四月のミスリル2
突然によるカロリーナの脱退に
急に決まったとはいえ、突き放されたような別れで
あまりにも唐突すぎて胸中に整理しきれない。
(なんだって、いきなりこんな・・・)
さらに、気が付けば他の友人も
郷はどこかへ行ってるようで、同じ反応だ。
入れ替わりの時期で色々と忙しいのだろう。
主任も今は重役が来ていて応対に忙しいらしい。
皆も慌ただしくやる事があるんだろうと、
今は自分の持ち場で家に帰ろうとした時。
「神来杜」
自衛隊陸将補の武田誠に声をかけられた。
偉い位にいるはずのこの人が1人でこんな所まで
来るのも珍しいけど、自分に用があるらしい。
「あ、あんたは自衛隊の――」
「ちょっと話したい事がある、時間くれないか?」
ACの相談でもあるのか、またどこかで悪魔が現れて
手伝ってほしいと思いきや、違うようだ。
しかも、今日は私服で周囲に違和感なく
身なりで十分、仕事じゃないのは分かったけど、
立ち話も都合が悪いから喫茶店で話を聞く事にした。
着いて店の中、客もまばらで少ない人数で部屋角の隅に
座って表情を変えないように応じる。
まさか、入隊しろなんていう催促なら嫌気がさすものの、
話のテーマは同じクラスの1人についてだった。
「同級生に同じ正倉院という名がいるだろ?
ヘヴンズツリーにも同行していた」
「厘香ですね、あいつが何か?」
「実は先のサソリ型討伐の件なんだが、
クリアリングをしていた作戦中に不審点があってな」
「何かおかしな事が?」
「お前が展望台から外に出た後、
彼女達は自衛隊と交えて対応していたよな。
悪魔を検証するためにX線検査をしていた。
そしたらどこからともなく電磁波が検出されたんだ」
「電波?」
自分が戦闘していた最中に奇妙な電波を捉えたと言う。
X線は主任がAC捜索で使っている何かと同じく、
自衛隊は無線で電波を
あらゆる周波数もしっかりと検査している。
しかし、悪魔とも関係ない異なる無線も捉えていたらしい。
きっかけはヘヴンズツリーのサソリ型と交戦をした時。
謎の電磁波は外からとどいた形跡がなく、
塔内部から発信していたと判明した。
「その電波発信はサソリ型との交戦時に現れた
カラクリ兵の方へ向いていた。
475kHz帯域の中波で言語通信可能の何かが
わずか1分間飛び交っていた。
もちろん、俺達自衛隊じゃない」
「それで、どうして厘香とつながりが?」
「実は同じ周波数がまた出ていたんだよ。
例の停電や空中に浮いたディスプレイ以来、
人間がACを利用する事件ばかりで、対応にと
より厳重に人巡りに力を入れだしたんだ。
俺は陸将と押し問答するくらい掛け合って、
議員の反対を押し切って住宅街にも繰り出して
巡回していると、再び捉えた。
場所は・・・お前が通っている昴峰学園だ」
「あの学園ですか!?
でも、あそこの通信関係なんて初めて聞きますけど。
俺達の所で無線に詳しい奴なんてあんまり――」
「教員の線もあるが、福沢じゃない。
調査の結果、無線の資格をもった教員はいなかった。
俺も疑ったが、特殊な通信など一応に限られてくる。
無線、ヘヴンズツリー、昴峰学園。
これだけそろった条件から例外もにじみ出てこない
ACに関わる者なぞ、数えられる奴しかいないだろう」
「まさか!?」
「装備庁とやっとやっとに仕様を検査して、
ありえるのはお前のいる部署の特殊工作班。
その連絡をしていたのが・・・厘香だったんだ」
「な・・・」
当時、マナとカロリーナも展望台にいたはずだけど、
自衛達の証言から一生懸命雷と氷を飛ばしていたらしい。
自分は塔の下部にいたから中は見ていない。
ならば、カラクリ兵に信号を送っていたのは厘香なのか。
そういえば、彼女は今まで一度も話していなかった。
でも、本当に正確な情報なのか?
