第45話  暗黒の肉塊

 白目の視線が定まらない生きた亡者達が無数に

国の中枢へデモと言い難い行為を繰り出していた。

国会議事堂前で人々は狂いだし、一ヶ所に集まり

巨大な球体を形作る。

まるで重力によって形成する星の様に、

反重力とばかり地上から5m浮いて固定。

マーガレットは武田と状況報告し合う。


「集中している市民は確保できないの?」

「「球体から黒い炎が噴き出して近づけん。

  消火栓でも消す事ができない!」」

「なら、私達の役目がそこにある。

 特殊工作班を現場に送るわ」


主任からも連絡がきて現場に急行を要請。

少しでも多く手助けが必要なのも否定できない。

郷にも任せるつもりで同行を頼もうとした。


「お前も行くんだろ!?」

「ああ、1人でも多くの助けがほしい。

 もうここまでやってきたんだ。

 ・・・郷、お前も協力してくれ」

「言わずもがねえ、とっくにその気よ!」


だけど、今回の件は怪しい。

悪魔の出現も確かに問題だけど、身内の動向も

彼女達は自分に噓をついている。

何か利用するためにACを回収させていたのは

とっくに理解していた。

ヘヴンズツリー以来に消えたマナの安否も気遣うけど、

2人の動向も無視できずにいる。

今気にしてもどうにもならないけど、

胸の内に潜ませておく。


「聖夜君、行きましょう!」

「・・・ああ」


ここで疑っても仕方ない。

気付かれないように横目で見ながら、

準備を整えて国会議事堂に向かった。



 1時間後、メンバー達は駅で陣地を組んでいた

自衛隊と合流して最低限の対処を聞く。

そこから出て現場を直に目の当たりにすると、

あまりにも異様な光景に息をのむ。


「人がボールになってんぞ!?」

「人体を媒介にしようってわけ!?」


自衛隊も球体を引きがそうと試みるも、

黒い波動で大火傷を起こして近寄れずにいる。

ここに来る前に作戦を話し合い、都民救出を前提に

球体を散開させる方法を打ち立てた。

戦闘面では期待できない郷は救助を優先してもらう。

ただ、全てが操られているというわけではないようで、

亡者らしくない人の姿もあった。


「「なんで・・・どうして・・・こんな」」


街宣車の上で女性が座り込んでいた。

ギックリ腰で立てず、彼女は議事堂に入る前に

デモのリーダーに入れ知恵させていたが、

謎の軍勢に怯えて動けなくなってしまう。


「ひぃん、だれかたすけてちょおだ~い!」

「あそこに誰かいるぜ!?」


1人だけ球と関係なさそうな人もいた。

TVでも有名な山田陰子で、なんでそこにいるのか

取り残されたかのように助けを求めている。

とにかく、まともな人もまだいるようだ。

自衛隊はこの人にまだ気付いていない。

リビアングラスで瞬間移動し、人に流されないよう

一足先に車体の上部へおばさんの元に駆け付けた。


「怪我はないですか!?」

「おえっほっほぉ~!」

(このおばさんは操られていない・・・)


恐怖で会話ができる状況ではなさそうだ。

特に怪我もなく、安全な所に救助を郷に任せ、

自分は異質な悪魔を対処しにいこうとする。

役目がきたとばかり、すでにヒョウに変えた郷が

飛び越えてここに来る。


「郷ォ、この人を頼む! 乗せてやってくれ!」

「あいよ、おばちゃんこっちだ!」

「あんた・・・デモの時の!?」

「今はンナ事どうでもいい!

 世の中、常識じゃ分かんねーのがいっぱいあるのよ!」


何やら見知りな事を話しているようだけど、

とりあえず女性の安否はこれで良い。

後はACの力で発生源の対処をするだけだ。

さっきから思っていたが、あの黒いオーラは

自分を見ているような気がしてならなかった。


「厘香とカロリーナは周りの通路を塞いでくれ!

