しているのかすらほとんど不明。

新たな力で姉は教会の奥底へ侵入し、

新事実にたどり着けたという。


「聖職者が悪魔を囲うなんて皮肉も皮肉。

 仮の母だったロザリアも古の教会が異界から

 召喚させた事実も分かったんだから」

「母様が!?」


数百年も生き続けた母は世代交代で司教と接し続け、

身分を隠してこの世界に居続けてきた。

いつまで経っても老化しないのを疑問に抱き、

向こうとの接点を辿たどって的中。

オリハルコンオーダーズすら理解しきれなかった点も

シンナバーの利用で次々と明るみに出て、

教会への憎しみもつのり始めて行った。


「極東支部のこっちにあたし達をよこしたのは

 司教の手籠めを離すだけじゃない。

 あたし達を独自に適性を再成長させるために

 イギリスの規定から遠ざけた」

「私達の適性を?」

「そうよ、あたしらは歴代皇族の腹違い子孫。

 本国の歴史から抹消された家系の末裔まつえいなんだから」

「・・・・・・皇族?」


姉は想像にもつかない発言をする。

自分達がイギリス皇帝の末端出身だという。

発端は要人スキャンダルの隠蔽。

ある皇族が許婚以外との間で子どもを作り、

教会は事実早急に記録を地下に秘匿して納めた。

物心がついた頃には施設にいたので、事情など全く

知らされずに生活を送ってきた。

晃京占拠に成功してしばらくしてから本国に潜入し、

今まで読んでいなかった禁書を見て、全て理解。

自分達の育ての両親は事故死にみせかけて殺された。


「長年生きたロザリアは今まで知っていて隠し通してきた。

 あたしらが教会の中でも適性が高めなのは

 全て皇族家系のおかげ。不遇に納得できなくって

 シンナバーの結晶融和術で底上げを狙って、

 ボス達と新しい可能性を世界に広げるつもり」

「ルビーも、家系適性に拍車をかけられた。

 姉さんはいつから気付いたの?」

「施設にいた時。

 ある夜、国の役員が来ていた。

 あんたは寝ていたから気付かなかったけど、

 あたしは聞いていたのよ。政府の連中が施設に来て、

 あたし達の事で話し合いしていたのを」


理由は影武者サブスティテュートさせるべく、

国は自分達を取り戻したかったようだけど、

親が拒否して強硬手段を取られたようだ。

寸前に教会へ送られて法のとどかない場へ行き、

今に至っていた。


「お父様はそうなる事を予知していたのかな。

 EUは再整備を実行して宗教弾圧も交えて

 そこから避けようと、日本で準備を進めていた」

「本部のインキュバス連中もそうだけど、

 女が幅利かせるのはここ、日本が最適みたいね。

 宗教色の影響が小さいこの国なら事を進めやすい。

 その取締役がロザリア。

 400年生きていたあの女が監督役に、

 性質改変をじっくりと観察し続けてた。

 まさか、聖夜君に始末されるとは思わなかったけど」

「聖夜さんの行いはオリハルコンオーダーズも

 予想していなかったのね。

 日本には気付かれずに大量にACを輸入して、

 古代記念物保護法もそこから思いついた」

「あたしは最初からあの女なんか気にしてなかったけど。

 種付けしか取り柄がない奴なんて。

 見た目良ければ伏魔殿ふくまでんも良しなのかしら。

 結果、ロストフも引き継いで・・・。

 父は魅せられたんだと思う。

 真面目な男ほど、神聖化された女に弱いから」


ここ数ヶ月で晃京の至る所で起きた事件も

姉の伝手によるものが大半であったが、

まだ動機がはっきりとしない事がある。


「私達の件についてはよく分かったけど、

 ヘヴンズツリーに電力を込めていたのも、

 それが理由だったの?」

「電力の需要についてはあたしも心外。

 アブソルートから悪魔を無数に召喚するのも

 相当な電力が必要だったんだから。

 一欠けらの大きさなら体内電力で足りるけど、

 こんな大きさなら街一つ分は予想してなかったの。

 あんたも協力してくれれば、もっと早く終われたのに」

「・・・・・・」

「警察もだいぶ感づいてきて、

 媒介をさらに分散する手法も講じなければならなかった。

 そして、マリアライトもヘヴンズツリーを利用して

 電力会社員をたぶらかし、生活維持や交信強化に

 エネルギー供給を手伝わせた・・・んだけど、