あんな機械と縁のなさそうな和の組織では奇怪すぎる。
「なんで今更そんな話を?」
「直接的な証拠ではないが、不審点はある。
実は天藍会は去年の12月頃に分家が現れた。
名は
出来立ての自称警護団体が立ち上がってきたんだ」
「なんだって?」
こんな時世の中で新しい団体が誕生したと言う。
分家という事は厘香の家から誰かが分裂したという意味で、
2次団体となる。
しかし、議員などの要人警護を行っているわけでなく、
たまにそこいらをフラフラするだけで、
チンピラの様に餌探しをしているだけらしい。
「天藍会が分裂してたなんて初めて聞きました。
俺も知らなかったし」
「秘密にしている程大事なものなら、
お前にすら言ってない可能性もあるだろう。
12月なんぞ、人事変更の月には
喧嘩別れの可能性がある。
自分らの組織が分解しかけてますなんて言えん。
あいつにとって、お前の耳には入れにくいだろう」
「・・・・・・」
「そいつらは水完公園の調査に出ていた形跡もある。
毒鉱石だったか?
そのACも分家が探していた事も分かった」
「あの時いた連中がそうか!?」
「そして、カラクリ兵の登場。
魔術師もビックリなシロモノを造れる
団体の技術と考えれば話は繋がりやすい」
「厘香が・・・ロボットの先導を?」
「だが、俺からすりゃ、お嬢さんの産物にも思えん。
考えられるとしたら、警察関係者。
お前達の内にいる誰かが、要請されたのかもしれん」
仮にそうなら川上を斬殺してACを奪わせたなんて、
警察のメンツに大きく揺らされるだろう。
当時、厘香は知らない組織の者と言っていた。
分家なら、顔ぶれの1つくらい覚えているはずだが、
余計な
「まあ、社会ってのは時には隠蔽工作が
組織ぐるみで地に潜るモグラになる時もある。
確たる証拠があれば訴訟も起こせるが、
警察が相手なら話は別だ。
お前の顔
でも、この件をお前だけには伝えようと思ってな。
今は頭の中に入れてくれれば良い。
要件は以上だ、それじゃあな」
「・・・・・・」
武田さんは先に店から出ていく。
さり気なくやってきて不審極まる発言をしてからの撤退。
でも、まだ容疑が決まったわけじゃない。
悪い意味で敵との繋がりをもたないのを期待するだけだ。
(携帯が鳴ってる)
今度はマーガレット主任に呼び出される。
しかし、どういうわけか彼女は学園にいた。
また事件が起きたのかと
身近話をしたいらしい。
もはや、組織の部下らしく早足で学び舎に行く。
学園到着後、教頭先生付き添いで待っていた。
なんでうちの生徒がと言いたげに、
教師連中から変な目で見られるのも慣れている。
立ち話もなんなので空いている教室に向かう。
教員は断れずに、彼女の入室と一緒に応じた。
「何かあったんですか?」
「あの子、海外に行った理由を知らない?
カロリーナちゃんと連絡がつかないのよ」
「カロリーナはヨーロッパに帰ったんです。
なんだか、病院直系の組織によばれたって」
「ヨーロッパに帰った?
そんな記録載ってないけど?」
「え?」
「航空券を調べてみたら、戌田空港から出たのは
ヨーロッパではなくオーストラリア行きとなってたわ」
「どういう事ですか!?」
帰る国が言っていた事と違っていた。
言い間違えも頭の
国を発言するのもおかしい。
海外と連携した医学の組織とACを研究するどこかと
聞いていたはずだ。
「そんなはずは・・・あいつは病院に籍を置いていて
外国に本部があるらしく、そこに戻るって――」
「そこも調査したけど、ものの見事に白紙。
あの子が所属していたという
海外の医療機関はすでに解散しているわ。
それにあの子は18歳じゃない、19歳よ」
「ええっ!?」
なんと、彼女は今まで年齢
正直、18も19も大した違いがないので、
身長160cmの体系に完全にごまかされた感もある。
身なりはどうでもいいとして、自分に嘘をついてまで
何かしようとする節が
(なんであいつも・・・?)
単純に考えて個人的都合と考えた方が適切かもしれない。
組織に呼ばれたなら国籍の噓なんてつく必要がない。
日本でできない何かをしにいったのではないかと
主任は見当した。
「思い当たる節はあるといえばあるわね。
あんたが風邪をひいた直後だったかしら?
あの子は言ったの、“自分の目的が判明した”と。
何の事かまでは教えてくれなかったけど。
そして、このタイミングでヨーロッパに帰ると
見せかけてオーストラリアへ。
AC関連としか言いようがないじゃない?」
「目的って・・・どこで何しに?
