第43話 不老不死の石1
2012年4月9日
パートナーの消失に、自分は足を付けて歩くという
感覚すら覚えがなくなっている。
まるで穴が空いたような気に包まれ、
春の陽気とは真逆な氷冷さが胸に染み込んでゆく。
厘香の言う通り、自分はただ疲れているだけで、
判断が衰えているだけなのかもしれない。
晃京が占拠されてからまだ1年も経たないが、
ずいぶんと長く感じる。
短期間で様々な人と結晶を通した悲劇ばかり続き、
ブレては合う様な印象に残されてゆくばかりだ。
こんな事、いつまで続ければ良いのか。
晃京は以前と変わらない街として機能している。
都庁から発生した塊も無縁と言いたげに、
恐れて建物内に
そして今、若い命がまた1つ終わる。
知らず知らずのうちに同級生が唐突に消えた。
「京香あああぁぁっ!」
両親の叫びが院内に響く。
同級生の池田京香が聖オルガニック病院で
懸命な治療も及ばず、静かに息を引き取った。
死因は大量出血死。
元から輸血不足で不運も重なったのか、
悪魔より混沌から糧を引き抜かれてしまったのだ。
「尽力をつくしてまいりましたが至らず。
申し訳ございません・・・」
リリアが深く頭を下げ、気を立たせないように
事情と弁明を語る。周囲にいる患者や医者に遠回しな
目線を浴びつつ謝罪の言葉を述べる。
タイミングを見計らうように部下からよばれる。
「准教授、役員の来訪です」
「すぐに向かうわ、こちらの手続きをお願い」
医者はこの瞬間がある意味最もシビアな時。
人体の管理ならば、このまま他業者に引き渡しで、
後はこのまま葬儀者がやってくるのを待つのみ。
しかし、入口より見えたのは服装がまったく異なる者。
やって来たのは警察だった。
「科学警察研究所のマーガレットよ。
昴峰学園の生徒が死亡した件について来たわ」
「死因の調査は通常、鑑識課ではないのでしょうか?
死亡報告書はきちんと提示したはずですけど?」
「確認したけど、気になる点があるから来たんでしょ?
とりあえず、遺体を一度診せて頂戴」
「分かりました」
首都高速道路で何者かに襲われた京香は刺殺されたと
報告書に記載されていた。しかし、状況が
直接ここに来て患部を視たいと冷たく述べた。
ここでマーガレットの視線に代わり、
彼女の遺体を改めて調べる事になった。
遺体安置所でひっそりとねかせていた京香は
全身包帯で巻かれた体は細く、布を取り除いても
確かに病気の類など認められなかった。
大量失血を起こしたのは間違いないようだが、
一か所による傷害と死亡に違和感を覚えた。
(変ね)
傷口と出血の間に差がありすぎると疑問。
裂けていたのは脚部のみで、たった数cmから
血液が全て流れ出すのは常識の内でも考えられない現象だ。
被害者はナイフで刺されたと報告書にあり、
キツネにつままれた容態を目の当たりに覆われた。
数時間前、聖夜もオルガニック病院に来訪。
いつもの通りにカロリーナと青と赤の結晶回収に、
各地から少しずつ拾い上げていた。
彼女はもういないので、実際に行動しているのは自分だけ。
病院からのオーダーを淡々と引き受けるのみだ。
しかし、リリア先生は急用で今会いにいけないという。
無駄足とばかり、引き返そうとするが。
(昔とあんまり変わらないな)
来院する人達の流れを見て、緊急さも感じないようだ。
悪魔に襲われて治療しにくる人はほとんどいない。
カロリーナの話でも実際に襲われているのは
ならず者ばかりで、発見時にはとっくにバラバラにされて
病院に運ぶ必要のない連中ばかりらしい。
悪魔がいようと、やらかしの多くは人間。
味方と敵の境界が
どことなく定まりにくくなる。
郷も病院に来ていた。
いつもここで鉢合わせするのも珍しいけど、
誰よりも怪我をするポジションみたいなやつだから閉口。
また誰かに殴られたのかと顔を見ても、
怪我をした様にはみえない。
「郷か、またここに来てどうした?」
「お前か、実は連れがこっちに来るんだってよ。
治療で引っ越し入院するとかなんとか」
「大晦日に行こうとした時のやつか。
確か埼王で入院してたんじゃなかったのか?」
「いや、実は別の奴なんだけど・・・そいつがな」
以前、会いに行ってた友人ではないそうだ。
問題の人が車椅子に乗ってやって来る。
自己紹介を聞いた自分は驚いた。
「川上です」
「えっ!?」
彼女は川上沫刃の妹だった。
埼王で入院していた友人とは別に、まだもう1人いて
悪魔とは関係なく持病をもっていた子のようだ。
兄が起こした動機もここで明らかとなる。
「実は沫刃さん、妹の治療費を稼ぐために
色々やってたんだ。でもあの人、仕事をクビにされて
何がなんでも金を工面したかったんだよ」
カツアゲしてた件は話すなと推された。
当人のプライドか、面倒をみられるのを嫌ってか、
妹に余計な心配をかけたくなかったようだ。
兄の死後、ストップがかかる寸前に幸いな機会か、
治療費をサポートしてくれるスポンサーが現れて、
指定された病院に引っ越すよう言われたらしい。
そこが、このオルガニック病院だった。
「お金を出してくれる人が見つかったのか。
男の方は来なくてこの子だけが?」
「らしいぞ、治療法はこっちが良いらしく
Aし、いや、装置なんかですぐ治るって・・・だよな?」
「推薦状を送られたからこの病院に来てほしいって
言われました」
何か重い病気にかかったんだろうか。
しかし、車椅子に座っていても重症そうには見えず、
顔色もそれ程悪そうには思えない。
彼女の口調からして悪化しそうに見えないのは
確かなようだ。
「でも、向こうでは生死に関わる重い病気だとは
聞いていなかったです」
「こっちの方が設備が良いから、連れてきたのか」
病室軽減の都合か、こっちに代えるらしい。
人口数なら、こっちの方が多いはずだけど
治療代がまかなえるなら都合が良いに
あんな
家族に対しては思いやるところがあったのか。
人は見かけによらない側面もあるものだと、
妹は兄の死因についてよく知らないそうだ。
そんな人が奇襲を受けて亡くなったなんて言いたくない。
郷の言う通り兄の事は伏せておく事にした。
トイレに行くと言い出して自分を引っ張ってゆく。
「「妹はあの事件を詳しく知らねえ。
俺も言ってねえから、間違ってもお前が
ナイフで斬ってたなんて言うんじゃねえぞ!」」
「「分かってる、誤解を招く事はしない」」
顔面どうしぶつかるとばかり近づいて事情を押す。
こいつの言う通り、トラブルが増えるきっかけは
闇に包むように伏せておいた方が良い。
状況一致とばかし話を合わせて戻り、
そこそこの
彼女は再び部屋に戻っていった。
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