第39話  電気石1

自然界において結晶とは地下深くに埋もれる逸物。

掘り起こすのは確実に人のみで価値に理解を示し、

利と生活を促す事であろう。

古来からは象徴として展示するだけであったが、

凝縮とは時に想像もつかない性質を宿すことがある。

もし、文明の中に組み込んで混ぜたとすれば?

賢明な者にのみ真実と真意が読み取れるのかもしれない。


2012年3月15日


 話は弥生やよいの中旬になる頃。

夜明けも早くなり、悪魔の消失も早まりつつ変わる。

晃京の夜は相変わらず物騒だけど、

都民達もおいそれに立ち往生してるわけでなく、

それぞれ無事に生活できる手立てを施していた。


「というわけで、仕入れ先の人が現地人しか知らない

 道を利用してこんなに持ってきてくれたの!」

「は~、大したもんだ」


姉はすでに裏ルートを介して物資を運ぶ術を

商品を作っている業者と連携していた。

バリケード設置する道路以外でも空いてる道はあり、

農道や山林に通じる獣道けものみちから入る。

時たま悪魔が通る場合もあるけど夜は通行せず、

昼間に運搬するのでほとんど遭遇する機会がなかった。

しかし、ACの占拠を起こした者は別。

剣を懐に忍ばせて生活しなければならないのだけど、

それはさておいて自分達の生活を保たせる事も

また必要不可欠である。


「これで我が黄昏も安泰。

 封鎖なんかめげずにやっていくわよお!」

合点承知がってんしょうちの助!」


そして、営業の手伝いも欠かさずにやる。

同級生を含めた客もそこそこ出入りして

経営は優勢気味に進めてゆく。

今日は挽回した勢いに店の手伝いで終始。

気が付けばもう午後10時を過ぎていた。


「最後の客もさっきで終わりだ。

 今日はこれくらいでお開きか?」

「そうね、閉店にしましょう」


晃京といっても、世日山区は都心部と違って

夜中まで多く訪れる事がない。

人入りの割合的予測で姉も頃合いと判断。

店仕舞いと、入口に鍵をかけようとした時。


「あっ?」

「停電よ」


全て真っ暗になってしまった。

営業中に消えなかったのは幸いで、

余計なトラブルを起こさずに済んだ。

ACの輝きを利用してもイマイチなので、

電灯を持ってきてブレーカーを上げてみたが。




「ブレーカー上げても付かない!」

「ええっ!?」


どういうわけか、電気がまったく付かなかった。

過剰消費していたわけでもないのに、無反応。

電線そのものが出元から断たれてしまったようだ。

スマホで情報を検索すると停電はこの家だけに限らず、

20、21、22、そして全23区と国内で

最も明るい地域がブラックホールに包まれてしまう。

晃京一帯は全て闇に包まれる。

インターネット上で多くのやりとりが交わされてゆく。


――――――――――――――――――――――――

「ほぼ全区間が止まったって」

「マジか、電車も一時停止で再開しようにないぜ?」

「サーバーは予備電源で動いているのでやっとだ。

 ソーラーシステムもいつまでもつか」

「都心はすげえパニくってる。

 繫華街も荒れてるから行くなよ」

「これからお風呂に入ろうとしたのに~」

「1時間経っても、まだ付かねえええええええ」

――――――――――――――――――――――――


情報提供の連携は電子空間によるサーバーのみ。

街路周辺もパニックにおちいり、

交通機関の麻痺まひで都民達の流れは

一瞬にして足を止めさせた。



 某所にある施設。

数人の電力会社員が大声を出さずに変電所に集まっている。

独自に頭から発するライトの光を頼りに、

機材のカバーを外して専用ヒューズに手をかける。

内の1人晃京電力会社の社員、木下勝吉郎きのしたしょうきちろう

懐から取り出した結晶を部下にわたして告げた。


「本部長、本当にやるんですか・・・?」

「構わん、やれ」


部下が変電設備の1つに黄色の塊を装着。

人知れずにひっそりと施しを行っていた。



 視点は聖夜に戻る。

時はすでに0時を過ぎてベッドで寝ていた。

本来の通り、就寝に相応ふさわしい時間ではあるけれども、

お馴染みのメンバーから励ましのメールがとどいて

停電イベントに乗っかって、ちょっとした座談会となり

一言の連続を交わす。


――――――――――――――――――――――――

「都心部でそんな事が?」

「「柳の下のドロボウすくいが始まってるわ。

  どさくさに紛れてやらかすのなんの。

  で、呼応されたみたいに悪魔もしれっと。

  どっかのチンピラが襲われたとか」」

「「私の敷地は元から暗めだけど、外灯も全て消えたから

  まるで山の中にいるのと同じみたいね

  そっちは大丈夫かな?」」

「大丈夫もなにもこれから寝るところだけど、

 何もかも 暗いと 返って落ち着かないような気も。

 いつも豆電球1つだけにしてるから」

「「とはいえ、停電をきっかけに人々の動向が

  変わってしまうのも一見かと思います。

  こうして深夜に談笑するのも久しぶりですね」」

「マナは平気なのか・・・?」

「「クォーツ偵察をする時は基本、暗室です。

  明るすぎると中心部が見え辛くなるので」」

「「光無き世界でいつもあたしらは探してんのよ(^^)!