あいつは以前から何かやってました?」
「それが分からないのよ。
ただ、淡々と青だの赤だの病院からの要請に
応えつつ、夜遅くまで悪魔と対処してきて。
あたしの洞察力をもってしても分からなかったわ。
あの子も表情豊かな割には時々冷たい顔もするし。
逃れられない事実を悟ったような・・・何かを」
「・・・・・・」
訳が分からない。
少しくらい相談してほしかった。
最近になってからどこもかしこも調子がおかしくなる。
マナもいなくなってしまった。
皆は自分に黙って
寂しさと共に消失感もじわじわとにじみ出てくる。
カロリーナの件が答えを出せずに残る中、
主任は以上の連絡だけで帰っていった。
ふと、自分はまだ学園に残っていた。
特に用はないけど、なんとなく残りたくなる。
今まで自分のいた教室に入ってみると、
市民はいないようで、たまたま使用していなかった。
本当なら、もう卒業してそれぞれの道にいるはず。
つい数ヶ月前まで皆と一緒にここにいた。
だけど、在学中のまま散り散りになってゆく。
普通に過ごすはずの3年間に、ひび割れが生じて
永久に転がり続く事はない、いつかはピタリと止まる。
(俺・・・トまっているのか?)
「聖夜君」
「うわっ!?」
後ろから急に厘香が声をかける。
止まった教室の空気を破るように
人の音響を発散させた。
「お前か、ビックリさせるなよ!?」
「こんな所で何をしてるの?」
厘香は手伝いでここに来たらしい。
不意を突かれるが、先の事を話す余裕をもてない。
厘香の件を今聞くわけにはいかない。
確たる証拠もないので余計な勘繰りをされたくないから、
黙ろうとした。
紛れて話を変えようと、カロリーナの帰国について
逆に話題をなんとか振ろうとする。
「ああ・・・そうだ、カロリーナが」
「話は聞いたよ、突然決まったから仕方ないって・・・」
厘香も彼女の帰国を聞かされたようだ。
1人2人と、いなくなるだけでずいぶんと静かな気がする。
ここにいた理由もそうだが、陸将補の話をここで聞くと
怪しまれるから言い出せなかった。
何て言えば良いのか適当な言葉が見当たらない。
「なあ、俺達のやってる事って、本当に正しいのか?」
「どうしたの、突然?」
「なんて言えば良いのか、俺達はすれすれに
普通の人と違う事をやってるだろ?
俺も最初はここでガイコツに襲われたから、
成り行きだなんて言ったら怒られるけど。
ああっ、言い分が!」
「ふふっ、私1人だから遠慮しなかった?」
「ああ」
孤独な紛らわしで発言したのも本当だ。
ただでさえ結晶を操る男なんて数少なく、
どこに手を伸ばしていけば良いのか迷いが生じる。
そんな自分をサポート、支えの女性達が2人消えてしまい
残る彼女につい
厘香にとってはどうなのか、微笑みながら続きを返事した。
「今まで短期間で色んな出来事があったからね。
私もACを扱い始めた時は戸惑ったかな。
聖夜君は少し疲れているんだよ。」
「そ、そうか・・・」
「だから、少し休んだ方が良いよ。
マナちゃんやカロリーナちゃんがいないと、
任務がたくさん積み重なって大変だけど。
私がまだついてあげるから・・・ね?」
「・・・・・・・ああ」
厘香が自分の頬をさする。
教室に射す夕日は彼女の姿をうっすらとぼやけさせていた。
場は変わる。
警視庁サイバー犯罪対策課にマーガレットは
足を運んで関係者達と検証していた。
内容は例のネットで表示された謎の言語について
何者かが意図的に拡散させた線が濃厚と見解。
理由は自分がここに来たのが以下の通りである。
「AC内に刻まれた言語ですか?」
「そう、このアルファベットの羅列は結晶内にある
文字と等しい表示。仕掛人は一般人ではない
魔術、言語学に精通した可能性があるわ」
「インターネットのサイトの書き込みも自宅ではなく、
ワイヤレスフィデリティの利く図書館など
公共設備から入力されたもの。
奴らが指定した暗号で、メンバー達と疎通を
とっていた可能性があります」
「悪魔を放出させていたのは
電力会社の社員を利用して電気を蓄積させたのも、
独自の連絡網をつくるためだった?」
それで、何故悪魔をけしかけさせたのか、
共通点が結び付かず。
破壊か、支配か、どちらとも見当のつかない状況に、
オリハルコンオーダーズの企て、意図の糸を
辿る線が相変わらず見えにくい。
ただ1つ言える事は近々大きな出来事を起こす。
科警研執務室に職員をすぐさま集合させ、
デスク中心にいる自分は両手を机に押し付け、
近月中に決着をつけるべく号令を下した。
「
そして、我々の計画も早急に進めていくわ。
静かなる
思い知らせてやる」
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