第41話  死神の讃美歌1

2012年3月26日


 都心部にあるチーマー達が甘谷区に集まって

ポチ公前の広場で人目もはばからずに会談している。

郷もそこにいる1人ではあるが、

集いは大した人数でなくわずか6人。

互いに向き合う顔もやつれ交じりに不安そうなもので、

話の内容もいつもの馬鹿話ではなく、

自身の枠組みに存続かかるようなものであった。


「またやられた? 誰がだ!?」

「4人もやられた・・・◎◎と××。

 そして、たったさっき△△、□□も」


最近になってから仲間が次々と斬られて殺害されていた。

被害に遭ったのはいずれも路地裏などで、

大通りに面していない場所。

目立ちにくい所ばかりで、相手も多人数でけしかけに

やってきたわけでもない。

しかし、刃物といってもやからが持ち歩くような代物とは

大きく違うと思うもので、イキる連中がふるえるような

それとは思えない傷口。

刃渡り1mを越すくらいの長さで、

日本刀にしても幅が全然違う、もっと太い形だ。

奇襲をかけられたなら必ず相手の顔だけは覚えておく

仲間ですら誰に襲われたのか正体不明。

報復しようもなく、やり場もない突っ立ったままの状況だ。

生き残った仲間の1人が一瞬だけながら、状況を話す。


「あっという間だった・・・あいつと一緒に街路へ

 出ようとしたら、いきなり首が飛んできて」

「イタズラと思ったけど、マジ●●の頭だったんだよ。

 わけわかんなくて、手が震えたわ・・・」

「ポン刀でもねえなんて、どこのモンだ?

 3か月前にカチコミかけた隣県の奴らか?」

「違うだろうよ、そん時は周りに誰もいなかったはずだ」

「多分、停電が起きた時からだ。

 最初は隣地区の奴らがケンカを売りにきてたけど、

 暗がりん中で雰囲気がおかしくなっていた。

 なんか、途中から流れが変わっていたみてえで」

「流れ?」

「何て言えば良いのか分かんねえんだ。

 俺らも奴らも血が飛び散りだして、

 いつの間にかみんなやられてた。

 闇討ちにしても明かりもねえんじゃ来れない。

 手口からして奴らじゃない、まったく関係ねえ奴にだ」


傷口からして斬られたのは確かだけど、

相手はナイフの類も武器も持っていなかった。

都内にいる敵対チームの仕業か?

と言いたいところだが、奴らも同じようにやられて

そもそも奇襲をかけた敵すら見えていなかったという。

時刻もちょうど夕方頃。

日が落ちかけた辺りからにごるような路地裏の中で

人という人がバラにされていた。

時間帯から悪魔の仕業もあるが、姿が見えずに証拠がない。

夜になるまでいなかった奴がイキナリ出たかもしれないが、

今までそんなものが現れなかったから、

やり返すチャンスもなく集まってただしのぐだけ。


「これじゃ、メンツ丸潰れだぜ。

 △△もせっかく入って馴染ナジんできたってのに・・・」

「潰されてんのは俺らだけじゃねえってよ。

 年上でソッチ系のOBから聞いたけど、

 ここ数か月で大半消えちまったって。

「ある程度片付けたから標的を変えて

 こっちも狙ってきたのか、クソが!」

「なんも見えねえんじゃ、殴り倒す事もできやしねえ。

 このままじゃ俺らも・・・どうするよ?」

「姿見えねえんじゃ、やり返せねえじゃん!

