電気石2

「「というわけで、聖夜君はしばらく夜間探索で

  見回りしてもらおうかしら」」

「よ、夜ですか・・・」


 自分は主任に暗き時の警備を命じられる。

危険度の増す本格的な夜の巡回を行う事になった。

公安の指示で一応法的に学生の見回りは通れたものの、

特殊工作班という公式でもないグループが

どこまで通用できるのか今更曇りがちになる。

姉も反対せず、容認してくれている。

元からカロリーナも遅くまで回っているから、

夜の旅もできずに何が勇者かと、

大人寸前の行動をする事にした。

ちなみに3人はまた別の任務があり、

行動をとらせまいと

別行動をとらせられた。

なんだか、いぶかしい風に思われてる気もするが、

警官も配置が決まっているので、

全てのエリアを自由に動けないらしい。

自衛隊は主に都庁周辺くらいしか張り込みしない。

電車も満足に動かせず、悪魔が複数飛び交う

闇夜を歩こうなんて無謀むぼう

で、もう1人。

夜遊びが得意な男にも頼もうとした。


「停電を起こした犯人探しに付き合えだとぉ!?」

「1人じゃ心細いんだ、頼む!」


どうせヒマなんだからと、一緒に行こうと誘う。

それに、移動に関しては郷を連れてくれば好都合だ。

1~2kmのちょっとした行き来とかで、

こいつに乗って移動もできる。

バイクは十中八九じゅっちゅうはっく捕まるし、

また事故るだろうから人目を忍んでいけば良い。

ただし、今回は警官との行動もある。

やたらと悪魔に変身させるわけにもいかないけど、

主任はすでに知っているので罰則は免れると思うが、

見知らぬ警官とかに多分撃たれるだろう。

合間を見計らって動物の目線で探したほうが

速く見つけられると考えたのだ。

主任の方は電力会社と連携して、一部の電力を

街中に送らせて異変察知に注力するらしい。

現場哨戒しょうかいは野探しに長けた男。

あくまでも悪魔路線を優先しろとばかりに、

数に交えさせた。


「君が聖夜君だね?

 我々が合同する、そっちの子は?」

「自分の補佐です、こいつもACに覚えがありまして」

「三ノ宮す・・・よ、よろしくっす。デシッ!」

「君、交通課で見かけたような気もするが、大丈夫か?」

「もちろんっすよ、人にはないトリエもってますんで。

 邪魔しないよう頑張りますからウヒヒ」

「・・・・・・」


自分はしれっとほおく。

深くは語らないけど、色々と世話になっているのだろう。

夜行性の能力をもつとだけ警察に言っておく。

事実、本人の性格がそうなんだから間違いはない。

こうして、男数人のアマチュアとプロの交じる

異質の捜索隊は黒い背景の世界を歩いていき、

人の世界に介入する異変を探しに向かった。



 数分後、1区に着いて変電所を見回る。

この施設で近所の家などに電気を送っている。

ここは金網フェンスで囲まれている設備で、

普通にドアに鍵がかけられて普通は入れないが、

防犯性能としてはあまり施されていない。

他の地区も同じ構造だから、外見ですぐに分かる。

見たところ、破壊はおろか荒らされた形跡もなく

設置してあるだけだ。


断路器だんろき、異常なし」

遮断器しゃだんき、異常はありません!」


よく分からない機器も点検して異常もないと印付け。

どこにも悪魔が潜入する様子は見られずに、

ただの従業員と同じ働きをするだけだ。



 そして、4区目を回る。

同様に中に入った途端、警官に通信が入る。


「「こちら工西班、a-02エリアで発光体を確認。

  至急、応援を要請する」」

「了解、確認に向かう」


3区先で何かが現れたようだ。

郷は活躍したいとばかり、先立って観に行くと言う。


「こっからあそこまで14kmだっけな。

 俺なら数分で行けるわ、先に特定してやるよ!」

「分かった、気を付けろよ」


警察の目でとどかない所でヒョウ型に変身。

さっそくムダのない探索に、警官達も感心の顔。

すぐに見つかるだろうと吉報を胸にする。

打って変わり、カロリーナから通信がきた。ビックリした。


「「昼行性君、元気ー?」」

「コラッ、イキナリかけるなよ。こっちは仕事中だ」

「「知ってるわよ、休憩中だから何やってるのかなって

  郷もいるんでしょ?」」

「あいつも今、ここから離れたばかりだ。

 でできれば、後1人くらいはこっちに来てほしいな」

「「ほ~ら、やっぱり慣れてないじゃない。

  あたしが行くからGPSで確認したいんだけど、

  今アプリ切ってるでしょ?」」

「オンにする・・・あっ!?」


姉や主任に内緒でゲーセンに行った時のGPS機能を

消したままにしていたのを忘れる。

携帯の電源が10分の1まで減っていた。

すっかり充電するのを忘れていたので、

スマホの電源も残りわずか。

他のメンバー達との連携も断たれようとした。



 一方で聖夜と離脱した郷はヒョウに変身して

どこか高い所から見下ろせる場所を探した。

この辺りにも変電所があるとネットで調べて、

適当にそれらしい所まで来る。

自分は誰よりも高所の移動に長けているので、

人気のなさそうな木の上で周囲の様子を観察する。

すぐに変電設備を発見。

視野を狭めると小さな明かりも見えた。


(ん、誰かいるな?)


