第40話 天竺晶
2012年3月19日
「それは本当だな?」
「本当だ、ウソじゃない・・・もら、もらったんだ」
警察署内、取調室で木下が刑事に応答する。
変電所で細工していた黄色のACの力でヘヴンズツリーに
送電していた事を
何者かの手で直にわたされた形跡が
男の供述で明らかになった
「あの黄色い結晶を譲り受けたと?」
「フードを被った奴にもらった・・・声からして女だ。」
譲り受けた物は文明へ有効性のある
人工的にも大きな影響を及ぼす結晶だと供述。
トルマリン、電気をもつ性質をもつAC。
和名:電気石とよばれる結晶は熱を溜めると帯電する。
また、吸光型偏光子の性質ももっていて
偏波の効果を利用した新技術開発の実験を試みようとした。
「私は・・・新たなタイプの開発を上から迫られていた。
そしてある日、ローブをまとった者と出会って
結晶から新エネルギーを
磁場、電場の振動を放熱から無線化したくって、
相手の持ち出した規格がかつてない技術レベルで
小型化としても20年先をいくぐらいのものだった」
「それで変圧器盤に結晶を仕込み、
避雷器から送電していたんだな。
基本原理を読ませず、上層部にすら隠蔽工作してまで
実験を公式内で行っていた。ただ、己の昇進のために」
「私だって最初は怪しいと思っていた。
でも、差し出された結晶体は画期的な性能で、
実際に無線充電としてパフォーマンスは最高峰だった。
代替として、一定電力をよこすようにと。
だから・・・仕方なく」
「出世のためだけがお前の動機か。
それで何千万の都民が苦しんだと思ってる!?
病院も生命維持装置、呼吸器など機能停止で
30人も死んだんだぞ!」
「イヒヒィン!
ワタシだってクビが、人生がかかっている!
なにがなんでも安定した立場が必要なんだ!
上下に挟まれる中堅社員の苦しさなど理解できまい!
誰にも出し抜けられない結果。
偉大な発明をして人生を変えた成功者達のように
出世、しゅっせしたかっただけなんだあああァァ!」
刑事が机を叩いて男が跳びはねる。
勝吉郎自身は手柄欲しさに急ぎ、
新技術に尻尾を振ってデモンストレーションとして
結晶を用いた無線充電器の実験を会社に無許可で決行。
電気譲与と、条件がてら利用されていたのであった。
「という話だったの。
加担したのは女らしき人物からによるもの。
社員の単独のみの動機じゃなかった」
科警研で主任の説明に代わる。
実行した会社員もただの
オリハルコンオーダーズ絡みなのは分かっていたが、
電力を盗み取りする理由が不明。
企みも悪魔の仕業からどんどん離れているように思える。
「なんで、電気を利用してたんですか?」
「オリハルコンオーダーズはヘヴンズツリーに
エネルギーを供給していた可能性があるのは
確かみたいね。だけど、塔内部には電気をどこで
活かすのか不明なの。地下設備もバッテリーの様に
溜めるだけで利用回路は放送や非常時のみ」
「あそこですか?」
ヘヴンズツリー、先でサソリ型と交戦した場所で
出現した根源は展望台のさらに上だという。
そこの悪魔を退治したにもかかわらず、
出元のACが不明なままだったのは
このためだと推測したらしい。
電波塔で直接送電しようものならすぐに見つかって
御用になるから、近場の変電所を周回して
回りくどく実験していたのだ。
「なんで、電波塔までわざわざ電気を?」
「あの男は利用されてエネルギーを都庁に
運用しようとした可能性がある。
でも、トルマリンは変電設備に仕込んであった。
一ヶ所の挿入だけでは大した量は送れない。
他の施設には何も取り付けられてはいなかった」
「というと?」
「ヘヴンズツリーにまだACがある。
受容体となる受け皿が別に残っているはずよ」
数ヶ所でACを使い回しするのは根拠があった。
疑惑の場所をすでに絞り出してある。
