死神の讃美歌2
甘谷区で男が喫茶店の外テーブルで座っている。
タバコを吸いつつ、コーヒーを飲んで憩いに過ごす。
だからといって、隙をみせる素振りはなく
周囲の様子を360°見渡している。
特に変わった事もなく、いつもの風景のみ。
隣のテーブルには若い連中が2人いて話をしている。
意味はないものの、興味深そうに耳に入ってきた。
「「それ、マジか?」」
「「マジに決まってんだろ!?
あいつの顔が一瞬だけ紫色のネコに見えたんだ!」」
「「トラの次はネコかよ!?
なんで、俺らんとこは動物ばっかになんだ!?」」
「「分かんねえよ、よりによってこっちにもまた。
せっかく部屋を借りたってのに・・・」」
「「沫刃さんも悪魔になっちまったし。
仲間も敵もいつの間にかどこかで悪魔化して、
自衛隊の新兵器にやられちまったんだ、きっと。
俺らどうなっちまうんだ?」」
悪魔の話をしている内容に気が向く。
ここら辺で何かがいるらしく、彼らの目撃談より
タバコの灰も灰皿に落とし損ねそうになる。
「「結局、どこへ行ってもついてくんのか・・・。
俺らはやりすぎちまったんだ。
路地裏にも居場所がねえ・・・どうするよ?」」
「「しょうがねえ・・・あいつの電話やメールに出るな。
少し離れて様子を観てみようぜ」」
「・・・・・・」
若者達が店を後にする。辺りが再び静まり返っても、
男はピクリとも動かずに静止し続けていた。
ホテル内で郷はまだ1人で待機していた。
仲間に見張られるというよく分からない状況に、
自分の
俺が何かやらかした覚えもなく、敵のはずもない奴から
恨まれる事は絶対にしていないはずだが。
「「あいつ、確かに俺の方を見ていたに違いねえ。
何やってんだか・・・」」
この件を他の仲間に教えようと、スマホでメールを送る。
よくイタズラをする連中だけど、フキンシンにも度がある。
仲間がやられてるこんな時にドッキリを仕込むなんて
考えるやつはいないはず。
さすがに不安を
チンケな遊びは止めさせるよう連絡した。ところが。
「「返事こねーな」」
メールも電話にも出やしない。
反応が早く返事する連中なのに、今回は遅かった。
そういえば、さっきからやたらとシーンとしている。
このホテルは他に客がいるのかと思うくらい静かだ。
それどころか、他の部屋も全て空き部屋になっている。
ここに来る前から妙な感じもしたが、利用者が少ない。
ただの偶然か、ソッチ系の連中もどんどん消されて
借りにくる数もいなくなってるんだろう。
待っているとドアから音がした。
ガチャッ
部屋のドアが開く。
しかし、誰かが入ってくる様子がない。
凝らして見るとやっぱり誰かがいた。
この前と同じく、仲間の1人だ。
「なんだAAか、ビビらせんなよ!」
ただ、ドアの隙間で立っているだけだ。
やっぱり、こっちを覗いているだけで言葉も話さずに
気持ち悪い、ハッキリとしない仲間の態度に煮え切らず、
ドアまで近づいて問答を迫った。
「おい、あいつといい、ナンで何も言わねえんだよ!?
どうした・・・おま――!」
ブシュッ
「うわあああっ!?」
仲間の胴体が大きく裂けて赤い体液を噴き出す。
同時に倒れ込む仲間を支える手が思わず緩んでしまう。
何かに襲われたのか。
だが、斬られた瞬間、側には何もいなかった。
部屋の外を見ると、奥の通路に人がいる。
いや、正確にいうなら“人の様な姿”をした者だ。
「コイツは!?」
聖夜が沫刃さんと戦っていた時に襲ってきた
謎のロボットが刃物を手にして立っている。
今まで殺し回っていたのはこいつだったのか、
また自分の前に現れる。
勝てる相手じゃないと経験ながらに直感し、
ヒョウ型に変身ですぐに建物から飛び出した。
場所は甘谷区に移る。
空は風を放出し、少しでも異常震域を感じ取ろうと
コンクリートジャングルへ反射させるように探知。
確かに何かが潜んでいるような空間に節があると勘づく。
目で確認をしていない、風を伝わらせて感じている。
こちらを視ているような異様な気配。
いや、歪な周波を捉えて警戒態勢を指示した。
感じられたのはもちろん普通の人間ではない。
即ち悪魔。
一応、話にある死神型と呼称される存在を発見するに、
時間はさほどかからなかった。
「そこだ」
「コオオオオオオオオオオオォォォォォォォ」
声の様な音を出す。
居場所を察知されたと思われたのか、
奇妙な高音はまんべんなく肌を押すような波。
しかし、それはただの音とはいえない物に影響を及ぼす
音波なのがすぐに理解できる。
(奴から発する音で速度を下げている)
聴く瞬間、自分の身が鈍るのが分かった。
相手は姿を隠すだけでなく、標的を仕留めやすくする
多重戦法をもつ
さり気に聞いた厘香の言う悪魔の類なのだろう。
だが、やらなければならない。
援護が全てとする自分達が退いては元も子もない。
部下に対応を迫られる。
「頭ァ!?」
「御人を早く連れていけ! 俺がこいつを相手にする!」
議員を部下に任せ、自ら悪魔に挑む。
事前情報だとこれは上級悪魔に相当するらしく、
やりがいは否定しないが、結末はまだミえず。
持ちACはスフェーン。
黄緑の結晶をもち、真空刃を放出する能力をもっている。
「
持ち得物を楕円形の先端から風を斬出した。
相手は風を避ける。
通常なら避けられようのない風も、今回の悪魔は
空間ごと身体を移動させているようだ。
(空間をすり抜ける性質・・・つまり)
目が見えない他者に劣る部分を風の力で補う。
ただ、今回はそれを塞ぐような能力をもつ悪魔で
動きを鈍らせてからあの大鎌で刈り取りにくるだろう。
と、思った瞬間背後から刃が伸びる。
「くっ!」
そして避ける。
あたかも異次元から伸びてくる大鎌は早々に
かわせる攻撃ではなく、すぐ懐から攻撃される。
多角から襲う戦法に意識を回せずに対抗できない。
目に見える相手なら部下でも攻略できただろう。
全て撤退させたのは正解だったようだ。
1秒以内に刃が首元を狙ってくる。
回避して5mまで距離を開けた。
風はいつでも発生できるが反撃の手段はどうすべきか?