 ホンット上手くいかない事ばっかりだわ」

「そちらもそちらで障害も多く発生していた。

 市民も勝手な行動を取り、右往左往させられたのね」

「おまけに光一も単独行動しでかしちゃって。

 聖夜君に余計なダメージを負わせて負担がかかって。

 まあ、やっとの事で21日を迎えられたけど。

 ボスの目的を果たした後に私も色々と

 実験をするつもりよ・・・彼を媒介にね」

「それが姉さんにとっての真相だったのね。

 なら、オリハルコンオーダーズは何を?」

「ここからは組織の話に移るけど、

 あたし達のボスは――――――」

「・・・・・・そんな」


姉はオリハルコンオーダーズの目的を語る。

内容は世界の啓示と直喩ちょくゆを表すものだった。


「それが・・・平和への配列だなんて」

「この世界はグジャグジャになりすぎた・・・。

 オリハルコンオーダーズとしてはそうだけど、

 あたしはあたしで独自に女増強事で、

 ようやく教会に復讐を果たせる。

 聖に寄生する性を今度こそ根こそぎ焼き払い、

 女の能力、地位を確たるものへと変えてみせる」


理学と宗教の概念を徹底して織り交ぜながら

行き着いた果てが空間の神格化であった。

-の神聖をさらに増大させ、+をしのぐほどの

器を生み出そうとする。

決して司教に上がれない女性の地位を再定義させ、

旧体制を崩壊させるのが姉の真の目的だった。


「ま、事情はそんなとこ。

 もちろん、計画そのものは個人的で済むわけないから

 あんたらを加入した後で詳しく教えるわ。

 分かったなら、あんたもサッサとこっちに来なさい」

「・・・・・・」











「自意識過剰もほどほどにして下さい」

「はぁ?」

「私達は両性具有をもってこの世界に生きています。

 空間とは世界。

 +と-の調和とは最初に生まれもった環境に

 適した条件で始めて成り立てるものなんです。

 身の丈に合った環境に住むべきなんです」

「あんたらしい言い分ね、相変わらずのオマヌケっぽさ。

 何、急に敬語なんて使い始めてんの?」

「私の感性は否定しませんが、述べたものは事実です。

 私達女が-なら男の+こそ先に動くのが自然です。

 女の立ち位置をわきまえて下さい!」

「あんた、さっきの話の脈分かってた?

 いい? その調和の優先権は男の方に続くだけなの。

 ノンポリ男ばっかり増えてる時代に、

 そんな悠長な綺麗事なんて意味ないの」

「いいえ、あくまでも女の器とはそういったものです。

 空間の理を全て把握していませんが、

 -が度を超えたら+になる。

 今度はあなたが男に成ってしまうだけです!」

「・・・・・・」


姉妹というものは価値観も相対するのか。

ジネヴラは態度を変えず、右手から炎球を精製した。


「ブレるわ、ブレッブレ!

 ま~た和平交渉とか、そんな路線ばかりなんだから。

 あ~もう、あんたマヌケ」

「そういう姉さんこそ、いつもACの扱いでムキになって

 危ない目に遭う事ばかりだったでしょ?

 20を過ぎてから冷静さをとりもつようになったけど、

 熱帯は時に狂気が芽生える機会があります」

「あんたねえ・・・支配階級の温床がそんな綺麗で済むと

 本気で考えてるんじゃないでしょうね?

 本部にある第1禁書見せてあげたでしょ?

 歴代のシスター達、何人なぶられてきたのよ?」

「それを回避するためにお父様は私達を日本へ移して、

 守ってくれましたのは確かです。

 でも・・・行動力は男の人こそが率先するべきもの」

「へえ・・・じゃあ、ヨーロッパの彼女達をおざなり?

 あたしらが日本へ逃げても、あいつらは変わらない。

 壁はブチ壊さなきゃ、永遠に囲われたままよ!

 滅却、消毒しない限り何度も何度も何度も

 秘匿されたまま欲求のまま同じ事を繰り返すわ!」

「このがどう及んでも変われません。

 ならば、一度脱退して別政策の観点から

 本部は私達で変えてゆくべきだと思います」

「ダメね、何度言っても平行線。

 口だけじゃ、悪しき風習なんて変えられっこない。

 もう一度だけ最後に言うわ。

 聖夜と一緒にオリハルコンオーダーズに来なさいッ!」

「断ります、世界は誰でも共有して同じ地に生き、

 男女の違いも認めて歩く理を目指していきます!