背広を着た男が1人だけで機材をいじっている。

ヒョウの状態なら、闇でも普通に見渡せて

昼間と同じように景色をうかがえた。

しかし、何故か警官や自衛隊もいない。

そこに限っていないのを不審に思って観察していると、

突然まぶしい光が上から迫ってきた。


「んだぁ、コイツは!?」


鋭そうな鎌の様な刃を振り下ろしてきた。

光というよりは雷。

目撃した拍子で木から落下。

ヤバいと直感した自分は死ぬ気で逃走。

民家の庭やわずかな隙間を駆け抜ける。


(来るな・・・くるんじゃねえよ!)


放置された土管の中に隠れて潜める。

相手はジグザグ移動しているのか、

細かい箇所まで探りにくる様子はない。

高速の悪魔から無事に逃げ去る事に成功した。



 マーガレットはX線でACの反応による

発光体の動向を見逃さずに捉えていた。

A-08に郷のGPSが異様な方向に動き始めている事に

不審を抱いて追うように注目していたが、

同時に近場の変電所から奇怪な放電現象も発見。

そこで撮影したある変圧器に異変が生じている。

隣接する避雷器に向かって電気が逆流してゆくのが見えた。


(保護役の避雷器から?)


雷から守るはずの機器から雷が流れてゆく現象を

疑いようにないと目の当たりにした。

今日は雨どころか、雲1つもない。

何者かが放電させていたのは理解できていたが、

発光体とACの現在位置が離れすぎていて

特定に踏み入れ込めずにいた。


(星もあたしらがX線を利用していると知っている?

 悪魔とACを引き離せる超遠距離型?)


画像解析により、光の中に生物らしき塊が見られた。

普通今までなら、ACと悪魔は近しい所にあるはず。

結晶から外に出ようものなら活動限界が訪れる。

だが、発光体の移動から数kmまで動ける軌道に、

警官だけで追いつけられる数はそろっていない。

飛行機は当然、ヘリも夜間は中止。

次第に巧妙化する手口に解決までに至りそうな策は

こちらが遠ざかりそうになる。

武田から連絡がきた。


「「主任、特定はできたか?」」

「できないわよ、該当悪魔の行動範囲が広すぎる。

 それより、あんたらヘヴンズツリーにいるけど

 なんで来られないのよ?」

「「行けなかったんだ。

  都心の悪魔対処もそうだが、俺達は主に

  広さのある公共近辺しか常駐できない。

  民家、住宅街は自衛隊の介入が許されないんだ」」

「じゃあ、なんで警察の周波数にコール入れたのよ?

 すでに悪魔の出現で交戦がてら、

 こっちの応援が欲しくて移動させたんでしょ?」

「「移動させた? どこにだ?」」

「A-02変電所よ。

 単信通信でこっちによこしたじゃない?」

「「A-02エリア? コールした覚えはないが?」」

「出してない?」


自衛隊と警察間の見解がおかしい点に疑問が浮かぶ。

黒田区に常駐していた自衛隊が報告してきた

発光体による出現エリアの位置がズレていた。

実は郷は要請場所と異なる変電所に向かっていて、

たまたまそこで検出された発生した光が

08から突然02に移動を始めている。

しかし、破壊工作どころか傷も何も付けずに

設備から放電させるなんて悪魔の所業には想定できない。

異界の者が電気を操って何のメリットが?

ACを操っているのはあくまでも人間。

俳優(?)の藤和以来、似た能力をもつ者はいない。

リビアングラスでも、急速な遠距離移動など

人間にはこなせられないと推理する。

ならば、郷の向かった変電所に真実があるのではと

事実に気が付いた自分は何者かが偽情報を送り込み、

星から遠ざける策略と急回転させた。


「A-02はガセよ!

 A-08変電所にACがある!

 緊急要請、黒田区に指定したポイントに集合!」



 聖夜達は問題が起きたという工西区に着く。

A-02の変電所の外周に足を踏む。

15000㎡くらいの敷地で、住宅街の間に

他と変わりなくひっそりと設置されていた。


「ここだ、異変が起きたのはまだ数分前だ。

 まだどこかにいるはず。探し出すぞ!」

「はい!」


金網柵のドアのカギを開けて入る。

複数の鉄筒の間をライトで照らす、人はいない。

実際に人だけなら、自分の出番はないように思うけど、

どういうわけか胸騒ぎも起こる。

3人はおろか、郷とも連絡がつかずに

携帯も、もう電源が切れているので通信を取り合う

機会が少なく、会いに行く暇がなかった。

1人の警官が無線に連絡があると言う。


「科警研から連絡?」

「主任からですか?」


何故か、また別の変電所に行けというらしい。

しかし、せっかく来たのに調べずに終えるのも職務怠慢。

一行は続行で直方体の機材の間をゆっくりと歩く。

警察も誰かがいるんじゃないかと、プロの嗅覚を利かせて

当たりの方向へ辿らせてゆく。


「悪魔だ!」

「あれは・・・虫!?」


黄色の雷をまとったカマキリ型がいた。

発光体の正体はやはり悪魔のようで、

警官も応戦して銀の弾を射出するが、

回避されて被弾も望む効果が現れなかった。


「銃弾が効かない! 当たっても反応が薄い!

