灼熱の霊鉱2

 聖夜が都心部を歩いている最中に主任から

矢継やつばやにAC回収の要請がくる。

今日はまたまた買い物でコソコソと回っていて、

姉は店番で家を空けられないから、

大抵自分が買い出しするというパターンとなる。

注文と予約は済み、電話の内容を聞いてから

次はカロリーナと落ち合おうとベンチに座る。

待っていると声をかけられた。


「あら、ごきげんよう!」

「ジネヴラさん?」


マナの方の姉と会う。

教会の時とは違ってカジュアル的な服装で

街を練り歩いている。

シスターの服装ではとてもじゃないけど目立って

絡まれやすいから私服でいるのは当然。

彼女は自分の顔を見て近況をうかがう。


「元気? 少し目が沈んでいるけど?」

「ええ、身近でも事件が起きていたので。

 色々と忙しくなってます・・・いろいろと」


つい弱音を吐きそうになるも、言い留める。

都心部で悪魔討伐しているこの人もそうだが、

住宅地くらい自分がどうにかしなければならない。


「だから、自分がもっと率先しないといけないと思って。

 光一の時みたいに・・・」

「いざとなったらあたしも頼りなさい。

 無駄な犠牲を増やさないようにしなきゃね・・・。

 ところで、こんなところで何を?」

「これから調査に行く予定です。

 地下駅のどこかで事故があったから調べろって」


たった、さっきに連絡がきたから自分も詳しく

聞かされてないので何とも言えない。

熱い、という現象からジネヴラさんは専門っぽくて

何か知っているだろうと思いきや、

炎魔法に精通するこの人もよく分からないらしい。

暖房の類ではなさそうで一緒に行くと思ったけど、

違うようで他に用があるという。


「どうりであったかいと思えばそんな事が。

 ごめんなさいね、あたしもやる事があるから。

 現地に行くのは君だけ?」

「もう1人来ます、目標がどこにあるか知らなくて。

 それで、カロリーナとだけ同行で」

「そう、マナの監視でも特に悪魔の報告がないけど。

 本当にやれそう?」

「大丈夫です、候補がいないようで。

 大人ができないなら俺達がやるしかないので」

「ただ、深入りは禁物よ?

 地下というものは結晶も多く埋まっている場所。

 表から利用されて隠蔽いんぺいされた太古のACが

 強大な悪魔を封じてる可能性もありえるわ」

「は、はい」


釘を刺されるも、ねぎらいの言葉も端に拾う。

助太刀はありがたい。

図書館の時のようにいつか手伝ってもらおうと、

会話の終始でジネヴラさんは去っていった。

待ち合わせ時間から15分遅れてカロリーナが来る。

そして、問題の晃京駅の地下へ目指しに歩いた。



 古宿区より、地下への階段に着く。

日本の中でもTOPクラスに構造が入り組む場所で、

初見者は大抵誰もが迷う所だ。

本来なら、通行量がわんさかとひしめいているはず。

しかし、今回は運行停止で電車に乗る事ができず、

乗客の姿がほとんどなく見かけるのは

間違えて入ってきた者、取材陣の者達くらいだ。

道路から階段入口にKeepOut立ち入り禁止のテープが

貼られているのを平然とまたいで下に降りる。

すると、空気が変化しているのが分かった。


「暑いな」

「理由はいからよ、謎の地熱で温度が上昇。

 春が来たのと全然違う季節のアプローチね」


晃京駅最下層の一角から謎の高熱が発生していた。

まだ肌寒い日のはずが、この影響で地上の寒波を

布団がはみだしたこたつで温厚に変えている。

思わず半袖で歩きたくなるくらいだ。


「暖房でこんなに熱くなるわけないしな。

 下にある地熱が発生したとか?」

「ここら辺は火山帯じゃないし、

 マントル対流がこっちに来た話もないから、多分違う」

「じゃあ、何なんだ?」

「それが分からないから密偵するんでしょ!

 地質学者が調べにいけよって言いたくなる調査を

 あたしらが行くんだから相当なものがあるんでしょ」


だからといっても、専門家が手をこまねいている問題を

なんで一学生が行かなければならないのか。

いや、常識交じりな一じゃないのはもはやお約束。

自分達が適性をもつから確かに相当に値するだろう。

ただ、このまま進められるわけにはいかない。

どうするかと相談する寸前、用意と器量の良さに

彼女はACを差し出した。


「このまま進んだら火傷しちゃうから、はいコレ」

「これは?」


青いACを1つもらう。

防熱用の氷を身に付ける能力があるアイスラリマーで

先に進められると言った。


「1900℃までなら大丈夫だって聞いたわ。

 一般人でも扱えるくらい適性が小さいから、

 アンタでも使えるはず」

「うおっ、顔まで覆ったぞ!」

「それに監視カメラだって設置されているから、

 素の顔を見られたら仮に潜入できても

 後で御用されるに決まってるし」

「それもそうだな」


-273℃の絶対零度も無視するような性能だ。

全身水色の氷まみれで、顔も見えない自分達は

もちろん、真正面から行かずに列車線路に下りて

関係者用の道を伝って歩く。

こんなに熱いから、人っ子1人いないだろうと

人工タイルに足をのせ続けていると。



「なんだ貴様、ここは内閣の管轄する通路だ!