ヘヴンズツリーの頂上部にある一部のランプの光が
怪しげな色合いを放っている報告が入っていた。
「てっぺんのランプに何かが?」
「光の色自体は前からすでに目撃されていたけど、
ただのパフォーマンスだと疑う者が少なかったわ」
「怪しげな色、という事はまだ悪魔が!?」
「悪魔出現の報告はないわね。
あんた達がサソリ型を討伐してから見たという情報は
あれから一切入ってない」
仕組みはよく分からなかったが、
会社員の施しの残りがそこにあるらしい。
まるで、遠回しに間隔を開けられた感覚がする。
というわけで、自分達一行はまた晃京一の天空所、
ヘヴンズツリーに再び出向いて回収にいく。
今回は武田陸将補はおらず、
鉄塔技術者と共に例のACを取り外そうとした。
「これですね」
「これが受け皿?」
「電波塔とは仕様の異なるパーツがすり替えられて
装着してあります。
誰が何のために入れたのか用途不明で、
結晶構造と装着箇所、発光理由も定かではありません」
道中の経過を省略して技術者が外に出て取ってくる。
ランプの中にあるLEDチップが1つだけ
すり替えたように交換されて入っていた。
名はマリアライト。
薄紫色のACがゲイン塔にひっそりとアンテナ端子に
収まるように装着されていた。
頂点に備えられた聖母の結晶はまさに
近代文明と融合されられたかの様に点在。
何故、光らせていたのかと聞くと、
主任は電気エネルギーを都庁に転用するための
運営装置だと推測する。
「つまり、高い所から邪魔されないように送電して
あの結晶のサポートに使ってたんですか」
「P~N型半導体どうしの正孔と電子を衝突させて
エネルギーを放出するけど、都庁への指向性が
あるのかまできちんと判明してないわ。
以前ここで討伐したサソリ型も、
これを守るために配置された可能性があるわね」
「重要とみなした場所には悪魔を配置か。
自分からは姿も見せないクセに肩代わりを・・・」
「顔が割れるような真似をすれば、こんな手の込んだ
仕込みを施すはずがないわ。
まあ、今回は堂々巡りで見つけやすい
おそらく、あんたも狙われる危険性もあるから
十分に警戒なさい」
「とうに了解です・・・ところで、これは何に?」
「もちろん、あんたが持ってなさい。
加工改良できない種類は悪魔も従うに足る、
最適性者が持っているべきよ」
主任は今回も武器化の見込みがない質だという。
これは何の性質をもっているのか分からず、
とりあえず懐に収めた。
ただ、カマキリ型討伐から電気というワードが
どこかしら引っ掛かるような感じがした。
以前、マナがヘヴンズツリーで言っていた歴史からして
このマリアライトも共通点があるような気がする。
(雷、フードを被った女・・・)
木下が供述した被り物をした女の件について
まだ落着していない。
ここ晃京で衣装めいた服装をしてるといったら、
まっさきに教会と天藍会が思い浮かぶ。
天藍会は頭に被っている物はなかったはず。
だから、教会の方に気掛かりをよせた。
しかし、携帯が繋がらない。
まだ充電していないのか、不在着信ばかりの表示。
そこで直接教会を訪れて詳細を聞いてみようとした。
数十分後、アヴィリオス教会に着く。
扉を開けるといつもより静かな空気になっていた。
「ごめんください、マナいますか?」
「聖夜君・・・」
「ロザリアさん?」
ロザリアさんと数人のシスター達が聖堂端の片隅で
深刻そうな顔をして集まっている。
雰囲気から、良くないイメージだと直感できる。
何かあったのかと伺うと、彼女の供述は
自分の耳を二度聞きさせるようなものだった。
「マナとジネヴラさんが・・・いなくなった?」
2人の消息が途絶えてしまう。
姉妹は
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