  あんた、まさか暗闇が怖いなんて言わないよね?」」

「そ、そんなわけあるか」

――――――――――――――――――――――――


メールでどもる文字を打つのも変だけど、少しは事実。

黒く塗りつぶした空間はいつになっても慣れない。

普段から使っていなかったレッドスピネルを点火。

闇慣れする彼女達の感覚的経験にはまだ及べないのか。

今日はカロリーナも夜間は繰り出さずに、

共々闇の時を過ごしてゆく。


 翌日、日が昇り始めた頃から都民達は活動を再開。

電気の復旧はまだ成されていない中、

仕事や独自の行動を少しずつ見せ始めてゆく。

しかし、夜明けを迎えようと元からあまり時間を

認識していない孤高の技術者は職務に追われていた。


「はぁ~」


マーガレットは寝ていなかったようだ。

夜中になっても警察署に人が押し寄せて

科警研に対策の余波がきていたらしい。

事情説明の連続、報告書作成で徹夜を通して

一日を費やしてしまう。

何も知らない自分はいつもの口調で執務室に入り、

声をかけた。


「主任」

「・・・・・・」

「主任!?」

「ああら、聖夜君じゃない。

 ACを持ってきてくれたのぉ?」

「なんにも依頼を受けてないんですが・・・」


寝ぼけているようだ。

ずっと夜通しで仕事をしていたのだろう。

ぼうっとしている彼女に気にかけるような発言で、

電気停止の原因を聞いてみた。


「では、今回の停電はただの故障ですか?」

「そうね、電力会社から知らせがきたし。

 悪魔の仕業じゃないなら、あんたの出番もないから、

 今日はおいとましときなさい」

「分かりました」


AC絡みでないのなら、当然自分の役目も出番もない。

大した問題じゃないようで少し安心した。



 住宅街に向かって歩いてゆく。

体も少し硬くなったような気もする。

鍛えられた感もあるけど、単に筋肉の方で

取り入れている結晶の恩恵の保証か分からない。

厘香から電話がきた。


「「キャンプファイアを開かないかって」」

「なんだって!?」


学園でキャンプファイアをやろうと言う。

少しでも同じともしびで身の安全と共有し合おうと、

連携意識の再確認、強化を整えたいらしい。

たかが停電で、心身がまいる程催す事でもないと思うが。


「こ、こんな時に行事か・・・先生は良いと?」

「「うん、実は先生がやるって決めたんだって。

  学園も色んな出来事があったから、今一度かえりみに

  こんな時だからこそ、一緒にいた方が良いって

  勧めたの」」


学園公認で元々始めるつもりだったようだ。

暗闇に灯をもたらし、少しでも不安感を除けるよう

3人も来るらしく、マナをメインに訓示か何かを

校外学習みたいにするつもりだと言う。

ずいぶんと準備の早さに肩がすくむが、彼女の言う通り

立場や居場所の再確認が必要かもしれない。

今日はやる事がないので、行く事にした。



 昴峰学園に着いた。

校庭には6割を占めるくらいの人だかりで、

生徒だけでなく、普段来ていなかった住民の姿も見かける。

ジネヴラさんもいて、教会のシスター達も集会の進行役で

一種のパフォーマンスを披露するそうだ。

司会役を任されたマナは手で回す拡張器多分ACを使ってるでアナウンス。

ジネヴラさんが火付け役として手品確実にACのような演出で

業火にたきぎを燃え上がらせる。

教会のミサに手慣れているだけに、集まった人達に

注目させられる。


「というか、教会の人ってき火とかするのか?」

「私達が日本に来てからはそう多くしませんが、

 古来より原義として行われていました」

「日本でも護摩ごまで火を付ける風習があるよ。

 退魔で闇を払う光を集わせる手法とか」

「光か・・・確かに何も見えないってのは辛いな。

 思えば、休校からバラバラになりすぎたもんだ」

「最近はこうして集まる事をしてなかったわね。

 ただ、眺めるだけでも人に何かが伝わらせるかも」

「例えが抽象的ですが、組織がなければ

 熱の如くまとまらないと姉さんも言ってました。

 何も見えないと、行く先や目標も定まらずに迷って

 果てでは簡単に散開してしまうのかもしれません。

 ある意味、この状況も結晶みたいなものですね」

「まあ、そうだな・・・たまには悪くない」


3人の言葉に、個人主義の在り方が跳ね返る。

文化人は誰よりも火を目に焼き付けていた。

街灯が他より多い晃京だから、揺らめく明かりを

物珍しく思っているのか、意外に静かに見つめている。

不安定な時期はこうして寄り添うように

1つの灯に集うのはいつの時代でも同じものなのか。

少し寒い中での炎は人々の憩いを大きく膨らませ、

校庭をだいだい色の光で満たしていった。


しかし、温和な学園に対して晃京は無情なまでの冷たさで

都心部の夜は無機質の狭間で凄惨を極めてゆく。

光なき区画で強盗や空き巣を繰り出す者達が頻繫ひんぱんに現れて、

呼応するかの如く、それらを喰いつくすそうとばかり

悪魔も蹂躙じゅうりんを始めていた。


「んだコイツら!? ゴボォ、ミッチェオ″!?」

「こんなときに自衛隊いな、おれ、まだ死に、たすけ――!

