第35話  天空の妙事

2012年3月8日


 科警研の執務室にいたマーガレットは電話で

自衛隊陸将補の武田と話している。

夜間において悪魔を探すためのライト増設で

電気エネルギー技術を防衛研究所と共に相談。

しかし、そちら方面に未知の存在に精通する者がおらず、

よって、電力供給について割を食うエリアや設備に

もっと制限をかけろと彼女を通して要請した。


「「という訳で、昨日は7度も逃がしてしまった。

  電力のリソースを一時自衛隊に預けてほしい」」

「何度も言ってるけど、そっちに供給できるのは

 せいぜい30%限度で以上は無理よ。

 あまり軍事利用に回せば都民に支障をもたらすわ」

「「その都民が1人2人とわずかながら被害に遭っている。

  都庁から出てくる悪魔も出現が巧妙化しているんだ。

  空中上部にサーチライトを当てるには

  1~2等のLEDを長時間維持したい」」

「ただでさえパチンコ店や娯楽施設を停止させて

 おまんま食い上げで反発が起きてるのに、

 どこを監査してるのよ?」

「「いくら我々といえど、肉眼で追えるにも限度がある。

  結晶だけでなく、都庁外周にも突然現れるんだ。

  もっと大量の電気を止められる場所は?」」

「高くそびえる電波塔があるけど。

 でも、あそこも今は止められない」

「「では、なんでまだ機能させている?

  情報に特化した晃京をまとめるのに

  うってつけだろう?」」

「いっそ、放送自体を中止しようと考えたけど、

 都民の反発がかなり大きくなるから止めたの。

 理解へ説明しうるリテラシーが――」

「「リテラシーの都合だと?

  意見よりも元凶を照らした方が良いに決まってる!

  命と電気、どっちが大事なんだ!?」」

「いえ、まだあるのよ。

 最近になってから起きている塔の噂が・・・」


というのは、黒田区にある放送電波塔、

ヘヴンズツリーで奇怪な情報が入ってきた。

挙げられた電気を塔まで回す理由は

より強く照らすために供給が必要だという。

しかし、自衛隊の幹部が科警研の一主任に要請するのは

通常の軍事利用から離れた恒例行事と化したもの。

問題は塔の中ではなく外側。

展望窓から時折り何かがうごめいているという。

電力を停止しなかったのは調査のためで、

特殊工作班と自衛隊の間で一悶着ひともんちゃくが起きていた。


「「たった今、報告書がきた。もっと早く伝えてくれ。

  そこにいる何かの調査で電気を?

