第44話  セーフライン

2012年4月25日


――――――――――――――――――――――――

「「防衛省、正倉院大臣から声明があると発表しました。

  都庁の解放、及び正体不明勢力への対処を

  本格的に実行する案を内閣に提示――」」

――――――――――――――――――――――――


 都民達がビルの大型スクリーンに注目。

防衛省が新たに国会中継を通して都庁を占領する

結晶の解決を図ると大々的に発表をした。

許可を出した内閣は武力行使を含むものの、

都庁周囲から広範囲に悪影響を及ぼさないよう

速やかな対処を施すと説明。

画面は切り替わり、正倉院蓮が映る。


――――――――――――――――――――――――

「「国民の皆様へ、去年末より晃京に現れた悪魔の処理を

  5月以内に終える事を約束致します」」

――――――――――――――――――――――――


未だに取り除けない都庁の結晶を解決すると述べる。

国会議事堂前には多くの人だかりができて、

デモじみたコールも上がる。

数ヶ月に及ぶ悪魔騒動も不安感が高調に達しかけていた。



同じく、喫茶店黄昏で自分と姉、郷が観ている中、

離せない結晶というテーマを挙げる。

数ヶ月に及んだ未知なる強固の奇石きせきに、

国が総出で終わらせる手段を実行されようとする。

近い内に終わるのならば、以上にうれしい事はないが。


「ついに本腰入れ始めるってか。

 自衛隊に秘密兵器でもあるってのか?」

「・・・・・・」


できるなら今すぐにやってくれと内心に語る。

もうコリゴリだ。

様々な人間がACを手にして理解を超えた異常を起こす。

欲望、復讐、どんな経緯でも人と思えない行動に、

日常という枠を塊があるかの様に削ってゆく。

敵であれ、味方であれ、必ず内側に返ってくる仕打ちで

クラスメイトの死に様をこれ以上見たくない。

己の心境が揺らぐ中、テーブルに腕を乗せていると

ここに1つの吉報が舞い降りる。











「こんにちはーっ!」

「カロリーナ!?」


なんと、カロリーナが戻ってきた。

いつもと変わらない元気そうな顔で日本に来る。

帰国ではなかったのか、さり気なくアピールしつつ

何ともないような仕草で店にやって来た。


「なんで、ヨーロッパに行ったとウソついた?」

「あれ、バレちゃった?」


とぼけた態度で笑顔を保つ。

一瞬、横目になったのは見逃さなかったけど、

せめてもの理由くらいは聞きたい。

一度空いた虚しさをただ、埋めたくなったのだ。


「まあ・・・ちょっと野暮用にいってただけ。

 相手の潜在能力を考えて、ちょっと対策しようかなって」

「何か分かった事があったのか!?」

「なんとなくよ。

 ただ言えるのは、晃京で起きている事件は

 相当強力で厄介な相手だってくらい」

「俺達の相手は始めからかなりのものだろう?

 あの結晶の中にいる役員が指示してるくらい

 大きな組織なんだから」

「確かにそうだけどさ、あたしらのメンツでまっとうに

 やり合えるかよく分からないじゃない。

 オーダーだから、他も数人いるわ」

「複数形くらい分かる、他の誰なのか分かったのか!?」

「なんとなくって言ったでしょ。

 顔も名前もアレだけど、少しやり方変えたら良いかも。

 やたら突っ込むだけじゃ一筋縄ではいかない相手よ」


しどろもどろな言い方で分かりにくい。

アレとかコレとか言われてもまったく心当たりがない。

結局、詳細は話してくれなかった。

しかし、こっち・・・で起きた詳細は話さなければならず。

身内の起こした非業を打ち明けた。


「カロリーナ・・・リリア先生の事だけど・・・」

「!?」


自分が先生を討伐したのを浴びた赤に対して白状する。

青だの赤だの条件付きばかりだったAC要請は

全て己の美意識へ収束させるためにすぎなかった。

カロリーナの保護役に手をかけたと申し訳なく言うと、

彼女は怒る素振りも見せずに両腕を越しに当てた。


「あー、なるほどね。一歩遅かったっていうか」

「どういう事だ!?」

「人体模型に監視カメラ」

「へ?」

「あたしが仕込んだのよ。

 あの人が隠れて何やってるのか探ろうと。

 まさか、血液採取をしてたなんてね」

「お前、気付いてたんならどうして――!?」

「気付けなかったのよ!