 おい工作班!」

「直にやってみます!」


警官にはない接近戦はすでに自分のポジションとして

フェンシングの騎士を披露ひろうさせる。

彼らも通常と異なる銀の弾丸で悪魔と対抗を

試みて討伐していたのだが。

が、速い。

今回の敵は飛び道具すらまっとうに当てにくい

飛行型の類であった。


「オウウェア!?」

「巡査ァ!?」


警官が1人斬られる。

あまりグズグズしているとメンバーがやられてしまう。

活発なモーションをするのなら衰弱化ならば。

ラーナなら、すぐに挙動が弱まると攻撃した。

だが、カマキリ型は変わらずに活動している。

青の一閃は黄色の蛇行線に阻まれているようだ。


(ラーナはダメか・・・)


動きが素早く、帯電の力で呪いの侵食が効率よく

進んでいかなかった。

思えば、マナの盾も雷で防いでいたのを思い出す。

ラーナの効果は時間を要する性能で

高速に移動する悪魔には効きにくい。

リビアングラスの移動も対等で、相手もこちらの位置を

確実に捉えて見ているのが分かる。

瞬間移動の終わり時にグリーンフローライトで

やっとやっとに細かな攻撃と回避ができるだけだ。

だが、縦斬りを読まれたのか。

かわされて一瞬で懐に潜り込まれた。


「ピエトラを使いなさい!」

「カロリーナ!?」


間一髪、石の刃で雷を防いだ。

彼女の言葉がいつの間にか挙動に表れてゆく。

以心伝心とばかり、考えを省略して身体に伝わらせた。

さらに応援が100人来た。

警察のメンツを賭けているのか、逃がさないとばかり

結晶の如く包囲。

活を戻した自分もいつもより腰のキレを利かせて

残像を見せていた羽が硬直して鈍ってゆく。

石化は確実にカマキリ型の自由を奪っていた。


(斬撃はピエトラだと少し足りない。

 こいつも生物型だから、毒で追撃できるか)


石の隙間から閃光を放出して離脱しようとする。

ここでクラーレを使って斬る。

生物型だから念のために毒性で弱らせる。

そして、ピエトラで胴の中心へトドメの一突き。

石剣なら感電せずに斬れるので、やりすごせた。

でも、少し危なかった。

耐性を付けていなかったら感電死していただろう。

助っ人の助言に助けられた。

いや、いつも助けられている。

剣の腕前以上に、守りで覆われていたのだ。



 一方で、マーガレットは黒田区に到着。

都庁から出現したタイプではなく、何かしらのACから

い出てきたと読む。

ならば、召喚させた仕掛け人が現場に来ている線を

ふまえて探すと。


「誰かいるぞ!」

「くそっ!」


装置の空洞になっている所でうずくまって隠れていた

男は急に跳び出して逃走を図る。

が、完全な包囲で取り押さえられた。


「待ってくれ、私はただの社員だ!」

「アンタ、こんな時間にここで何をしていたの?」

「わたしが、電気、送ったのは供給のため、で

 都民の、安全、カンガエて、照らそう、と」


マーガレットは変電設備をチェックすると、

人のいる施設に電気がまったく送られていない事に気付く。


「住宅地、外灯へとどいていないんだけど?」

「わたしもいまきたとこで、これからやろうと――!」

「ヘヴンズツリーへ先に供給してるのに?

 オイルポンプの予備電源機能がある向こうで

 都民をすっぽかして、何してんの?」

「これ、これっこれこれコレはあああ!!」


あっさりと噓がバレ、どもる男はタジタジになって

言い訳しようとするも通じず。

数人の警察官ににらまれ、説明ができなくなった。


「言い分は署で聞こうか」

「わたし、むかんけい、結晶とは、けしょしょ、

 ケェショオオオゥ!」


聞いてもいないのに結晶というワードを滑らせる。

泡吹く口に、仕掛け人はこの男だと確信。

哨戒を解くよう、警視総監に連絡した。


「こちらマーガレット、星を発見。

 逮捕に踏み切りました」

「「よくやってくれた」」


両腕をつかまれても、まだ暴れて否定する。

認める様子もなく、意味不明な発言を繰り返すだけだ。


「シロツメクサトラレタァ!」

「さっさと入れ!」


どんな言い訳も通用できずに、

周囲の警官達の視線もかえりみずに、

なけなしの身体エネルギーで

木下はパトカー車内へ押し込められていった。


「あの人、何をしたかったんだ?」

「・・・・・・」

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