 グチャ、グチュ、グチョ!」


肉を引き裂かれて声帯から言葉すらまともに出ない。

停電から悪魔の出現率が上がるようになる。

凄まじい速度で結晶から射出する悪魔に対応が追えず、

命の灯が次々と消されていった。



警察署内にいる高橋増尾は数人の刑事を署長室に呼び、

古宿区を中心とした新たな対策を指示。

増員態勢で阻止するよう発令した。


「路地裏、ビルディングの狭域エリアをくまなく捜査。

 悪魔より人命救助を優先。

 建築物上方からの奇襲を警戒するように!」

「はいッ!」


巡回警官もフルに動員させ、自衛隊と共同しつつ

悪魔への対処に当たってゆく。

すでにカロリーナも来ていた。

氷を飛ばすが、壁から現れては消えてゆく相手に

どこに隠れているのか当てられずに鈍ってしまう。


「ああっ、明かりがないとこんなにメンドイなんて!」

「あんまヘンテコな力に頼るもんじゃないぜ。

 文明の利器の方が優れてる時もあるぞ、お嬢ちゃん!」

「分かってるわよ、素人扱いしないで!」


マナのトゥルーリフレクトもコンクリートジャングルの

全区画を照らせる余力がなく、知る限りの見識で

都心部を歩き回るしかない。

今回ばかりは自分や隊員のライトを頼りに、

灰色の回折格子かいせつこうしの隙間を抜けてゆく。


「カロリーナちゃん!」

「厘香!?」


とばかり、時たま厘香も参加して対処。

壁に張り付くヘドロに風の矢を打ち込み、

異質な者達によるサポートは軍部にとって

加護の様に命の膜を覆わせられた。



一方でマーガレットも電力供給に不可解さを覚え、

+-の流れに違和感をもち始めていた。

最初は23区全てが停止したものの、時間を経てから

時折り数ヶ所だけが止まっては動いてを繰り返し、

もてあそばれているかのように光の点滅をちらつかされる。

場所は串中、台西、緩川、手座、葛鹿、工炉川、工西の

7区がいずれも変電所内のみで確認。

行方の分からない放電現象がされた。

自衛隊の武田に確認を要求する。


「こちらマーガレット、今から表記する7区の状態を

 タブレットに表示して報告して頂戴。

 A-20からB-35間の動力は正常なの?」

「「正常に稼働している。

  A-09の検査を先ほど終えた」」

「不審者は?」

「「いない、現地で復旧作業をしているのは

  いずれも電力会社の者だけだ」」


今は異変もなく普通に動いているという。

自衛隊監視の下で会社員が変電設備を操作して

供給を確認させていた。

しかし、異変がまったくないとは否定できず。

部下の隊員が付近で何かを見かけた報告も上がってきた。


「「ウチらの数人が奇妙な発光体を目撃したらしい。

  雷の様な閃光が機材から飛び出したとか」」

「発光体? プラズマか悪魔?」


最初は串中で目撃されて、以降は順に工西まで

いずれも全て空に向かっていったようで、

かなりの速度で瞬時に去っていったらしい。

聞いた通りにそれらの方向を矢印で描く。


(この配置は・・・まさか!?)


自分は発光体の巡回を視て、ある共通点に気が付く。

それは決してプラズマではなく、ACをフルに使用して

故意的による犯行を疑う者がいた。


(これは・・・誰かがACを利用している)


自分は変電設備にのみ不具合が起きている点について

人差し指を机に回しながら不審に思っていた。

大元の超高圧変電所に異常がどこにもなく、

1~2次、配電用変電所のいずれかに不具合が生じては

電力が消えてゆく点に着眼。

いずれも停電は夜間のみだが、部品の故障などは

一切確認されていない。

会社の会見では故障の類によるものと認めず、

電気だけが不規則にどこかへ流れていってしまう

現象があると供述した。

どこかへ放電しない限り+-は延回するのみで、

都民達の住居へ送られるだけのはず。

となれば、こんな異次元じみた行き先の根源など

特殊工作班の側へにじり寄る流れとなる。


(深い闇夜こそ、人の本性も表れる。

 ザッパな立場、中堅留まりの者が濃厚のようね。

 また、私達の出番・・・あの子達も)


自分に再び若者達を指示する方向へまる。

今回は企業を相手取るが、ピラミッド構造の頂点の

部分を考慮するには時期尚早しょうそうに思える。

利益や信頼を重視する経営陣が意図的に

仕込んだ策にしては安易過ぎて企業ぐるみに思えず。

上層部の仕業ではなく、下の誰かが任されている者が

低リスクのどこかで吸い取っていると推測。

新たなる文明開化合戦が開幕すると想定した。

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