波と波ではただ、押し問答するのみ。
ならば、形を変えるまで。
相手に向かって扇先を縦に構え直し、
直通の
一方、郷はビル間を視界が許す限り走っている。
曲がり角、曲がり角と姿を
瞬時に判断して逃げ回っていた。
店に行くのに近道な所、お巡りから逃走しやすい所、
ありとあらゆる親しんできた通路を目に入るだけ
ショートカットに通り抜ける。
「やられるやられるやられるやられる!
ヤベエヤベエヤベエヤベエヤベエヤベエ!!」
まだカラクリ兵は追いかけてきている。
引っ搔きや咬みつきで勝てる相手じゃない。
一度大通りに出て目立たせる方法も考えたが、
自衛隊がいるので銃殺される危険も大きい。
しかも、よりによってここは細い路地ばかり続く。
自分がヒョウになったから、沫刃さんのように
きっと悪魔討伐しに襲ってきたに違いない。
(今まで調子にのってた罰か・・・こんな)
昔から自分の性格はこうだった。
楽しければ限度も省みずに色んな事をやる。
悪気を自覚してやってたわけじゃない。
楽しさに
分からなくなっていただけだ。
ただ、楽しいのは自分だけでなく周りも同じだから、
集団意識でみんなもそうだろうと乗っかっていた。
その果てがいつの間にか路地裏の行動へ着く。
「ぐっ、行き止まりかよォ!」
壁に背中を接したと同時にスタミナが切れ、
強制的に人間の姿に戻ってしまう。
ヒョウといえど、無限に走り続ける事はできない。
追い詰められてもなお、ピンク色のロボットの持つ
日本刀の刃はそのまま自分の方向に伸びてくる。
避ける余力もなく命の終わりを悟らせた。
「チクショオオオォォォ!!」
ズブッ
「オオア″オ″オ″ォォォコオオオオォォォ!」
「えっ!?」
刺さったのは自分ではなく、背後にいた者。
いや、黒いローブをまとった人型の悪魔だった。
大鎌と共に地面に金属音と弾力音が鳴る。
どちらにも劣らない叫び声を
「なんだよ、コイツ・・・死神!?」
としか言いようのない姿が自分の背中に
知れずにピッタリと張り付いていた。
いつから後ろにいた?
馬鹿の自分でも大鎌を持つドクロなど、
西洋の伝説にいるOTA仲間から知らされている。
武器の形からして、仲間達を襲ったのはこれだろう。
この刀を持つロボットも目当てじゃない勘違いと気付く。
つまり、カラクリ兵は始めから死神型を討伐しに
自分につきまとっていた者を斬ろうとした。
「あんた、誰なんだ・・・!?」
意識する間もなく質問言を放つ。
人か機械かすら分からないが、せめて聞こうとする。
が、謎の機体はまた去ってゆく。
ACみたいな結晶が見つからないが、悪魔の体は
溶けた様に沈んで見えなくなる。
とにかく自分は標的じゃないようで無事助かる。
突然やってきた2つの異形は訳も分からずに
お互いに削り合って再び姿を消していった。
「「なにがなんなんだか・・・?」」
一方で繫華街の空も異空間に
風の軌道は音を切り裂き、悪魔の身体を通って
有機物のような塊を
確かに、上級悪魔と呼称されるだけあって
一筋縄ではいかない巧妙さと手強さがあった。
夜間を通して晃京中で退治し続けてきたが、
最近になってからずいぶんと悪魔も強力なモノが
多く現れているような感じがする。
(奴らの狙いは何なんだ?)
根源と思わしき都庁は相も変わらず沈着のままに
悪魔を放出してそびえ立つままだ。
晃京の象徴を固められた中で誰が何をしているのか。
都庁の結晶体を見上げていた時だった。
ガシャン
「・・・・・・」
機械的な無機質音が聴こえる。
淡い桃色の人型が6m先より目前に降り立つ。
自分は静かにカラクリ兵と対峙した。
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