 そして、私は聖夜君の意思と共にいます!」

「決裂かぁ・・・一遇のチャンスなのに。

 仕方ない・・・・・・じゃあ、教えてあげるわ。

 -の理より吹き出る女の執念というものを!」



姉妹対決する流れに向かう。

これだけは避けたかったが、組織の一員として

抵抗する意思を自分に表示。

ジネヴラはルビーのACを生成していた。

実際のところは今まで一度も聞いていなかったが、

世界最高峰の紅き結晶を適性するとは思えなかった。

皇族の末端が本当の話なら真実だろうけど、

炎に適応する紅き結晶を扱う素質をもつ者。


(知る限りでも姉の炎は2000℃を超える。

 カロリーナさんのACも長くもちそうにない)


同級生、盟友から受けたACも頼りの綱であるものの、

姉の能力を超えられる性質まではない。

トゥルーリフレクトで観る余裕すらもない。

ゴールドルチルクォーツで雷のバリアを先に詠唱。

姉の身体に直接当てれば即死させてしまう。

電流ではなく、電圧として少しでも威圧させれば

気絶させられるはず。

エネルギー単体としてなら、

炎よりも圧倒的に相手にとどく。

よって、熱を先に遮断させて反撃した方が無難に思えた。


雷神の眩暈――urgongraphna――

「遅い」


無詠唱。

交信を読む間もなく火炎を放ってきた。

電磁波は熱を遮断する性質をもつ。

障壁だけは先に詠唱した理由はそれで、

先制を防ぐ事だけは欠かさなかった。

しかし、姉の様子は不変の態度。

雷は炎を貫いていなかったようだ。


「どうせ、感電狙いでしょ?」

(やはり、先読みされている)


ルビーの何かの性質が熱をさえぎらせている。

だが、交渉も戦闘も二手三手先を読んでいるはず。

姉も分かって雷の壁を破壊寸前に押しているだけ。

電磁波にまとわりつく赤いカーテンに、

厘香のスフェーンで横に払う。

事前に試してみたものの、緑のACはほんのわずかな

効果しか出せていない。


「雷はスピード、直線の速さをもつ。

 真横に飛ばすのは分かってるから、圧した領界を生めば

 熱でも曲がるのよ」

(熱界雷)


姉は高熱で電界を曲げ、とどかなくさせる。

わざわざ説明するくらいだから、ほとんど手の内を

見せていない事だけは分かった。

態勢も後ろに下がってしまい、肌も焼け付きを感じる。


「片足下がってきてるじゃない?

 速さならあんたの方が分があるけど、場を制する力を

 まんべんなく重ねれば壁は壊されにくいもの。

 男がこうやってポジション保持をしてきた様に。

 女の防壁、意味分かった?」

「とうに理解はできています。

 私もまだあなたが理解できない方法があるので」

「へえ・・・そんな雷で炎を超えられるんだ?

 なら、このまま押していく。

 あんたが降参しない限り、摂氏をどんどん上げてゆくわ」


1mの火球を放ってきた。

運動神経のない自分にそのまま直撃。

赤いゆらぎは増して熱に覆われる。

明らかに本気を出していないのが分かる。

次に姉の炎をどうにか塞がなければならず。

まだ、手はある。

焼入れで押し切られる前に、次のACを解放した。


「私はまだ・・・耐えられます」

「!?」


自分は桃色の膜で身体を覆い、熱と煙を払う。

破裂寸前にローズクォーツの力を発動、

母の所有していたACによって高熱を防いだ。


「母さ・・・ロザリアのACね。

 ま、炎と雷の対策くらいしてても当然か」

「本部の強硬を予測してあえて用意された物。

 ここで用いるのも皮肉ですが、

 あなたのためでもありますから」

「お気遣いありがたいけど、要らないわ。

 ま、そんな膜すら突き破ってみせるけど」


炎の色が紅色に変化。

ただの自然現象にはない力を放出させた。

ルビーをさらにたぎらせた姉は底を上げたようで、

結晶の奥底をさらに目に焼き付けさせようとする。


「熱っ!?」

「どう? これが女の執

 もっともっと溢れるわ!

 超える・・・コエルノヨォ!」


一段と声色が上がる姉に、人間性が変わった気がする。

いや、内側にいる何かが本性を押し上げているのか。

悟る。

この力は悪魔だけでなく、別の存在を利用している事に。

根源は姉の自己主張で明らかとなる。


「もう観念しなさいよォ!

 女1人で、大勢の女に勝てるわけがないわ!」

「何のつもりですか?」

「何のつもりも、この力の源が-のそれよ!

 あたしもあんたに伝えてやりたい事がまだあるの。

 やっぱり直に見せなきゃ分かりようにないし」

「この濁る様なよどみは!?

 ただの性質ではありませんね?」

「確かに薄血のあたしで成せなかったのは認めてやるわ。

 この力はあたしだけのものじゃない。

 歴史より無数に蓄積された-の血液によって

 適性を補正させて跳ね上げた。

 アブソルートも男の暴挙抑制で新たに構築されて、

 オリハルコンオーダーズで可能性を突破できたわけ。

 教えてあげるわ、無念に生の幕を閉じた女達の声を」


姉はシンナバーを掲げる。

すると、中から人々の声が聴こえてきた。

なぶられて死んだ者の苦痛の音が無数の塊となり、

脳髄に染み込むくらいに耳の中へ入ってゆく。


「聴こえるでしょォ?