  何がいるんだ?」」

「分からないわ、こちらでも姿が確認されていない。

 X線、赤外線、暗視センサーなどあらゆる検知器でも

 引っ掛からない何か、というくらいしか」


軍事力が警察よりあるはずの者が科警研に相談する

不可解さもここで明かされる。

実は先の話である防衛研究所、防衛装備庁、

整備計画局に解決できる者がいなかった。

探知機であるX線の改良すらこなせていない

自衛隊サイドの科学技術では手に負えないという。

誠は増尾繋がりで頼るしかなかった。


「うちの子達を2人行かせるから、

 現地で落ち合って頂戴」


先の晃京駅での漏熱騒ぎが終わると、今度は塔。

天地無用とばかりに人工物の一端から右往左往させられる。

オカルティズムに特化したマーガレットの部署という

お約束を横に、特捜班とくそうはんへ協力要請した。



場は変わってここはヘヴンズツリー。

晃京で一番高い電波塔で放送のために建てられている。

約600mと周囲のどこからでも一望できるくらいだ。

今回やって来た希望の星組は聖夜と厘香。

ろくな詳細も聞かれないのはもはやお約束だが、

厘香だけ同行するのも珍しいと思った。


「で、なんでここに来たんだ?」

「最近、ここで変な模様が見えるんだって。

 自衛隊からもオーダーが入って、

 ヘヴンズツリーに来てほしいって頼まれたの」

「そうか、マナとカロリーナは?」

「別の所で回ってるよ。

 他にも調べる所があるんだって」


2人は別働隊に加わっているようだ。

常に皆で同行するわけじゃない。

時には分散で動くのも効率として図るべきと、

手慣れたとみなされるように配置された。

ただでさえ数少ない特殊工作班だから、

晃京が他県より狭い事がありがたく思えてくる。

ただ、今回は自衛隊の人もいる。

大掛かりな作戦なのかと加わるべく挨拶しにいく。


「こんにちは、昴峰学園の者ですけど」

「お前らが?」


顔付きの悪い隊員が応対。

身分証明書を見せると、本人と確認したようで

中へ通してくれるようだ。


「間違いないようだ。

 こんな小僧が解決できるなんて、自衛隊顔負けだ」


嫌味言。

若者が事態に当たるのを気に入らないのだろう。

魔術なんて常識から外れたものなどすぐに理解されない。

隊員の間が分かれて責任者が来る。


「来たか、俺は武田誠。自衛隊陸将補を勤めている」

「神来杜聖夜です」

「正倉院厘香です」


陸将補といえば、自衛隊の位で相当高いと思う。

そんな人がわざわざ現場まで出向いているとは、

悪魔事件も本腰をあげているのだろう。

晃京でメインの一角を成す情報発信地のここは

今回も重要な施設として扱うだけに、

偉い人が直に指揮する理由が分かってきた。

しかし、武力解決なら自分達がいなくてもこなせると

想像するも、単なる銃撃で敵わないから呼ばれてきた。

変な模様とは何か、人が描いたものでないアートで

天国の芸術を見学する機会に胸が縮む。


「とりあえずエレベーターに乗って上に行くぞ」


挨拶もそこそこに、地上からタワー上層にある所に上がる。

自分は一度だけここに来た事があり、

中の仕様は大抵覚えていた。

だけど、晃京タワーより高いからエレベーター上昇に

体がのしかかるのが長く感じる。

今の自分はACの力を借りている。

高いくらいで戸惑ったらみっともない。

なんとしても、暴いてみせると奮起ふんきした。



展望台のエリア、展望回廊に着く。

今は一般人の入室は禁止されているので、

自衛隊以外は誰もいない。

パッと見しても、軍事装備品が置かれてる以外は

いつもの風景と変わらないようだが。


「何も見えないけど?」

「いや、いるんだ。目ではハッキリと見づらい。

 あそこか・・・凝らして見てみろ」

「模様?」


時折り様々な配色が外に浮かんでいるのが分かった。

まるでステンドガラスに固められたような形状で、

はっきりと見えないが脚があるように思える。

というのはヘヴンズツリーを形作るフレームに

何かが乗っかっているような音が聴こえたからだ。


きしむ音?」

「悪魔がいる。

 今までの経緯からして、そう考えるしかない」


姿が見えなくとも、透明でもない。

そして、肝心の対処はどうすべきか?

自衛隊らしい手段に打って出た。


「先ほども試してみたが、結果は再びこうなるだろう。

 安全装置、解除!」


誠は対物ライフルで射撃しようと合図。

試し撃ちとばかり、答えが分かりきってるように

20もの機銃を光岳てかりのある物体に向けた。


「撃てェ!」


20もの鉛弾を発射。

しかし、着弾した手応えはあるが貫通できない。

数十人の視線が外に保ったまま静観していた時だ。


「模様が動いた!?」

「移動したんだ、たまに位置を変えるらしい」


模様のブレと同時に塔が揺れた。

相手は隠れてるつもりか、反撃の素振りもなく

来ないならこっちが先にいく。


「俺が接近を試みにいきます、窓を開けてください!」

「大丈夫か、命綱の用意を――」

「私のセラフィナイトでサポートします。

 主任は多分このつもりで私をここに配置したと」


厘香の風を借りて安全に外へ出られる。

リビアングラスで支柱に移り、模様のある付近まで飛ぶ。

一瞬、光線が歪んだので確かに何かいるような気がする。

こんな間近に来てもはっきりと見えない。

どんな悪魔なのだろうか、剣がとどく箇所に目がけて

色が付いた部分にクラーレで横斬りしてみた。


ガキィン


「効かない・・・」


深緑のせんが断たれる。

クラーレとピエトラも傷一つ付いた様子もなく、

厘香も退魔を込めた風の矢がとどかない。

自衛隊達も無念と一部の嘲笑ちょうしょうな顔で、

所詮しょせん若者と言いたげな場に満たされる。

やってやるという態度のみただ剣を握る仕草しかできずに、

姿形もろくに現わさないそれはフレームの軋む音と共に

再び頂上部へと上がっていった。

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