 リリア先生、多分あたしが仕込んでた事に気付いて

 知らないフリをしてた。

 献血だって、専用ルームで入れてくれなかったし、

 赤色の金属性から血の研究をしてるなんて

 ひとっことも言わなかったし。

 あげくに病院奥の手面会謝絶パターン使っちゃって

鵜呑うのみみにしちゃったあたしも悪いんだけどね」


カロリーナは地毛をつまみながら失態を語る。

先生も先生で巧妙に立場を利用して身内をだましていた。

自分なら言う事利きそうだから話したのか、

赤色という条件付きの真意がここでらかとなる。

異性の味に完全に染まっていたらと思うと、

身震いも生易しいくらいだ。


「そうか、血抜きの手伝いなんて普通は言えないよな。

 まあ、そんな物の1つで分かりようにないかも。

 お前を外に行かせている間に色々やってたんだ。

 若さ欲しさに付け込まれて、

 オリハルコンオーダーズに利用されてたんだから。

 オルガニック病院も・・・」

「どっちにしろ、これでもう病院には行けないわ。

 エドワード先生も医師として終わり。

 隠居生活を送るハメになっちゃう」


病院を根城にする事ができなくなった。

聖オルガニック病院もマスコミ達が無数に群がり、

実の父にも余波が大きく及ぶ。

あれから医者達も多くのバッシングを受けて、

表に出られないくらい非難を浴びせられたらしい。

皮肉なタイミングでTVで先生のニュースが流れる。


――――――――――――――――――――――――

「わたくし、エドワード・エルジェーベトは辞職。

 医師免許も責任をもって返上致します。

 御親族の方へ、大変申し訳ございません」

――――――――――――――――――――――――


リリアの父であるエドワード先生も追及され、

彼は逮捕されなかったが立場は降ろされてしまう。

病院の機能は他に患者がいるので閉鎖されないものの、

その後どうなるのかまで分からない。

年齢も年齢だけに、大きな動向を起こせないだろうけど、

復帰する可能性はないだろう。

カロリーナも普段からそこで生活していたから、

おいそれと寝泊まりできなくなる。


「そうか、もう病院にいられないなら住む所は?」

「どこか適当にマンションの部屋を借りるから。

 お金もあるし、大丈夫よ。

 ところで、マナは見つからないの?」

「・・・いない。

 教会の人達も探してるけど、連絡がまだ。

 厘香のところも問題が起きているみたいだ」

「・・・そう。パートナーもゴタゴタしてるわね。

 教会と天藍会もまともに機能しないなら、

 科警研に任せるのがメインになりそう」


そして、自分もリリア先生を殺傷してしまった。

もう少しまっとうな対処でやれば良かったんじゃないかと

心の中で思っている。“女だから”という意味もそうだが、

剣を握ってからどこか止められない節が出てくる。

誰もがACという塊に翻弄ほんろうされてゆく。

身近にいる組織、メンバー達もどんどん崩壊してゆく様に

次の手を打てずに脱力感もある。

カロリーナが帰ってきても本調子が整わず、

会話が止まりかけると、郷が叫んできた。


「TV中継を観ろよ! なんか荒れてんぞ!?」

「今度はなんだ?」


国会議事堂前が慌ただしくなった。

都民達は奇声やうめき声をあげ始めて

占領しようとばかり、大きな集まり始めている。


(またか・・・また)


こんな光景など、すでに結晶の効果だと理解できていた。

立て続けに発生する結晶の反映。

どんな秘術か数百人を引き寄せられる在り様に、

度々起こるVTRの終幕を観て頭をいっそう重くさせた。



「バリケード設置しろ!」


 すでに現地にいた武田が陣頭指揮をとる。

最初はただの抗議の集まりだった人々は異変を起こし、

議事堂前の道路中心に身を寄り添ってゆく。

1つの何かが重力に逆らって、人も互いによじ登り

重力に逆らいながら球体を形成していた。

発生源は不明。

自衛隊員達に異変は起こらず、一般層の都民のみが

操られているかのように形作ろうとする。

悪魔の姿はなく、人の集合が悪魔だと思わんばかりに

紛いは銃弾の通しを許さずにいた。


そこから離れた議事堂屋上に1人の黒き影がたたずむ。

群れる人の球体を眺めて小言を呟いた。











「「僕が先に黒の召喚を成してみせる・・・必ず」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る