 歴史より蹂躙じゅうりんされた女はこんなにいたんだから。

 力無き者も、集合体で大いなる質と力を生むゥ。

 どこぞの女議員も実験の過程、アハハ、消えないモノは

 永遠よ、決して消失しえない存在こそ力の根源!

 あたしは彼女らの声を1つ1つ聞き入れ、

 極東の辺境より今こそ立たせてみせる。

 これはあかき復讐、皇女の務めとして!」

「ううっ・・・」


これらの音に、不利な姿勢を姉に見せられなかった。

耳を塞げば否定の態度を示す事になってしまう。

同性だけに、つい同調しがちになる。

忌々しいこえにちゅうちょする時だった。



エイエンナンテイラナイ エイエンナンテイラナイ

(この声は!?)


姉の主張と異なる声も聴こえてきた。

だが、姉も予定と違うとばかり驚いたような態度で

言葉の内容が変わっているという。


「何・・・なによ、この声!?」

「・・・・・・」


自分は2人と思わしき音に、

この濁った声の中に覚えのある者がいたようだ。


「中には私の同級生の血が混ざっています。

 その塊は否が応でも集められた塊のようで、

 私の方に呼応してくれたようです」

小癪こしゃくなァ!!」


見る限り、肉体に電撃は効いていない。

結晶をなじませたそれは抗切削こうせっさく性をもち、

雷の斬撃は一切通用できなかった。

姉の体内情報は不明。

未知の性質さに、攻略の一手がいつまでも打てずに

雷も風も直接的な解決の道は望めない。

ただ、別の何かの様子をかもし出している。


(ACの反応が?)


今までは姉ばかりに注視しすぎていたために

気付けなかったが、ゴールデンラブラドライトが

周囲の赤い結晶に反応をもたらしている。


(壁や天井のACはルビーじゃない)


赤き結晶は似て非なるもの。

つまり、通用させるべきは外周の要素。

自身の能力で足りていない部分は・・・文明の利器で。

インペリアルトパーズの矛先を別の方向へ向けた。











ビリイッ ブシュウウウゥ


「!?」


雷を壁の隙間

突如、壁から水が飛び出してきた。

スプリンクラー配管の様ではなく、どういう訳か

元の壁から放出された状態に見えたが、

おかげで一時、部屋じゅうの炎は全て消えてゆく。


「・・・・・・」


ゴールデンラブラドライトは示していたのは水分だった。

近隣のフロアにどういう訳が水が充満していたようで、

地の理によって強大なる塊を抑えさせた。

姉は沈黙。

姉妹間の喧嘩などまったくの無意味。

水蒸気の立ち込めた室内で、茫然と立ち尽くす彼女に

今一度と計画を止めるように警告する。


「勝った負けたではありません!

 私が正そうとするのは私達のいるべき場所。

 あるべき姿、生活へと戻したいだけです!」


姉はやさぐれる態度で言葉を発した。


「あ~あ、どうやらここまでね。

 このACもこっち・・・じゃあんまり出せなかったわ。

 あの人みたいなカタさには及ばなかったみたい」

「・・・・・・え?」











ボオッ


ジネヴラの全身が燃え始める。

身を焦がし、肉が焼ける臭いが立ち込めた。


「姉さんッ!?」

「来ないで、クルナァ!!」


自棄を起こして自害するつもりに思えたが、

どうやら様子がおかしく、あたかも計画の1つで

起こしたように見える。

雷で消せるような効果はなく、

スフェーンの風でも消えずに姉は今までにないくらいに

大きな叫び声を出して本音の本音を口に出し始めた。


「ワタシハ、ドコマデモオイモトメル!

 コウエネルギーヲナイホウセシモノ、

 ルビーハコノセカイニハトドマレナイ!」

「悪魔化を抑えられないから!?

 適性過剰と分かっていてシンナバーを!?」


黒焦げの身体で、すでに正気を保てていなかった。

ルビーの性質、力の許容応力は姉のそれを超えて

自身の器すら耐え切れずにシンナバーを媒介させていた。

床に溜まる水も瞬く間に蒸発。

対応策、無し。

自分は必死に叫び、ルビーの放棄をするよう

訴える事しかできなかった。


「お願い、今までの自分に戻ってェ!」

「ココ、ココジャアダメェ。

 アアソウ、ムコウナラ、イマソチラヘイクワ、

 イカイトノデアイヲコノミゴト!」

「ダメです、いや、イヤアアァァァ!!」


自分も姉も正気を保てない程、パニックになりかける。

骨も残らずに消失。

おそらくは結晶内部へ取り込まれたのだろう。

質量保存の法則は成り立てるはずがない。

姉、ジネヴラの消失に手の打ちようがなく

もはや、これ以上理性を保てない余りに

自分がかつて呼んでいた呼び名で思わず叫んでいた。


「おねぇちゃああぁぁん!!」

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