 あれは俺が相手する!」

「聖夜君、本当に1人で!?」

「よく分からないけど、あれは俺を指名しているようだ。

 俺がやるしかない!」


余計な数が増えないよう、2人は自衛隊と共に

根源は人塊の中心にあるとすぐに理解。

改めて見直しても、数百人はいるであろう人の集合体に

星を観る様なうごめきとばかり錯覚しがちになる。

宙に浮き、重力に逆らう人間の球体を

実際にどうやって阻止すれば良いのか。

見続けていた時であった。


ドクン


「!?」


自分は剣を手にしていたら、何かが聴こえてきた。











Kill=Matar


「・・・え?」


突然、何かがささやいてきた。

どこから聴こえたのか定かじゃない。

意識はあるが、無意識に、剣を、握りしめ、

人間という、集合体へ、振りかざしていた。


「「コレ、本当に人・・・なのか?」」


その言葉を耳にした途端に誰もいないような気がした。

いや、人はいくらでもいるはずなのに、物にみえる。

人と悪魔の境界線がみえない。

複数の色の服を着ているにもかかわらず、黒く見える。

柔らかそうな球体にしかみえないのだ。

とはいえ、晃京に被害を与えているモノに違いはない。

生物型とはいえ、悪魔は悪魔。

今までもそうやって斬ってきたはずだ。


「「ちがうだろ、悪魔なんだろ?

  やっても良いんだ・・・ヤッても」」


球体を分解させる作戦に違いなどない。

だから、身近にいるモノから手を付けた。

クラーレ、ピエトラ、ラーナ。

様々な剣で順に斬ってみても心地よく、

赤いペンキが噴き出していて、時には緑、白、青と

ステーキの肉を切る様な感じで、

ジックリと斬ってみたくなるような気がしてきた。


「斬れる・・・このアクマはずいぶんとヤワラカイな。

 こんなによくキレルノカァ」


赤に混じって深緑色の泡が飛び散り、

または肌色が白色の石膏に固まり、

水色の膜が人の皮膚を老衰させてゆく。

毒化、石化、呪化、所持するあらゆる能力で

人間の状態変化をうしろに朧気おぼろげに観察。


一方で厘香とカロリーナは鈍い音を聴いて戦慄せんりつする。

外周を風と氷でさえぎっていた2人は聖夜の異変に気付き、

錯乱した光景を見て顔が引きつった。


「聖夜君!?」

「あのバカァ!?」


聖夜が次々と人に斬りかかっている。

作戦とまったく違う事を始めていた。

ただ、今回は話が異なる。

悪魔らしき力が加わっているものの、

素体は命を内包する都民であるからだ。


「剣を下ろしなさい!」

「やめてェ!」


厘香とカロリーナが聖夜に止めさせようと近づく。

しかし、球状の下部にも人が多くて接近が難しく、

風と氷でも黒い炎は消せない。

ままたく間に作戦が崩壊。

しょせんは若者と、少しの希望も削りかけて

特殊工作班が失敗したとみなした自衛隊が銃を構える

間から何者かがくぐり抜ける。

議事堂前駅のフェンスに誰か1人立っていた。











「英津さん!?」


彼は拡張器を用いて自身がリリースした音楽と共に

歌声を放つ。

目に見えぬ音波は人々の腕、手の指先の力を緩めさせて

ボロボロと球体は崩壊した。

人々の群れは砂の様にこぼれ落ち、

まとわりつく黒いオーラも消え去っていた。


「謎の放射炎、消失!」

「身柄を確保しろ!」


好機と自衛隊や警察が一斉に都民を抑えにかかる。

操られていた人々も気絶し、救助に移した。


「俺・・・なんで・・・こんな?」


直下にいた聖夜は剣を握っている覚えすら、

きちんと把握するまでに時をかける。

自分が何をしたのか自覚ができていない。

気が付いたら自衛隊や警察が周囲に展開。

悪魔を倒した実感もきちんと確認できない内、

数人がこっちに近寄ってきている。

同時に自分の身柄も経験者の流れで拘束された。


「神来杜聖夜、殺人の現行犯で逮捕する」

「・・・・・・」


5人の警官に囲まれて頭にフードを被せられる。

一般の見物人は誰1人として全て倒れている間、

何があったのか自分の足取りすら確認できず、

パトカーに乗せられて議事堂を後にした。

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