 速やかに退去――ガッ!?」

「邪魔、寝てなさい」


直径15cmの氷球体をぶつけて気絶させる。

妙な耐熱スーツを着ていた男が待ち受けていた。

すでに誰かが来ていて何か施ししているのか、

もしかしたら専門機関が対処しにきているのかと思う。

しかし、先の発言に非常に重要なワードが含まれている

ガードマンが発言した内容をぶり思い返した。


「ん、内閣!?」

「やっと気付いた?

 ここは国のTOPだけが入れる超極秘スポットみたい」

「なんなんだそこは?

 政府管轄って・・・ヤバくないか?

 じゃあ、今回の調査は――」

「警察も自衛隊も管理していないエリアが

 なんでこんな場所を国が陣取ってるかって

 調査するためにあたしらが来てんの」


話ではマーガレット主任が管轄という枠組みに

納得できずに、遊軍の自分達へ潜入させたらしい。

見張りの数が少ないのも納得できるけど、

重要な区画なら厳重にしても良さそうなものだが。

もはや光も射さない舗装ほそうされていない通路まで来る。

最初から空いていた自然洞窟と思ったけど、

元から発生する環境じゃないそうだ。


「人の手が入ってないってのが逆に怪しいわ。

 あたしもちょっと今回はヤバく感じるけど」

「非に非難して火が付いてるような所に行けってのか」

「アンタのボキャブラリーは郷と同じくらい

 とどかなくて惜しいとこばっかよね。

 そろそろ問題の地点に着くはず」

「国も悪魔の力を利用するなんて、なんなんだか。

 そういえば、なんかあったかくなってきた?」

「もう300℃に達する熱さよ。

 アイスラリマーがないと、とっくに死んでる」


ほとんど掘削くっさくされただけの洞窟。

幅10mあるかどうかの狭さの中で

ACの光を照らすと、金色の反射が返ってきた。

大判小判が木の箱に入れられて散乱していた。


「これは・・・黄金か!?」

「見た目、昔からずっと保管されていた物ね。

 日本の幕府が隠したっていわれる財宝かも」


なんと、数え切れないほどの金であった。

手入れがされていないのは、

確かに普段から多く出入りしていない根拠にもなる。

内閣はこれらを保守していたのだ。


「国はこれを売ってまかなっているのか。

 置きっぱなしでわざわざここから取ってるなんて、

 地下金庫に運べば良いのに」

「でも、目的は金じゃないわ。

 話だと、二酸化ケイ素を含んだ箇所からってみたい。

 温度上昇する所を辿たどっていけばあるはず。

 欲しければ持って帰る?」

「だだ大丈夫なのか?」

「ただし、光り物に悪魔が入ってる可能性もあるわよ?

 触った物はすべて金になる伝説もあるし」

「いいっ!?」


なんだか、ジネヴラさんと同じ事を言ってる。

ちょっと・・・・気も引いてしまうも、

国みたいに憑りつかれそうだから止めた。

大人しく従って前進。

続けて探索すると、最奥地点まで到着。

目標らしき結晶へたどり着いた。


「発見、これね!」

「これが熱を生み出していたのか。

 岩がくっついてるけどACなのか?」

「クォーツなんだけど、普通のと違うみたい。

 見たくれじゃその類だけど、詳しくは・・・」


クォーツ、和名:水晶とよばれるそれは

肌色と透明の岩石で混じり敷かれていた。

普通に見ても自然的な結晶のそれで、人工物には思えない。

マナが持っているタイプと性質が似ているようで違い、

火山帯付近で存在するとカロリーナは説明する。

氷の装甲に身をまとっていても体感温度の上昇を感じる。


「火山がないのに、洞窟にシレっと置いてあるのか。

 こんな大事になったんだから、

 警察や自衛隊の手が入ってもおかしくないだろ?」

「そこを塞がれたから妙な話なのよ。

 入口付近の見張りもたった1人しかいなかった。

 元から数少ない国のTOPが手に負えないものを

 放置するのもおかしいわね」


もちろん、自然発生したなど到底ありえない。

場所が場所からして、対人関係を念頭に置いて

仕掛けられたと予想するしかなかった。

考えられるならば、先で見かけた大量の金。

防衛組織にすら頼りにできない理由が露骨ろこつに見えて

歴史に残された塊が引き金になっていた。

もしかして政府もACを利用していたのか、

侵入者防止で高熱を発生させて近づけないように

凝らしていたのだろう。

防止といっても、地表まで熱くなるのはやりすぎだが。


「なんで、こんな時に熱くなったんだ?」

「暖房代わり・・・にしてはなんだか変だけど。

 熱暴走を引き起こしたのか、あるいは」


高熱発生の理由は国からして想定外だろう。

カロリーナは目標物を観ながら淡々と回収する。

いつもは文句言いながら行動する割に、

今回は静かにACをまとめていた。


「・・・・・・」

「どうした?」

「なんでもない、任務達成したから帰りましょ!」


全てを回収した途端に、空洞は清涼を感じさせてゆく。

今回は悪魔も出現せずに事を終え、

発生の根本がつかめないままで事件は収束。

AC内に収めた鉱石はそのまま科警研に届けた。

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