Capítulo2  soy una piedra

「人は追い詰められてゆく程無意識にすがり、

 真価を発揮する事がある。

 たいてい脳内で描いた像は普遍的なもので、

 誰でも想定しうる題材ばかり表現してしまうだろう」


「だが、精神と理は常に沈着へ整列するとは限らず。

 新しきとは常識を逸脱した何かより驚きと興奮を与え、

 魅惑する要素が芸術の粋として心象」


「意識はすんなりと良いアイデアを与えない。

 中には口にスプーンをくわえ、落として夢から覚めた

 瞬間の光景を描く者もいるという。

 収入、名声、動機はいずれにしろ自分は他と違うという

 ありきたりさを払拭ふっしょくしてまで

 飛び越えた地へ追求してゆくものなのか。

 たとえ、それが人の忌み嫌うものを題材としても」


――――――――――――――――――――――――――

「ようやく完成までこぎ着けました」

「よくここまで頑張った。

 こんなにも美しい柱を造れるのは君にしかできない」

「先生の助力あっての成果です。

 この白き素材は純粋な構想への

 きっかけを与えてくれました」

「助力か、技を教えたのは事実だ。

 実際に自身の心象を手で形にするのが芸術。

 ・・・だが、時には相反する美も理解する必要がある」

「え?」











「何をするおつもりですか、お止め下さい!」

「心配はいらんよ、君を傷付けたりなどしない。

 今から観てもらうものがある・・・持ってこい」


「この教授は細胞壊死に興味がある。

 塊とは粒のつながりであるが、分裂という

 別れの瞬間にはかなさがある。

 特に粘着性の高い我々のような

 生物の腐敗、分解時の哲学をもっている。

 少し臭うが辛抱してくれたまえ」

「ううっ、げふっ」


「今日は死の中にある性について理解してもらおう。

 性は生を備えるための要素だが、

 反意に命無き存在に性のなんたるかを見出したら?

 あの教授は死体と交わるのが好みでな。

 これもしっかりと凝視しなさい」

「オエェ、ゲボオッ」


「今日は扁形虫類へんけいちゅうるいの群れを

 じっくりと観察してもらおう。

 密集するうねりがポイントとなるか。

 むしといえど、我々と同じ命を宿している。

 数の分だけ湧き出す躍動を感じないかね?」

「ゴボォッ、ブジュッ」










「おねがぃ・・・もう・・・やめて」

「そうだな・・・ある程度は役をこなした。

 では、最後にこのオブジェを観てもらおう」

「・・・・・・これは?」

「君が今まで吐いてきた嘔吐物おうとぶつだ。

 私が造形させてもらった」

「なんで・・・こんな?」

「私は内蔵から吐き出す物をいている。

 消化より腸から肛門へゆく典型的な流動よりも、

 逆流して口から出す事象にロマンを求めている。

 芸術は爆発だからな」

「・・・・・・」

「幾度か試したが、皆黄土色の物ばかり。

 君のおかげで新たな本質を確認する事ができた。

 こんなにも白く、硬いものは初めて見るよ。

 まるで彫刻像のそれそのものだ。

 つまり、君の質とは?」











「わたしは・・・イシデス」

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