 相手も分からねえんじゃ、ラチあかねえし・・・」


自分の体1つと仲間の加わりで今までやってこれた。

だが、拳も武器も効かない相手の登場で少しずつ消され、

また似た連中も同じように血しぶきを飛ばされている。

打つ手なし。

だからといって、いつまでも突っ立ったままではダメ。

自分は機転を利かせて場所を変える手を思いつく。


「目を付けられてんなら、こっちも姿を消しゃあ良い。

 居場所知られてんじゃ、いつもの集会所は危ねえ。

 おい、一旦こっから出ようぜ!」


皆に集合場所を違う所に代える提案をだす。

チームは人目に付きにくい住処を探す事になった。



 一方でSP達が職務で2人の議員を警護。

先導していた空の率いる天藍会は甘谷区を巡礼中に

突然空気が緊迫する奇襲が起こった。

最初に事件は空と別動隊の者達が襲われたのだが、

相手がはっきりと分からずに場は散開。

内の1人だけが何かを目にしたようで、

被害を受けながらなけなしの情報を教えてくれた。

息の根が細く、形容しようのない当時の状況を

わずかな記憶力で自分達に語る。


「「ドクロが見えたんです・・・突然、渦が起きて

  黒い刃物で・・・仲間を」」


攻撃を受けた男が少しながら姿を目撃していた。

空間内部からしゃれこうべが顔を出し、

大きな刃物でガード役の腕を越えて胴体に斬り付け、

すぐに姿を消したと言う。押し問答の得意な部下達も

目視できない相手にはどうにもできなかった。

被害を受けた男は横たわり、次第に声が細くなる中で

最後の言い分を自分に放つ。


「「すんません、何もできなかったですゎ。

  頭ぁ・・・後は頼みます」」


襲われた構成員はここで息を引き取る。

普段はいかついなりな者であろうと、

普通である人の体に大きな差はない。


「そうだな・・・ようやく自分の出番が来たという事だ」


形無き相手には形無き風。

ようやく、という意味は異色さを改めて張らせる

気概きがいを含めてのもの。

ただ、異能の働きを奮うのに今回ばかりは一時遅かった。

ようやく遅く到着した救急車もむなしく、

事切れた者の運搬にサイレン音を響かせるのみだった。



 景色はわり、郷のチーマー一行は

メンバー達で金を出し合い、さびれた格安ホテルで

数日間泊まろうと場所を移した。

とにかく室内なら外から見つけられず、目くらましには

使えて誰だろうと来られずに安全だと思う。

一部屋だが、安全なのは多少の囲いのある所が好都合で、

人目に付きにくいのにうってつけだ。


「ここはびじねすホテルよりも安いとこだ。

 ちょっと雨宿りすんにも身バレしねえし、よく使えるぜ。

 少なくとも、トウキョウで一番なんだと」

「家出用でよく使われてんだっけか。

 上には上だけど、そういった逆もあるもんだな」


頭がどんなに悪くても安全圏は死にもの狂いで考える。

費用は痛いが、路地裏と比べればよっぽど絡まれにくい。

自宅は危険。

かつて、敵対チームから家まで押しかけられた仲間もいて、

みすみす帰るわけにはいかなかった。

親には適当に泊まるとだけ言っておく。

どうせ、ほっとかれているから反応はどうでも良い。

皆も色々と訳ありで、細い明日のために凌げる居場所を

独自に探している。

それはともかく、死なないのが先決で次をどうするか。

イスやベッドに座って今後について

足りない頭で色々と話し合う。


「まったく、こんな目にっちまうなんてな。

 息苦しさが倍になった気分だぜ」

「だいたい、悪魔ってなんなんだ?

 なんで晃京を狙って俺らんとこだけ襲ってくんだ?

 トチョーが占領されて何か月経っても、

 一向に変わりゃしねえじゃねえか」

「俺の学園に頼もしいやつらがいんだよ。

 そいつらがなんとかしてくれるから平気だ」

「そういや、お前学生だもんな。

 若い奴の救世主伝説でもつくろうってか?」

「んな大袈裟おおげさなタテマエじゃねーって。

 この晃京をなんとかできる素質があるってよ!

 まだきたえてる段階で完璧じゃねえけど、

 いつか解決するって信じてんだ」

「マジか、人間で相手できる奴がいるもんだな!」

「まあ、盾になってくれんなら誰だって良いけどよ。

 沫刃さんならどうにかできたんだろうな」

(やべっ)


そんな英雄も、去年に元リーダーと関わってしまう。

自分は別の話題へ変えようとする。


「あ、そういえば、あっちの病院も何人か晃京の方に

 移ってくるらしいぞ。

 あの人の妹さんもこっちに来るって話が」

「埼王からか」


ただ、これはならず者が関わるからあまり公にできない。

多少の前科をもつメンバーもいる。

ただでさえ聖夜と沫刃さんをカチ合わせてしまったから、

この事はあいつや女連中にも言えない。

だから、今回ばかりは自分達だけで解決しようと決めた。


(まあ、確かに今までならすぐ誰かを頼ったんだろうが。

 今の俺は違う、前の俺とは)


一般人よりかは晃京というジャングルを知りえているから、

同じく悪魔化できる自分の力を活かしたい。

トラにはなれないが、ヒョウにはなれる。

体をまるごと張った沫刃さんほど強くはないが、

地理を活かす力なら誰にも負けるつもりはない。

いつも、ろくな方法ばかりしか使っていなかったけど、

今回ばかりは仲間のために助け合おうと心に決める。

とりあえず、最小限の生活品だけ買い込んで

身の安全だけを優先して暮らそうと囲うように

居場所を保とうとした。


「買い物行ってくるわ、郷は留守番頼むぜ」

おうっ」


チェックインをしてから数時間経つ。

活動の方針を決めてからそれぞれの行動を初めて

買い出しで数人ホテルから出ていき、

流れで客が来るはずもないのに自分だけ部屋番をする。

しかし、3時間経ってもまだ帰ってこない。


「「おせえな・・・」」


仲間は寄り道ばかりする性格も多いけど、

こんな時くらいはスムーズに動いてほしい。

ヒョウ型の速さに慣れた自分も時差感のせいであるかも。

特にやる事もないから、部屋にあったマイクで

1人カラオケでもおっぱじめようかと思った時、

立ち上がった位置から外に人がいるのに気が付く。


「ん!?」


ベランダの所に誰かいる。

本人は気付かれないように隠れているつもりだが、

ヒョウの視力をもつ自分にとって余裕に詳しく

奥まで確認できる。ダテにのぞきをしていただけあって

そこにいるのが誰なのか一発で分かった。




(あいつ、☆☆か?)


メンバーの1人が窓からのぞいていた。

視線の向きから明らかに自分を見ている。

さっきまでは普通に部屋にいたのに、何を考えてるのか

自分に用があるのかと思いきや、

何もせずにジッとしているだけだ。


「☆☆、そこで何やってんだ?」

「・・・・・・」


声を出して呼びかけるも、無反応。

確か連れと一緒に買い物にいってるはずだ。

しかし、何も言わずに走り去っていく。

足音も立てずにベランダ脇のドアから外に出ていった。

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